“私の邪魔をするものは容赦しない。
例え、それが幽々子様であろうとも……行く手を阻むならば斬り捨てる!!




固い決意の元で面と向かって言われた台詞。

自分としてはただの忠告というか、行き詰まりがあったから気分転換をさせようと思っただけだったが…本気だった。


普段からは考えられない程の殺気。


怒りに燃える瞳からは明様な殺意が感じられたのだ。

もちろんそのまま「はいそうですか」と引き下がるわけにもいかなかったが身体は金縛りを受けたかのごとく動かなかった。

それは恐怖のせいか、それとも絶望のせいか、はたまた両方か。
とにかく、一瞬だが隙を作ってしまったのだ。

敵…妖夢はその一瞬を見逃してくれなかったらしい。


バンっと地を蹴り瞬時にふところへ飛び込み……



スペルカード宣言























人鬼「未来永劫斬」


























「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」













自分の悲鳴とも言うべき声で目が覚めた。
がばっと起き上がり、その勢いで上に乗っかっていた布団も跳ね上がる。
その拍子で何かとぶつかったらしくゴツンと鈍い衝撃音も響く。


痛みでしばらく思考が止まってしまったが逆にいえば夢うつつな頭を現実へと引き戻してくれたし落ち着きを取り戻す時間も稼いでくれた。

「……夢?」

まだ痛む額を押さえながら涙目に周囲を見渡すとそこは何も変わり映えのない自分の部屋だった。
その近くには普段みない顔が額を押さえながら悶絶している。

「いつつつ……熟睡してると思ったらいきなり起きだしてどこぞの先生直伝といわんばかりな頭突きなんてたまったもんじゃないよ」


「あ〜ごめんなさいね〜………えっと」

「あ〜小町だよ。映姫様の部下で死神の小町。何度かあったことあるだろ」

そう言いながらその普段見ない顔、小町が顔をあげる。
よほど痛かったのか、その目には涙が溜まっているようだ。

「そうだったわね〜……なぜ貴女がここにいたのかしら〜」


覚えてないのかい?!
ここの庭師がぐれたとか歯向かったとかなんとかで大騒ぎを起こしたからその鎮静と後始末に駆り出されたんだよ。
しかも散々暴れまくった挙句にバタンと倒れてそのまま一週間以上も寝たきりになってたし本当にいいご身分だねぇ…」



今まで寝ていた彼女…幽々子の問いに皮肉交じりで答えながら小町は思わず手放してしまった大鎌も拾い上げてひょいっと肩にかつぎ直した。


大鎌を携えた死神…


ある意味枕元に立ってほしくない人物ベスト1に君臨するであろう人種だが元々死んでいる幽々子にしてみれば別段怖くはない。


「………朝ご飯まだかしら?」


小町の皮肉をスルーどころか、赤の他人なのにほとんど使用人のごとく言い放つ幽々子。
遠慮の欠片もないその姿にはどこかの誰かを連想させるが、幽々子はそういう性格をしているのは小町も知っている。


もう朝ご飯という時間じゃないけど、いつ起きてくるかわからなかったしこれから準備させてくるよ」


小町はそう言いながら別に気分を害した様子もなく手を振りながら襖を開けて部屋を去っていった。
その後ろ姿を見てふぅっとため息をつきながら、身支度を整えはじめる。

本来なら布団の片付けや着替えも手伝わせたいところなのだが、さすがにそこまでは赤の他人にやらせることはないようだ。
幽々子はいそいそと着換えながら夢の内容を思い出し始めた。



数日前…いや、一週間以上寝たきりなら2〜3週間前。
山に籠って修行していた妖夢の様子を見に行ったことがある。

その理由は修行の予定日数を過ぎても帰ってこないから気になったというか心配になってきたので下界に降りてきたのだが……

「妖夢………」


その時起きたできごと…
妖夢から未来永劫斬で滅多切りにされて追い返されたことを思い出したとたん、ぽろぽろと涙を流し始める。


前でもちょっとした反抗心とかそういった些細な反乱は少なからずともあった。
もちろん、スペルカードを発動されて滅多斬りにされたこともあるがあれはあれで弾幕ごっこの延長的な遊び部分が強い出来事だ。

大したショックを受けることもなく、適当に受け流して片付けることにしたが今回は違った。




弾幕ごっこではない完全殺しにかかった無情の剣


普段は死なせないためにあえて急所を外したりみねうちで斬りつけるのだが、今回は全てが急所狙いという正真正銘の“必(ず)殺(す)剣技”だ。

命中の瞬間に身をよじることによって辛うじて急所を外したがまともに食らえば元々死んでいる自分も含めて、最強クラスである吸血鬼や隙間妖怪、閻魔でさえも危なかったぐらいの鋭さだ。

危なくないのは驚異的な再生力を持つ妖精不死身で死なない蓬莱人ぐらいだろう。



そんな危険極まりないスペルカードというか剣を放つなんて………



ある意味斬られたことよりそっちの方がショックだった。







身支度を整えた幽々子は動揺を隠せないまま、いつのまにか居間を通り過ぎて縁側へと足を運んでいた。

縁側からは白玉楼の自慢でもある広大で美しい庭が広がっており、訪れる者を圧倒しつつも和ませてくれたはずだったが…



今は無残に荒れ果てていた。






「……………妖夢。鬼じゃなく修羅になんかなってはだめよ」




鬼も鬼で怖い存在であるが、理由なしに悪行を行わないある種の優しさも併せ持っている。
なので鬼と人はそれなりに信頼関係があり、恐怖と畏怖の対象として崇められる存在だが、修羅にはそれがない。

怒りや憎しみ、激しい闘争本能だけが行動理念であり、ただひたすらに戦いだけを求めて戦い続けるだけの悲しい存在。


自らが殺めた者達の屍を踏みつけて歩む先には救いなど一切ない。
あるのは己自身の破滅消滅だ。




あの妖夢はまさしくこの荒れ放題な庭と同じである。

見る者の心を荒ませ、やがて荒れ放題の庭は庭であったことさえも忘れ去られる。
そうして、人知れず闇の中へと葬り去られることになるだろう。


といっても、白玉楼の庭に関しては今のところ幽霊達がばたばたと掃除や後片付け等を行っているので本当に行き着く先まで辿りつかないというか……

さらに耳を澄ませば


「全然キレイになってないじゃない。むしろ前よりひどくなってるわよ」


「だって仕方ないじゃない!仕方ないじゃない!!庭手入れなんて初めてなんだし!!!
大体こんな大鎌で細かい作業しろだなんて無理ですってば〜〜〜!!!」


「ここの庭師はいつも二本の剣で庭手入れや伐採を行っているのよ!だからエリー、貴女もその鎌でやりなさい。
できなかったら………お仕置きね」




「ひぇぇ〜〜幽香様〜〜それだけは勘弁を〜〜〜〜!!!」



等というほのぼのとしながらも微妙に物騒な会話が聞こえてきたりもする。

そんな二人の姿に対して不意に自分と妖夢との姿がだぶってしまった。








「…………妖夢………いつも庭手入れを行ってた妖夢………」



こみ上げる悲しみにこらえきれず床に伏せて泣き始めてしまう幽々子…











“私の剣は枝を払うものじゃありませんのに”



庭手入れをする妖夢はいつもこう文句を呟いていた。
でも、文句をつぶやきながらも結局二本の剣で庭の枝を払っていた。

だが、その姿こそが妖夢であった。

頭が固くて融通が利かないところはあるが、純粋で真っ直ぐで何事にも一生懸命な妖夢。



妖夢には悪いのかもしれないが妖夢の剣は人を殺す剣であってほしくない。
楼観剣&白楼剣という名刀も枝を斬り払ったりする弾幕ごっこの遊び程度での使用に留めてほしかった。

しかし今の庭にその妖夢はいない…

今庭にいるのは大鎌で白玉楼自慢の桜の木々と幽香の髪の毛の一部を派手に伐採してしまったことによって笑顔のまま頭のナニカがぷっつんと切れてる幽香とサァーっと青ざめながら必死に土下座して許しを乞うエリーの姿だけだ。



さっきまで庭の各所で後片付けをしていた幽霊達は危険な空気を察知して蜘蛛の子を散らすかのように撤退したらしい。





「…………妖夢………戻ってきて………私の目の前にいなくてもいいから……せめて………
いつもと変わらずに庭手入れを行ってたあの頃の妖夢に戻ってきて………」





「………幽々子様……………」




「もうサッカーをやめろなんて言わない……
朝も5度寝から3度寝に留めるしご飯もお代わりを5杯までに止める。
おやつや冷蔵庫のつまみ食いや盗み食いも7回から5回に減らす…
もちろん夜中にこっそり半霊の一部を齧って涼んでいたこと黙って妖夢の日記を読んでいたことその中身を紫や天狗にばらしていたことも謝るし…………
他にもetsets」




「………………」





庭から極太レーザーの光着弾による爆音と断末魔に似た悲鳴が飛び交う阿鼻叫喚な状況の中、幽々子は床に顔を伏せたまま次々と自分が行ってきたわがままや罪状を述べていく。









「…………幽々子様………私の知らないところでそんなことやってたんですか……」



わき上がる怒りを無理やり押さえるかのようにぷるぷると震えながらであるがどこか懐かしい声。
今顔をあげたら(元々死んでいるが)命がないような気がしないでもないが、今は恐怖よりも歓喜の方が勝る。
幽々子はゆっくりと顔をあげると……



両手にしっかり白楼剣&楼観剣を握りしめた妖夢が立っていた。


「よ……妖夢…なの……」


驚きながらも聞き返す幽々子に妖夢はこくりとうなづく。

その表情は怒っているというか、ひくひくと顔をひきつらせながら無理やり笑顔を作っているかのような一瞬触発なムードが漂っている。
ついでに周囲を漂っている半霊はスペルカードらしきものを持っているし、何かきっかけがあれば今すぐにでも斬り殺されそうな雰囲気だ。


しかし、幽々子はそんな空気なぞお構いなしというか逆にがばっと覆いつぶすかのように両手を広げて襲いかかってきた。




「よかった。帰ってきてくれたのね。妖夢、よ〜む〜〜〜」




そのまま妖夢を抱きしめてはぐしようとしたが、妖夢はそれを許さなかったようだ。
即座に剣先を幽々子へ向けて動きを静止させた。



「幽々子様。まずは私の質問に答えてください!
今の話は本当なのですか!!」



「え、えっと………」


そう問われて幽々子は思わず立ちすくむ。
うっかりというか、今までやってきた悪事を本人がいるところで全部暴露してしまったのだ。



幽々子は嫌な汗をたらりと流すが妖夢の目は本気だ。
下手な嘘をつけば完全修羅となって自分を滅多切りついでに細切れとした後、愛想をつかしてもう二度と白玉楼に帰って来ないだろう。


そんなことは断然阻止しなければいけないが、そこまで妖夢を怒らせる原因を招いたのは自分自身の責任だ。
崖から落ちるのを引き留めるつもりが逆に突き落してしまったのなら…





「ええ、全部本当の話よ〜。だから私が憎いのなら遠慮なくその剣で斬っちゃえばいいわ〜」





毒を食らわば皿まで!!

崖下へ落ちていく妖夢目がけてさらに追撃の岩を転がす勢いで妖夢を挑発した。



そう、どうせ止められないならせめて部外者に被害がでないように、妖夢の怒りや憎しみといった剣の矛先を全て自分に向けさせる。



そうやって妖夢から全ての想いをぶつけてきてもらい、



もう手遅れだと判断したその時は……







妖夢が妖夢である間に自分自身の手で始末する。







それが今まで自分に仕えてきた従者に対してできる最後の手向けだ。




薄らと涙を流しながらも開き直るかのように、扇子を広げ臨戦態勢を取る。




「わかりました……ならば、遠慮なしにやらせてもらいますよ」




幽々子が臨戦態勢に入ったことにより、妖夢もバックステップで間合いを計りながら二刀を構えなおした。


幽々子はのほほんとしていても幻想郷屈指の強者だ。



おまけに覚悟を決めた幽々子からはラスボスに相応しいカリスマ的オーラを纏っている。
そんな状態で下手な攻撃を繰り出せば即座に反撃されるのは目に見えているというか、気を抜けばその圧倒的な力に飲み込まれて戦うまでもなく敗北してしまうだろう。



妖夢は自分の主であり、冥界の頂点に君臨する最強の亡霊である『西行寺幽々子』の恐ろしさを改めて実感した。



早鐘のように鳴り響く心臓の鼓動を落ち着かせ、ゆっくりと呼吸を整えながら踏み込むタイミングを計り始めるが…隙が全く見当たらない。






「来ないなら私から行くわよ〜」



襲ってこない妖夢に痺れを切らしたのか、幽々子は扇子を一扇ぎして弾というか死蝶の群れを放つ。
威力も抑えたほとんど牽制的な攻撃だが膠着状態を動かすには飛び道具が効果的。

妖夢も飛んできた死蝶達を楼観剣の一振りでかき消しつつ、弾幕の隙間をグレイズという名の踏み込みでもってふとことへと飛びこんできた。

しかしそんな真正面な攻撃は本気となった幽々子には当たらない。
扇子でひょいっと受け流しながら宙を舞って交わす。


「その程度なの〜?」

妖夢の後ろに降り立って余裕を見せつけるかのようにパタパタと扇子をあおぐ。


「ま、まだまだです!」


振り返りざまに剣を一閃。

もちろんそれもひょいっと交わしたが均衡をやぶるきっかけが作れたようだ。
その後も剣による斬りつけの他、弾幕やスペルカードをも交えての本格的に戦闘に移行した。

そうして庭では幽香が役立たず目がけてほとんど一方的な虐待を行っている中、縁側でも妖夢と幽々子のお互い一歩も引かない激しい戦闘を開始した。



「そういえばこうして戦うのは久しぶりね〜」


妖夢と本格的に戦うのは確か数年前に鬼の萃香が三日置きの宴会を行うために皆を萃めていたあの事件以来だ。
それから妖夢とはまともに戦ってはいなかったが技や弾幕の威力と鋭さはあの頃よりも強くなっていた。

それでもまだまだ強者…特に先代に比べたら足元にも及ばないが鍛練を毎日かかさず行っていた成果は確実に出ている。
それに加えて幻想郷を巻き込んだ数々の異変やサッカーでの激闘も経験として蓄積されているので今後もいろいろな経験を積めば、将来的には先代をも超える最強の剣士へと成長するだろう。

それだけに惜しかった…



今の妖夢は本当に危険であった。

もちろんこんな派手な戦闘を行えば双方ただでは済まないが、それでも幻想郷での戦闘は故意に命を取らない奪わないが大原則。
だからこそ人体急所を的確に狙ってくるこの攻撃は幻想郷の中にあってはならないものだ。

これならあの“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”を持つばかりに無自覚で相手を殺してしまいかねない吸血鬼レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットの方がまだ救いはある。
あちらはただ単純に遊びたいだけであり、相手の死は望んでいないが……

今の妖夢は、その悪魔の妹にはない感情。明様な殺意がある。



やはり、妖夢は修羅になってしまった……



お互い霊力に気力、スペルカードのストックも少なくなり息が上がり始めた。
体力も赤ゲージに突入で次の激突で決着が着くだろう。







「これで…最後です!!」



最後の気力を振り絞りつつ弾幕を放ち、最後のスペルカードを取り出しながら自身も突っ込んできた。
例え修羅になっても攻撃はあくまで真っ直ぐ真正面から……


「最後の勝負ね。受けて立つわよ〜」


どこまでいっても愚直に正面から挑んでくる妖夢。

ただまっ正面からぶつかるだけならいくらでもあしらう方法はあるが、妖夢の最後の覚悟から逃げるわけにもいかない。
幽々子はあえて正面から受け止めることを選んだ。





“さようなら……私の可愛い妖夢”



真正面から突っ込んでくる妖夢に対抗するため、幽々子も最後のスペルカードを取り出した。
決着をつけるため、スペルカード宣言を行おうとした…その瞬間













バシッ!!






不意打ち的に飛来してきた白い塊が幽々子の持つスペルカードを弾き飛ばした。
一瞬幽々子は何が起きたのかわからなかったが、すぐに理解した。
妖夢が自身の半霊を幽々子の手元目がけて蹴り飛ばしてきたのだ。


まさかこんなところでサッカーの経験を生かした攻撃を仕掛けてくるなんて…

予想外とも言うべき奇襲攻撃で完全に出足を挫かれた幽々子だったが、おとなしくやられるわけにはいかない。
せめて剣だけでも回避しなければと思ったが、今度は剣を遠くへと投げ捨ててきた。
またもや予想外な行動で嘘を抜かれたが妖夢は気にせずそのまま肉弾で腹目がけてのタックル。









これがサッカーであったら





「幽々子さまふっとばされたァ〜〜!!」


というアナウンスが聞こえてきそうな攻撃だ。





「剣を捨てて特攻してきてなんのつもり〜」


衝撃で妖夢とともに後ろへ吹っ飛ばされはしたが、元々ふわふわと浮いているような状態の幽々子。
タックルで吹き飛ばされても大したダメージは受けないが妖夢は幽々子に抱きつくように取りついたまま幽々子の手を掴み。

「こうするつもりです!」

鞘に納めていたもう一振りの剣、白楼剣を抜き放ちながら、ざくりと自分の手もろとも幽々子の手を白楼剣で縫い付けた。

手から鮮血が飛び散りながら妖夢のうめき声が聞こえる。


「な……そんなことしても私には対してダメージはないのに」

「えぇ、わかってます。ですがこうすれば逃げることもできませんからね。
これでとどめとさせていただきます」


妖夢はそうにやりと笑いながらスペルカード宣言を行うと同時に何かが現れた。
その何かはもう一人の妖夢。つまり“スペルカード効力によって実体化した半身”が幽々子の背後を取った形で現れたのだ。
ついでにその手には先ほど投げ捨てた楼観剣もしっかり握られている。




「えぇ!!まさか相撃ち覚悟で!!!」




「それぐらいしないと幽々子様には勝てないでしょう!!
さぁ、私の半身!!幽々子様の首を落とせ!!!」





戸惑いながらも逃げようとするが後ろを取られた妖夢に抱きつかれて取り押さえられているせいで逃げられない。
おまけに妖夢も自分の手ごと白楼剣で縫い付けるような決死の覚悟を示しているのだ。
そう簡単には放してくれない。

そんなことをしている間に、半身が本体と同じ速度で襲いかかってきた。
本来ならここはゆっくりと一歩一歩近づくのがセオリーであるのかもしれないが幽々子は実力者な上に亡霊だ。
いつ実体化を解いて物理攻撃が利かない霊体になるかわからない。

だからそんな時間なんか与えず、この一撃で幽々子の首を切り落とすつもりだ。
ついでに首を狙えば幽々子との身長差がある妖夢本体には傷を負うことがない。

実に考えた攻撃だが…





「きゃん!!」




羽交い締めにしているわけではないので、幽々子はまだ自由になる上半身を必死に反らしてぎりぎり交わした。

剣先が目の前を通過し、髪の毛数本と頭にかぶっていたZUN帽の@マークが真っ二つに切り裂かれて宙を舞う。



最初から動いているのかどうかわからない心臓をばくばくと鼓動させながら背筋に冷たいものが走ったが…今のその反り返った体勢はまずかったようだ。


背後にとりついている妖夢はそのまま足を踏ん張りがっしりと幽々子の腰を抱えるようにして掴みなおし、気合いとともに持ち上げながら後ろへと反り返って相手の脳天を床に打ちつけるアレ




プロレス技の“ジャーマンスープレックスホールド”を放った。







どこまで狙ってやっていたのかわからなというか、そんな投げ技をどこで覚えたのかが非常に気になるがこの見事なまでの連携攻撃は大成功。


これでもかというぐらいに綺麗な曲線を描きながら幽々子の脳天は轟音とともに激しく床へ打ちつけられた。






「う、う〜ん……」



いくら亡霊でも実体化してれば痛覚がある。
頭を強打したことでしばらく周辺に星とひよこがチカチカと浮遊していたがはっと気づくと目の前には楼観剣を構えた半身が立っている。



「さぁ、私の半身!!今度こそ、幽々子様に引導を!!!



妖夢の命令を聞いて意志がない空虚な瞳でこくりとうなづく半身。
ホラーバリバリな人喰鬼(グール)を思わせるその姿に幽々子の元々血の通ってない青白い顔がさらに青ざめて行く。









「い、いや…私はまだ死にたくないのよ〜〜!!」










「最初から死んでいるくせに何を言ってるんですか!!」










必死に暴れる幽々子に妖夢はブリッジ状態のまましっかりホールドして押さえながらも冷静に突っ込みを入れる。

ここまで引っ張っておいて、最後でこのやりとりでは緊迫感が全くというものはないが…



「それに知りたくありませんか?
元々死んでいる身でさらに死を重ねたらどうなるか…少なくとも私は興味がありますからね」


まだ暴れる幽々子に対して、今度は恐ろしいことをさらりと言ってのけた。
それを聞いた幽々子はぴたりと止まる。


そう…その台詞からして妖夢は本気と書いてマジだ。


マジで幽々子に引導を渡すつもりだ。




「そうね〜そう言われたら私も試してみたくなっちゃったわ〜……
もしかしたら私は存在自体もなくなってもう記憶や物語の中でしか生きていられない存在になるかもしれないわね〜」



妖夢に引導を渡すつもりが、まさか自分が返り撃ちにあうとは……
意外な結末というか幕引きとなったが、それはそれで妖夢は強くなった証でもある。



それに妖夢の言うとおり、死に死を重ねたらどうなるかなんて知らない。
なのでここで試してみるのも一興。



「……妖夢……最後に強くなった貴女にあえてよかったわ〜…
さようなら………妖夢」


半身もすでに楼観剣を振りかぶった状態だ。
これ以上話を続けるのは無理だと察した幽々子はただ一言、別れの言葉をつげてからゆっくり目を閉じる。





















楼観剣が振り下ろされるその時を待った……















だが…

いくら経っても何も起きなかった。

時間は一瞬だったのか1秒か1分か…幽々子にしてみれば長く感じた時間であったが本当に何も起きなかった。



やがて、何かが床に落ちると思われる乾いた音が響く。

一体何事かと目をあけると…
そこにはスペカ効力が切れて元に戻った半霊と床に転がった楼観剣があるだけだ。





妖夢の半霊を自身と同じ姿に実体化させるスペルカードは時間制限がある。
だからその接続時間切れを狙う手もあったが幽々子はそれを選ばず、あえて接続が切れないよう話を途中で区切ったのだが……

どうやら妖夢自身が接続切れまで何も行動を起こさなかったようだ。



「接続時間が切れる前に攻撃すれば終わってたはずなのに、なぜ止めたのかしら〜?」

「……………止めたのではなく、できなかったのです」

「……できなかった?」

「……………トドメを刺すのに躊躇してしまったのです。
結局最後の最後で迷いが生じたために絶好の機会を逃してしまったようですね」


妖夢はブリッジの状態からするりと力が抜けたかのように仰向けで倒れこみ、そのまま幽々子も妖夢の上に覆いかぶさるように倒れた。


幽々子は余力が残っていたのでまだ刺さっていた白楼剣を抜きながら立ち上がるが妖夢は立ちあがってこない。
体力ゲージは残っているが「クッ!ガッツが足りない!!」状態でもう起き上がる力が残されていないのだろう。



「私は負けました……
甘さを捨てることで強くなれると信じて、自分の感情を捨てて非情に徹したその先に真の強さがあると思ってましたが………結局最後の最後で甘さがでてしまい勝利を逃してしまったようです。
サッカーの大会でも、この勝負でも…私はどこまでいっても中途半端なままで終わりました………」



「妖夢………」


「……幽々子様…私にトドメを刺してください。
私は幽々子様へ謀反を起こして、しかも命を奪おうとした反逆者です。
本来は切腹するのが一番なのでしょうが、私はもう動けません。
なので、幽々子様の手で私に引導を……」


本当にどこまでいっても中途半端で頭が固いぐらいに真っ直ぐで純粋だ。


幽々子はふと自分の手元を見る。
手元にはさっきまで刺さっていた白楼剣があるので妖夢にトドメを刺すならこれを使えばいいだろう。

幽々子は白楼剣をじっと見つめたまま何かを考えていたようだが決意したのだろう。


「……妖夢……わかったわ。なら、望みどおり今から引導を渡してあげるわ」


妖夢の決意を感じ取った幽々子はゆっくりと倒れている妖夢に近づき、白楼剣を逆手に持ちかえて両手を添える。



きらりと光る刃先を前にし、死を覚悟した妖夢は穏やかに笑みを浮かべたまま静かに目をつむる。





「…幽々子様……さようなら……」





「さようなら……妖夢……」





主人と従者…お互い最後の別れを告げた後、幽々子の持つ白楼剣が静かに突き落とされた。
























































力いっぱい突き立てられた白楼剣。










































刃は狙い外さず妖夢の…




































頭のカチューシャを貫いた。

















留め金がぱきりと砕け、はらりと布飾りと髪の毛が舞う………






「これで『西行寺幽々子』に対して謀反を起こした反逆者の『魂魄妖夢』は死んだわ……」




「……幽々子様………?」



一体何が起きたのかわからない妖夢だが幽々子は気にせず淡々と続ける。





「なので、今ここにいるのは
『白玉楼の専属庭師の魂魄妖夢』よ」



「……それはつまり………」



まだ戸惑いの色が隠せない妖夢だが、幽々子はにっこりと笑う。






「おかえりなさい〜妖夢。ずいぶん長い間ここを離れてたけどそれだけサッカーが楽しかったのかしら〜?」



いつもと同じようにのほほんとした口調の幽々子。
さっきまでの本気オーラなんか全く知らないといわんばかりな調子でいつもどおりな対応。



その笑顔に妖夢の中で何かが芽生えたと思ったら…
身体はもうすでに幽々子の胸へと飛び込んでいた。












「ゆ、幽々子様〜〜ごめんなさい。ごめんなさい…私は……私は……」









今まで自分を縛っていた呪縛はカチューシャと共に砕け散った。
それによって押さえつけていた感情が一気に放出されて行く。


その放出された感情と今まで自分がやってきた愚鈍な行為に耐えきれず子供のように泣きじゃくりながら必死に謝り続ける妖夢……




「いいのよ〜悪いのは私も一緒なんだし…それに一回りも強くなって帰ってくれてうれしいわ〜」


そんな妖夢を責めることもなく、優しく宥めながら涙を流す幽々子。

お互い離れあっていた距離やすれ違っていた想い……
それを埋め合わせるかのように二人は抱き合ったまま動かこうとはしなかった。













その様子をじっと見つめていた多数の影。



「ふぅ…一時はどうなるかと思っていましたがなんとか決着がつきましたね」

「閻魔、貴女本当にいい趣味してるわね」

「いい趣味はここにいる皆も一緒というものよ」

「そうね。結局皆考えていることは一緒だったみたいだし」


物影からこっそりと一部始終を見送っていたのは閻魔の映姫の他、永琳と咲夜と霊夢。


しかもそれぞれがいざという時は得物を発射させて妨害しようと考えていたらしく、無事に終わったことを確認した今は全員何事もなかったかのように得物をしまい込んでいる。



「見てる方はハラハラとしたが…」

「無事に決着がついたし〜」

「これにて一見落着」

さらに目立たないところでムードに合わせた穏やかな演奏を流しているのは白玉楼お抱えちんどん屋のルナサ、メルラン、リリカの虹河三姉妹。

「………」

「う〜ん…」

「……(ぐで〜)」

ついでに隅っこでは変な茶々を入れて全てが台無しにされないよう棒や矢、ナイフ、札が身体中に突き刺さって『返事がない、ただの屍のようだ』状態にされたチルノと具合悪そうに呻きながら寝ころぶ鈴仙と疲れ切って虎の敷物のごとくのびたリリーブラックが転がっている。



ここにいるメンバーは妖夢と共に『東方作家ーオールスター 東方蹴球宴〜花映塚の部〜』に参戦したメンバーだ。
この大会への参加目的は妖夢の『ゴールを決められるストライカー』としての“答え”を見つけるためであり、皆はその“答え”探しに付き合って参戦していたのだ。

まぁ、付き合うといっても皆それぞれの目的を持って参戦していたので嫌々ではないが妖夢が中心となっていたことは変わりない。


「おや、映姫様。もう帰ってきてたのですか?」

物影から覗き見るメンバーの後ろから料理を抱える幽霊達の一団を従えるかのように小町が声をかける。
どうやら幽々子の朝ご飯となる料理を運んできたようだ。


「えぇ、つい先ほど大会が終わったので帰ってきたのです。
さぼっているかと思いきや、しっかり働いていたようですね」


「そ、そりゃぁあたいもたまには真面目に働きますよ。
……命が惜しいですから


ぼそりとつぶやく微妙な含みを含んだその一言からして一体何があったのか……
少なくとも『サボタージュ』という異名を取るサボり魔の小町を真面目に仕事をこなさせるナニカがあったのは確かだろう。


「しかし、やけに量が多いですね。あの亡霊嬢はそんなに食べるのですか?」

「食べるなんてものじゃないですよ!
もうピンクの丸い悪魔を思わせるかのような勢いでかたっぱかしら食べ物を吸い込んでいって大変だったんですからねぇ」

「そ、そんなに大変だったのですか?」

「えぇ、ここの食材全てを食い尽くしても足りないとかで里に出向こうとして…止めようとした幽霊達を次々と腹の中へと収めていく様はまさしくピンクの丸い悪魔でしたよ。
たまたまやってきたあの花の妖怪が立ち塞がってくれてなかったら……今頃…………」


そう冷や汗気味につぶやきながら小町はちらりと庭の幽香を見る。
幽香はにこにこと笑いながらぴくりとも動かないエリーの頭をぐりぐりと踏みつけている。
さらにいえば、最初の庭の荒れ具合の原因は幽香と幽々子が争った結果だ。

お互い幻想郷最強クラスの実力者。その二人が真正面から衝突すれば周辺のとばっちりも凄くなる。
よって、衝突が一段落ついた後は庭が見るも無残な姿に変わり果ててしまった。
なので、その責任を感じた幽香は自分の部下であるエリーを派遣して後始末をさせているのだが…結論的にいえば後始末どころかさらに被害を拡大させている。




「あ〜奥の炊事場ではあの花の妖怪が連れてきた夜雀が調理指揮をとってくれてますよ。
後、この事態をどこからともなく聞きつけたハクタクも里の作物を食い荒らされたら困るからと多数の暇人達を伴いながら大量の食糧を持ってくるなど協力してくれましたね」



つまり、小町が言うからにはこの件は多数の幻想郷30大迷惑達一致団結して騒動を鎮静してくれたとのことだ。



自分勝手な彼女等が一致団結して動くなんて……


本当にどんな事態になっていたのか、知りたくもあるが知るのが微妙に怖い気もしてきた。



「本当にお疲れ様でしたね。後で特別休暇の手配をしてあげましょう」


「本当ですか?!」



「たまにはいいでしょう。私も気分がいいですから」



映姫も大会の試合中に自ゴール前からの超遠距離ラストジャッジメント狙い外さず敵GKを葬り去りながら敵ゴールをぶち抜くことに成功したのだ。


シュート自体は一回だけだったのだがその一回で目的が達成されたので充分ストレスは発散できたし、頭を抱えていた冥界コンビのトラブルも無事に解決。
さらに、いつもの渡しの仕事に加えて白玉楼で幽霊管理と幽々子の世話を言いつけた小町も疲労度を見る限りはサボっていたとは思えない。


確かに甘いかもしれないが本当に気分もいいし、予想外の重労働を比較的真面目にこなした今の小町なら休暇をあげてもいいだろう。



「あら〜ご飯ができたのね〜」



妖夢とのスキンシップも終わったのか、それとも運ばれてきた料理の匂いを嗅ぎつけたのか、幽々子が妖夢と共に顔を覗かせてきた。

「あぁ、できてるよ。これで足りなければもっと作らせるというか、まだ現在も調理進行中だよっと」

そうあっけらかんと言う小町が持ってきた料理の山を見て、妖夢はうっと唸る。



「ゆ、幽々子様……いくらなんでも食べすぎですよ!!
普段の5倍はあるじゃないですか!!!」



「あら〜だって妖夢ったら全然食べさせてくれないから」



「幽々子様はほっとくと際限なく食べるじゃないですか!!
とにかく私が帰ってきた以上、これからはしっかり食事量を制限させてもらいますからね!!」









「そんな〜私は成長期なのよ〜制限なんかされたら育たなくなるじゃないの〜〜」









「育つって……死んでる身でどうやって育つ気なんですか……」







やいのやいのと口では言い争う二人だがその表情は実に楽しそうだ。
そんな二人を面白く見つめる咲夜と永琳。


「結局、いろいろあっても最後には元の妖夢へと戻るのね」

「それでもやっぱり幽々子に振り回される今の妖夢が一番妖夢らしいわ」


「何事も自然体が一番というものということかしらね」


「そういうことよ、何事も自然体が一番」


咲夜と永琳もそんな二人を微笑ましく見つめつつ、ふとお互いの仕えるべき相手を思い出し始めた。
思い出しついでに余計なことも頭によぎったらしく……双方別々の壁に片方の手をつきながら頭を垂れ


「…お譲様」

咲夜は至福顔でもう片方の手で垂れる鼻血を抑えつけ


「…姫」

永琳はもう片手の手を膝におきながらを『はぁっ』と海より深いため息をつく。



形はどうあれ、妖夢と咲夜と永琳の三人は誰かに仕えている身だ。
そんな三人が一つのチームに集って戦ったことである種の連帯感が生まれてなごりが惜しいといえば惜しいが、彼女達の主の世話がある以上ずっとここにいるわけにもいかない。

おまけに二人ともこの事件というか冥界とは直接的には関係がない。


「見届ける物も見たし、帰りましょうか」


「そうね。妖夢と同じように、私達が仕える相手の元に」



「二人とも、まだ帰らないでください!!」



先ほどまでの妄想をなかったことにしながら帰り支度を始める咲夜と永琳に妖夢が呼び止めた。


「「何かしら?」」


「えっと…その…今まで迷惑をかけた礼も含めて今から宴会を開きたいのですが、どうでしょうか?
向こうでは日程が詰まっていてすぐに次の『〜旧作+の部〜』が始まるせいで後夜祭もなく終了してしまったし…
見ての通り、料理を作り過ぎてしまったから処分してもらえると私としても助かりますしね」






「だから〜私が残さず食べるわよ〜」





「だめです!!余分な料理はここにいる皆に食べてもらいます!!!
っというわけで、遠慮なしに食べていってください」



まだ駄々をこねる幽々子をヘッドロックでギリギリと押さえつけながらにこやかに笑う妖夢と、技をかけられながらも痛がるそぶりは微塵も見せず逆に笑っている幽々子。
別の見方をしたらSとMという危ない関係に見えそうだが、二人も気にせずつられるようににっこりと笑う。


「ふふ…さすがにキャプテンの誘いを断るのはいけないし、お言葉に甘えようかしらね。咲夜」

「えぇ。キャプテンの命令なら仕方ないわね、永琳。…だから霊夢。今から宴会だしそんな意地汚い真似をする必要なさそうよ」

と二人は笑いながらちゃっかり料理をタッパーに詰め込んでいる霊夢を静止させようとするが、


「あっ、そう。だったら先にお持ち返りの分をゲットさせてもらうわね」



それでも霊夢は止まらない。それどころか許可を得たのだと判断したらしく鼻歌交じりにもう上機嫌でひょいひょいと料理をタッパーに詰め始める始末。


だが、ある意味ではこの姿も貧乏巫女の自然体ともいうべき姿だ。

遠慮も何もない貧乏性で意地汚いその後ろ姿に妖夢と幽々子も二人と一緒に笑いはじめた。

「まぁいいさ。本当に料理はまだまだ一杯あるし……
それに元々この食材の大半は神社から持ってきたものらしいから所有権は霊夢にもあるからね」


小町も四人につられて笑いながらも宴会ということで料理を庭へとどんどん運び出すように指示を送る。

庭ではすでに幽霊達がいそいそと敷物を引いたり酒を持ち出したりして宴会準備を行っているし、咲夜もメイドという性分ゆえか積極的に準備を手伝いはじめる。


「うふふ。私が見ていない間に面白いことになってるじゃないの」

「も、もう……許して……私のライフは……とっくに…0……なの……よ………グフッ」



「閻魔様〜〜〜もう二度と悪いことはしないから助けて〜〜〜〜!!」



そんな宴会準備を始めているところにエリーをいぢめ飽きたのか、事切れたエリーの首根っこを掴んで引きずりながらやってきた幽香と調理場から足枷の鉄球を引きずりながら助けを求めるミスティアがやってきた。

いきなり泣きついてきたミスティアに驚いた映姫は一体何があったかという問いに対して……
ミスティアが言うには数週間前に里の作物を荒らそうとした…という冤罪を幽香から受けて面白半分に白玉楼での強制労働に服役させられていたのだ。

もちろんそれは公平な裁判で罪人を裁くのが仕事の映姫にしてみては許されないことなので、その結果……



「貴女には同族を裁く権利はありませんというか、ロクに証拠もなく有罪を下すとはなんですか!!」


「あらあら、サッカーでは何でもかんでも有罪判決を下す不公平閻魔が何を言うのかしら」




「サッカーはサッカーで別のルールがあるのです!!
そんな屁理屈こねるようなら粛清を与えますよ!!」






「やれるものならやってみなさい。ぺったんこのおちびちゃん






「ひ、人が一番気にしていることを…………有罪判決だーーー!!!!!
今この場で死刑にしてやるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」








幽香の挑発に映姫が切れて弾幕を放ち始めたのをきっかけに、二人はそのまま空高くに舞い上がってド派手な弾幕戦が繰り広げられることとなった。
だが、傍から見ている方としては喧嘩の理由は実に下らないものだ。


地上の白玉楼や庭には被害が及ばないような上空で戦っているしこの場にいる者はあえて止めるようなこともしない。

やがて、準備も整った頃にはチルノも蘇生し、今まで働いていた小町とミスティア、倒れていたエリーも永琳の隠し持ってたと思われるエリクサー(らしきもの)で全快させてもらって宴会に参加してもらった。
さすがに鈴仙は薬の反動でまだまだ体調不良なので居間に敷いた布団で寝かせてもらってはいるが、上空でのある意味では高レベルで低次元な弾幕戦を行っている二人以外の主なメンバー全員に酒がいきわたったようだ。


「じゃぁ妖夢。乾杯の音頭を頼むわよ」

「えっ、私がやるの…ですか?」

霊夢に言われてうっと唸る妖夢だが


「当然。暫定的でも貴女は『黒赤マジック』のキャプテンなのよ」

「キャプテンならキャプテンとして最後の勤めをはたしなさい」


続けて咲夜と永琳も連続で叩きつける。


「そう、妖夢は…」

「キャプテンだし…」

「音頭をとる…」



「「「責任がある!!」」」



虹河三姉妹も単語遊びでもって音頭をうながす。



「さぁ、覚悟を決めろー!
あたいも今だけはみょんをキャプテンとして認めてやるー!!」


「……最後の仕事、頑張れ……」



チルノもリリーBも杯を持ったまま妖夢の合図を待っている。



「そうでしたね…私はキャプテンでした」



幽々子と和解したとたん緊張の糸がぶった切れて素に戻ってしまったが……

それでも自分がみんなを率いていたことは覚えている。
自分がやったことに最後まで責任を取るため、すぅっと深呼吸をして息を整えながら立ち上がって杯を掲げた。


「えっと、では……皆さんこの度は本当にお疲れ様でした。
大会も残念ながら2回戦敗退という結果になってしまいましたが、逆にいえば1回戦は勝てました。
それも皆のおかげだと思います……
そう、皆が力を合わせたから1回戦も勝て、2回戦も惜しいところまで…そう………惜しいところまで……」

そうつぶやきながら妖夢は試合での出来事を思い出し始めた。

妖夢はストライカーとして最前線に立っていたがキャプテンとしての責任感のためか、後ろの中盤での競り合いを目を放すことなく見続けていた。




ボランチの位置だがどちらかというと守りに入ることが多かった永琳と、さらに中盤から俊足で一気に前線へ駆けつけてきた鈴仙。


永遠亭の師弟コンビは得点にこそ結びつかなかったが、チームのためにあえて守りや楔となる地味なプレイを取ってくれた。





中央ではスタミナが切れるまで派手に動き回ったメルランとそのメルランを援護するかのように積極的なプレスをかけるルナサとリリカの虹河三姉妹




ルナサの言うとおり、位置的にメルランへの負担がかかる陣形であったがそのかいもあり中盤の主導権争いを何度も競り勝った。





ゴール前を守る咲夜と映姫とチルノ。

  
咲夜は守りに定評のあるパーフェクトメイドを名乗るだけあって、敵の侵入をほとんど防いでいたし映姫も守備だけでなく一回だけだがカウンターラストジャッジメントという超遠距離シュートでゴールを決めた。



もちろん最後の壁であったチルノもふっとばされる姿が目立ってはいたが得意の顔面ブロック何度か炸裂して窮地を救った。





霊夢も文句を言いつつも夢想天生でGKを葬りつつゴールを量産する姿は『偶然カップファイナル〜』で見た霊夢と全く同じだ。




そして…行き掛かり上、修行に付き合わせてそのままこき使ってしまったリリーブラック………
最初こそ、ただシュートの練習相手として付き合ってもらっていただけなのだが……






いつのまにか傷つき弱っていくリリーブラックを見ても何も感じなくなっていたのだ。









あの時は『ゴールを決められるストライカー』としての“答え”はただ甘さを捨てて自分の力量をあげるだけかと思っていたが………







それは間違いであった。









「……………2回戦は………私の…いや、私達の力量が足らず負けてしまいました……」





くやしさのためか、それとも別の理由か…ぽろぽろと涙を流し始める妖夢。




だが妖夢は涙をこらえながらも話し続ける。



「だけど………結果がどうあれ、負けは負け。
ならば次の機会でリベンジを果たせばいい……そう……」




妖夢は涙を流しながら…何かをふっきるかのように叫ぶ。









「私達は東方サッカーが大好きなんだ!!
次の大会も憎しみ合いながら戦うのではなく、皆と一緒に笑いながら楽しく戦いたいと思う!!!」



涙目ながらも無理に笑って杯を掲げた。




サッカーのフィールドに立てば仲が悪いとか相性が悪いとかレベルが低いとかそんなものは一切関係ない。






皆等しく、勝利を目指すために戦うチームメイトだ。







そんなチームメイトを信頼せずに戦うチームには


勝利なんか訪れない。






それに…ストライカーがゴールを決められなくても他の誰かがゴールを決めてその1点を皆で守りぬけば勝てるのがサッカーだ。







皆と一緒に笑って悲しみ、助けあいながら…




一人のミスや足りない部分を責めるのではなく皆で補いながら一丸となって戦うチームこそ勝利が訪れる。







そう………魔理沙が率いる『黒赤マジック』はそうやって戦って勝ってきた。








たった1点のために必死で攻めて、その1点のために必死で守り……









最後まであきらめずその1点にこだわり続けるサッカー………








地味だがメンバー全員が汗と泥にまみれながら、僅差で勝ちを拾い続けるサッカー………









そんな『黒赤マジック』だったからこそ、『偶然カップファイナル〜』では初出場ながら優勝経験チームをも屠ってベスト8という好成績を残せた。










だから…『黒赤マジック』には『ゴールを決められるストライカー』なんか必要ない。
















結局何の解決にもなってないのかもしれないが、それが妖夢の出した“答え”だった。














「だから、今日は……皆、負けた悔しさを忘れて飲んで食べて騒いぎまくろう!!!!
そして、次こそは皆で優勝を狙おう!!!!」








妖夢の叫びとともに妖夢は杯を空高く掲げ、他のメンバーも杯を掲げる。そして……










「「「「「「『黒赤マジック』にかんぱーーーい!!!!!」」」」」」」














カチンと心地よい音が響いた。














「あははははははは。そんな真赤な顔になって怒るなんてまるっきり子供ね〜〜〜」











「五月蠅い五月蠅い!!!その減らず口が二度と使えないように舌を引っこ抜いてやるぅぅぅぅぅ!!!!」










空中では幽香と映姫でやめる気配のない子供じみた喧嘩が続いている中、白玉楼ではお互いの健闘を湛えたり試合を振り返ったり、特には喧嘩をしながらもいつもどおりのどんちゃん騒ぎが行われた。








いつもと変わらない同じ幻想郷でのチームメイト………








皆で笑って皆で泣いて皆で楽しむ…



こんなに素晴らしいチームメイトと一緒に戦っていれば…







いつか、本当の“答え”が見つかるだろう。










だけど今は焦ることはない。







もう無理に力や結果を求めず、自然体でただチームメイトを信頼しながら精一杯自分の務めを果たす。







そうすれば『黒赤マジック』は強くなれるのだ。





そして『黒赤マジック』の真のキャプテン魔理沙が目指す遥かなる高みに辿りついたその先……








その先こそ、本当の『答え』が待っているだろう…………










妖夢はそう信じて、普段はあまり飲まない酒をさらにあおり続けた。















こうして結局いろいろとあったが、妖夢はもとどおり庭師として復帰した。



妖夢も今まで白玉楼を離れていたことによって溜まった仕事…特に幽香が派手に暴れて荒らしてくれた庭の後片付けでてんてこ舞いとなってしまうだろうが幽々子もしばらくはわがままを言って妖夢を困らせたり振り回したりはしないだろう。



冥界での白玉楼はすぐにいつもと同じ白玉楼へ戻り、いつもと変わらぬ日常を取り戻すだろう。











そう。全ては丸く収まったに見えた…………………………が






























白玉楼とは別の問題が、まだもう一つだけ残されていた。















…………























「ふぅ、やっぱり神社は落ち着くわね」

白玉楼での宴会も終わり、神社の境内に降り立った霊夢。
結局向こうでは妖夢と幽々子に酔いつぶれるまで飲まされてそのまま一夜を過ごしてしまい帰ってきたのは翌日になってしまったのだ。

いろいろとあって疲れたがまずはお気に入りのお茶を飲んで一息付こうと思ったが…はたと違和感に気付いた。


気づいたというか……自分が泥棒避けに張っていた結界の大半が解除されているのだ。







「ま、まさか…!?」






真っ先に飛びつくのは命より大事なお賽銭箱。
高速移動を超えた隙間移動を思わせる速度で賽銭箱に取りつく霊夢だが別段変わった様子はない。

というか、怒らすと怖い霊夢が命より大事にしている賽銭箱に手をつけたら想像を絶する報復が待っているのは誰もが知っている。



なので、賽銭箱には幻想郷30大迷惑…そう、あの極悪非道の隙間妖怪ですらも賽銭箱には手を出そうとは思わない。



そんな賽銭箱に手を出すのは命知らずで無知なHか自殺願望者のどちらかだろう…………が



「な、ない……お賽銭が入っていない………」




いや、入ってないのはいつものことだろうが、大会出発前に霊夢の目の前で咲夜と永琳とルナサが小銭を賽銭箱に入れているのだ。
だから少なくとも小銭が三つ入っていなければつじつまが合わない。





つじつまを合わせようとするなら…結論













その命知らず、もしくは自殺願望者がいたようだ。










「うふふふふふ………私の賽銭を盗むなんていい度胸してるジャナイノ………」







怒りによって再び殺意の波動に目覚めた楽園の素敵な巫女が降臨。





近寄る者全てを恐怖のどん底へたたき落とす狂気の昂翼天使を背負った今の霊夢はまさしく「search & destroyer」
目につく妖怪というか動くものは何であろうと容赦なくDELETE!!



そんな霊夢の最初のターゲットは……




「…ウラニワノハタケカラ……ハナシゴエ………」




どうやら裏庭の家庭農園にいる何者かになりそうだ。


足を踏み出すと同時に周辺の雑草が変色して枯れ果てていく中、一歩一歩畑へと歩を進めていくとそこには……




「はぁ〜やっぱり取れたてのサツマイモを食べながらの一杯はいいね〜〜〜」

「そーなのかー?」

畑の真ん中で焚き火を囲んで焼き芋片手に酒を煽っている鬼の萃香と焼き芋をむしゃむしゃと頬張っている常闇妖怪のルーミアがいた。


「しかし、あれだけあった作物も綺麗さっぱりなくなったね〜
サツマイモも今あるこれだけしか残ってないみたいだし」

「そーなの…かー………」

「しかし、作物はいいとして珍しく入っていた賽銭箱の小銭まで持っていくのはよかったのかなぁ……
もし、このことを霊夢が知ったら…………ん?」


酒が入ると人でも鬼でも口が軽くなってしまうものなのか、聞いてもいないのにぺらぺらと上機嫌でしゃべる萃香。
そんな萃香の目に焼き芋を食べる手を止めてだらだらと冷や汗を流しているルーミアが映った。


「う、うしろ……後ろに狂気の天使がいるのかー?」


「後ろ?」


と萃香は酒を煽りながら、ルーミアのふるふると震える指が差す方向。
つまり萃香の後ろを何気なく振り返ると…………


























「ブハッーーーーー☆●@◇?!!!!」

















飲んでいた酒を噴出させながら声にならない悲鳴があがる。
まぁ、当然の結果だろう。



何せ、今萃香の後ろにはその本人が立っていたのだから。





「………スイカ……オマエカ…………オマエガハンニンカ………
オマエガサイセンバコカラサイセンヲヌスンダノカ………・」







見る者全てを恐怖のどん底に陥れる真赤な瞳で睨みつけながら、理性を完全になくしていると思われる片言を発する霊夢……

そんな霊夢の姿に萃香は酔いが一気に覚めた。



「あ、ああああ…えっと〜〜〜その〜〜〜〜〜これには深い理由が〜〜〜」



萃香はがくがくと震えながらなんとかここを切りぬけようかとする…が無駄な努力だ。


今の霊夢は言うなればEX霊夢

普段から反則的に強い霊夢がさらに強化されたチートボス的存在であり、当然だがボスとのエンカウントは特別なイベントが起きない限り逃走は不可能。

それでも必至に逃げようとするが腰が砕けて立ち上がることもできない。

ついでにルーミアは視線だけでピチューンされたらしくばたんきゅーと気絶している。









「ハクレイシンケン……キュウキョク……オウギ……」

















「と、とにかくま、まずは話をきぃ…いいいいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」













  
ゆっくりと懐から札を取り出して構える霊夢に尻もち状態の萃香は無駄と思いつつも最後の望みをかけて手を前に突き出しながら説得を試みる………が本当に無駄だと悟ったのだろう。


底力とも言うべき渾身の力で飛びだってその場から逃げようとするが……………





































召喚「玄爺稲妻落」(博麗大結界)






















カッ!!





























どっすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!



































「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」




























無情にも、逃げ出そうとした萃香と巻き添えとなったルーミア目掛けて容赦なく殺意の波動に目覚めた楽園の素敵な巫女による鉄槌が下された。






































翌日



















「うさうさ…なんで私が巫女の手伝いなんかに駆り出されないといけないうさ」

「文句言わないでください〜。私だって不安なんですから〜」


博麗神社へ向かって飛ぶ複数の影とその一団を率いていると思われる二つの影。
妖怪兎のてゐと中華妖怪の中国美鈴だ。

二人は大会出発前にお互いの上司である永琳と咲夜が霊夢と交わした『三日間の期限で役立つ誰かを神社に派遣する』という約束のため、神社へ出向くようにと言い渡されたのだ。


だが、三日間という期限があるとはいえ霊夢の元で働くというのはいろいろな意味で不安がある。

一体何を言い渡されるのか想像ができないだけに不安だけが倍増してくるが逃げるわけにもいかない。

いや、てゐからしてみれば本当に逃げ出したい気分だがそんな性格を永琳は見抜いている。
だから霊夢にしっかり「てゐを派遣する」と断言したのだから逃げたことを知ったらすぐ霊夢にばれて永遠亭に襲撃をかけてくるだろう。


まぁ襲撃によって部下の兎達や永琳、輝夜に被害がでることは別にかまわないが、永遠亭そのものが潰されてしまう恐れもある。


さすがに帰る場所である永遠亭を潰されたら困るし、兎達に仕事をできる限り押しつけて自分はなるべく楽しようという腹黒い考えの元でしぶしぶとだがこうやって神社へ出向いてるわけだ。


なお、美鈴に関しては確かに不安はあるがメイド達数名のお供も付けてくれたし、いくらなんでも紅魔館での扱いよりかはマシであろうというある種の楽観的な考えで出向いていたが…













どちらもそんな考えは甘いことを思い知らされた。











なぜなら……









「あれ…神社が……」

「…倒壊してるうさ?」

神社があった山の一角は完全瓦礫の山となっており、その瓦礫の山ではバケバケ達が材木を抱えながらとんかんと神社の修繕を行っている。
もちろんバケバケ達の中央にはどなり声で指示を送っている霊夢もいる。

そんな霊夢の姿を見下ろしつつ、二人はお互い顔を身合わせ……


「…………逃げる?」

「奇遇ですね。私もそう思いました」


なんていう逃走の意志を確認し合っていたが、すぐに無駄だと気づくこととなる。


というのも、神社の周辺には中に入るのは簡単だが外に出ることができない逃走防止用の結界が張られているのだ。

恐らく捕らえたバケバケ達を逃さないために張ったのだろう。
つまり、結論からいうと………






神社の修復が終わるまで逃げることは許されない。





「あっ、二人ともお疲れ様です。応援に来てくれたのですね」


「あ〜よかった!新しい人手が来るなんてもう天の助けよ〜!!」


呆然と浮かぶ二人に後ろから声がかかる。
振り返ると数匹の毛玉達と共に木材を運搬中と思われる妖夢とエリーがいた。

ちなみに妖夢は二人と同じように霊夢との約束の元で派遣されてきたのだがエリーは白玉楼の庭をめちゃめちゃにした罰と庭掃除の戦力にはならないということで妖夢の幽霊達の代わりとなるお供として狩り出されたのだ。















「さぁ、貴女達も一緒に働くのよ!!
一緒に奴隷身分へと落ちるのよーー!!!!」









庭を荒らしたのはほとんど幽香でエリーはその尻拭いをさせられているだけ。
おまけに幽香に黙って宴会に参加してたことを思いっきり咎められてたのだろう。
さすがにエリーもこんな理不尽な扱いには耐えきれず身も心もボロボロとなって性格が一部変わっている。


どこからともなく大鎌を取り出したエリーはなおも逃亡を諦めないてゐを鎌でがっしり捉えるとそのまま回転。
美鈴を巻き込みつつ遠心力でもって二人を大鎌ごと地面目がけて投げつけた。




「うわ〜〜〜〜〜」


「うさ〜〜〜〜〜」



悲鳴と大鎌とともに二人は落下してゆき、やがてどすんと地面へとたたきつけられる。

もうもうと上がる煙の中で二人は見上げると……その目の前にはねじり鉢巻きに直足袋、手には設計図という完全大工の親方な霊夢が立っている。


「二人とも来てくれたのね。さっそくだけど…神社の修復の手伝いをお願いできるかしら」



「「りょ、了解しました…親方!!」」



にっこりと笑いながら大工道具を手渡してくる霊夢。
だが、その笑顔の裏からにじみ出るオーラは拒否権を一切認めないらしく、二人は成すすべなくこくりとうなづく。

退路を完全にふさがれた二人はもう霊夢の命令を聞くしかない。




二人はもうあははと笑いながら、この途方もない予想外な大仕事に呆然と立ち尽くしていた。












「さぁ、皆!!神社を建て直すまで帰さないから死力を尽くして頑張りなさい!!!
サボったら容赦しないわよ!!!!」







「「イ、イエッサーーー!!!」」




怒声に思わず軍隊式にびしっと敬礼をする二人…もうヤケクソとはこのことだ。
てゐも美鈴も連れてきたお供に手早く指示を出しながら自身ものこぎりやとんかちを振るい始める。








とんてんかんてん……ガリゴリガリゴリ…ザリザリザリ……






瓦礫となった神社からはしばらく大工の音がやむことはなかったという。






なお、こうなる原因を作った萃香はというと巨大玄爺に潰されたことで瀕死の重傷となって床に伏せていたがやはり鬼。
この翌日には動けるようになり、さらに翌日には傷も全快
鬼特有の怪力ついでに萃める能力人手を徹底的に呼び寄せたことによって神社をわずか工事開始から三日で完全な形に修復させた。










さらに神社が完全に修繕され、一段落した後に萃香から聞いた真相によると…











賽銭箱の小銭を持っていった犯人は過去の霊夢である通称ラクガキ巫女。
ラクガキ巫女曰く、同じ霊夢だから今の博麗神社に入っているお賽銭も自分の物という屁理屈に似たジャイアニズムで持っていったとのことだ。


本当に大胆不敵だがやはり同じ霊夢なだけに思考回路は似たところがある。


さらに畑の作物は里の作物の代わりとして白玉楼に持っていったからであり、代金もしっかりもらっているとのことだ。

もっともその代金は神社の修繕費で『偶然カップファイナル〜』で得た賞金と共に全て露となって消えてしまったらしい。


ついでに萃香も言うことだけ告げたら霧となって消えたというか逃げてしまった。


結局、霊夢はお賽銭の件も含めてこのやり場のない怒りをぶつける相手をもとめてしばらく幻想郷を徘徊してまわることとなった。





当然、このことはブン屋の文も中途半端に察知。











『楽園の巫女ご乱心!?
見かける妖怪は有無を言わさず手当たり次第に退治中!!!』








という号外が幻想郷中にばらまかれたことによりしばらく幻想郷中の妖怪達を恐怖のどん底に叩き落していたとのことだ。

































今日もまた鬱憤を晴らす相手を求めて幻想郷をアテもなくさまよう楽園の素敵な巫女……。










昨日はHでその前は光の三月精が生贄となった。









今日退治される生贄…










それは今これを読んでいるあなたかもしれない………















終わり?






■ 黒赤マジック(花) 戦歴

一回戦
vs紅白魔砲うどみょんスパーク(うみょ) AWAY戦 1-2 / HOME戦 2-1
(得点速度で勝利)

二回戦
vsベノムバスターズ!(VB!) AWAY戦 2-6 / HOME戦 5-2
(得失点差で敗北)


総得点10 総失点11


成績:二回戦進出
得点:霊夢(5点)・妖夢(4点)・ザナドゥ(1点)










あとがき


東方蹴球宴 開催跡地


戻る