暑い夏は終わった…
特に今年の夏は猛暑といってもよかっただろう。
幸い水不足にはならなかったが、連日照りつける日差しで日射病や熱射病だけでなく頭をやられた者も多数いた。
おかげでここしばらくは目の回るような忙しさであったが、それも終わるだろう。
窓から吹き抜けてくる風もこころなしか涼しく感じる。
幻想郷の秋は近い…
「永琳様、お客様です」
「お客様?急病人じゃなければお引き取り願ってもらってちょうだい」
自分の診療所へ来客を告げてきた兎を振り向かず、そっけなく答える永琳。
「えっ?!で、ですが相手は永琳様を出せと」
「いいから、用件ならてゐにでも聞いてもらってちょうだい。
それでも食い下がるようなら、弾幕でもぶつけて力ずくでお帰り願うのよ」
驚きの声を上げる兎だが、永琳は淡々と再度伝える。
その対応はある意味ではいつも通りといえばいつも通りだ。
兎はなおも食い下がろうかと思ったが……
永琳は何かに熱中していると、小さなことには点で気にしない研究者肌の持ち主だ。これ以上何をいっても無駄だろうと悟ったらしい。ただ「わかりました」と呟いて静かに立ち去った。
それを気配だけで察知した永琳はふぅと一息をつく。
「全く、アポもなしで訪れる無粋な輩なんて誰なのかしら…」
ここは人里離れた竹林の奥深くに建つといわれる永遠亭。
多くの妖怪兎が住むという、いわゆる人外の住処。普段は誰も近寄ることはない。
だが、ここには幻想郷一の高度な医学が存在するので時々急病人が運ばれてくる。
その時診療するのが裏で永遠亭の実権を握っているといわれる月の頭脳、永琳。
実年齢は決して聞いてはいけないし、知ることも許されないのだが巨乳で美人ということで変なファンというか追っ掛けがいるのだ。
そういう輩が稀に迷宮とも呼ばれるに相応しい竹林を突破して永遠亭にやってくるのだがそんなのは相手にするだけ時間の無駄。
特に今は薬不足なので余計にかまっている暇がない。
なにせ、この夏の猛暑によって体力が落ちた者が様々な病気にかかっていた。その治療で薬が多く使われるし、多く使われれば在庫もなくなる。当然、在庫がなくなれば新たに作らなければいけない。
こう心の中でぼやいている間も手はごりごりと無数の薬草を乳鉢と鉢ですりつぶしてるしフラスコには絶えずアルコールランプでグツグツと煮立たせているぐらいだ。
そんな状態であったため、どこか心の余裕というものがなかったのだろう。
あの時、少しでも兎の顔を見ていればここまでひどくなることはなかった。
もしくは、来客者を甘く見過ぎていたのかもしれないし、相手を自分のファンか輝夜とよく殺し合いにくる妹紅と決めつけていただけかもしれない。
とにかく、そんないろいろな要素が加わった結果…………………
爆音とともにドアがはじけとんだかと思えば…
真紅に染まった槍が永琳目がけて強襲してきた。
「何事なの!!」
後少し反応が遅れていれば完全にけし飛んでいたかもしれない不意打ちを紙一重なかすりで交わした永琳。
その反応速度はそこらの雑魚とはさすがに違う。どこからともなく取り出した弓矢をつがえ、油断なく入口に向ける。
さっきまで永琳が座っていた机と椅子は粉々に砕け、薬草や器具が散らばってもうもうとあがる煙の中で佇むシルエット。
頭には幻想郷定番ファッションなZUN帽、小さい身体に不釣り合いともいうべき大きな翼。
「全く、人というか鬼が態々来てあげたというのに帰れなんて何様のつもりなのかしら」
「レミリア!?」
「おまけに弾幕なんて丁寧な対応ありがとう。
お礼に邪魔な雑魚はきれいさっぱり掃除してあげたわ」
レミリア…それは幻想郷で最強クラスの力を持つ種族、吸血鬼。
見た目は幼いがその実力は本物であり、そこらの雑魚どころか下級ボスな妖怪ですら赤子に手をひねるかのように葬りさってしまう。
そんなレミリアに名無し妖怪が立ち向かうことはある意味自殺行為だ。
だからこそ兎達は泣きそうな顔で永琳を頼ったのだが、当の本人は全く知らん顔。
顔も見ないし震える声にさえも気付かないどころか、「弾幕を張れ」という死刑宣告まで下したのだ。
もはや、完全に見捨てられたのだと悟った兎達は悲痛の覚悟で死刑執行人目掛けて弾幕を張り…
一人残らず丁寧に撃墜された。
一応手加減はしてくれてるようで死んではないが襲いかかった兎は、全員床に這いつくばったままぴくりとも動かないという死屍累々といった状態だ。
「それで、夜更かしする悪い子がこんなまっ昼間に何の用かしら」
兎達の仇を取りたいという気持ちもあるが、この件は自分にも非がある。
なので、わき上がる怒りを鎮めつつもレミリアを睨みつけた。
「お土産を持ってきたのよ、咲夜」
レミリアが顎で合図を送ると後ろに控えていた咲夜がすっと部屋に入り右手に握っていた赤にまみれた何かを突き出した。
最初は何かわからなかったがそれが人の形を成していること、さらに頭にぴょこんと飛び出た耳が目に入り…
「う、うどんげ!?貴女達、一体うどんげに何を………」
「見ての通りよ」
ブチッ
レミリアのそっけない言葉で完全に堪忍袋の緒が切れたようだ。
迷うことなく、弓矢乱れ撃ちをレミリア目掛けて放つが無数の閃きによって気づけば矢が全てはたき落とされていた。
「お嬢様に手を出すことは許さない」
見れば咲夜がうどんげというか鈴仙を掴んだまま、ナイフを逆手にもって油断なく身構えている。
「片手で全てはじくとは、さすが紅魔館の番犬は違うわね…」
ぴくっ
その言葉に咲夜の眉がかすかに動くが、この程度でキレる程咲夜の沸点は低くない。
「そっちも、ペットの躾はしっかりするものよ…」
そう言い返すと咲夜は鈴仙をぽいっと診療所隅のベットに放り投げ、自由になった右手にもナイフを持つ。
咲夜は人間だが、そこらの下級ボス相手なら足元にも及ばせないほどの強者だ。
永琳は突き刺さる言葉にこめかみをひきつらせながらも隙なくさらに矢をつがえなおした。
「うどんげをペットだなんて一度も思ってないわよ」
「あぁ、そうだったわね。あれは投薬用の実験動物だったかしら」
ブチブチッ
その言葉に永琳の怒りゲージがMAXを突き抜けたが辛うじて残った理性が爆発を押さえこんでくれたようだ。
「実験動物とは言ってくれるわね。
それならあなたは番人兼用の食糧用雌犬かしら。
もっとも、その胸じゃ大した収穫はないでしょうけどね」
ブチブチブチッ
永琳の辛うじて残った理性による反撃で咲夜も怒りボルテージが臨界突破したがやはり辛うじて残った理性で爆発を阻止した。
だが、いくら爆発を抑え込んでも怒りを鎮めたわけでもなければ、二人とも殺気を全く消していない。
二人から湧き出るオーラは完全にダダ漏れであり、何かきっかけがあればこの場全てを巻き込む誘爆が起きるというか、もはや爆発は避けられない。
そんな起爆性ガスに包まれた一瞬即発な診療所の気配を察知したのか、まだ動ける兎達が転がっている屍達を運びながらばたばたと外へと逃げ出していってるし、外の小鳥や虫達も一斉に飛びだっている。
「ふふっ…面白いことになってるわね」
そんな緊迫なムードが漂う中心部で平然どころか面白そうな顔で眺めているレミリア。
動機はどうあれ、その佇まいにはカリスマが充ち溢れていそうだ。
これでなぜサッカーになるとへたれみりゃと呼ばれるような扱いになるのか謎だ。
レミリアはそこらに転がっていた試験管を拾うと、向いあう二人の中心へとぽいっと投げつけた。
二人は投げられた試験管には全く目をくれず、ただじっと互いの目を見つめ合っている。
やがて、投げられた試験管が床へと到達。
砕け散る音と同時に…………
どっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!!!!
永遠亭の一角から髑髏型の爆炎が発生して、空を彩った。
少女回想中………
今日もいつもどおりな一日であるはずであった。
いつもどおりといっても、今日は特別な日であったがいつもどおりであれば何事もなく済ませられることであった。
そう、いつもどおりであればだが…今回は違った。
「咲夜、待ちなさい」
扉を開けようとしたところを後ろから呼び止められた。
一体、何の用と思いつつも普段から呼び止められることは日常茶飯事。
「お嬢様、なんでしょうか?」
全く気にすることなく、咲夜はレミリアの方へと振り返る。
今日は人里へ買出しに出かける日だ。よく使う食材や日用品等は向こうから届けてもらってはいるがあまり使わない物は直接こちらから出向くことになっている。
もちろん、レミリアはそのことを知っているので咲夜を呼びとめたのは人里へ出向くついでの頼みごとかお土産のリクエストであろう。
ちなみに、お土産のリクエストに関してはある意味レミリアが絶対に行わないといけないものだ。
というのも、リクエストをしなければ咲夜がコスプレ服やら付け耳しっぽの萌えグッズやぬいぐるみといった類を躊躇なく買ってくるどころか、店内で妄想に耐えきれず鼻血を噴出させて気絶することもある。
おまけに過去に一回、その様をブン屋の文に目撃されてしっかり号外としてばら撒かれて紅魔館の恥を幻想郷中に知らしめてしまったのだ。
まぁ、恥といっても咲夜だけではなく、パチュリーもレミリアも似たような恥を晒されてるというか…
幻想郷30大迷惑で恥をさらされていない者は誰もいない。
過去に一度は恥をばら撒かれている。
そんな具合なので、今さら紅魔館の恥が一つや二つ増えたところで当人以外は誰も気にしないのだが…
増えないにこしたことはないので人里へ出向くときはお目付け役兼荷物持ちとして数名のメイドを伴って行くことになっている。
しかし今回はいつもとは違った。
「今日はメイド達に代わって私が同行するわよ」
「……………………………はぁ?」
さすがにこんなことは今までなかったというか、はじめてだ。
なかっただけに予想というか心構えができておらずつい間抜けな返事を返してしまった。
「だから、今日は私が人里に出向くといってるのよ」
「で、ですが…今は昼間な上にお嬢様が人里へ出向くと……その………」
「いいから、命令よ!!私も連れて行きなさい!!」
なおも食い下がるレミリアだがそんな命令はさすがに賛同できない。
できない理由がある。
まず一つ。レミリアは吸血鬼であるため、日光に弱い。
もっとも最近はどっかの通販で手に入れた超強力日焼け止めクリームのおかげで日中でも全く問題なく行動はできるが問題は次だ。
二つ目として妖怪は人里で暴れることもそうだが、人を襲うことを固く禁じられている。
この約束事を破ればどんな罰則が下されるかわからないのだ。
そして最大の問題。
レミリアの思考は幼すぎる。
いやまぁ実年齢は500歳なので決して若くはないが見た目と考えることが幼いというか無邪気というか我慢が足りないところがある。
なので、人里の人間からの興味本位によるちょっとしたちょっかい…
例えば炒った豆をぶつけられるとかされたら怒らないはずがない。
怒れば威嚇として弾の一つでも放つだろう。
「いけません!!
博麗神社ならまだしも人里に出向くことは許されません!!!」
レミリアは幻想郷屈指の強者だ。
例え弾の威力を最弱に抑えてもごく普通の人間が食らえば即死レベルになりかねない威力があるし、被害がでなくても攻撃を仕掛けたこと自体が問題となる。
なので、その責任は下手すればレミリア自身の命でもって償われることとなるし、最低でも監視を付けられて行動が著しく制限させられてしまう。
厳しいが、レミリアがしっかりと自制ができるまでは人里に向かわせるわけにはいかない。
そう固い鋼の決意の元でしっかりと断言するが
「ぷーーーーー☆
どうしてもだめ〜〜〜?」
顔を真赤にして頬をふくらませながら、なおも食い下がるれみりゃ。
その姿に咲夜の鋼の決意は早くもヒビが入った。
「お、おおおおおおお嬢様…
そ、そそそそそそんな顔されされされても…だだだだだめででで…す」
至福の表情で、鼻を両手で押さえながらも抵抗する咲夜だが…
誰がどう見ても陥落寸前というか精神抵抗の判定にピンゾロ失敗だ。
こうなってはもうれみりゃの勝ち。
「もー連れてってもらえなかったら咲夜なんて絶交だよ!!」
ずがぁぁぁぁぁーーーん!!
会心の一撃!!!!
れみりゃぁは咲夜の精神に1億4283万756Hのダメージを与えた。
咲夜は真っ白に燃え尽きた。
(…少しやりすぎたわね。ザオ○クを唱えるわ)
「でも……人里でソフトクリームを買ってくれるなら絶交を取り消してあ・げ・る」
「わかりました。
是非一緒に人里へ向かいましょう」
咲夜は『萌え系ポスターで戦闘不能とHPMPが全快するオタク』のごとく復活。
すぐさま数十秒前の発言を取り消した。
その様を見てレミリアは一言。
「単純ね」
まったくだ。
ということで咲夜はレミリアを伴って人里へと訪れることになった。
何故レミリアが突然人里に訪れたくなったのかはわからないが、まぁいつもの気まぐれだろう。
レミリアは時々こういう気まぐれで突拍子のないことを提案して実行する悪癖みたいなものがある。
もちろん、中には何らかの意図があってのこともあるのだが大半は何の意味もないただの興味本位だ。
なので、咲夜はレミリアが何か問題を起こしそうであれば即座に時間を止めて郊外へ連れ出そうと心に決めた。
「お嬢様と一緒にお出かけ……一緒にソフトクリーム………」
…………のかもしれない。
いや、表情からうかがえないが頭の隅ではちゃんっと対処法を考えているだろう………………
「あぁ、お譲様。そんな風に慌ててたべられたら……」
…………たぶん、考えているだろう。
「うふふふふふ……」
………考えてると思う。
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
鼻血を垂らしながら二つの意味で飛行を続ける咲夜。
いろいろな意味でもう手遅れかもしれない。
一方レミリアの方は
「最近人里で人気のハーゲン○ッツのアイスってどんなのかしら…興味あるわね」
文々。新聞の記事を読みながら飛んでいた。
どうやらアイスが食べたいというのは事実というか、それが全てだったようだ。
しかし、それだけなら態々自分で出向く必要はないと思うが、まぁこういうのは直接出向いて作りたてをその場で食べるのが通というものなのだろう。
結局のところ、深い意味のないただの興味本位でしかなかった。
そんな風に人里へと飛行を続ける二人だが、人里近辺にて異変が起きた。
地上から弾が飛んできたのだ。
「いきなり物騒なご挨拶が来たわね」
新聞を読みながらの腋脇見飛行だったが、二人は隙間のない弾幕の中でさえも回避できる反射神経の持ち主。
例え不意打ちだろうと遠距離から放たれる弾になんてあたるほど落ちぶれてはいない。
なので、レミリアは射抜かれた新聞を投げ捨てながら油断なく身構えた…が
ひゅるるるるるるるるるる………
妄想飛行を続けていた咲夜は落ちぶれていたようだ。
「………………咲夜」
思いっきり正面から直撃を食らって墜落した後に、地面へ激突して人型の穴が生成される咲夜の姿を見ながらレミリアはぼやく。
一体いつからこんなギャグキャラになってしまったのだろうか。
霊夢達にあってからだろうか、それとも平行世界への交流がおこなわれるようになったせいだろうか。
何せ、平行世界では自分と全く同じでありながら違う存在という自分達がいるのだ。
交流が行われれば自然とお互いが干渉しあってしまい、なんらかの影響を受けるようになってしまう。
そう思えば、レミリア自身も時々「れみりあう〜☆」なんて変な決めポーズを取ってしまいたいこともあるし、実際本当に取ってしまったこともある。
幸いそれは誰もいないところでこっそりなのだが、最近は人前でさえもポーズを決めたいという衝動に駆られ始めている。
「さて、こんな無粋な挨拶をしたのは誰かしら」
咲夜の失態とレミリアの心のつぶやきはなかったことにして今さら遅いがカリスマオーラを放出させながら地上へと降り立って辺りを見渡す。
まっ昼間だが夜の王目掛けて弾を放つという大胆不敵なその犯人。
そんな度胸満点な相手を見つけだしたらどうしてやろうかと思ったが
「……………………子供?」
再度飛んできた弾というか、飛んできたのはただのトマトだ。
よけるのも馬鹿らしいから手で軽く受け止めた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃ〜〜受け止められた〜〜」
籠一杯のトマトを抱えてきゃっきゃとはしゃぐ子供たち。
夜の王目がけてトマトを投げるなんて馬鹿にしている以前の問題だ。
むしろ意図が全くわからない。
しいていうならレミリアが『スカーレットデビル』という二つ名があるから赤いトマトを投げる。
それぐらいしかない。
「拍子ぬけにもほどがあるわ」
子供相手ということもあるがレミリアはもう怒りを通り越して呆れ返っているし、反撃する気も起らない。
だが、問題は咲夜を撃墜させた弾だ。
あれは“力”がある者が放つ弾であり、決して子供が放てるようなものではない。
誰かくろまくがいるはず。
もちろん、『くろまく』といってもあのふとましいではない。
真っ先にあの冬妖怪の顔を思い浮かべてしまった自分に突っ込みをいれつつも近くの草むらで蠢く殺気を読み取った。
くる!!
攻撃を察知したレミリアは即座に臨戦態勢を取ったが、相手は早かった。
疾風のごとく駆け抜けたナニカとすれ違うと同時にレミリアの頬から血がつーっと伝わる。
敵に先手を取らせたところで反撃にでるつもりが、逆に反撃を与える暇さえも与えてくれなかった。
「ふっ、このスカーレットデビルに血を見せるなんてやr……
ぶふ!!」
ぐちゃ!
子供たちによるトマトの援護射撃。
自分に酔っていたレミリアは避けることができず、一つが頭側面に見事命中。
「あひゃひゃ〜〜真っ赤な真っ赤なよ〜かいだ〜」
顔の一部がトマトにまみれて真赤になったレミリアを指差して狂気じみた笑いをあげる子供達…
明様に異常な行為だが逆鱗に触れたレミリアは全く気付かない。
「き〜さ〜ま〜ら〜…」
ごごごっと身体が真赤に燃え上がり、両の爪もシャキンっと伸ばす。
さらに瞳はこれでもかというぐらい紅く鋭さをまし、紅魔館のメイドが見たら卒倒するぐらいの視線を子供たちに向けて放つが、子供たちは全く動じてない。
ここまで来たら、明様に異常を通り越してるのだが怒り心頭のレミリアは気づかない。
「このスカーレットデビルを嘲笑うか…
面白い…
必ず後悔させてやる!!!!! 」
人里近くでは人間を襲ってはならない。
という絶対の掟を怒りのために、はるか彼方へと蹴り飛ばしたレミリアは子供たちを八つ裂きにしようと、今まさに襲いかかろうとした瞬間……
首筋にひんやりと冷たい感触を感じた。
「お嬢様、おやめください」
見れば顔を真赤に腫らして泥だらけの咲夜が後ろから自分の首筋にナイフを突き付けている。
俗に言う“HOLD UP!!”という状況だ。
「……さすがね」
この状況ではさすがにレミリアも分が悪い。
下手に動けば一瞬で首の頸動脈を掻っ捌かれてしまう。
もっとも、頸動脈を切られたところで死ぬわけではないので斬られながら反撃をすれば問題なく倒せるが…死ななくても痛いことには変わらない。
「お嬢様。お気持ちはわかりますが状況をよく見てください」
よく見るも何も子供たちは全員気絶して地面に横たわっている。
どうやら咲夜が時間を止めている間に当て身、もしくは首筋への手刀でも食らわせたのだろう。
「あの子供たちは明様に異常でした。おそらく、狂気にやられたのでしょう」
「狂気…ですって?」
「えぇ、これのです」
と咲夜がナイフを持ってない反対の手をずいっと持ち上げた。
その手には…
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……」
変な笑い声をあげている月兎というか電波兎というか…鈴仙の首根っこが掴まれていた。
「なるほど、子供たちはこのウサギの狂気の目にやられたのね」
「えぇ、ですが……」
鈴仙は“狂気を操る程度の能力”を持ち、その紅い目で見る人に狂気を与えることができる、
ただ、鈴仙もそのことは十分承知しているので普通の人にはほとんど使われることもない。
ましてや子供相手に発動させるなんてありえないが…
「うひゃひゃひゃひゃ〜〜うさぎ印の薬屋さんだっぴょ〜ん」
「…………なぜこのウサギが壊れているのかが不明です」
よく観察するまでもなく、今の鈴仙は明様におかしい。
焦点のあってない目で変な笑い声なんかあげているし…
こんな状態では能力も自制も何もあったものじゃない。
さらによく見れば子供たちにトマトをぶつけられたのだろう。身体中がトマトで真赤に染まっている。
こんな状況で不幸中の幸いというのが、鈴仙が子供たち相手に弾、もしくはスペルカードを使っていなかったことだ。
もし使っていたら今頃どうなっていたことやら……
考えただけでもぞっとする。
「とりあえず、これはどうしましょう。
そこの穴にでも放り込んで埋めますか?」
ちなみに穴というのは咲夜が体を張って生成した人型の穴である。
「そこまでする必要はないわ。
目隠しさせて猿轡噛ませてから縛ってそこらの木にでも吊り下げておきなさい」
咲夜もさらっと酷いことをいうが、レミリアも充分そこまでするレベルだ。
だが、今はそれを止める第3者がいない。
よって、咲夜は即座に取り出した縄で言われた通りに鈴仙を縛りつけようとしたその時
「お前ら、そこで何をしている!!」
「ちっ、まずい奴が来たわね」
レミリアのつぶやき通り、遠くから近寄ってくる影…
そのシルエットというか頭の影だけを見ればわかる。里の守護神でもある慧音だ。
慧音は人里近くで妖怪が暴れたら即座に飛んできて、粛清を与える。
今回もレミリアが発したオーラを察知して、何事かとその名の通りすっ飛んできたのだろう。
どうしたものかと思っているうちに慧音が目の前に降り立った。
「先ほど感じた強大な妖気はお前の仕業か、吸血鬼!一体里へ何を……」
と、このままレミリアを尋問しようとしたその矢先、倒れている子供たちと咲夜の手に持つ縄が目に入り……
「お前ら……本当に一体何をしようとしていたんだ?」
顔を真赤にさせながらぷるぷると震える慧音。
完全に誤解を与えている。
「そ、それは……」
「どうしようも何も、その子供たちが命知らずにも夜の王たる私に勝負を挑んできた。
だから、その子供たちの勇気に敬意を示して勝負を受けて返り撃ちにした。
もちろん手加減はしたからかすり傷程度の怪我しか負わしてないわよ」
戸惑う咲夜に対しレミリアは素っ気なく、あたかも自分がやったかのように答える。
まぁレミリアも見栄を張りたいお年頃なのだろう。
だが、傍から見れば全くもって言い訳にしかならないうえに、その言葉だけでは咲夜が持つ縄の説明がつかない。
レミリアはともかくとして、咲夜はほぼ確実に手が後ろに回るついでとして持ってた縄で縛られてしまうだろう。
しかし…
「そうか、そういう事情があるのなら仕方ない。子供たちの遊びによく付き合ってくれたな」
慧音はあっさりその言葉を信じた。
以前はこっちの言い分なんか全く聞く耳持たなかったというのに一体どういう心境の変化なのか…
咲夜は不思議に思ったがレミリアはそうは思ってないのだろう。
「そうよ、だから私をもっとほめたたえなさい」
どどんっと胸を張って威張っている。
やっぱりレミリアはなんだかんだいってお子様なのだ。
「あぁ、ほめたたえよう。だが…」
はたっと空気が変わった。
空気というか、慧音の気配が変わったのだ。
その異変を察知した咲夜は即座に動くというか、逃げる準備を行う。
「だが………事情がどうあれ、幼j……子供達に手を出す奴は許さない!!
その罪、死を持って償うがいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
やっぱり慧音は変わってなかった。
というか、以前よりもひどくなっている。
ついでに途中で言いかけた言葉もすごい気になるがこれだけは言える。
今の慧音は平行世界にいる幼女愛好家な変態慧音の影響が若干入っているだろう。
満月どころか夜でもないのにハクタクへと変身してふところからスペルカードなんか取りだしてきた。
どうやら警告なんか一切なしで葬りさる気満々だ。
今まさにスペルカードが発動するその瞬間………
咲夜は素早く、時間を止めてレミリアを小脇にかかえながらついでに鈴仙の首根っこをひっつかんで逃げ去った。
「っという経歴があって途中で放り捨てるのも危険だからここまで連れてきたのよ」
「なるほど、そういうわけなの。うどんげが迷惑をかけてごめんなさいね」
改めて応接間へと通されたレミリアの説明を聞いていた永琳がぺこりと頭を下げている。
さすがに永琳も非があれば素直に謝るらしい。
だが、その様に不満を持つ者が一人
「何よ、なんでこんな吸血鬼に頭下げないといけないわけよ」
一応永遠亭の主となっている輝夜だ。
彼女は、いきなり巻き起こった爆音に驚いて慌てて駆けつけ、永遠亭の主というかラスボスらしく二人の間にわけ入って力ずくで喧嘩を止めたのだ。
もっとも、喧嘩を止めた時は二人ともガッツが尽きて続行不可能になってた時だったから止めるまでもなくやめていただろう。
さらにいえば、仮にもラスボスを名乗るなら二人が殺気を放出したときに駆けつけてくるべきなのだろうが、輝夜は全く気がつかないどころか最後の爆発というか3回目のライジングゲームで巻き添えを食らったことでようやく異変に気づいて駆けつけてきたぐらいだ。
そうなるまで全く気付かないところは、所詮はニートということか
「姫、いくら相手が気に入らないといっても最初に非があるのは我々なんですから時には謝ることも必要なんです」
「う〜でも…でも……なんでそんな奴にハーゲン○ッツのアイスをあげなきゃならないのよ!!」
どうやら、輝夜が一番不満を持ってる理由は、楽しみにしていたハーゲ○ダッツのアイスを取られたことだ。
「さすがにそこらの安物とは違うわね」
不満だらけで永琳に向ってぶつくさと文句言い続ける輝夜とは対照的に、上機嫌というかあぐらを組んでどっかりと座りこみながら見せつけるかのようにアイスを口に運んでは満足げな笑みを浮かべるレミリア。
その姿は本当に嫌味以外なんでもない。
しかしレミリアにしては確かに鈴仙のせいで人里へ出向くことはできなかったが、こうやってアイスを食べることができたので十分満足だ。
それに人里近くで暴れたといっても、大した怪我人もいないどころかこういうことは日常的に起こる出来事。
ここだけの話、レミリアや咲夜、鈴仙に限らず幻想郷30大迷惑は例え人里の中でも平気で騒動を起こす。
ただ、騒ぎを起こしても被害にあうのは大半が建造物で人そのものに被害はほとんどでない。
出たとしても精々、かすり傷か重くて骨を折る程度で命にかかわるような怪我はまだ負わせていない。
なので、幻想郷30大迷惑が人里で騒動を起こすことは適度に妖怪に対しての恐怖心を煽ってくれ、さらに文々。新聞号外で曝された醜態も相まって妖怪退治に精を出す人が多くでる。
人間を襲うことが目的でもなければ死者もでていないし結果的には幻想郷のためになると、今のところ山のお偉いさん方はりべらるな判断を下しているのが現状だ。
もっとも、山のお偉いさん方も身内の卵を盗んだ犯人を早とちりで間違えて捕まえてしまったという醜態もあったぐらいなので幻想郷30大迷惑のことを言えないだけかもしれないが………
まぁそんな裏事情があるので人里近くで暴れたレミリア達も人里への出入りが禁止になることもない。
一週間ぐらいすればほとぼりが冷めて普通に人里へ出向くことができるだろう。
「しかし、ここの姫は“あのサッカー大会”で大活躍したとか聞いていたけど、
キーパーの時みたく実はこっそりとそこの従者に手伝わせてただけじゃない?」
「なっ、何を言ってるのよ!
あの時は私の力だけで戦ったのよ!!」
あのサッカー大会というのは一か月前に行われた「東方サッカーオールスター 偶然カップファイナル〜」のことだ。
様々な平行世界である幻想郷から選抜されたチームが集って真の“スーパーシューティングプレイヤー”を決めるエキストラ戦を超えた特別試合。
輝夜はその大会でこの幻想郷から選抜されたチーム「黒赤マジック」の一員として参戦し、初出場でベスト8という功績の一端を担っていた。
「どこまで本当なのやら」
くすりと笑うレミリアに輝夜はプツンと頭のねじが切れかけたが、その前に永琳が手を差し出して自制させた。
「残念ながら、本当のことよ。証拠ならあのドキュメンタリー番組がそう。
あの○リシ○ン(仮)が監修した公式の試合履歴を元にして作られた番組だから不正のしようがないわ。
あなたほどの強者ならト○シ○ン(仮)の存在ぐらいは知ってるわよね」
「もちろんよ。それにあの番組はフランや咲夜、パチェ、ついでに中国と一緒に見てるから信用はするわよ。
私だって輝夜の真の力は見抜いてるつもりだし」
というレミリアはあの永夜抄事件で初めて永遠亭を訪れたあの夜を思い出した。
今でこそあんなニートともてるよとも呼ばれるようなふぬけになってしまったが最初にあった輝夜はまず間違いなく幻想郷の強者として扱われるに充分な存在だったのだ。
本当になぜ今ではああなってしまったのか………
その原因は恐らく咲夜と同じく霊夢達と会った。もしくは平行世界ともいうべき余所の幻想郷の影響を受けたのどちらかだろう。
ついでに永琳もレミリアと同じことを考えているらしく、輝夜をさげずむレミリアとは対照的で憐みの目線を送っている。
「な、なによ……人のことより自分のことはどうなのよ!!
あんただって大会じゃへたれみりゃなんて呼ばれているじゃない!!!」
いくら鈍い輝夜でも馬鹿にされていることには気づいたらしい。
反撃の狼煙というかレミリア目がけて左手の手袋を投げつけると同意語な言葉をぶつけた。
「あれは余所のレミリアの話であって、私のことではないわ」
確かにその通りだ。いくら大会ではへたれみりゃ呼ばわりされてはいても所詮余所のレミリアだ。
馬鹿にされているような気がしないでもないが自分はあのへたれとは違うし、何より決定的なのは大会での重力付加の恐ろしさを全く知らないことだ。
あの付加はどういうわけは個体差が激しくでてしまい、それほど影響がでないのもいれば不公平ともいうべきぐらいの強力な重力付加がかかってしまう者もいる。
レミリアはその不公平というか、似たような性能を持つ妹以上の強力な重力付加がかけられてしまう。
それが原因で大会で活躍できないどころか妹に出番を奪われて影が薄くなってしまいがちになる。
そんなわけで大会の裏事情を知らないレミリアは全く平然と余裕な笑みを浮かべているが永琳はにやりと笑う。
「そうかしら?いくら余所でも貴女と同じ存在よ。今はそうでなくても、いずれ影響がでてくるわ…
特に『偶然カップファイナル〜』で、あのなけなしのカリスマを全て失ったへたれみりゃの」
永琳の援護射撃による攻撃に、レミリアは一瞬びくりと身体が反応して震えたが、すぐに収まって首をかしげてる。
「何のことよ。そんな奴は知らないし聞いたこともないわ」
動揺する気配すらなく頭に?マークをたくさん浮かべてるレミリアだが、一瞬びくりと反応した姿を永琳は見逃さなかった。
何のことかわかってなかったら一瞬でも反応するわけがない。
となれば…
「あらあら、どうやらあの雌犬がやってくれたようね……」
面白そうなことには嗅覚が鋭いのはニートのなせる技か。永琳は当然だが輝夜もからくりを見破ったようだ。
というのも、レミリアはあのドキュメンタリー番組を見ていたのにへたれみりゃのことを知らないのはつじつまがあわない。
結論として、咲夜かパチュリー辺りがドキュメンタリー番組を予め編集してそのへたれみゃ部分をカットした。
もしくは、見てしまったが催眠術か何かでそのへたれみゃの記憶を消去させたかのどちらだろう。
まぁあの姿をレミリアが見てしまえばどうなるかが予想がつくし、当然の処置だ。
しかし、咲夜もパチュリーも見込みが甘い。
例え、レミリア自身が知らなくても他の平行世界でのレミリアは知っている上にあの陰の感情は強力だ。
これだけ平行世界との境界が薄くなっていればこちらのレミリアも影響を受けないはずがない。
その証拠がさっき一瞬みせた反応だ。
「…………傑作だったわね。
確かチームメイトに土下座をする羽目になったとか…」
永琳の言葉にレミリアはぴくりと動揺した。
「な、なんのこと…よ」
「さぁ、何のことかしら…でもそういうことは自分がよくわかってるのではないかしら?」
言葉では平静を保ってはいるが、声も身体もがくがくと震えている。
どうやら永琳と輝夜の推測はビンゴだったようだ。
にんまりと笑う永琳は目で輝夜に合図を送り、輝夜もこくりとうなづく。
トドメの一言。
「…………偶然カップファイナル〜で貴女はいくつゴールを決めたか、覚えてるかしら?」
そんなもの参加していない以上、レミリアには答えられるわけがない。
だが、二人の予想通りにその言葉はトドメとなった。
レミリアと他の平行世界のレミリア達とのリンクをつなぐきっかけになってしまった。
レミリアの頭の中にあるチームでのキャプテンであった自分の記憶が流れ込んできた。
チームメイトが頑張る中でたった一人何もできなかったれみりゃ……
一点もとることができなかったれみりゃ……
皆が盛り上がる後夜祭での会場隅っこで体操座りをしながら陰気な霧を放出させていたれみりゃぁ……
ジャックごときを砕けぬどころか、同情されてしまったあげくにそのまま夢の世界へ逃避行をした情けないにも程があるあのへたれみりゃ……
そんなへたれみりゃの絶望とも言うべき感情が壊れたダムのごとき勢いで流れ込んでくる…………
「ち、違う……私はあんなのじゃない………あんなのには絶対ならない………私は…私は……誇り高き夜の王、
スカーレットデビルなのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
次々とあふれでる陰の感情に耐えきれず、ぶるぶると頭をかかえながら絶叫するレミリア。
二人の揺さぶりによって知ってはいけない記憶を呼び出してしまったようだ。
「あらあら、こうなってはスカーレットデビルもかたなしね」
ここぞとばかりにアイスを取られた腹いせとして上から見下すようにしてほほえくそこむ輝夜。
だが、今のレミリアにはその視線にあがらう術もない。
「ぅぅぅ…咲夜、さくやぁぁぁ〜〜〜〜〜
助けてさくやぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!!」
できることは、小さくうずくまってがたがたと震えながら涙目で自分の従者を呼ぶだけだ。
そんな絶対絶命なれみりゃだが、れみりゃの助けを呼ぶ声をあの従者が聞き逃すわけがない。
ちなみに、従者は先ほどの騒動で破損させた建物その他の修繕に駆り出されていたのでその場にいなかったのだが…
「お呼びでしょうか、お譲様」
本当にいつの間に現われたのか、涙目なレミリアの目の前にしゃがみ込んで笑顔を向けている咲夜がいた。
ついでに後ろではばしゅっと首筋から血を噴出させている永琳と輝夜もいる。
どうやら、時間を止めて駆けつけてくるついでにナイフで首の頸動脈をかっ捌いたのだろう。
二人は文字通り、何が起きたのかわからないまま地面に倒れ伏した。
「うぅぅ…さくやぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」
だが、そんなことには気にも留めないれみりゃは涙でぐしょぐしょに濡らした顔のままで咲夜の胸に飛び込んであぅあぅと泣き出した。
その瞬間……
ばしゅっ
咲夜も二人と同じく血を噴出させた。
もっとも、血の噴出箇所は首筋ではなく鼻からだったが出血量は二人と負けずと劣らない。
至福の表情を浮かべたまま後ろに倒れ込んだ。
「さ、さくや、さくや!!
しっかりして!!!さくや!!!!」
泣き顔でがくがくと揺さぶるれみりゃに向かって咲夜は一言。
「お、お譲様…咲夜は……咲夜は……お譲様のメイドであったことを誇りにおもいま……
ウボァー」
最期の変な断末魔とともに、すべての血を噴出させた咲夜はそのままがくりと事切れた。
その表情はとてもやすらかでまさに、我が生涯に一遍の悔いなしといったところか。
「そんな………さ、さくや…さくや…死んじゃだめ!!
さくやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
咲夜の亡骸に顔を伏せて、悲痛の叫びを永遠亭中に響かせるれみりゃぁ。
そぐそばではぴくりとも動かない永琳と輝夜の屍。
そんなカオスな部屋を一体何事かとやはり修繕に駆り出されていたであろう捻じり鉢巻きを締めて直足袋を履き、大工道具一式を抱えたてゐをはじめとするウサギ達が集まってきたが……
「面白そうだから休憩をかねてしばらく見学するウサ」
てゐのその一言で全員がうなずき、お茶菓子を持ち出してきてそのままこっそりと傍観することに決め込んだ。
そして、時間だけが無駄に過ぎた………
…………………少女復活中
「うぅ……お譲様。申し訳ございません。貧血気味でちょっと頭がくらくらといたします」
鼻にティッシュを詰めた咲夜が頭を抱えたまま気だるそうに座布団の上へと座り、まだ胸に泣きついてきているれみりゃをなだめながら手持ちの増血剤を差し出された水とともに飲んでいる。
どうやら無事に蘇生できたというか…ギャグキャラがあんなところで死ぬなんてありえないことだ。ある意味当然であろう。
「全く、紅魔館の犬は本当に油断も隙もないわね」
「本当よ。いきなり首をかっきられるなんて、一回死んじゃったじゃないの」
ちゃぶ台をはさんで丁度向えの位置の座椅子の上で永琳と輝夜も蘇生して斬られた首をさすりながらぶつくさ言ってる。
その首には傷一つない。怪我なんて最初からなかったかのようだ。
それもそのはず。二人は蓬莱の薬を飲んだ不老不死の人間で蓬莱人。
言うなれば死ねない人類であって、その再生力は細胞一つからでも蘇生してしまうほどだ。
なので頸動脈をかっきられる程度の傷なんてあっさり治してしまう。
もっとも、そんな異常な再生力を持っているからこそ咲夜も遠慮なしに頸動脈を掻っ捌いたのだろうが………
それでもやはり、レミリアと同じく斬られたら痛いことは変わりない。
本来なら激怒して弾幕戦を起こしてもいいような状況なのだが
「それよりも、このお譲様の変貌は一体どういうことか説明をお願いしますよ。お二人方」
泣きじゃくるれみりゃに咲夜は怒ってるのかこの至福な時間を堪能しているのか…よくわからない表情で問いかけてくる姿に、毒気がすっかり抜けてしまったらしい。
「なんてことはないわ。ただ、『偶然カップファイナル〜』の話題で世間話してたらいきなりそうなっただけよ」
永琳のなんてことない言葉に咲夜はピクリと片眉を動かし、きびしい表情へと変わる。
「つまり、お譲様にあのことを教えたということね」
「えぇ、仮にも紅魔館の主なら事実をしっかりと知る責任があるものよ。
もちろん、メイド長たるあなたもね。
何せ、『偶然カップファイナル〜』では永遠亭組も冥界組も八雲組も主が直々に参戦して紅魔館組だけが主どころか下っぱすら誰一人と参戦していなかったのだし」
ずきっと痛いところを容赦なくついてくる月の頭脳こと永琳。
だが、そんな程度では瀟洒なパーフェクトメイドこと咲夜はひるまない。即座に反撃へとでる。
「あんな大会なんてお遊びでしょう。お遊びに夢中だなんて底が知れてるわ」
「お遊び?あれがお遊びなんてとんでもないわ…見たでしょ。
あのドキュメンタリー番組からにじみ出てくる試合の激しさ。
そして、完全に負け犬となった敗者の末路が」
「ひぃぃぃぃーーーん!!!
わたちはまけいぬじゃないもーーーーん!!!」
負け犬という言葉に反応したれみりゃがまた激しく泣きじゃくりはじめた。
どうやら、またへたれみりゃの感情が流れ込んできたのだろう。
もうカリスマも威厳も完全に失うどころか幼児退行まで起こしている。
そんなれみりゃに咲夜の理性が再び破壊されかけたが、今は敵陣の中だ。
根性を発動させてギリギリHP1を残して耐え抜いた。
「お嬢様。お聞きください!!
お嬢様は決してへたれではありません!!!」
「でも…でも…わたしはぐうぜんかっぷふぁいなる〜ではいってんもとれないへたれみりゃだもん。
ただのやくたたずなへたれみりゃだもん」
ぐすぐすと泣きながら卑屈になり下がっているれみりゃ…
誰から見てももう手遅れだと思うが、咲夜は瀟洒とも呼ばれるパーフェクトメイドだ。
こんなこともあろうかと用意していた秘密兵器を繰り出した。
「ご安心ください。確かにお譲様は『偶然カップファイナル〜』ではへたれみりゃの烙印が押されました。
ですが…そのへたれみりゃは10日後に行われていたもう一つの大会『東方蹴球宴〜萃夢想の部〜』で見事優勝を飾って汚名を返上いたしてます!!」
その力強い言葉に3人はぴたりと止まった。
「さくやぁ…本当に?」
「えぇ、本当です。これが証拠です!!」
そうして取り出したのはへたれみりゃが率いていたチーム「カリスマ姉夢想」が優勝を飾った記事がのった新聞。
「東方蹴球宴〜萃夢想の部〜 ついに決着!
おめでとうレミリア!!カリスマついに復活だ!!!」
という大きな見出しとともに、優勝を決めて泣きながらもうれしそうにチームメイトから胴上げを受けている幸せ一杯なレミリアの写真が写っている。
さらに新聞と一緒に挟んでいたのは大会後に誰かが興味半分で取ったらしいアンケートである。
内容は………
――――――――――――――――――
265 :名前が無い程度の能力:2007/09/09(日) 15:21:41 ID:0ZkgmhQU0
,r---、
ノヽ_興ンi
>=~=~=<
(_i,'ノリノレノ!〉) ならば白黒つけましょう。
<,〈iリ ゚ ヮ゚ノリ、> 今回のレミリア・スカーレットに対する感想を素直に述べなさい。
j"7:':;:'"_]つXE無旺〉
,ィ(ン:=:ixi:=:ゝ
`~ト.7~ト7´
@ えー、レミリアー?キモーイ!バーボンにでも行ってろ!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
A 入賞したお嬢様は訓練されたレミリアだ。本当のお嬢様はヘタレだぜ。・・・・・・・・・・38
B 勘違いするなよ。今回はレミリア攻め起用が多いだけ。3位ゲトーは当然なのだ!・・・H
C 頑張ったのは認めますけど、これも妹様の助力があってこそですね…・・・・・・・・・・・・87
D 得点以外では活躍してるぜ。スカデビのウザさは異常。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
E 正直、ここまで活躍するとは思わなかった。カリスマ復刻のときだな。・・・・・・・・・・・・・54
F カリスマは滅びぬ、何度でも蘇るさ!次からもお嬢様を使うぜ。・・・・・・・・・・・・・・・・・8
G やべぇレミリア最高!お嬢様(;´Д`)ハァハァの悟りを開いたぜ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・0
H レミリアと結婚した!俺はレミリアと結婚したぞ!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
――――――――――――――――――
こんなもの誰が主催で行ったのか…
というか、こんなものが裏でこっそりと取られていたなんて当の本人は知っていたのだろうか………
アンケートを集めようとした張本人もそうだが答えた観客やオーナー達も命知らずが多いらしい
だが集計された票は、結果的にへたれみりゃの努力を認めたり褒めたりと持ち上げる票が多く集まってはいたので逆鱗に触れるような内容ではない。
ついでに@を選んだHはその世界の咲夜からナイフに滅多刺しにされる羽目となってるので、これならレミリアが知っても全く問題はないだろう。
ただし、Hに投票した者は別である。
『偶然カップファイナル〜』の王者となったリリーWとの結婚はおめでたいことであったがレミリア相手に結婚は無謀というか命知らずというかなんというか…
メイド長から極刑を願望するに等しいH行為だ。
ここに投票した人物は、きっと今頃斬り裂きジャックもどきからの逃亡劇の最中か、すでに処刑が執行された後か………
それに、運よく逃れられてもあの妹様が黙ってるかわからなければ、レミリアの主食は血液なので夜のベットでの相手は命をかけなければならない。
どうあがいてもあらゆる意味でロクな未来が待ってないこと確定であろう。
「咲夜……貴女、本当に抜け目ないわね」
ちなみにへたれみりゃの原因となってたレミリアのチームが優勝を飾ったことは永琳も知ってはいたが、所詮人づてで聞いたような風の噂程度の知識だ。
だが咲夜は知ってるどころかわざわざ新聞記事まで用意してたのだ。
恐らくこういうことが起きた時のためにワクチンとして異世界というか平行世界から取り寄せてきたのだろう。
恐るべし、その行動力……
「ぐす…そ、そうよね……私はへたれみりゃじゃない……
…私はへたれみりゃじゃないんだよね?」
「えぇ、お譲様は決してへたれみりゃではありませんからもっとご自信をお持ちください」
新聞記事を見て、ようやく落ち着きを取り戻して行くへたれみりぁ。
まだショックを引きずっているようで嗚咽は残ってはいるが峠は越えた。
直に元へ戻るだろうが、そんなことは永琳と輝夜は許さない。
「…本当にへたれみりゃじゃないのかしら?」
「そうですね、姫。実際に見てみるまではなんとも……」
「……何が…いいたいの?」
これでもかというぐらいの悪人面で睨まれたおかげで、また脅えだしたが一応対峙できるぐらいは回復したようだ。
びくびくしながらもれみりゃが聞き返す。
「簡単なことよ。レミリア、この大会に参加して自分がへたれではないことを証明するのよ!!」
輝夜がばんっとちゃぶ台の上へ叩きつけるように置かれた一枚のチラシ。
それは
「東方サッカー オールスター
『東方蹴球宴〜花映塚の部〜』開催のお知らせ」
である。
「これにお譲様が参加しろと…?」
咲夜の額にぴきっと青筋が浮かび上がる
「えぇ、これに貴女が参加するのよ。よもや逃げるわけではないでしょうね?」
「そ…そんなの…逃げるわk」
「お嬢様。そんな挑発に乗ってはいけません!!」
この大会は思いっきり孔明の罠だ。
輝夜の挑発に乗って勢いで参加を決めるれみりゃを即座に止める咲夜。
「で、でも…これに受けないと私のカリスマが……」
「だめったらだめです!
というより、こんなお譲様へのハンデが増大してしまう大会へ出場を促そうとするなんて…
二人とも、また彼岸までの日帰り旅行が希望なのかしら!!」
確かに、この大会はおとどしの春に起きた花の異変に関わった者が中心となった構成で行われるサッカー大会。
異変に関わった者はメイン枠、その相方にはサブ(コンビ)枠があてられて規制も緩いが、異変に関わった者以外に割り振られるフリー枠は規制が厳しい。
つまり、レミリアは異変に関わってなければサブ(コンビ)枠にもあてはめられないのでフリー枠でしかでれない。
ただでさえ、大会ではレミリアの能力を著しく制限されてしまうのにフリー枠でさらに制限されたらほとんど役立たず確定。
咲夜が怒り狂うのも当然だ。
手には瀟洒なナイフなんかを握り締めて眼なんかも紅く染まってる。
「ふっ、ちょっとした冗談に決まってるわよ…
こんな大会に出てもどうせフリー枠だから実力だせなかったって言い訳の材料にするだけでしょ」
輝夜は軽く鼻で笑うが、冗談にしてもその言い方ではレミリアを侮辱する形だ。
ついでに永琳も永琳で「姫と戦うならまず私を倒してからにしなさい」っと言わんばかりに弓矢を構えている。
「お互い、ガッツも回復したし…再戦希望かしら?」
「えぇ、再戦ね…貴女の的が小さいから当てるの大変そうだけどいいハンデだわ」
「そうね…だったら私は貴女のご自慢の大きな的が丁度いい大きさになるよう少し削ってあげるわ。そうすれば腰の負担も軽くなるでしょう」
「貴女ぐらいになれば肩の荷も下りて丁度よいかもしれないわね。
もっとも貴女には一生わからない重さでしょうが」
お互い、何を示しているかはっきりと口に出してないが視線が全てを物語っている。
結局、この二人はどうあがいてもこうなってしまうのか……
殺気を再びダダ漏れのごとく放出させて一寸即発の空気が辺りを支配したが………
「「やめて!!」」
輝夜とれみりゃが同時に叫ぶ。
今度は外野が静止に入った。
「二人とも…そんなに決着付けたければ二人揃ってこの大会に参加して白黒つけなさい!!
またここで暴れて永遠亭をこれ以上壊されてたまるもんですか!!!」
いや、普段から弾幕戦というかどんぱちが絶えない幻想郷。
その戦闘が行われると予想される個所はあらかじめ被害が及ばないようエーテルコーティングに似た系統の特殊な処理で建造物その他を破壊されないようされている。
もちろん、永遠亭も先ほど暴れた永琳の診療所をはじめとする重要な箇所はしっかりその処理がほどこされているが…それでも強度には限界があるためにところどころでは破壊されてしまうのも確か。
ついでに今ここで争えば自分も巻き添えを食らう。
なんだかんだ理由つけても結局は自分が巻き添え食らいたくないのが本音だろう。
「うん。てるよの言うとおりこれ以上ここで争っちゃだめ!!
咲夜もこの大会に参加して!!
そして私に変わって紅魔館の名を知らしめて!!!!」
れみりゃも脅えきって半泣き状態であるが必至に説得。
しかし、てるよという言葉が余計だったらしく輝夜の額にピキッっと筋が入ったが……
今のれみりゃの姿がツボったのだろう。
キュンっと胸に小さな矢が命中して怒りが浄化された。
「わかりました!
お嬢様の言うとおり、この咲夜!!!
『東方蹴球宴〜花映塚の部〜』へ参戦してお嬢様の素晴らしさを世間に知らしめてまいります!!」
殺気を瞬時に消した咲夜はびしっと敬礼。
しかも珍しいことに今回は鼻血を出しておらず顔が真面目というか真剣そのものだ。
ただし、台詞からみれば勘違いしてるような気がしないでもないが……
「……まぁいいわ。
お互い、走破を制した『黒赤マジック』のチームメイト同士でありながら、『偶然カップファイナル〜』でレギュラー落ちした仲だし、この大会で決着をつけるのも悪くないわね。
ただ…一つ条件としてうどんげも連れて行っていいかしら?」
「うどんげを?」
「えぇ、あの子が居れば私とのコンビプレイが組めるわ。咲夜、貴女も私とは同条件で戦いたいでしょ」
「なるほど、サブ枠で装備品がつけられなから装備品の代わりにアレを連れていくと」
「なんとでもいいなさい。
私はあの子のサブ(コンビ)枠を使って参戦するわ」
くすくすと立場が逆転したかのように笑う咲夜だが永琳の表情も真剣そのものだ。
それに自分だけが装飾の装備可能というのも不公平なのは確か
「いいわ。でも…後悔しても知らないわよ」
「じゃ、決定ね。後はチームキャプテンの魔理沙をけしかけるというかうまく丸めこんで参戦してくるのよ」
輝夜はそう言うが、魔理沙は『偶然カップファイナル〜』で再び大会へ参戦を誓っているのでけしかけるまでもなく参加するだろう。
それだけに輝夜もそうだが咲夜も永琳も大事なことを見落としていたことに気付いてなかった。
上手く魔理沙に取り入ってレギュラー枠を会得するだけ…
今はただそれだけを考えていたが、後でとんでもない問題があったことに気づくのは博麗神社に辿りついてからだった。
……少女移動中
「大会には参加できないわよ」
縁側でお茶をすすりながら休憩中の霊夢がさらっとそういった。
「なんでなわけなのさ!!」
「だから何度も言ってるでしょ!
魔理沙がいないから参戦できないのよ!!」
なおも食い下がってくる氷の妖精、チルノに苛立ちながら声を荒げる霊夢。
チルノはその背中に氷に似た薄い羽根が生えているのが特徴だが、今は片方がけし飛んでいる。
これは仕事の邪魔をしたことによって食らったお仕置きの跡だ。
霊夢は仕事の邪魔をすれば怒り出す。
怒れば誰であろうと容赦なく退治されてしまうから幻想郷に住む者は『霊夢が働いている最中は決して邪魔をしてはいけない』という暗黙の了解があるのだ。
だが、チルノのH思考はそんなこと一切知らない。
仕事中であろうと遠慮なしに声をかけて邪魔した結果、
霊夢から夢想封印をプレゼントされて消し飛ばされた。
ただ、消し飛ばされても妖精はあっさりその場で復活するので関係ないのだが……
「それで、魔理沙はどこにいったわけなのかしら?」
チルノが話してては埒が明かないと思ったのか、今度はチルノの付添としてやってきたであろうレティが質問した。
「知らないわよ。いつもは毎日のように神社へ来る癖にここ最近さっぱり来なくなってるし」
あまりにしつこいチルノを再度夢想封印で消し飛ばしつつ、霊夢はレティの質問に答える。
なお、レティは宇宙服のような暑苦しい格好をしているがそのことに関しては全く突っ込みを入れてない。
さらにいえば霊夢も霊夢でいつも通り腋丸出し巫女服だがその巫女服は泥だらけ。
他にもオプションとして軍手麦藁帽子に首から手ぬぐい、縁側近くにおかれているのは大きな籠とクワにカマと以下にもさっきまで農作業を行ってましたという格好だ。
今の霊夢は言うなれば農夢とでも言うべきか……
それぐらいの板についた姿だ。
「あっ、いたいた。霊夢、今度の大会のことだけど」
とそこへ現れたのは咲夜と永琳と鈴仙の三人。
その様を見て霊夢はまたかと思いつつ「今日は家庭農園の収穫は中止かな」とため息をついた。
ちなみに輝夜は留守番。
レミリア泣き疲れて眠ってしまったから紅魔館へ置いてきたらしい。
さらにうどんげはまだ壊れたままで危険だったから袋詰めにして耳だけを袋の口から飛び出した状態で連れてきていた。
「言うまでもないけどここに魔理沙はいないわよ」
「やっぱり…いないわけね。
先週紅魔館でパチュリー様が魔理沙とアリスと一緒に出かけてそれっきりだからまさかとは思ったけど」
「………こんなことになってたなんて予想外だったわね」
さすがに咲夜と永琳はHなチルノとは違って魔理沙の重要性というか存在の意味を十分把握しているようだ。
「だから、なんであの白黒がいないといけないのさ!!
チームメンバーなんて簡単に集められるでしょ!!!」
あっさりというか何事もなかったかのように復活した、未だに意味がわからないチルノがまた食い下がってきた。
そんな存在に咲夜と永琳は軽く無視してどうしようかと相談し、霊夢はもう我関せずと茶をすすっている。
言うまでもなく馬鹿にしている態度だ。
「だから、何度でも言ったでしょ。
魔理沙がキャプテンとしてチーム編成しなければ大会参加が認められないのよ〜」
「だったら、あたいがキャプテンになってやるわ!
さいきょーのあたいがやれば全て解決よ」
「……走破を制したチーム、もしくはそれに等しい実力を持つチームキャプテンでなければ大会参加資格ないのよ〜」
レティは恐らくチルノには何度も説明したのだろう。
ほとんどお疲れというか投げやり気味に解説してる。
そう、大会参加条件として「走破を制したチーム、もしくは走破を制するだけの実力があると認められたチーム」があげられる。
なので、例え本人が出場しなくても編成や大会参加登録にはキャプテンの存在が必要不可欠となる。
だから、『黒赤マジック』が大会に出るにはどうしてもキャプテンである魔理沙がいなければならないが…
魔理沙が不在であれば編成は行えないし、参加もできない。
さらにいえば、この幻想郷でその条件を満たしているチームは魔理沙がキャプテンを務める『黒赤マジック』のみだ。
「あの魔理沙がメンバーを収集してこなかった時点で気づくべきだったわね」
「まったくね。ドキュメンタリー番組であれだけかっこつけてた癖に『東方蹴球宴〜萃夢想の部〜』は全くスルーしてたのはおかしすぎよ」
「………」
永琳と咲夜の疑問もそうだが霊夢は知っていた。
『東方蹴球宴〜萃夢想の部〜』に参加できなかったのは、魔理沙がドキュメンタリーの最後に放ったマスタースパークで結界に穴をあけた罰として雑用その他でこき使っていたのが原因ということを…
もっとも、それはある意味魔理沙の自業自得なので霊夢は悪くない。
さらに花映塚の部の件については霊夢が関与してるわけでないので、何も言わずだんまりを決め込んだ。
「まぁそういうわけで諦めたら?」
「「まだよ、まだ何か方法があるはずよ!!」」
ここで諦めたら終わりだ。
まだ何か方法がある…参加条件の穴をつけばなんとかなると天才と瀟洒のお互いの無駄な意地をかけて必死に知恵を絞るが…
二人の悩みというか答えは以外なところからあっさり出てきた。
邪道ではなく正攻法とも言うべき方法が……
「博麗霊夢と霧雨魔理沙!!
二人はいるか!!!」
例え魔理沙が来なくても、博麗神社には次から次へと幻想郷30大迷惑がやってくる。
やってくるのはいいけど幻想郷30大迷惑は賽銭をこれっぽっちも入れなければ、こいつらが居座る所為で収入源となる里の人間が近寄ってこない。
いつか軒並み退治してやろうかと思う霊夢だが、今は『偶然カップファイナル〜』で得た賞金と家庭農園での豊富な収穫物があるのでさほど生活に困ってない。
切羽詰まれば本当に退治してしまうかもしれないが、なんだかんだいって利用価値があると思ってる今は心配ないだろう。
ついでになぜ収穫の多い家庭農園があるのかというと、最近山で知り合った紅葉と豊穣をつかさどる神の秋姉妹に頼み込んで(脅して)みたら気前よく(泣きながら)神社裏に作物が豊作に取れる家庭農園を作ってくれたからだ。
「今度は庭師と春告精に……………」
ふうとため息つきながらやってきた庭師というか妖夢とリリーBを見て……次の瞬間、全員の時間が止まった。
それぐらいショッキングというかあり得ないというか、そういう出来事があったのだ。
「皆さん、お久しぶりですね。善行は積んでいますか?」
リリーBはわかるが、なぜ閻魔が妖夢なんかと一緒に!!
閻魔は普段彼岸で死者達の裁きを行っているので幻想郷にはほとんど来ない。
来るとしても大抵は休暇中の趣味的な説法や宴会、祭りといった賑やかな席への参加が主な理由だ。
今回は宴会や祭りの予定もないし来るとすれば……
「魔理沙はともかくとして霊夢……貴女、一体何を」
「最近お金に五月蠅くないからみょんに思っていたけど…」
「まさか、犯罪に手を染めるなんてねぇ……」
「犯罪なんてやってはいけないことだぞー」
皆の冷たい視線が一気に霊夢へと注がれた。
「な、何よみんなして!!
私はまだ犯罪行為は行ってないわよ!!!」
『まだ』ってなんだ?!
全員が一斉に心の中で突っ込みを入れた。
さらにいえば霊夢は無自覚だが、秋姉妹を脅して農園を作らせたことについては犯罪スレスレ行為というか、正式な理由なしで山へと立ち行ったことは完全違法行為。
もちろん閻魔こと映姫もこの事実は知っているので、今から3時間ほどの説教を入れようかと思ったが……。
「ま、まぁ…いいでしょう。
今回は細かい説法のために来たわけではありませんから」
面倒だから知らなかったことにしたらしい。
映姫がごほんと咳払いをしつつ、改めて切り出す。
「今回私が来たことについてはこの『東方サッカーオールスター東方蹴球宴〜花映塚部〜』についてです」
と懐から取り出したのは永遠亭で輝夜が見せたチラシだ。
どうやら今回のはブン屋が関係者に配り歩いたのか、割りかし広くに散布されているらしい。
「そうだ、私はこの大会に出場しようと思う。だから魔理沙を探しに来た!!
居場所を知っているなら素直に吐け!!!」
そういいながらしゃきんっと背負ってる剣を抜いて、抜き身の刃を霊夢に向けたが
「魔理沙はここにいないしどこへ行ったかなんて知らないわ。だから大会には出場不可能よ」
さすが“空を飛ぶ程度の能力”を持つ楽園の巫女。
脅しになんかは全く意に関することなく、マイペースにお茶をすすりながらしれっと答える。
そんな様に永琳が一言。
「霊夢はいつも通りだけど、妖夢ってこんな感じだったかしら?」
「最近は礼儀正しくなってたけど、初めて会った頃は確かにこんな感じだったわね」
妖夢の口調や態度が荒っぽくなっていることに疑問を感じた永琳は、ぼそぼそと咲夜に問いかけ、咲夜も普通に小声で答える。
なんだかんだいっても二人は決定的に仲が悪いというわけではないらしい。
むしろ、お互いの身内や年や胸について絡まなければいいコンビなのかもしれない。
「そうか…だったら仕方ない」
そうつぶやくと妖夢は抜いていた剣を鞘に戻し。
「なら、今回は私が代理キャプテンとして『黒赤マジック』のチームを編成するぞ!!」
「ぶふっ!!?」
その言葉に、霊夢はお茶を吹いた。
発想がまるっきりHと同じだ。
「何を驚いている。私も知っているぞ!
大会には走破を勝ち抜いたチームでなければ参加できないことを」
「わ、わかってるなら言わないでよ」
「だから、リリーと一緒に山籠りでの修行の一環として走破を制覇してきた。
魔理沙がいなくても私の権限で編成と参加ができるぞ!!」
「なにィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!」
走破の制覇には少なくとも一か月はかかる…
もっとも他の幻想郷ではどうなのかわからないが、ここでの走破にはいろいろと規制というか制約での手続きがあってしっかりと手順通りに行わなければ走破を完遂することができない。
一体いつの間に…と思ったがよく考えたら『偶然カップファイナル〜』が終わってから妖夢の姿を見ていないのでその間走破をこなしていたのならつじつまがあう。
とりあえず妖夢が走破を制していたのであれば、これ以上にないぐらいの正攻法な大会参加方法だ。
真面目に大会への裏口や穴を探っていた咲夜と永琳の行動が馬鹿らしく思えてきたらしく、お互い見つめながら一気に脱力した。
「全く、私にとっては小町に続いてリリーまでが仕事をしないという状況に陥っていい迷惑でしたよ。
しかも、妖精であるリリーをあそこまでこき使うなんて貴女鬼ですか?!」
「何をいう!SBGK(スーパー・ブラック・ゴール・キーパー)を名乗るリリーBならあの程度なんともないだろうが!!」
映姫の説法じみた発言に悪びれた様子もなく言い返す妖夢だが…
リリーBの様子を見れば妖夢の方が不利だ。
なにせ、リリーBは顔や手足のいたるところにバンソコや包帯変わりのさらしを巻いた状態でぐったり疲れ切った表情をしている。
黒い服で隠れて全くみえないが、服の下なんかもきっと包帯変わりなさらしでぐるぐる巻きなのだろう……
回復の早い妖精にあそこまでのダメージを残すなんて本当にどこまでこき使ったのか…………
とにかく、今の妖夢は明様に以前の妖夢と違う。
丁度、中学時代に牙が抜けた虎と言われた日向君が沖縄で修行をした結果、野獣のごとき飢えた猛虎へと変貌したかのように、
妖夢も以前の甘さを捨て去り、鬼のオーラを纏っていた。
「まぁいいでしょう。このことは山で散々言い争ってきましたから今さら蒸し返すつもりもありません。
あそこまでやったからには修行の総仕上げが必要でしょうからね……」
そうつぶやくと映姫はくるりと他の面子へと向き返り。
「ですから、改めてここに集まっている皆さんに要件を言います。
妖夢がキャプテンとして編成するチームに加わって『東方サッカーオールスター東方蹴球宴〜花映塚部〜』に出場しなさい」
頼むというより、なんだか上から物を言うかのような態度の映姫だが
「もちろんいいわよ」
「異議なし。むしろ私達も参加するつもりで来たのだし、参戦するわ」
「あたいもレティと一緒に参加だ!!」
咲夜も永琳もチルノも元々大会へ参加するつもりで来たのだ。
参加できれば魔理沙にこだわる必要性が全くなければ、断る理由もないので即決。
さらに
「あはははは!私達も参加するわよー!!」
「人数も丁度よさそうだしよろしくねー」
「…別件で来たが丁度よかった。私達姉妹も参加する」
一体いつのまにやってきたのやら…
気づけばふわふわと漂ってるように飛んでいる虹河姉妹も参戦を申し出てきた。
「なんだ、お前たちか。後で誘おうと思ってたところだから構わないぞ」
虹河3姉妹は春の異変で関わっている上に騒霊という幽霊に組する種族なので冥界組とは縁が深い仲だ。
みょんがキャプテンとしてチーム編成するならまず真っ先に加える部類の3人だろう
「すまないな。メルランがカナと喧嘩して大会でゴール決めてくると大見得切ってきたところなんで」
「なるほど、カナは大会で大活躍してたからな。しかしお前らまた喧嘩してたんだな」
前大会の『偶然カップファイナル〜』でもカナが参加してきた原因はこの虹河姉妹との喧嘩が発端だった。
その内容は騒霊仲間なのに一人だけ必殺シュートもない微妙な性能で存在が影といわれたことであり、カナは大会で活躍して自分の存在を知らしめるために参戦してきた。
その結果、カナは自分の存在を知らしめたどころか…
大会後でも研究のために行われたというシュミレーション試合で「黒赤マジック」のカナは新しい可能性を見つけてくれたと改めて注目を浴びる存在となったのだ。
ちなみに、シュミレーションではホモンクルスに各個人のデータをインプットさせて模擬戦闘を行わせることができる『パラケルススの円卓』なんていう怪しげなアイテムが使われていたという噂だが……
やはり、これは余所のことなので真相は全くわからない。
わかるのは、シュミレーションでの試合風景を撮影したビデオとまとめられた各種データだけだ。
「カナが活躍したまでは許せるけど、このデータでカナがさらに注目浴びるなんて許せない!!
カナのくせに生意気〜〜!!!」
「なんだかんだ言ってるけどメルラン姉さんの怒りはただの逆恨みみたいなものだよ」
ごぉぉぉっと燃えるメルランに対してリリカは余計なひと言を付け加え、当然その後は召喚されたトランペットで後頭部をぶっ叩かれた。
「私達の喧嘩はコミュニケーションみたいなものだ。たまには怒りをぶつけあうのもまた一興……
しかし、妖夢はまだ亡霊嬢と仲直りしていないようだが、いい加減謝りにいった方がいいと思う。
ここ最近の亡霊嬢は荒れまくって白玉楼では大変な騒ぎになってる」
そのまま取っ組み合いの喧嘩となった妹達を軽く無視しながら妖夢へと問いかけるルナサだが、妖夢はたんたんと答えはじめた。
「謝るも何も、走破を終えた後も修行を続けていたら幽々子様が邪魔をしてきた。
ゴールを決められるストライカーを目指して修行していたのに…幽々子様が『サッカーをやめて帰って来い』と言ってきた。
だから斬り捨てた。それだけなのにどこが悪い」
「あ〜、あの時幽々子が泣きながら神社へ来たのはそういう経過があったってわけね」
霊夢が言うには3日ぐらい前、縁側でいつもどおりお茶を飲んでいたらボロボロに切り刻まれた幽々子が前触れもなくやってきたのだ。
一体何事かと思って聞いてみたら
「霊夢〜〜〜大変なのよ〜〜!
妖夢がぐれたの〜〜〜〜!!」
と霊夢に泣きつきながらお茶菓子にとおいていた饅頭を全て食われたことがあった。
その時の幽々子は完全に混乱してて支離滅裂なことを喚いていたが、
まぁいつものわがままに堪忍袋の緒が切れた妖夢が反乱を起こして未来永劫斬辺りで八つ裂きにされたという、ある意味いつかやられるだろうと予想はしてたことだと勝手に判断。
面倒だから関わろうとせず適当に相手をしてから虹河姉妹の家に放り込んで後を託してきたのだが……
今のみょんの変貌を見れば、幽々子の荒れ具合も微妙に納得する。
ついでにルナサもルナサで律儀に幽々子を宥めながら白玉楼へ幽々子を送り届けたが、この件は妖夢と幽々子の問題なので深く関わろうとしてなかったらしい…
そうやって二人をほっといたら幽々子というか白玉楼がすごいことになっていたのだ。
「その件については私も先ほど話し合いました。
話し合いといっても結局は弾幕勝負でしたが、とりあえず大会が終わった後に一度サッカーから離れて白玉楼へ戻って一言謝りなさいということで決着がついているのですよ。
とにかく、私もリリーをこれ以上占領されると仕事に差し支えがでるんです!!
ついでに今の亡霊嬢が幽霊達の統括するどころではない状態に陥っているので非常に困るんです!!!」
「…………妖精を仕事のアテにするって、あのサボタージュはどこまで役立たずなのかしら」
咲夜自身も役立たず度ならサボタージュこと小町と匹敵する門番の中国こと美鈴を抱え込んでいるからアレが仕事のアテにできないのはわかる。
だが、妖精は元来自分勝手な種族だ。
たまに力が高かったり、責任感があったりする変種みたいな存在はいるがやはり妖精は妖精であって、仕事を完全に任せられるぐらいの有能さはない。
咲夜は紅魔館で大量に雇われている妖精メイドの自分勝手さや役立たず度は骨身にしみるぐらいわかっているので、適当にどうでもいい仕事やレミリアやフラン達の遊び相手として押しつける程度に澄ませている。
だからこそ、そんな妖精がいなければ仕事にならないというか、どう見ても重要そうな幽霊の管理をついで扱いにしてしまう映姫の悲痛な叫びには、軽く同情を感じてしまう。
「…………とりあえず、頭数は揃っているからこれで大会に参加はできそうね」
永琳も映姫に同情したというか医者としての眼から見て映姫が病んでいるのを見抜いたらしい。
そっと胃薬と楽しい夢が見れるという人里で人気の『胡蝶夢丸(改)』を手渡しながら、一同を見渡した。
パッと見た感じはなんだかんだいってFWとMFとDFとがバランスよく集まるそこそこよさげな構成に見えるが、霊夢が不満そうに声をあげた。
「そんな賞金もでないような大会になんて参加しないわよ」
「私ももう少し涼しければいけないこともないけど、まだ暑い日が続く最中でのサッカーはちょっと無理よね〜」
「そういえばそうね。そのスーツも元々運動用に作ってないし」
霊夢はたんなるわがままなので軽く無視したが、レティは説得力ある。
ちなみに今レティが着ているのは『エアコンスーツ』という永琳が開発した服だ。
涼みながら外を歩けるようにという輝夜のわがままに応えるべく、宇宙服と「吹雪のオーブ」という阿求から仕入れた以下にもうさんくさい品物を組み合わせて作ってみたが、温度というか吹雪の制御が利かず着た者を瞬間冷凍保存させてしまうという欠陥品となった。
もっとも、これは輝夜を懲らしめるために永琳がわざとそういう設計にしたのかもしれないが、こんな危なっかしい物は使えないということで輝夜から即刻捨てるよういとに命令された。
ただ、処分もあれだしこれはこれで有効活用できそうなくろまくへプレゼントしていたのだ。
それに元々「吹雪のオーブ」は雪男のように冬や氷に属する人外者が使用する物なのでレティが使えば吹雪の出力もある程度制御できるらしい。
なので、レティも暑い真夏であってもこのスーツを着ていればとりあえず起きて行動できるようになってはいるが………
動けるだけで弾幕戦のような激しい運動はできない。
当然、設計者である永琳もスーツの性能は十分承知なので安心させるように笑う。
「でも、大丈夫よ。貴女の代わりはうどんげが努めてくれるから」
と今まで袋詰めにしていた鈴仙をするりと取り出した。
「あひゃひゃひゃひゃひゃ〜〜〜」
袋から取り出された鈴仙は相変わらず壊れたままだ。
焦点の合わない眼で虚空を見つめたまま可笑しな笑い声をあげている。
「どう見ても、私以上のお荷物にしか見えないわよ」
「そんなことより壊れた状態については突っ込みいれないのか?」
レティが言うまでもなく本当に荷物状態だが、ルナサもルナサで冷静に突っ込みを入れている。
やはりここは幻想郷。非日常なことは日常茶飯事なので些細なことには誰も驚かない。
「うどんげが『偶然カップファイナル〜』終了後にこれでもかとういうぐらい落ち込んじゃって、いつまでも部屋に閉じこもって出てこないから不憫に思って陽気になれる薬をあげたら……」
効果がばつぐんすぎてこうなったということか。
「やっぱり実験動物扱いじゃない」
「それに、アレなんてまるっきりの役立たずでしょ。入れるだけ無駄よ」
咲夜は嫌味、霊夢は客観的意見というか事実をさらりと言ってのけるが永琳はキッと二人を睨みつける
「うどんげは実験動物でも役立たずでもない私の自慢の弟子よ!!
シュミレーションでなら、同点で迎えた後半ロスタイムに決勝ゴールを決めるという活躍もしてるのよ!!!
逆にいえば変に意識があるからこそ実力が発揮できないなら余計な意思を排除さえできれば………」
だからって薬を使って意識を完全排除させるのはどうかと思うのだが………
永琳も永琳で弟子である鈴仙をなんとしても活躍させて立ち直らせてやりたいという優しさがあるのだろう。
しかし、薬が切れた後についてはどう考えているのだろうか…?
確かに、ある平行世界というか偶然カップ主催者チーム「いつも心に逆境を」のSCGK(スペルカード・キャンセル・ゴール・キーパー)ミマーは走破中に「クリティカラー」とか言うこころなしにクリティカル率が上がるマリ○RPGの裏ボスみたいな怪しげな薬を使用した結果、マスターブレードと夢想天生を完全シャッターアウトする大活躍をみせた。
もっとも途中で薬の副作用というかリバウンドでいきなりガリガリに痩せ衰えてしまった上に、魔理沙もマスターブレードを止められた腹いせとしてマスタースパークを容赦なく放出。
気力だけで立っていたGK魅魔のどてっぱらを思いっきりえぐって、息の根を完全に止められたという逸話がある。
まぁ、息の根を止められてもなんだかんだいって『偶然カップファイナル〜』では復活してGKに返り咲きしていたようだが………
「弟子に対して薬を投与させるなんて、貴女も鬼ですか?!」
映姫の怒りはもっともだ。しかし…
「あんな凶悪遠距離反則シュートで毎回のようにGKを吹っ飛ばすようなのに鬼なんて言われる筋合いないと思うわよ」
「そんなこと知りません!
私だってたまには羽目をはずしたいんですよ!!
GKをふっとばしたいんですよ!!!」
霊夢の突っ込みに逆切れ気味に反論する映姫。
思いっきりぶっちゃけ話だ……
結局のところ、閻魔も閻魔でいろいろと溜まっているものがあるのだろう。
「というわけです。冬妖怪である貴女も今ここにいることは罪ですよ。
恐らく氷精の義理でやってきたのでしょうが、本来いるべき場所へとおかえりなさい。
森に帰ってはいけませんよ」
何がというわけなのかわからないが、映姫はごまかすかのようにレティを住処へ帰らせて夏眠をするように促がしはじめた。
「それもそうね。それじゃ、チルノ。大会での土産話を期待してるから頑張るのよ〜」
「もちろん、あたいの活躍をばっちり聞かせてやるから覚悟しとけー」
「これでレティの件は片付いたけど最後は霊夢だけよ。どうしても参戦してくれないわけ?」
チルノに見送られるレティを見ながら、最後に残った問題として咲夜が霊夢へと問いかける。
ちなみに鈴仙についてだが、咲夜も実力が発揮できずに役立たずの烙印が押された鈴仙がレミリアとかぶってしまうために、なんとしても活躍させてやりたいと思う永琳の気持ちがわかるところもある。
それに、鈴仙はすでに絶望のどん底へ落ちた身だ。
このまま生き地獄を味わせるぐらいなら、最後の最後に大輪の花を咲かせて散らせるのもまた一興と、他の面子も永琳の真意に同意したようで何も言ってこなかった。
「くどい!私は参加しないっていってるでしょうが!!」
「別にいいじゃない。参加してくれるならお賽銭あげるわよ」
っと、なおも参加を渋る霊夢に永琳はさっと小銭を取り出して賽銭箱へと投げる仕草を行った。
「そうね、たまにはお賽銭あげてもいいわね」
さらに続いて咲夜も小銭を取り出して親指はじきで賽銭箱をロックオン。
「ふむ、こういう催促も効果はばつぐんっと」
ルナサも小銭が詰まった袋を取り出してジャラジャラと鳴らし始める。
「こうすればいいのかー?」
最後にレティを見送ったチルノもぶんぶんと腕を回している。
ただし、チルノは意味もわからずただ皆の真似をしてるだけだ。
ついでにお賽銭が何なのかわからない上に妖精にはお金という概念がないので小銭なんて持ってない。
なので適当なものを賽銭箱に投げ入れようとしているのだが、だからって氷漬けのカエルはどうかと思うのだが…
所詮はHというところか
「うぐぐぐぐぐ………」
霊夢というか神社にとってお賽銭はライフラインとなる以上に信仰心の現れなので例え小銭であってもほしいもの。
さらに霊夢は根っからの守戦奴な貧乏巫女。
権力や脅しには屈することはないが、こうやって現実にお金をちらつかされれば弱いのだ。
「霊夢、頼む…私も後一歩なんだ。後少しで“ストライカーとしての答え”が見つかりそうなんだ。
大会の中で“ストライカーとしての答え”を見つけなければ幽々子様に刃を向けた意味がなくなってしまうんだ。
だから、頼む…一緒に大会に参戦してくれないか」
言葉使いはあれだが、礼儀正しいというか根本的なところはやはり変わってないようだ。
妖夢は頭を深くさげながら誠意を見せてくる。
それを見て霊夢は結局折れたらしい。ふぅとため息をつく。
「そこまで頼まれたら仕方ないわね…参戦するわ。
ただし、妖夢と咲夜と永琳。大会終了後に人手をよこしなさい。
期限は三日間で役に立つ誰かを派遣する。それが条件よ」
「わかった。なら白玉楼で幽々子様に謝った後でいいなら私自身が来よう」
「私も、お譲様に頼んで美鈴を派遣するわ」
「私も、てゐと一緒にウサギ達を数人貸してあげるわ」
「それでいいわ。交渉成立ね」
霊夢が頷くと同時に小銭を構えていた面子も頷きながら、小銭その他を次々と賽銭箱へ投げ入れた。
ちゃりんちゃりんと賽銭箱から心地よい音が響くと同時にぶごっと変な叫び声も響く。
どうやら、チルノが投げたカエルの氷漬けを霊夢がお祓い棒でピッチャー返しのフルスイングで撃ち返したようだ。
「よし、では今ここにいるメンバーで登録するが異議はないか?」
顔面を両手で押さえながらごろごろと地面を転がって悶絶しているチルノが邪魔だからと遠くへ蹴りとばしながら、確認をとる妖夢。
「もちろんない。そしてやるからには勝とう。勝ってV1を目指そう」
それに応えたのはルナサ。しかも、どこかで聞いたような迷台詞を放つが…
「参戦するとはいっても面倒ねぇ…
今回はシューターが多いし適当にパスしてれば勝てるかも」
霊夢はどうも賞金がでないとやる気がでないらしい。
なんかもう適当に自分が楽することを考えてる。
「忘れてないでしょうけど私達は勝負に来たのよ。永琳」
「忘れてないわよ、咲夜。
勝負は…ボールを奪えば2点、ドリブルかパスで一人抜くごとに1点。シュートを決めたら3点。
その他、ベストな判断でチームに貢献する行動であったらさらに5点ボーナスを加えるでどう?
これなら攻めても守っても平等な評価になるでしょ」
「それでいいわ。負けた方は罰ゲームとしてお互いの主の目の前で土下座よ」
「うさぎがぴょ〜〜ん。月見てはねてぴょ〜〜〜〜〜〜〜ん」
試合というかチームでの勝敗に全く関係ない個人的な勝負に燃える咲夜と永琳に相変わらず壊れたままの鈴仙。
「あはははははは〜〜!!
どんどん私にボールをまわしなさ〜い!!!
シュート決めるわよ〜〜〜!!」
「以下に効率よく敵からボールを奪って三女の必要性を示すには、やっぱりここは武器を使って…ブツブツ」
メルランはぬるぽなクルクル頭でシュートを決める、リリカは狡猾に敵を潰すことだけを真剣に考えてる。
チームプレイというものは全く考えてないのだろうか…?
「最近は本当にストレス溜まってましたから死合いが楽しみですよ…
GKを吹っ飛ばすのは最高に気持ちいいストレス解消ですからねぇ」
この閻魔。改めて言うが、やはり鬼だ。
「う〜〜〜あたいもシュート撃つからどんどんボール回してこーい!!」
あっさり傷の癒えたチルノ…
その回復の早さからHは完全に顔面ブロックの捨て駒要因なのでシュート撃つ必要性ないのだが、ボールを奪ったらやっぱり撃つだろう。
「…………帰りたい」
そして最後、GKとなるリリーBはみょんの山籠りな修行に無理やり付き合わされていたので心身ともにぼろぼろな状態だ。
今回はSBGK化してないようだが、みょんとの山籠りの修行に付き合ってただけあってキーパーとしての実力は高そうだ。
ただし、この精神状態ではどこまで持つかわからないが……
妖夢も妖夢で勝利を目指すことよりも“ストライカーとしての答え”を見つけることしか考えてないし、結局のところ真面目に勝つ気があるのはルナサだけだ。
「気圧が…下がる…」
それでもルナサはくじけない。
元々、虹河三姉妹の中でのリーダーなのに地味だ目立たないだと散々な扱いを受けていたのだ。
これぐらいの逆境には慣れているので逆に燃えてきた。
でも、いくら燃えても誰も気づかないところがやはり地味系の悲しいところ。
「私は負けない!」
誰からも突っ込みを受けないルナサは一人こっそり涙を流しながら、自分だけでも勝利を目指そうとぐっと心に誓った。
とまぁこういう経過もありみょん率いる『黒赤マジック(花)』の大会参加が決定してしばらく時間が流れた後、博麗神社へと向かう3つの影があった。
「はぁ…向こうでとんでもない目にあわされたわね」
「全くね…ゴホゴホッ」
その二つの影はアリスとパチュリーだ。
二人はお疲れモードというか、ガッツ枯渇寸前という状態でふらふらと空を飛びながらぶつくさと文句を垂れている。
「そういうな、アリスにパチェリー。
確かにトラブルに巻き込まれたが向こうでも情報は仕入れることができたんだし、コネができたんだぜ。
そう思えばこれっぽっちの苦労なんざ関係ないだろ」
箒で先頭を飛びながら後に振り返るのは魔理沙。
その背中にはどこかに強奪へでも行ったのか、大風呂敷な荷物を担いで満足げに笑っている。
しかし、満足げなのは魔理沙だけだ。
「生物学や人体生成に関する錬金術の資料は豊富にあっても、そっち関係は興味ないから必要ないわ。
むしろ、厄介なトラブルに巻き込まれた方がいい迷惑ね」
「それにコネも何も、魔界は私の故郷なのよ!
自分の家族に向かってコネも何もないわよ!!」
どうやらこの3人は魔界へと出向いていたらしい。
出向いた原因は魔理沙が前回手に入れた“魔界の力を身につけた程度の能力”の解析だ。
もちろんそんな能力なんて存在しないどころか、ほとんど魔理沙の幻想みたいなものであるのだが全くないとは言い切れない。
なので、詳しく調べるために魔界へと向かったのだが…向こうでいろいろとあったのだろう。
具体的に何があったのかはページもないというか、全く何も考えてないので略すが、アリスとパチュリーにとってはあまり利益がなかったようだ。
「そういうな。久々に実家へ帰れて満足しただろ」
「そ、それは…まぁそうだけど」
魔理沙に突っ込まれて少しどもる。
なんだかんだいってもアリスも全く利益がないというわけではないようだ。
だが、家族のことは余計だったらしい
「そんなこと言うなら魔理沙も一度ぐらいは実家に顔見せるべきね。いくら勘当されても実の親なんでしょ」
そう、魔理沙は人里に実家があるが勘当された身であるために出て行ってからは一度も実家へと帰っていない。
「いやまぁ…その…生きてる間に機会があれば一度帰るぜ」
藪蛇とはまさにこのことだ。
しかもその発言は、魔理沙が種族人間から寿命のない種族魔法使いとなれば一生帰らないとも取れる。
「………なんだかんだいっても家族は大事なものよ。それがわかってるなら故意に避ける物じゃないわ」
パチェリーはそう言いながら紅魔館の吸血鬼姉妹であるレミリアとフランドールのことを思い出した。
二人は今でこそ仲の良い姉妹であるが少し前まではお互い一緒に話すどころか顔を合わせようともしていなかった。
確かにレミリアも好きでフランを避けていたわけではない。
フランは“ありとあらゆるものを破壊する能力”と情緒不安定な感情が危険すぎる故に495年もの間、地下へ閉じ込めていたのだ。
まぁ、フランも霊夢や魔理沙と出会ったおかげで止まっていた時間が動きだしたかのようにフランが変わり始めたし、フラン自身もレミリアを恨んでるわけではないが…
レミリアは違った。
フランをずっと長い間閉じ込めていたことに負い目があるらしく、どうしてもフランに対して一歩前にでることができなかった。
血の繋がった特別な存在であるにも関わらず、すれ違う二人…
そんな二人にパチュリーも咲夜も美鈴も、紅魔館側の皆は何も言わなかった。
というか行動を起こそうともしなかった。
そんな二人の仲を取り持ってくれたのが妹紅。
妹紅は輝夜や永琳と同じく“死なない人間”であり、その異常性故に人の世では生きていけず1000年以上も孤独な日々を送っていた。
そのため、495年間地下にこもっていたフランが他人とは思えなかったらしくフランをよく気遣っていたのだ。
フランも妹紅が気に入ったらしく、よくサッカーや弾幕ごっこで遊んではいたが、妹紅はレミリアとフランの仲に疑問を持ったというか…このままではいけないと思ったのだろう。
なんとか二人が仲直りできるよう妹紅は、パチュリーと咲夜、さらに幽々子と紫をも巻き込んでの一芝居を打ったのだ。
その一芝居は…正義の戦隊物としてたった一人の妹をないがしろにしていた姉に正義の弾幕を浴びせる『ファンタジーファイブ』のまねごと。
これによってレミリアは自分の罪を認識させられると同時にフランに対して一歩を踏み出すきっかけとなり、二人のわだかまりもとけたのだ。
「…だんまくブルー」
ちなみにその時、パチュリーが受け持った色がブルー。
ピンクにされた咲夜は恥ずかしがっていたが、パチュリーは結構気に入ってしまったらしく今でも時々こうやって呟いている。
しかし、この言葉は自分もしくは咲夜が行わなければいけなかったことを部外者である妹紅が行ったことに対しての警め。
もしくは、自分の家族に対する暗号化されたメッセージなのかもしれない。
なにせパチュリーも純粋な種族魔法使いとはいえ、妖怪のように虚空から生まれることはない。
人間と同じく男女の愛の結晶として生まれてくる存在だ。
幻想郷内ではパチュリーがどういう親を持ってどういう人生を送ってきたのかは全く知らされていない。
もしかしたらレミリアがパチュリーの過去を知しっているのかもしれないが…外部に漏れてない以上なぞである。
だが、それでもパチュリーには家族がいる。もしくはいたのはまぎれもない事実。
「なんだかんだ言って魔理沙も両親いるのね。だったら帰るべきよ。そしてついでに……」
「あ〜〜私はもう勘当されてるんだぜ。だからあれは他人だ。
他人だから用事がなければ会う理由がない!!」
「よく言うじゃない。いっつも理由もなく毎日のように博麗神社へと出向くくせに」
そして私の家にはたまにしか来ないくせに…
だが、アリスにはそんな言葉を魔理沙に向かって言う勇気がない。
心の中でこっそりと呟くだけだ。
「…………見えてきたわ。その博麗神社が」
二人の言い合いを無視しながら点となって見えてきた博麗神社へと向って高度を下げていく。
結局、パチュリーは魔理沙の実家についてはこれ以上引っ張るつもりもなければ、自分の過去を明かすつもりもないようだ。
というより、幻想郷は外の世界から忘れ去られた存在が集う楽園の地……
楽園では良い意味でも悪い意味でも全てがあるがままに、全てが受け入れられる世界。
この中では今までの過去の自分を捨てて新しい自分として生きていく世界だ。
中には、今までの過去を捨てずに生きる者もいるが……その者達も幻想郷で新しい自分を見出して生きている。
「博麗神社も久々ね」
「あぁ、ここで霊夢のどなり声の一つか二つが聞けたらこう帰ってきたという実感するぜ」
パチュリーもそうだが、魔理沙もアリスも故郷や家族の元から離れて幻想郷で生きていくことを決めたのだ。
魔理沙がこうやって前向きに新しい生を歩むなら強く実家への帰省を促す必要はないというか、今はどうせ言っても無駄だ。
ならいつか魔理沙が本当の意味で両親の手から離れる時期が来た、その時にこそしっかり後押しをすればいい。
レミリアとフランの仲を取り持った妹紅のように……また一芝居をうてばいい。
これが時期が来たのにレミリアとフランとの仲を取り持つきっかけを他人任せにしてしまったパチュリーの課せられた罪と責務だと自分に言い聞かせた。
「………おかしい。霊夢どころかお茶セットすら置いてないぜ」
そんなパチュリーの思いに全く気付かない魔理沙はずかずかと土足で縁側に上り、戸を開けて居間を覗きこんでいる。
居間には中央にででんっとちゃぶ台が一つ置いてあり、いつもはその上に霊夢愛用の湯飲みとせんべいや饅頭といった茶菓子が乗っかっている。
もちろん、茶菓子周辺には泥棒避けの結界が張ってあるので下手に手を出したら即座にばれて、札や陰陽玉の一撃を食らう羽目になるのだが…
今日はそのお茶セットがないのだ。
念のため、他の部屋も回ってみたが霊夢はいない。
つまりもぬけの空。
「あらあら、今日の黒いのは図書館ではなく神社へとドロボウにやってきたのかしら」
「ん、誰だ?」
外から声をかけられたので外を見渡すとそこには、日傘をさしてにこにこ顔の幽香が立っていた。
「3人とも、いつぞやのサッカー大会ぶりね。あいにく今はあの貧乏巫女はいないわよ」
「そうか、どこへ行ったのかわかるか?」
「知ってるといえば知ってるし知らないといえば知らないわね」
「もう一度聞くぜ、霊夢はどこへ行ったか知ってるか?」
歯切れの悪い幽香の返事に魔理沙は再度、今度は強く言った。
ついでに魔理沙はミニ八卦炉を取り出していつでもマスタースパークが放てるようにしてるし
アリスも上海人形を前方に、パチュリーも本を開いて臨戦態勢を取っている。
だが、そんな3人に幽香は全く顔色を変えずにこにことしている。
ついでに幽香の後ろに担いでいる網の中では蔓でぐるぐる巻きにされてもがいてる夜雀が居たりするが、これに対しては全く突っ込み入れていない。
しばらくそんな一瞬即発なムードが漂っていたが幽香はにこにこしながら口を開く。
「………ストーキングしてた鬼っ子に教えてもらったけど霊夢達は新しい『黒赤マジック』のチームを編成して『東方蹴球宴〜花映塚の部〜』に参加登録して会場へ向ったそうよ」
「なにィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!」
魔理沙は驚くというか当然の反応だろう。
何せ魔理沙はキャプテンであり、チームの編成には自分の存在が必要不可欠であるが…
「なんでも、今回のは新しく走破を制した冥界の庭師がキャプテンとして編成したそうね。
あの子曰く、魔理沙の代理だからって『黒赤マジック』の名前で登録したようだけど…もしかしたらそのまま乗っ取る気満々なのかも」
さすが根っからいじめっ子な幽香。
言い方そのものが魔理沙へ動揺を誘う物ばかりだ。
「そ、そんなわけがない!!私はキャプテンだぜ!!!
キャプテンがチームからつまはじきにされるなんて…」
「…別にあり得ないこともないわ。
『東方蹴球宴〜萃夢想の部〜』でも実際キャプテンがレギュラー落ちした事例もあるし」
パチュリーも魔理沙に日頃から図書館の本を無断で持ってかれているから恨みがあるのだろう。
置いてけぼりにされたことに驚く魔理沙へ向かって復讐というか追い打ちの一言。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!
これじゃぁ本当に日向君扱いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
確かに、日向君も中学時代にチームをほったらかして沖縄へ向かったせいで決勝まで試合にでることが許されなかった。
しかし、いくら魔理沙が日向互換な存在であってもここまで丁寧に再現させる必要はないのだが…
軽くショックを受けた魔理沙は頭を抱えながら虚空に向かって叫んでる。
「あ〜楽しい。こんな魔理沙を見るのは久々ね」
「全くね」
幽香は元々いじめっこだから理由なくいじめるが、パチュリーも日頃の溜まった恨みがあるのだろう。
魔理沙の絶叫を眺めながらくすくす笑っている。
「ま、魔理沙……」
そんな中、魔理沙に恨みがあまりないアリスが遠慮気味に声をかけるが……
「アリス…笑うなら笑ってくれ。
前回あれだけ大会へ戻ると大口叩いといて、置いてけぼりにされたみじめな私をな……」
「…だ、大丈夫よ…なんなら、今からでも追いかけてチームに合流すればきっと出れるかも…」
「そんなことできるわけないぜ。私は控えにすら登録されてないんだ…
それに一度提出したチームの変更はもう許されないんだ……」
そう、メンバー表は一度提出したら変更は認められない。
いや、正確にいえば変更も可能なのだがそれは特例のみ。
というのも、いちいち変更を認めていたらはじかれた連中が逆恨みで一度提出したレギュラー陣を潰して無理やりメンバー変更を行ったりしてくる。
そんなことを毎回のようにされたら大会を仕切る本部にとってはいい迷惑なのだ。
なので、本部での負担を減らすために大会ルールでしっかり『一度提出したメンバー表は特例がない限り変更してはならない』と記載された。
もちろん破ればキツイ罰が下されるので、逆らうことはできない。
だが、そんな魔理沙が不憫というか復讐も済んだことですっきりしたパチュリーが助け舟を出してきた。
「…………だったら、最後の手段として他チームの魔理沙達と入れ替わるしかないわね」
「………なんだそれ?」
「そのレギュラー落ちしたキャプテンだけど、どうもある試合で敵チームに寝返って試合に出場して復讐したそうよ。
最初は眉唾かと思っていたけど両チームの監督も大会本部も面白いからって特別に入れ替わりを認める証言もあったし、事実らしいわ」
もっとも、入れ替わりの時はしっかりレベルと装備を同じにされていたようだが、数値的な強さが同じであれば問題ないということらしい。
いくらルールで厳しく制限を課していても、結局楽しければ許されるということか………
「そうか…だったら私もまだチャンスがある!!
今からすぐに追いかけるぞ!!!」
「あっ、待ちなさいよ…」
立ち直るや否や、持ってた荷物を居間に放りこみつつ箒に跨って空へと駆け抜けていく魔理沙と慌てて追いかけるアリス。
「………疲れてるから休みたいけど大会がどういうものか興味がないわけでもないし」
なんだかんだいっても試合に出たいらしい。
パチュリーも息を整えつつふわりと風を纏って二人を追いかけていった。
「ふふ………これはこれで一波乱が起きそうで楽しそうね」
そうして神社に残された幽香は、新しいフラグが立ったことによって起きるであろう波乱に再度にやりと笑う。
でもって……
「もがもがもが…」
誰も突っ込まれないからすっかり忘れ去られそうであるが網の中でもがいてるの夜雀のミスティア。
彼女は今、網の中で蔓で全身や口をぐるぐる巻きにされて身動きどころか口もきけない状態だ。
「さてっと、どうせならこわ〜〜〜い巫女にお仕置きをしてもらおうと思ってここへやってきたわけだけど、いないなら仕方ないわね……
あの亡霊嬢のところへ持って行こうかしら」
「もがーーーーー!!」
そうにんまりと笑う幽香に対して本当に声にならない叫びをあげる。
ついでに目には涙なんか溜まっているが、いじめっ子な幽香にはそんな泣き落としが通用しないどころかさらにS度が上がるだけだ。
「そんな目しても駄目よ。
畑の作物を荒らそうとする悪〜〜〜〜い妖怪はお仕置きが必要なのよ。
しかるべきところでしっかり罰を受けてらっしゃい」
幽香はそういうが、ミスティアにしてみればたまたま畑近くを通っていたら子供の悪戯で仕掛けられたらしいトリモチに引っ掛かって身動き取れなくなってしまっただけだ。
さらに、ねばねばと悪戦苦闘してるところに通りかかったのが幽香であったのが運の尽き。
本来幽香は花の妖怪であるので畑の作物に関してはあまり関係ない。
どちらかというとそういうのは紅葉と豊穣を司る秋姉妹の管轄であるが、改めていうまでもなく幽香はいじめっ子。
とりもちに引っ掛かったミスティアを見つけるなり、にやりと笑いながら捕獲して適度にいじめながら連れまわしてるのだ。
ミスティアにとっては災難以外なんでもない…
「さぁ、今度は冥界の旅へと行きましょうか…夜雀ちゃん」
相変わらずにこにこ顔で恐ろしいことをさらりと言ってのける幽香にミスティアはこれから身に起きるであろう不幸に涙を流しながら、
運命とトリモチに引っ掛かるという自分のドジさを心の奥底から憎んだ。
なお、みすち〜の運命は…サッカーというか『東方蹴球宴〜花映塚の部〜』では全く関係ないので知る由もないし、
読者も気にとめることはないので誰も気にしないだろう。
それ以前にサッカーとは全く関係ない脱線だらけだが…
投げっぱなし的に
後半へ続く
おまけ
大会へ提出したメンバー表
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