「お前なぁ・・・まーだそんなこと言ってんのか」 俺の頭痛の種が目の前に居る。 「『そんなこと』って・・・私にとっては重要な事なのよ!?」 比那名居 天子。 何度悩まされている事か・・・ 「あのなあ、お前が起こした異変以来お前はいろんな奴から目を付けられてんだぞ?それぐらい分かってんだろうが」 「だから何なのよ。そんな事でビクビクしてたら天人の名が泣くわよ」 いつかの各地の異常気象、そして『博麗神社直下のみの地震』を起こした張本人。 そんな事があって以来、こいつはいろんな奴から目を付けられている。 今後あんな事を起こさないように・・・と。 「俺だってお前が何をしでかすか分からんからここにいてお前を見張ってるんだろうが。ましてや『人里に行く』?冗談じゃない」 「誰が何を言おうが関係ないわ!私は絶っ対に行くからね!」 「ダメだって言ってるだろう・・・」 ここまで聞きわけがないのも俺の頭痛の種なのだが・・・ 「・・・じゃあさ、どうしたら人里に行けるのよ」 「ん?」 一歩引くとはこいつにしては珍しい・・・ 「私一人で行くのがダメなら誰かと一緒に行けばいいんでしょ?・・・そうだ」 何か思いついたようだ。 嫌な予感しかしないが・・・ 「あなたも一緒に来なさいよ!そうすれば文句は無いでしょ!?」 「んな、お前何を」 「そうと決まれば!ほら、早く行くわよ!」 「待てよ!俺は行くなんて一言も・・・」 行ってしまった。 ・・・案の定である。 「・・・ああもう!行けばいいんだろ行けば!」 -------------------------------------------------------------------------------------------- 「へー、こうなってるのね」 「お前、異変の時に下界に降りたんだろ?この辺とか見なかったのか?」 「私が行ったのは神社だけよ」 「そうかい」 そんなこんなで来てしまった。 内心恐ろしくてしょうがない。 「うわ、何かいいにおい。こっちかしら」 「おい、勝手にフラフラ行くなっての!・・・ったく」 そう言って入ったのは何の変哲もない食堂である。 まぁ確かにいいにおいがする。腹も減ってきた。 「・・・ってここは確か」 見覚えがある・・・ってか、何度か来た事あるぞここ。 「おー、左京さんじゃないか」 「あー、やっぱり。どうも漸さん」 やっぱりそうだった。 「なんだなんだ、かわいい子連れてきちゃって。隅に置けないなぁ」 「何?この人と知り合いなの?」 「まぁな。草薙漸さんだ」 「どーも」 ・・・こいつのことはどう紹介しようか。 まぁいいか。全部言っちゃっても。 「で、こいつが・・・ほら、神社だけ倒壊した時があったでしょ?」 「あー、あったなそんなこと」 「それの原因がこいつ」 「ラリィッ!」 相変わらず変な驚き方をする。 まぁこの人らしいっちゃこの人らしいんだけど。 「ちょっと、言っちゃって良いの?」 「大丈夫だよ。一応信頼出来る人だから」 「一応ってなんだよ・・・で、名前は?」 「比那名居 天子。こう見えて天人ですよ」 「こう見えてって何よ」 「天人ねぇ。もっとこう物静かなイメージがあったんだが」 「ははっ、言われてやんの」 「うるさいわね・・・もう」 何だかんだで話が進む。 この雰囲気なら大丈夫か・・・ 「で、ここに来たのはお客としてかい?だったらちょっとだけ張り切るぞ」 「普段どおりでお願いします」 普段は大衆向けだけあって早い安い美味いの三拍子で里の中でも定評のある食堂なのだが、 この人が張り切ると見るも恐怖語るも恐怖なゲテモノってレベルじゃない料理が出てきたりするから困る。 「ちぇ、分かったよ・・・で、どれにする?」 「そうだなぁ、俺は・・・手堅く肉野菜炒め定食あたりかな。で、お前はどうする?」 「そうねぇ・・・じゃあ私はこの餃子定食っての」 「よーし、肉野菜炒めに餃子だな?ちょっと待ってなよ。すぐ出来るから」 ちなみに、ここの看板メニューが今の肉野菜炒め定食と餃子定食である。 野菜炒めは分かるが何故餃子なのか・・・そう言えば一度聞いたんだっけな。 そしたら『俺が好きだから』とか。滅茶苦茶だ・・・噂以上・・・ でもまぁ美味いからいいんだけど。 「ほれ、まずは肉野菜炒めだ。餃子はもうちょっと待っててな」 「本当に早く来るのね。驚いたわ」 「ここはこれがいいんだよ。待たずに美味いもんが食える。里でも人気なんだぞ?」 「ふーん」 キャベツ、人参、もやしに玉ネギと牛肉がバランスよく炒められている。 味付けは醤油にちょっとコショウが入ってる程度。 これがまたご飯が進むわけで・・・ 「・・・うむ、やっぱり美味い。いつもこの調子ならいいんだけどなあ」 「何かあるの?」 「・・・いや、何でもない」 「お待たせ。餃子定食だ」 そうこうしてるうちに天子の分も来たらしい。ほんとに早いな・・・ 見た目からしてパリっと焼けている。羽もいい具合に付いててこちらも食欲をそそる。 「で、これはどう食べれば良いのかしら」 「この小皿に・・・醤油とラー油を入れて、っと。その餃子にそれをつけて喰うんだ」 「ふーん、どれどれ・・・」 興味津々のまま餃子を口に入れる。 しばらく噛んでいたが・・・ 「どうだ?美味いか?」 「・・・美味しい」 「だろ?」 「下界の料理ってここまで美味しかったのね。知らなかったわ」 「まぁずっと天界にいたんだからしょうがないよな」 ほっとした。 何これ美味しくないじゃないとか言われたらどうしようかと思っていたがそんなことは無かったようだ。 しばらく飯を食いながら天界では出来ない話をだらだらと話していた。 やれ衣玖さんが小言ばかりでうるさいだとか やれどこぞの鬼が酒だ酒だとうるさいとか やれ某スキマ妖怪がからかいに来るだとか・・・ そうなった原因は全部お前にあるんだぞ? 「おいしかったわ。ありがとね」 「そりゃどーも。喜んでもらえて何よりだよ」 「で、いくらだっけ?」 「あー、今回は別に良いよ。お二人さんのデートに水は差すつもりもないしな」 デート・・・だと・・・? 「何がデートですか!そういうつもりでこいつとここに来たわけじゃ・・・」 「そーなのかー?俺から見たらお二人さんは結構お似合いだと思うんだがなぁ」 「そんなことないですよ!」 「そんなことないわよ!」 「説得力のない返答どうも。ほら、お代は気にしなくて良いから」 まぁそういうなら言葉に甘えておこうか・・・ それにしてもお似合い・・・?まさかそんな風に見られてるとはな。 「まぁ今日はありがとうございました。また来ますよ」 「おー。いつでも来いよー。天子ちゃんもなー」 今後こいつと来ることはあるのだろうか。 出来ればお断りしたいのだが・・・心配が尽きないし。 「うーん、何かもう満足しちゃったわ。今日はもう帰りましょ」 「いつもながら勝手だな。まぁ俺もその意見には賛成だが」 ・・・今日は何とか事無きを得たようだ。 次もまた行くことはあるのか?あるんだろうな。こいつの事だし・・・ -------------------------------------------------------------------------------------------- 「ふふ、お帰りなさいませ」 「あれ、衣玖さん?いつの間に」 天界に戻ったら衣玖さんが待っていた。 内心滅茶苦茶焦る。何言われるやら・・・ 「お二人で中々楽しそうでしたね」 「見てたんですか。混ざってくれてもよかったのに」 「そういうわけには行きませんよ。あんな楽しそうな雰囲気に水を差すほど私は鈍感ではありませんから」 さすが衣玖さん。空気は読んでいたらしい。 ですが俺の心も読んでほしかった。どれだけビビりながらいたことか・・・ 「それで、どうでしたか?総領娘様の様子は」 「そーですね、特にこれと言った事もなかったかな。結構楽しんでたようには見えたけど」 少なくとも俺の目には変な気を起こすような風には見えなかったな。 いつもの我侭もなかったし。 「そうですか。あの異変以来、あの方も変わられたようで」 「変わってくれないと正直困りますけどね・・・」 「他の方々が目を付け始めたから、と言うのもあるんでしょうが・・・やはり主な要因はあなたでしょうね」 「・・・へ?」 「あなたが総領娘様と一緒に過ごされるようになってから、大分楽しまれてるようですよ?」 「へ、へぇ」 「あなたと総領娘様、結構お似合いなのかもしれませんね」 「あ、あはは・・・下界に降りてる時も言われましたよそれ」 そんなにお似合いなのか。 ・・・そんな風に見えるのかな。 「さて、私はそろそろ総領娘様の方へ行かねばなりませんね」 「そうですか。それじゃあまた」 お似合い・・・ねぇ。 確かに、俺としてもあいつと居るのは何だかんだで悪い気はしないのも事実ではある。 変な気を起こさない限り、はな。 あいつはどう思ってるんだろう。 これであいつも同じ様な事を考えてたら正しくお似合いってわけだ。 ・・・まぁ、それもまた良し、か。 -------------------------------------------------------------------------------------------- 左京 種族:天人(くずれ) 天子は家系の問題で成り上がりになったり天人くずれになったりだが 左京は自分から家を出て自由の身になった。 漸と知り合いなのもそれが関係してたりする。 天子とは腐れ縁みたいな感じ。経緯こそ違えど似た立場である事にちょっと親近感が沸いてる。 そんなこともあってか衣玖さんに頼まれて衣玖さんがいない内は代わりにお目付け役になってる。 ちなみに冬月先生とは家を出た勢いで各地を回っていたが行き倒れになったところを 先生に助けてもらって以来友人に。暇になったら冥界に寄る程度。 こんな設定を勝手に作ってぼめんね!