「ふあぁ〜・・・あ゙ー眠ぃ」 先日完成した台本を持ってドキュメンタリーを撮影したのだが、 案の定収拾が付かない程度に大暴れしたせいでいろいろ大変なことになっていた。 それはもう言葉に出来ないぐらい。 「ったく、いつもの事とはいえ何でああまでなるかね・・・」 そう、いつものことなのだ。 撮影後の重苦しい疲労感と襲い掛かる強烈な眠気。 気を抜いたらすぐ倒れかねない。 「あーもう今日はさっさと寝るか・・・」 そう言いながら自分の部屋のドアを開けr 「・・・zzz」 「・・・先客が居るってどういうことなの」 ・・・全く予想できなかった。 自分の部屋のベッドの上でカナがぐっすりと寝ているなんて。 「ちゃんとお前の部屋あるだろうに・・・ほんとにどういう事なんだか」 しかしまあこうまで熟睡されると起こすのも気が引けるというもの。 だが起こさないと自分の寝るスペースがないともいう。 ・・・仕方ない、良心が痛むが・・・ 「おい、カナ・・・そこは俺の寝るとk」 言い終える前に視界がぐるりと回った。 い、一体何が・・・ 「・・・zzz」 「こ、こいつ・・・!」 寝てるというのに俺をベッドに引きこんで・・・! しかも抱きつく形で・・・! 「全く、こいつは抱きつき魔か・・・騒霊はどこ行ったんだ」 そういった直後、カナが体を寄せてくる・・・というか、体全体がくっついてないかこれ? それに気付いた瞬間・・・まぁ、ベッドの上だったこともあるんだろうな。 俺は意識を手放した。 ------------------------------------------------------------------------------------------- 夜が明けて。 ・・・まだ何か体にぴったりくっついてるような感触がするんだが・・・? まぁいつまでも寝てるつもりもないので体を起こ・・・せない。 「っへへー。おはよう、やみなべ」 こいつか・・・ 「人を勝手に抱き枕にするな。ほれ、離れろ離れろ」 「ん〜私まだ眠い〜」 「惰眠をむさぼる騒霊なんて聞いたことないぞ」 「んじゃあ私が初めてね。うふふ、何か嬉しい」 「何がだよ、ほれ、さっさと起きろっての」 引っぺがそうとしてもこびりついたようになかなか離れない。 全く朝から何なんだ・・・ 「・・・ねぇやみなべ」 さっきまでの明るい表情とはうって変わって少し寂しそうな表情で呼ぶ。 「ん、なんだ?」 「・・・やみなべはさ、この館にずっといるつもり?」 「何をいきなり言うかと思ったら・・・そうだな、他の場所に移る気はまぁ今はないな」 「・・・そっか」 何が聞きたいんだろうか・・・ 「ねぇ、昨日は帰ってくるの遅かったじゃん」 「まぁな」 「昨日の夜・・・ずっと1人でこのベッドの上にいて・・・」 「そりゃあまた何で?」 「・・・」 途中で言葉が止まってしまう。 表情もだんだん暗くなり、顔もうつむいてしまっている。 「・・・どうした、カナらしくないじゃないか。言ってみろって」 「・・・うん」 そういうと、カナは少しずつ話を始めた。 「・・・昨日からずっとここにいたのはね・・・多分、寂しかったんだと思う」 「・・・寂しかった?」 「うん。いつもだったら居るはずなのに、昨日はいなかったんだもの」 「そりゃあ俺だってどこにでも行ったりはするさ」 「でも昨日はいなかったじゃない。それで・・・多分すごく寂しくなって。気がついたらここにいたの」 「・・・そうか」 「何でこんなに寂しく感じちゃうのか・・・私なりに考えた。やみなべが来るずっと前からここには人が住んでて、私もここにいた。 私はその人達を驚かせたりしてたわ。それが楽しくてしょうがなかったから」 「ふむ」 「でもある日、その人達がいなくなったの。何処かに引っ越したんだろうって思った。それだったらまたいつかここに人が来て、 その人達を驚かせばいいわって思ってた。・・・でも、何時まで経っても誰も来なかった」 「・・・まぁ、それはそこに住んでた人達が幽霊屋敷だなんだって騒ぎ立てたんだろうさ」 「その通りよ。いつの間にかここは幽霊がとり憑いた屋敷って里で騒ぎになってた。その頃は怖いモノ見たさで来る人達が ちらほら来たけど、それもすぐにぱったりと来なくなったの。本当にみんなから忘れられてしまったのよ」 「なるほどね」 「・・・静かなことが、こんなに寂しかったなんて思わなかった。だって、ずーっと私は騒いでて、ここに住む人はそれに反応してくれて。 誰もいない屋敷で騒いだって、返ってくるのは静寂だけ。すごく寂しくて・・・つらかった」 「・・・そこで俺が来たと」 「そう。・・・嬉しかった。あそこまで嬉しかったのは多分これまで一度もなかったわ。また人が来てくれたんだ、って。 でも同時に・・・この人もすぐにここを出て行くんじゃないかって最初は思った」 「でも、俺はどこにも行かずここに住み始めた」 「うん。そんな心配をする必要がなくなって、私ははしゃぎ回ってた」 「だからあの日はあんな騒がしかったのか」 「あなたがここに住み始めてから、楽しくない日なんてなかった。でも昨日は違った」 「俺が一日中家を空けてたから・・・か」 「またあの日が戻ってきちゃうんじゃないかって一日中思ってた。・・・怖かった。そう思ってたら・・・ここにいた」 「寂しさを紛らわせるためにか」 「・・・うん」 ・・・なるほどね。 普段から騒がしいのは寂しさを隠すためか。 そんなことだったとはな・・・ よし、ここはひとつ・・・ 「全く、ほんとにらしくないな。言っただろ?俺は他の場所に移る気はないって」 「ほんとに?」 「本当だよ。心配するな」 「う・・・う・・・」 「・・・ふむ。いつもされてるからな・・・じゃあ今度は逆に俺からしてやろうか」 「・・・ふぇ?」 「そりゃっ」 今回は逆に俺がカナを抱きしめてやる。 「う・・・ぇ・・・?」 「ふふん、どうだ。お前がいつもやってることをやり返してやったぞ」 「・・・ふふ・・・」 「ん?どうした?」 「もう、顔真赤にしながらそんな事言ったって何にもならないじゃないの」 「はは、バレたか」 恥ずかしさが先行し過ぎていたらしい。 顔にモロに出ていた。 「・・・これだったら、もう一歩先に進んでも大丈夫かな」 「ん?何を言ってるんだ?」 「ねーやみなべ。ちょっとこっち向いて」 「何だ?」 また企んでるのかこいつ・・・ って、何か顔が近づいてきて・・・ ちゅっ 「・・・う・・・ぇ・・・?」 「へへー、とうとうしちゃった」 おい、今、何を 「何を・・・」 「もう、言わなくても分かるでしょ?」 いや、そういう意味じゃなくてだな 「ついでに言うわ。まぁこれはやみなべからは絶対に言いそうにないから言うことなんだけど」 「なんだよそれ」 「・・・私、やみなべの事好きだから」 「んなっ・・・」 「ずーっと前から・・・もしかしたら初めて会った頃からかもね」 おいおい、どうなってるんだ・・・ 「ふぅ、やっと言えた。ずーっと言えないでいたままだったんだから」 「それだからずっと抱きついてたりしてたのか」 「まぁね。キスまでしたらさすがにアレかなーと思ってしなかったんだけどね。とうとうしちゃった」 「じゃあしようと思ったらしてたのか」 「うん」 そこまで思われてたとはな・・・ 「・・・ねぇ、もう一回・・・してもいいかな」 「・・・しょうがないな。もう一回だけだぞ」 「・・・うん」 --------------------------------------------------------------------------------------------