「ん〜、こんなもんかなぁ」 息抜きを兼ねた製作物もとりあえず完成を見た。 「あとは・・・誤字脱字のチェックだけでいいか」 製作物といっても、本業であるサッカー監督として選手達の動向をこうして軽く纏め上げて、 後々ドキュメンタリーとして公表するための台本みたいなものである。 あってないようなもの、とは参加者の談ではあるが。 「・・・これは後でもいいかな。一回日を置いてまた後で見直すのも手だし」 そういって、投げるようにペンを机に置く。 ・・・決して面倒臭くなったからとかそんな理由で終わらせたわけではない、決して。 「さて、どうしたものか・・・」 ずっと同じ部屋にいたからか、妙に空気が重い。 「・・・晴れてるし、外に出てみるか。気分転換にもなるでしょ」 席を立ち、ドアノブに手を掛ける・・・が。 ドアの向こうから殺しきれていない気配がする。 「・・・はぁ・・・カナ、そこに居るんだろ?モロバレ」 「ちょ、そこは分かってても言わないのがお約束でしょ!?」 案の定、向こうから声がした。 ・・・隠れるにしても、もうちょっとうまく隠れてほしいものだが・・・ 「むーっ」 ドアを開けると、ふくれっ面でいかにも不機嫌そうにカナが立っていた。 「あのなあ・・・本気で驚かそうとするならもうちょっとうまく隠れてくれよ。こっちも面白くないぞ?」 「何よそれー!ああっ、私ってば遊ばれてるのね!?ひどい、やみなべってそういう人だったんだ!?」 「おーおー好き勝手言いなさる。冗談だってのも分からないのか」 「冗談だったの!?」 こんな会話も日常茶飯事。 まったく、二つ名通りの騒がしい子だよ。 ・・・まぁ、そこがいいんだけど。 「もー・・・わかった、私の知るあなたの唯一の弱点を突いてやるんだから!」 「ふーん?一体何をしてくれるのかな?」 「それは・・・」 カナが身構える。 一体何をするんだろうか? 「これよっ!」 ・・・って 「うわ、ちょ、それは待」 「今更言ったって遅いんだからー!」 他人の腕に体を締められるこの感触。 伝わる息、体温。 そして・・・この顔の近さ。 ・・・つまり、抱きしめられている。思いっきり。 「もー相変わらず免疫ないんだからー。このこのー」 「な・・・ちょ・・・」 こんなことをされると言葉も出なくなる。 どうしてなんだろう。自分でもよく分からない。 「えっへへー。驚かせたから私の勝ちね!」 「か、勝ち負けの問題なのか・・・これ・・・」 「いい加減これぐらい平気になりなさいよー。あまりこの手には頼りたくないのよー」 「だからそういう問題なのかよ・・・っての」 ・・・しかし、カナの顔を見てると妙に嬉しそうな感じがするんだよな。 何なんだろうか。 「な、なぁ・・・そろそろ・・離れないか?」 「何よー。そんなに私に抱きしめられるのが嫌なの?」 「そ、そういうつもりじゃないんだが・・・」 「じゃあしばらくこのまま!」 「ワガママな奴め・・・」 ------------------------------------------------------------------------------------- 捏造設定 やみなべ 人間 誰も住まなくなった洋館に引っ越した、霊感が強すぎる以外は普通の人間。 ここに来るまでは1人を好んでいたが、カナに会ってからは考えが変わっている様だ。 霊感が強すぎるので、ただ「霊感が強い」人には感じられない霊の息や体温まで感じてしまうらしい。 女性との付き合いがこれまでほぼ無かったのも合わせて、そういった事に直面すると妙に恥ずかしがる。 ちなみに、この洋館にはカナ以外にも霊が取り付いているらしく、 そのうちの1人が某烏天狗にカナとやみなべの関係をリークし、 二人が方々から注目を浴びると同時に某烏天狗に徹底マークされているのはまた別の話。 「そんなことは気にしないし気にする必要もないわ」とはカナの談。