「ここになります」 「ああ、ありがとう」 図書館の入り口に着くと妖精は一礼して去っていった 優秀な子であるが結構恥ずかしがりやらしい 妖精としては多少珍しいタイプである。 「失礼しまーす」 ガチャ、ギギギギギ…と古めかしい音を立てて扉が開く。 豪奢なつくりの両開きの扉は中にあるものの神秘性をかきたて、 不安と希望を来訪者の胸に灯す。 そんな扉が開き、中から見えてきた光景は… 「…」 猫ではなくなっているが、猫耳つきで子供になっている永久と 「〜〜〜♪」 満面の笑みでそれを抱きしめ、耳をもふもふしているアリスであった。 神秘性、台無しである。 「あら、今日は客が多い日ね」 ふわり、と現れたのはこの図書館の主、パチュリー。 ゆっくりと風に乗るように飛ぶ彼女は来訪者にもそれほど気を払うことなく マイペースに自分の席に戻る。 「あ、こんにちは…ってこれ、なにがあったんですか…?」 「とりあえず、猫じゃなくなっていますが…」 慌てて挨拶をする左京。 そのあとをついで妖夢が疑問を口にする。 周りも皆同じ思いなのか、パチュリーのほうに視線を向ける。 視線の集まる中、パチュリーが静かに口を開いた。 「そうね…簡単に話すと…まず、アリスはの相談は猫状態をなんとかできないか、ということ」 「まあ、そうでしょうね…それで、方法はあったんですか?」 うなづいてパチュリーは話を続ける 「この異変の状況的に完全に戻すことは難しい、まず最初にそれを伝えたわ。  皆がこうなっている事を考えると戻ったとしても直ぐにまた耳とかはつきそうね」 ちょいちょい、と自分の耳を指差し、ぴくぴくと動かしてみるパチュリー。 紫がかった耳は自然界ではありえないのだが、彼女にはぴったりである。 魔法使い3人組は皆猫だが、周りのイメージなのか、それとも魔法使いたちの性質なのだろうか。 「でも、それを越えた部分なら戻せるかもしれないし、まずは普通に魔法破りを試してみたのよ  どうなるか興味はあったし」 「興味本位ですか…」 「探究心旺盛なのは魔女には必要なことよ」 何事もないかのように答えるパチュリーに左京は少しだけ永久に同情する もっともそれくらい乗り越えられないようでは幻想郷、それも曲者ぞろいの渦中にはいられないのだが 「面白い体質ね、受けた魔力を吸って蓄えている感じだわ。  だからこそあの森の瘴気でもまったく平気なのでしょうね。  …むしろ彼にとっては魔力を蓄えられるああいう場所のほうがいいのかしら。  そのせいで変化する魔法の影響を取り込んで大きく受けがちみたいだけれども」 興味深そうな表情で語るパチュリー 「え、えっとそれで先ほどの魔法破りのほうは…」 「ああ、そうね」 知識の探求者の顔で語るパチュリーに少したじたじになりながらも妖夢が聞くと 何事もなかったかのようにパチュリーは元の話に戻る 「結論から言えば大体は成功したわ、猫からは戻ったしね。  耳と尻尾はダメだったけども、そこは大体予想範囲内。  さっきも言ったとおり原因のほうを取り除けば戻るんじゃないかしら。  もっとも今回起きた事、過去起きた事、彼の性質を考えると猫耳が出る体質になったりするかもしれないけど」 「難儀な体質ねえ、面白いけど」 普通ならなさそうなことだが実例があるだけに否定しきれない。 影響を受ける本人意外にしてみれば他人事、見てて面白いものなのかもしれないが。 「それで、そのときの衝撃のせいなのかしら、同時に子供になっちゃったみたいで。  見事に猫耳男の子が誕生したわ。  そういう属性の人はいちころかしらね」 もともと魅力の上がる子供化に猫耳がついて倍プッシュだ! …かはわからないがその手ののお姉さんに可愛がられそうな状態になっている 「そういえばアリスさんは結構可愛いものが好きなんでしたっけ」 可愛い人形が部屋にたくさん置いてあるように人前ではあまり見せないが結構可愛いもの好きなアリス。 永久が初めて子供化したときも1時間くらい離さなかったのである。 多分今回も似たように暫くは離さないであろう。 永久は諦めているのか抵抗する事もなく抱きつかれている。 好きな人に抱きつかれている状況なのだからある意味役得なのかもしれない。 「しかし、今日は抱きつく人をよく見る日なのかしら」 「え、それはどういうことですか?」 パチュリーの言葉にまさかさっきの事を見られていたのかと慌てて聞き返す左京 「あれ、よ」 す、っと図書館の少し隅になったところを指差すと… 顔を真っ赤にしてオーバーヒートしたやみなべと それをはさんでじゃれている猫耳の小傘とカナがいた。 割と精神まで猫になっているのかごろごろとやみなべに甘え… 甘えられるたびにやみなべがびくん、と反応するが割りと長い事続いていたのだろう 騒いだりする気力はないようである。 「あれは…」 少しうらやましそうに見る妖夢 「ああ、あの人たちの事だったのか…」 少しほっとしつつそれを見る左京。 「べったべたね…」 くっついているのを見て顔を赤くする天子 もじもじと、目が泳いでいるところを見ると それそのものの事よりも先ほどの事を思い出して赤くなっているらしい 「どうしてああなった…」 冬月が呟く 「最初は取材と称してきていたのだけど、本当は逃げてきてた見たいね。  あせって逃げたせいか、気配を消しきれていなかったようだけど。  ここに隠れていたところにあっさりつかまってじゃれ付きが始まったわ。  2人とも精神のほうに影響を受けたタイプ、こっちも少し珍しいわね。  もっとも…どこまで本当かしらね」 くす、と微笑むパチュリー 2人は本当に猫になっているのか それとも甘えようとすると逃げるやみなべにこれ幸いとくっついているのか それは本人達にしかわからない。 「いつごろからですか?」 「1時間くらいはやってるかしらね」 そんなに放っておいたのか、と一同思いつつも。 仲がいいのはよいことだ、と放置することにしたようである。 関わり合いになりたくないのかもしれないが。 「さて、と それで、あなた達はここになにをしにきたのかしら?」 話しに加われるような状態ではない2組はおいておいてパチュリーが質問を投げる 「あ、それは…」 「異変の調査に来た、のよね。ご苦労なことだわ」 「あら、レミィ」 ふたたび話が始まろう、というときに入り口のほうからここにいる誰でもない声が聞こえた はっと皆がそちらのほうを見る中、特に慌てる事もなくパチュリーが声からその主を把握し、慣れ親しんだ友人の名前を口にする 「咲夜から聞いたけれどもなかなか面白そうな事をしているじゃないの、と思ってね  パチュリーとお茶がてら今の状況でも聞いてみようかと思ったのよ」 そのまま大きめのテーブルに座るレミリア。 するといつの間にか、人数分のお茶が用意されていた。 「さ、さすが咲夜さん、早いですね…」 あまりの早業に感嘆する妖夢。 少しションボリしているところを見ると、 能力の関係で仕方ないとは頭で理解しつつも従者としての能力差に少し打ちのめされたらしい 「さて、お茶会と行きましょうか」 レミリアの言葉で、なし崩し的にお茶会にはいっていくのであった。 「あっはっはっはっは! そんな大事な剣を無くすなんて…注意力が足りないわよ?」 「う、うるさいわね! ちょ、ちょっと別の事に気をとられていただけよ!」 「いったい何に気をとられていたのかしら?」 「うぐ、ど、どうでもいいじゃない! そ、それよりあんたは何で何もついてないのよ!」 「多分、羽が最初からついているからではないでしょうか?」 「私にそんなものは効かないのよ! と言いたいけれどおそらくそうね。  何らか種々の動物に似ている部位があると効かないのかしら」 こと、会話となると男性より女性のほうが話すことが多い。 女性陣のほうが数が多いこともあって会話は自然と女性中心に展開していく。 と、そうなっていくと話は色恋沙汰などにも及ぶわけで… 「そういえば、妖夢はあそこの半人半霊とどこまで行ったのかしら」 ぶっ、と飲んでいたお茶を噴出す冬月。 目の前にいた左京は突然の発言と行動にさけることも出来ずに引っかぶってしまう 「冬月ー…」 「げほっ、ごほっ、すまん…っていきなりなんですかレミリアさん!」 恨めしげに冬月を見る左京に謝りながらも咽ている冬月。 「あっちに洗面台があるわ、顔を洗ってらっしゃい」 「すみません…貸してもらいます」 パチュリーに促されて左京は顔を洗いに行く 「それで、どうなのよ?」 「えっと、どこまでって…」 顔を赤くしてあわあわと手をばたつかせる妖夢 「ちょうど今は女性と愛しの彼しかいないわ、さあ、話しなさい!」 「ちょっと待ってください、何でいきなり!」 そのまま押していくレミリアに冬月が食いかかる 「あなた達が仲がいいのは有名だもの、冥界の従者カップルってね」 冥界から2人が出てくることはすごく多いわけではない。 だが、でてくるときには2人揃っていることも多く… 2人をよく知る人にとってはばればれかついまさら、なことであった。 「それで、キス位したのかしら?」 パタパタと羽を羽ばたかせながら聞くレミリア 2人をいじる気満々なようである。 もっとも、周りもまったく止めないところを見ると便乗して聞いてみたいという心はあるのであろうが。 「え、えっと、えっとそれは…」 瞬間湯沸かし器のように真っ赤になる妖夢 「な、何で言わないとならないんですか!」 同じく真っ赤になりながら抗議する冬月 そんな態度をとっても周りに可愛いとかからかいがいがあると思われるだけなのだが。 「そ、そんなこといってるレミリアさんはどうなんですか?」 「私が? そもそも誰が対象なのよ?」 冬月の反撃にわずかに不機嫌そうに答えるレミリア 「えっと…岡さんとか?」 「そういえば、岡さん、見ませんでしたね、大概何か騒ぎがあった場合借り出されるんですけど」 いろいろと心当たりを探り、1人の名前を出す冬月に ちょうど戻ってきた左京がいつも借り出されている彼の姿がないという疑問を口にする。 「彼は従者よ、現に今も門の装飾部分を用意させてるわ、そのあたりは1から作れないもの」 ふう、と息を吐きながら答えるレミリア 「彼はからかうと面白いのよね、以前後ろから抱き付いてみたら慌てた挙句壁に激突していたし」 そんなことしてたのか…と思うお客連中4人。 だがパチュリーはちょっと違う考えがあるのかふう、と息を吐いた 「あー、でも最近あんまり反応がよくないのよね、抱きついてみてもこっちにさせるままで慌てないし。  冗談でキスを迫ってみてもやんわりとお戯れを、ってやんわり断られたし…  なんか次の手でも考えないとならないかしら」 腕を組んで考え始めるレミリア 冬月と妖夢は話が逸れて助かった…と思いつつも 周りの人間と同じくあれ?と思い始めていた 「うーん、そうねえ、折角彼にも犬耳と尻尾がついてるし、  もふもふしてやれば驚くかしら?  やってみるのも面白そうね」 にや、と笑いながらそんなことを話すレミリア。 少し自分の世界に入っている間に左京がパチュリーに耳打つ 「(パチュリーさん、あれってもしかして…)」 「(大体、想像しているとおりだと思うわ。素直じゃないのよレミィは)」 「(な、難儀ですね…)」 「(下手に主人としてスキンシップ取っちゃったから、慣れられちゃったのよ   正面から行けばいいだろうに)」 ひそひそと話し合う2人 「そこ、何を話してるの!」 「なんでもないわ、レミィ、異変のことを耳打ちしてたのよ」 「そうですね、そちらの話をしてよいですか?」 その行動に文句を飛ばすレミリアだが パチュリーがのらりくらりとそれをかわし、左京も顔色を変えずにそれに合わせる。 度胸の据わっている2人であった。 「そうね…異変が解決したら出来ないし、そちらも話があるでしょうしね、早速からかってくるとするわ」 ちょっと話がずれているもののどうやら異変の話は任せてからかいに行くようだ。 早くもふもふとやりたくて仕方がないのかもしれない。 「そうそう、異変ね。 今日は僅かだけど、月の力に異変がある感じがあるわ、何か役にたつかもしれないわね。  じゃ、がんばって解決してきなさいな」 そういい残してレミリアは図書館から退出していった。 「月の力?」 「ふーん、私の感覚は勘違いじゃなかったみたいね、どうやら」 レミリアの言葉に妖夢は頸を傾げるがパチュリーには心当たりがあるらしい 「どういうことですか?」 「ほんの僅かだけど、この異変に働く力、月の力があるような気がするのよ」 「月の力というと…」 月に関係の深い場所、というと… 「永遠亭?」 「が、可能性は高そうね 以前月から隠れていたといっても月に近しいもの、月の力の使い方はわかっているはずよ  少なくとも、何の手がかりもなしに行くよりはいいと思うけど?」 「そう、ですね いきましょうか?」 「問題ないと思います」 方針はまとまった。 確かに現状手がかりがない以上、闇雲に探すよりは良い筈だ。 「すみません、お世話になりました」 「本を持って行ったりしないのならいいわ、解決できるといいわね」 パチュリーにお礼を言うと、4人は一路永遠亭を目指すのであった 一方そのころ… 「岡! 耳をもふらせなさい!」 「いきなりなんですかレミリア様ー!」 宣言どおり、レミリアは岡の背後から奇襲で抱きつき、耳と尻尾をもふもふとしていた。 抱きつかれるのには慣れていても普段とは違うやり口に少し岡も戸惑っているらしい。 「また割りといつもの、ですね」 近くにいたメイド妖精がため息をつきながら語る 「いいなー、岡様に抱きつけるの。今度私も試してみちゃおうかなあ」 「あ、私やったことある、頭撫でてくれたよ」 「あ、いいなー」 そのままじゃれ合っている2人を見ながら、周りのメイドがうらやましそうにしている。 何気に、岡は面倒見のよさからメイドの中にも好意を寄せるものが多い。 岡はここで門の飾りの作成と在庫の確認をしていたのだが、 手伝っている妖精は特に岡が集めたのではなく、ついてきた者たちがほとんどである。 そんな中でも積極的な妖精などが抱きついたりしているせいで余計に岡には耐性がついていっていたりもする 「いいじゃないの、折角耳と尻尾ついているんだし、主の要請よ」 「ず、ずるいですよレミリア様!」 「2人とも、もっと素直になればいいでしょうに…」 いつもよりも楽しそうなレミリアにまんざらでもなさそうな岡を見て 周りより少し大人びたメイド妖精がはあ、とため息をついた。