道に沿っていき、里に近づいていく。 里に近づくたびに少しずつ人影が増えるが… 「こりゃまた、動物園みたいだな」 冬月がそうこぼす。 その言葉どおり、道行く人々は猫に犬に熊に…選り取りみどりの耳つき。 帽子などで隠していて見えない人もいるが おそらくは何かしら耳やそれに類するものがついているのだろう。 それでも大きく動じている人が少ないのが幻想郷の幻想郷たる所以なのかもしれない。 「それで、昨日はどこに行ったんですか?」 「いや、別に商店街を回って見たり茶店にいったり…」 頭に手を当てながら考える左京。 考え込んでいたか、と思うと突然はっ、と顔を上げた 頭の耳がピン! と立ったのはご愛嬌である。 「そうだ、閣下の雑貨屋にもよったんだ! あそこなら人があつまるから、手がかりがあるかも!」 「ああ、あそこなら確かにいろいろ集まるな…トラブル含めて」 閣下の雑貨屋。 りるるが働いている里の雑貨屋の事である。 店主は彼ではなくあくまでも店員なのだが、その性格と人柄に惹かれる人は多い。 店主が比較的物静かなのもあって、看板的な存在となっているのである。 雑貨を買う以外にも雑談に興じたりする人も多い、大体の場合において人の多い店であるが さすが幻想郷というか、そういうところの多分にもれずトラブルの発信地の1つでもあったりする。 「まあ、確かに情報も集まりやすいし…いってみるか?」 「そうですね、いってみましょう、知り合いにもあえるかもしれません」 落し物がどこにあるかわからない状態で闇雲に歩くことは得策ではない。 そう考えた冬月は雑貨屋に行くことに賛成。 妖夢もそれにつき従う形で賛成。 結局雑貨屋に以降、ということでまとまる。 「…私をおいていかないでよー!」 3人が向かう中であとに残ったのは 暴露された恥ずかしさから 耳の毛を逆立て、顔を紅くした天子だけであった……。 「おそろいー♪」「おそろいです〜♪」 雑貨屋についた4人が店の前で見たものとは! 翼をはためかせながら店の前でぐるぐると手をつないで回っている白リリーとりるるの姿であった。 どうやらりるるに生えたのは耳ではなく翼であったらしい。 さすがに飛ぶことに使えるわけではないようであるが。 「お、おーい、閣下ー?」 「あれー? 冬月先生? どうしたのそんなに皆をつれて?」 さすがに声をかけると気がついたのか、ぴたっと回るのを止め、停止する。 しかし、今まで白リリーと2人で回っていたわけで、そんな状況で止まると 「わぷっ」 反応できずに、当然ぶつかってしまう。 ぼふん、と音を立てて白リリーがりるるの背中にぶつかった。 「あ、ごめんごめん」 「大丈夫ですよー」 頭をかいて謝るりるるに笑顔で答える白リリー ここだけ春である。 「…相変わらず仲がいいな」 「さすがは万年新婚夫婦」 「ああいう人がいるのはちょっとうらやましいかもしれませんね」 「う、うらやましくなんてないから!」 その春パワーに当てられたか 少しだけうんざりしたように2人を見ている4人組。 言葉では否定している人も耳がぴくぴくと動いているところを見ると、 なんだかんだでそれがうらやましいのだろう。 「ところで、何の用ー?」 「いらっしゃいませなのですよー」 微妙に店員の自覚が無い様な発言をするりるるにちゃんと店員をやっている白リリー。 もっとも幻想郷の店には店員の自覚が無いような店も多いのだが。 たとえば某外界のものがある半妖の店とか。 「いや、昨日来た時、緋想の剣とか置いていかなかった?」 「店が終わるころには片付けるけどー、多分なかったんじゃないかなー?」 「この店は武器の類は扱っていませんからね〜」 「まあ、あったら騒ぎになってそうだしな…ここだと」 「どういうことなんだそれはー!」 抗議するりるるであったが、良くも悪くもここはイベントが多い。 そこにそんなものがあれば…ほぼ間違いなく何かしらの騒ぎになっているはずだ。 現状幻想郷中が騒ぎなわけではあるが。 「あら、あつまっているわね」 「あ、アリスさんいらっしゃーい」 そんなところに姿を現したのは人形士、アリスであった。 アリスなども細かいものを買うためにここを利用している者の一人である。 「残念だけど、今日はここに買い物ではないのよ、通りがかっただけでね  なんだか人が多いよいだから、声をかけてみたのよ」 「書BOO〜、それは残念 どこかいくのー?」 「ちょっと図書館へ、パチュリーのところにね」 口ではそういいながらも別にしょんぼりとはしていないりるる。 行き先を問うと別に隠すような場所でもない、 アリスからはあっさりと答えが返ってくる そこに口を挟むものもいて 「…普通に会話しているから突っ込みませんでしたが、やっぱり猫耳ついてるんですね…」 「この状況でいまさら恥ずかしがっても、ね」 ふう、とため息をつくアリスにくっついているのは猫耳であった。 正直これだけの人に耳がついていれば、だんだん慣れてくる。 いつもどおり担っている会話を切り裂いたのは 低い位置から意外な一声が聞こえてきたためだ。 「にゃーん」 「あれ〜、猫ですか?」 低いところにいたので誰も気がついていなかったのだが、 1匹の猫が地面にちょこん、と座っていた 「ファミリアーでしたっけ、それでも召還したのでしょうか?」 「でも、あなたいつも人形を使っているわよね、そこにさらに入れるのかしら?」 「シャンハーイ」 上海人形がフルフルと首を横に振る。 完全に自立していないとはいえ、上海がわざわざ嘘をつくこともない。 とすると、これはファミリアではないのであろう。 「…僕、なんかやな予感がしてきたんですが」 とある変化を起こした人のことが頭をよぎる 「それの中身、まさか…」 まさか、と思いつつも否定しきれなず、アリスに答えを求める 「ええ、あれ、永久よ…」 「「「「「「なにぃ!」」」」」」 テロロローン やっと時が動き始めた。 「…で、なんでそんなことになったんだ? 猫は注目していても逃げない。 中身は永久なのだから当たり前といえば当たり前だが、 どうやら精神的には影響を受けていないらしい。 話すことは出来ないようだが。 「…子供になったときと同じかしらね…また厄介ごとが増えたわ、はあ…」 「だから図書館に行ってみるつもりだったんですね、調べたり相談に」 ため息をつくアリスに同情的な視線が集まる。 「なーに?そんなになっちゃってー」 「天子、あんまりからかうのは…」 そんな中ひょい、と永久の首根っこをつかんでつかみあげていう天子 「情けないわねえ、ここまで変化してるなんて」 基本敵にはそこをつかめば猫はおとなしくなる しかしこの猫の中身は人間なわけで… バリッ! ギャー 「……ま、大丈夫だろ…」 「わー、天子ー!」 やれやれ、といった顔で見る冬月、慌てて駆け寄る左京。 いろいろあるが今日の小さなトリビアはこれだろう 『猫の爪は天人の皮膚を貫ける』 「さて…手がかりが途切れてしまったわけだが…」 気を取り直して話を再開する冬月。 「そうですね…これだけの力を持った異変となりますと、それ相応の力を持っていないとならないはず」 妖夢が現状をまとめ始める 「そうすると〜、知っている限りでは紅魔館とか。白玉楼とか、永遠亭とか、山の神社とかもかな〜?」 力の強い人を何人か、ピックアップしてみるりるる。 「それなら〜、アリスさんもいますし、とりあえず紅魔館に行ってみたらどうですかー?」 そこにリリーの提案が入る。 「私は構わないわよ、ただ、悪いけれど私は私のほうの用件を優先させてもらうけど」 「にゃあ」 丸くなった永久を持ち上げながら答えるアリス。 信頼しているのか、普通に持ち上げられ声を漏らす永久。 「なら、とりあえずいってみよう!」 最後に、冬月がまとめ、次の方針が決まったようだ。 「先にこっちを何とかしてくださいよー!」 あとに残ったのはそういいながら天子の解放をする左京と、 有名なやられポーズで横たわる天子だけであった。