ん…」 東の窓から光が差し込む。 今日もまた太陽が天へと昇り、一日の始まりを告げる。 鳥の声が、少しうるさいほどに聞こえてくる、そんな朝。 「…朝かあ…」 青年、左京というその青年はその太陽の光と鳥のさえずりで目を覚ました。 何の変哲もないいつも通りの朝。 普段と比べると少しだけ、外がうるさいような気もしたが、気になるようなものでもない、そんな日 「ひとまず、顔を洗おうかな」 布団から体を起こしすと、そんなことをいいう。 少し寝ぼけた頭で何の気なしに頭に手をやると もふ 「…なに、この感触…」 何かもこもことした毛皮に触ったような感触。 ありえないはずの感触に、おそるおそる、もう頭に1度手を伸ばす もふもふ 「い、いったいこれは…」 この、なんともいえない暖かなもこもこ感。 頭から感じるぴん、と天を衝いているものの感覚。 そして、確かに触ったところから感じるこの毛皮のようなさわり心地。 それはまさに、耳であった。 それも人ではなく猫とか犬の類のものである。 「なんじゃこりゃあああああああああ!」 左京が絶叫すると、近くにいた鳥達がばさばさと飛び去っていった。 人間のように見えるが左京は人間ではない。 天に生まれ、天上にて暮らす天人と呼ばれるものである。 ……もっとも彼は天の暮らしに嫌気が差したのか、こうして地上にて果樹園を営んで暮らしているのだが。 本当の理由は本人しか知らず、そして、決して語ろうとはしない。 ……とはいえ、天人の体の見た目の構造は基本、地上の人と同じである。 耳も人間と同じものであって、断じて今ついているようなもこもこな耳がついているわけではない。 「と、とにかくまずは確認だ」 洗面台に行き、鏡に自分の姿を映してみる。 頭についていたのは犬…というより猫だろうか、左京にはあまり細かいことはわからなかったが。 とにかくふさふさとした耳が見事に頭の上についている。 ちゃんと音も聞こえているようで力をこめてみるとぴくぴくと動かすことも出来る。 「なんでこんなになってるのー!」 変なものを食べた覚えは…ない。 変な魔法実験に付き合ったりは…していない。 変なことに巻き込まれては…いるけどこういう変化の起こる心当たりはない。 そんな思案を続ける左京の考えは、長くは続かなかった。 「さきょーーーーーう!」 「うわっ!」 ばん! と扉が開き、何者かが勢い良く突進して来た。 考え事をしていた左京はそれを避けられない。 そのまま突進してきた者と一緒に ドスン! と床に倒れこんだ 「い、いきなりなにを…って、天子?」 「左京、左京大変なの!」 ガクガクガクガクと左京を前後に揺さぶる天子 慌てているのか揺さぶり方に容赦がない、このままでは天子のせいで返答ができなくなってしまいそうだ。 「ちょ、ちょ、落ち着いて…」 左京は何とかそれを静止して、振られたことで少しくらくらした頭を振って意識をはっきりさせるる。 そうしするといままで気がつかなかったことに気がつく。 「あれ、その頭…」 「そう、それなのよ!」 「朝起きたら耳が生えてたのよー!」 天子の頭に生えていたもの、それもまた見事な耳であった。 「天子もなのか…」 「左京もなのね、なんかちょっと安心したわ 仲間がいたみたいで」 「あんまり安心してる場合じゃないと思うなー」 目の前で動く耳が気になって試しにもふもふと天子の耳をいじってみる。 指が少し触れるたびにぴくぴく、と耳が反応する。 それが面白くて、ついつい左京が何度もいじっていると 「ちょ、ちょっと、くすぐったいから止めてよね…」 少し顔を紅くした天子が左京を睨んでいた。 「あ、ごめんごめん つい気持ちよくって」 「まったく、こーんなかわいい女の子の体に無断で触るなんて」 「ごめんってば」 手を離す左京に耳を押さえながら言葉で噛み付く天子。 本気で言い合ってはおらず、このくらいはいつもの事である。 「で、これに何か心当たりとかない?」 「えーっと…」 本人は隠しているつもりなのかもしれない。 だが親しくなくてもわかるだろうくらいに明らかに少し視線を泳がせる天子の態度に (なんかあるな…) 左京はすぐにこの事件へのかかわりを、あるいは心当たり感じ取る。 あまり事が大きくなるとまた大変なことになってしまう。 大変なことになる前に早めに聞き出しておこうと 「天子、何か…」 追求を行おうとすると コンコン 「あれ、お客さんか?」 それと同時に玄関を叩く音がした。 この朝早くに誰だろうと考えつつも、ひとまず追求を止めて、玄関の扉に向かう左京 後ろで天子がほっとしていたように見えたのは多分気のせいではないだろう。 「はい、誰で…」 「さきょぉぉぉぉぉぅ!」 いきなり大声が上がり、扉が開かれる。 扉の向こうにいたのは冬月涼。左京の親友であった。 少々怒っているのか、興奮しているようにいきり立っている。 「涼さん、もう少し落ち着いてください、気持ちはわかりますけど…」 そして、同じく白玉楼に住む妖夢。冬月とは良い仲であるとの目下の噂である。 この時間にもう行動しているのは仕事柄であろう。庭師の朝は早い。 ……そして、やはり2人にも耳がついていた。おそらくは犬耳であろう。 それどころか後ろのほうに目をやるとふさふさとした尻尾までついていた。。 「涼、いったい…って、あら、それは?」 「知らないとは言わせないぞぉぉぉぉぉ!」 「だから落ち着けって、なんなんだいったい!」 どうやら、今は話にならないようである。 「…で、いったいなんなのさ、いきなり」 興奮する冬月を取り押さえて、少し落ち着かせてから左京は話を始める。 「…これのことだ!」 「耳と尻尾か…それがいったい…」 「それにお前が…って、あれ? お前にもくっついてるのか」 「朝それでびっくりしたよ…」 とほほ、と耳を触りながらため息をつく左京。 「実はですね、私たちも今朝起きた時からこうなっていまして」 「幽々子様にも立派なな耳がついていたよな」 「はい、で幽々子様がいうにはですね、この耳の発現に気質がかかわっているんじゃないかな、と」 「ちょうど、あの時みたいにな」 「確かに、あのときに似ている感じが少しするんですよ」 少し前にあった地震から始まった異変、持てる気質が天候となった異変。 普段と少し違う趣で解決が図られたそれは、 いろいろな者が首謀者をふるぼっこにして解決しのだが…… 「…で、その首謀者が一番いそうなところに来た訳だ」 「天界に行くのは大変ですし、いなければ居場所は知っているんじゃないかと」 「しかし、お前まで耳がついてるとはなあ」 冬月と妖夢のそんな言葉を聞き 「天子…もしかして…」 「や、やってない 私はやってないってばー!」 首と腕をぶんぶんと振るいながら、慌てて否定する天子 「じゃあ、さっきの反応は…」 「う、そ、それは…えっと…」 じーと睨む左京と汗をかきながらじりじりとあとさじる天子 「…知っているなら、吐いた方がいいぞ」 「ええ、斬られない内に」 「な、何でそんなに物騒なのよー!」 刀の柄に手をかけつつ天子をじりじりと壁に追い詰めていく2人。 その目は真剣そのものである。 追い詰められた天子は、 「わ、わかったわよ、剣を、緋想の剣をどこかに落としたのよー!」 とんでもないことをを告白した。 「落としたって…」 少し静寂とともに間があいたあと、一番早くに再起動を果たした左京が聞く 「…今日、こうなってて…犯人をとっちめてやろう! って思ったら、剣がなかったのよ…」 「いくら探してもなくて…だから、多分」 「だ、だから私じゃないわよ、ほら、わたしにも耳ついてるじゃない!」 頭の耳を強調しながら、天子はまくし立てる 「まあ、確かに本人には余り耳はつけないか」 「わかりませんよ、実は耳フェチとか」 「そういう趣味はないわよー!」 少しからかうような口調になっている冥界コンビに、反論する天子。 もはや漫才である。 「とにかく! まずは剣を探してみようよ」 いつまでもそのままではいられないと、左京がそれに割り込んだ。 「ま、確かにそうしたほうがよさそうだな」 「拾った人が何かしらかかわっている可能性は高そうですしね」 「そ、そうよ! 誰かが剣を悪用しているのよ!とっつかまえないと!」 「以前やったのは天子、君だと思うけど…」 「それはそのときの話よ!」 うやむやにしようとする天子に左京から鋭いツッコミが入る。 もっとも、ここは幻想郷。 大体の場合は以前の異変のことは以前のこと、なのであるが。 とはいえ、いつまでも話を逸らしてはいられないのも事実。 気を取り直した冬月の言葉から話が元に戻り始める 「とにかく、いつ落としたんだ? それほど前じゃないだろうが」 「えっと、昨日だと思うわ、おとといにはあったから」 目を瞑って考えながら少しして天子が答える。 「なら、昨日の足跡を追えば、大体の目星はつきますね、どこに行っていたんですか?」 「えっと、昨日は…」 妖夢の言葉に詰まる天子 何かを隠したいようであったが… 「昨日は天子と里のほうに行ってたよ」 「左京!」 それに左京があっさりとに答える 「ほう、仲がいいな」 ニヤニヤと2人を見つめる冬月 「何で言っちゃうのよ! 馬鹿!」 「いや、隠しても仕方ないと思うよ」 左京と天子…2人の関係は少し2人を知っている人なら誰でも知っている…既に周知の事実である。 本人は気がつかれていないと思っているのかもしれないが、 それなりの頻度で2人で里などに行き、それが楽しそうとなれば… ばれないほうがおかしい。 お目付け役になったこともあって、もはや知る人には公認のカップルと化している。 「とにかく、最初は里に行ってみようぜ、誰かが拾っているかもしれないしな」 左京につかみかかっている天子に冬月が提案する 「そ、そうね、早く本当の主である私の元に剣を取り戻さないと!」 「じゃあ、里に…って、これどうしようか」 耳を見られてしまうのは少し恥ずかしい。そう思った左京だが… 「あー、多分心配要らないぞ左京、ここにくるまでに見たひと、ほとんどなんかくっついてたから」 「そうですね、変に隠してもすぐにばれてしまうかと」 冥界からここに来るまでにいくらかの人に既に2人は会っていたらしい。 どうやら、本当に異変規模で事は起こっているようだ。 天子は慌ててきたせいで周りにまでは気がついていなかったようだが。 「なら、仕方ないか…」 それでも、少し恥ずかしいのだがここでじっとしているわけにはいかない。 皆も同じならいいか、と自分に言い聞かせ、左京は冬月たちと里へ向かった。