(・・・なんだ、これ?) いや、何だこれと言うほど理解が出来ない物でもないのだが・・・ (・・・なんでこんなところに傘が?) 今朝方、見慣れない傘が落ちていた。 「お前、この傘見たことあるか?」 朝食ついでに同居している(ことになっている)カナに見せてみる。 「・・・ない、かなぁ」 「やっぱりそうか」 「何よその最初からアテにしてないみたいな言い方」 「そんなところだろうなと思ってただけだよ」 「引っかかるなぁその言い方。第一私がこんな大きい傘使うわけないでしょ?」 「それもそうか」 頬を膨らませて怒る彼女―――カナはこの家に棲み付いた騒霊、ポルターガイストだと言う。 だいぶ前に別の館からここに来たらしいんだが、今はその話をするべきでもない。 第一、後から住み着いたのはこっちなわけだし。 「これ、どうするか・・・」 「紫色かぁ・・・私だったら持たないなぁ、こういう色のは」 「まぁ捨てるのも勿体無いしもらっとくか。ちょうど前使ってたのも壊れてたし」 「うーん」 「別にお前が使うわけじゃないから良いだろ?」 「それもそうなんだけどねぇ」 妙に引っかかる言い方をするが・・・この際気にしないことにした。 そんな事があってから数週間が経って。 拾った傘も有効活用させてもらってるわけで・・・ 大きめだから意外といい感じだった。 ・・・なんて、個人的な感想はここまでにしておくとして。 突如としてドアをノックする音が飛び込んだ。 「来客なんて珍しいな」 「出てこようか?」 「いや、出るよ」 「そう?つまんないの」 「そう言うなよ・・・はいはい、今出ますよーっと」 そう言いながらドアを開ける。 「あのー、もし?」 恐る恐る声を出す目の前の人・・・いや、妖怪かこれは。 青緑の髪に緑と赤のオッドアイ、そしてなんとなく雰囲気が妖怪のそれっぽい感じ。 「えーと、こんなところに何の御用で?」 「えっと、ここいらで落とし物をしちゃって」 「落し物?」 言われてすぐ思いついたのが、あの紫のでかい傘。 「いったい何を落としたんで?」 「唐傘なんだけど、紫色の」 間違いない、『アレ』だ。 「それだったら心当たりあるんですけど」 「本当?だったらちょっと見せてもらっていい?」 「ちょっと待ってて下さいね」 そう言って中に戻る。 「誰だったの?」 「あの傘の持ち主らしき妖怪さんだ」 「へぇ、持ち主が来たんだ」 「とりあえず返してくる。貰ったままじゃアレだし」 目的の物を探しながらカナと一言二言。 こんな風な仲になってしまったのは自分が物好きな所為か。 「お待たせしましt」 「あー!これよこれ!探したわー、もうどこに行ってもなかったから」 ドアを開けるや否やモノを取られてしまった。 礼儀も何もあったものじゃない。妖怪だから仕方ないのか? 「・・・えーと」 「あ、あはは・・・ゴメンね。つい勝手に盛り上がっちゃって」 一応、悪気はあるようだ。 「まぁともかく、良かったですね。探し物が見つかって」 「ええ、ホントに。ありがとね」 「いやいやこちらこそ・・・って」 傘に・・・目玉?それに舌? 預かってるときはあんなの無かったよな・・・これってもしかして? 「ああ、これ?」 「・・・どういうことなんだ?」 「ふふーん・・・こう見えても私、唐傘お化けなのでした!えへへ、驚いた?」 まさかとは思ったが・・・唐傘お化けとは古風な。 ・・・・・・・・ 「・・・驚いた、そんな妖怪がいたなんて」 「ぐぬ、わちきが古いと申すか」 「そうとは言ってない。それにそのキャラ無理して作ってないか?」 「ぐぬぬ、どこぞの巫女にも言われた事を」 「・・・気にしてるんだな」 とりあえず目的も達してるだろうから、お帰り願おう。 「で、用事って言うのはこれだけ?」 「ああそうだ、最後にひとつだけ聞いていいかな」 「・・・何だ?」 「この傘、ちょっぴり湿ってるけど・・・もしかして、使った?」 使った、と言ったらどうなるんだろうか。 特に嘘を言う理由も無いし・・・ 「まぁ・・・たまたま他の傘が無かったから仕方なく」 他のがあったらまず使わないだろうけどな、と心の中でつぶやく。 「・・・・・・」 「・・・え、えーと?」 「は、初めてだわ」 「え?」 あまりにも唐突な答えが返ってきた。 何なんだろうか・・・ 「多分初めてじゃないけどそう言う事にする」 「いったい何の話?」 「いやね、あの巫女はこの傘を『茄子みたいだ』ーってバカにしてくれちゃって」 「は、はぁ」 「それで・・・」 長話が延々と続いた。 主に昔の心の古傷がどうのこうの、と言った話だが。 「・・・と、いうわけで」 「はぁ」 「決めた、私ここに棲むわ」 「・・・ええ?」 今の発言が一番驚いた気がした。 ・・・いやそんなことじゃなくて。 「勝手にそんなこと言われても」 「使ってくれる人がいるんだもの。こんなに嬉しい事は無いわ」 「だからってなぁ、こっちにも色々と」 「ふっふーん、というわけでお邪魔しまーす」 「勝手に入るなっての」 ・・・ああいうのは言っても聞かないタイプか。 仕方ない、追い返すのは後回しだ。 「ねえ、誰あれ?」 「スマン、ここの住人が増えた」 「・・・えぇ?」 カナにはそう言って誤魔化すことにした。