―――幻想郷に来て、数ヶ月が過ぎた。 まぁここに来た経緯なんて耳にタコが出来るほどありふれたものなんで省略。 今は紫さんの家に厄介になってる。 ・・・・・・と言ってもここに来てすぐにはこの家に住まわせてもらってたし、 幻想郷巡りをして来た上でここに戻ってきてるわけで。 何でかって? 「あらまったり、今日は宴会の日じゃないの?」 ・・・・・この人だ。 この家の主にして式を従える胡散臭いスキマ妖怪、八雲 紫。 ・・・・・・はっきり言おう。一目惚れだった。 何考えてるか分からない性格とか年齢とk 「・・・・・・今何か失礼なこと考えてなかったかしら?」 「いやいやとんでもない。まぁ紫さんのことを考えてたのは事実ですが」 「あらまぁ」 なんとかはぐらかす。そうでもしなきゃどうなるか分かったものじゃない。 「それで、宴会はどうするの?」 「今日もパスしますよ。もう寝込むのは嫌なんで」 あの鬼に飲まされて以来、どうもあそこに行くことに拒否反応を起こしてしまうようになった。 お酒自体はそうでもないんだけれど。 「つまらないわね」 「すいませんね」 「・・・・・・うーん、そうねぇ」 「どうしたんです?」 珍しく何かを考え込んでいる。どうしたんだろうか。 「うん、なら今日は私も行かないことにするわ」 「さいですか・・・って、え?」 あまりにも突然過ぎる宣告。 「そりゃまた突然ですね」 「それはそうよ、今決めたもの」 「は、はぁ」 本当に一体どうしたんだろう。 「でも」 「でも?」 「あなたと二人きりで飲むことにしたわ」 「・・・・・・ゑ?」 ふ、二人きり・・・だってェ? なんと言うか、意外すぎる。 「って、橙はともかく藍さんはどうするんですか」 「藍には普通に行ってもらおうと思うのだけれど。手伝いも必要でしょうし」 「まぁ、それはそうか」 まいったな、全く予想外の展開だ。 ゆっくり寝てようかと思ってたんだけど・・・・・・ 「他のことは気にしないでこっちに来なさいな」 「はぁ、分かりました」 ところ変わってここは縁側。 空には見事なまでの満月。 ・・・・・・月見酒、ということだろう。 「ほら、隣にいらっしゃい」 「・・・・・・いいんですか?」 「良いって言ってるんだから来なさいな。それとも・・・一緒に飲むのが嫌かしら?」 「いやいやとんでもない、そういうことなら是非ともお付き合いしますよ」 あんな風に言われたら誰も断れないよな。元から断るつもりなんてないんだけどさ。 「あ、注ぎますよ」 「あら、ありがとう。そういうことなら」 「ああ、どうもすいません・・・っとと」 互いの杯に酒を注ぐ。 「・・・・・・うーん、何に乾杯しようかしら」 「そうですね。この満月に、なんてどうですかね」 「意外とロマンチストね」 「そうですかね」 「でも、悪くないわね。では」 「乾杯」 す、と同時に杯を持ち上げた後、くいと一杯を飲み干す。 「あら、飲めるじゃない。宴会は断るのに」 「騒がしいところで飲むよりかはこういった静かな場で飲むほうが好きなだけです」 別の要因は先述の通りだが。 その後しばらくは会話もほとんどなく、ただただ月を見ながらちびちびと飲むばかり。 と、静寂を破ったのは紫さんのほうだった。 「・・・・・・あなたは、元の世界に戻ろうと思ったことはないのかしら?」 「何でまた急にそんなことを?」 「そうね・・・・・・まぁ、なんとなくよ」 先ほどから表情は変わってないように見えるが、どことなく纏っている雰囲気が変わったように感じる。 何の力もない人間だけど、それぐらいは分かっているつもり。 少しだけ、寂しそうな目の色をしていた。 「そうですね・・・・・・ここに来てすぐはそう言う気持ちは少なからずありましたが、今は全くないですね」 「それは、どうしてかしら?」 二人きりのこの状況。 「幻想郷をぐるっと巡って、単純にここに残りたくなったのが一つ」 こんなチャンス、そこまで多くないだろうし。 「向こうの世界にも、今ほど強い思い出が残ってるわけでもないのが一つ」 ・・・・・・せっかくだから、言ってしまおう。 「あと一つ、これが一番大きな理由なんですけど」 「・・・・・・それは?」 「・・・・・・紫さん。あなたが、好きだからですよ」 やっと言った。 やっと言えた。 当人は何も言わずに、だけど、こっちを向いて目を丸くしている。 でもまだ、言い切れてはいない。 「一目惚れでした。幻想郷巡りをしていてもあなたが頭から離れることはなかった」 この際だから、全部言ってしまおう。 「つまらなそうに、不機嫌にしている時も。手の込んだ悪戯をかけてほくそえんでる時も。 霊夢にちょっかいを出してるときも。遠くを見て一人で寂しそうにしているときも」 俺の精一杯を。 「全てをひっくるめて、八雲 紫と言う人を好きになった。それが・・・・・ここに残ろうと思った一番の理由です」 俺の・・・全てを。 「・・・・・・そう」 ぽつりと、紫さんはつぶやくように言った。 「とんだ物好きも、いたものね」 「何の力も無いただ人間を、取って食ったりもせずに傍に置くような妖怪もいるんですよ、この幻想郷には」 「ふふふ・・・・・・そうね、お互い様かしらね」 ようやく、紫さんから笑みがこぼれた。 ・・・・・・こぼれたのは、笑みだけではないようだけど。 「ねえ、もう一度乾杯しないかしら?」 「・・・・・・今度は何に乾杯するんです?」 「あなたの恋愛成就に、よ」 「え、それって」 言うや否や、くいと杯を空ける紫さん。 そしてそのまま、こっちを向いて・・・ 「・・・・・・!!?」 ―――時が、止まったような気がした。 「・・・・・・どう?美味しかったかしら?」 「・・・・・・ええ、これまでで一度も味わったことも無いぐらいに」 そう言う紫さんの顔は少しばかり紅くなっていた。 酔っているせいなのか、それとも。 ---------------------------------------------------------------------------- あとがきという名の反省文 まいったぁ 妄想炸裂だぁ 割と前にまったりさんに「書くよ」見たいなことを言ってた覚えがあるのでついつい。 ・・・・・・まったりさんである必要があんまりないのは口外しないように!ドミナントとの約束だ!