記事を書き終え、外に出た射命丸文が空を飛ぼうと上を見上げると、ネタが高速で飛んでいた。 正確には、ネタになるかもしれない半人半妖が棒に乗って高速で飛んでいた。ボーダー商事のナイトメアである。 永遠亭の鈴仙・優曇華院・イナバと恋仲が噂されているが、どちらも奥手のようで中々進展が無い。 文々。新聞でも進展(?)を何度か記事にしたことがある。正直恋話はウケがいい。 ナイトメアの様子から察するに仕事中だが、ハズレを恐れては新聞記者は務まらない。後をつけることにした。  (向かっているのは竹林の方角ですね…。これはアタリかもしれません。)  特ダネゲットの可能性に心を躍らせつつ後を追うと、案の定ナイトメアは竹林の入り口で降り、中へ入っていった。  (ビンゴ!)あと何枚撮れるかカメラを確認しつつ、文も一定の距離を保ちつつ後を追う。  「案の定迷いやがりましたよこの棒人間はHAHAHA」と、ナイトメア。誰か居る様子も無いので、どうやら独り言のようだ。 困っているようだが、文も永遠亭の正確な場所までは分からないので出て行っても仕方が無い。 何より、ここで鈴仙が助けに来ればこんなにおいしいネタは無い。運命というやつだ。  「うー☆」…どこぞの吸血鬼の声が聞こえた気がするが、意識して認識しないことにした。  そうしているうちにナイトメアは座り込み、上を見上げてため息をついていた。 これは鈴仙が来るのが待ち遠しい。と、文が勝手なことを思っていると、そこら辺の木端妖怪みたいなものがナイトメアに襲い掛かっていた。  (おや、戦闘ですか…。それも※風雨異変式の。) ※緋想天で文の周りが常に風雨だったことから勝手に命名  ナイトメアの戦闘は見たことが無かったので早速カメラを構える。 次々に襲い来る妖怪をちぎっては投げちぎっては投げ。同時攻撃もかわしてスペルカードで決着。  (スペルカード・ルールの弾幕戦もできる…と。これは今度取材に行く必要がありそうです。) 写真を撮りつつメモを取り、ナイトメアの様子を見るとまた座り込んでいる。そのまま眠ってしまったようだ。 狸寝入りでもないようなので少し近づいてみると、傷を負っていることが分かった。 ただの人間とは違うので命に別状は無さそうだ。放っておいても大丈夫そうだが、文がここに来た目的は…。  (特ダネ、ゲットです。)満面の笑みを浮かべた真実の報道記者がそこに居た。 * * *  (何だろう。胸騒ぎがする。)鈴仙・優曇華院・イナバは何かを感じ取っていた。 師匠である八意永琳の手伝いをしているところだったが、手を止めて窓の外を見ると大量のカラスが飛んでいる。  「あの、師匠。ちょっと出てきていいですか?」と、鈴仙が遠慮がちに永琳に尋ねる。  「どこへ? まだ途中よ」と、永琳。  「えっと…虫の知らせと言いますか…。嫌な予感がするんです。」答えたものの自分でもよくわからない鈴仙。  「特に当ても無く師匠の頼みを放り出して出かけるのね?」永琳がいたずらっぽく微笑みながら返す。  「そ、そう…なります。」鈴仙が緊張気味に答える。  「いいわ。いってらっしゃい。」肯定されてしまっては仕方ない。永琳はくすくす笑いながら許可を出した。  「この埋め合わせは必ず!」言いながら、鈴仙は走り出す。外で鳴くカラスの声がうるさい。  (どう考えてもあのブン屋だけど…何の用かしらね。)弟子の背中を見送り、原因に気づいていた永琳は作業を続けることにした。  永遠亭を出て竹林を駆ける鈴仙。1分ほど進んだところで竹に付着した赤いものを見つける。  (これは…血!?) 鼓動が速くなる。不安が焦りに変わる。落ち着こう。そう思ったものの、鼓動は速いままだ。 赤いものは点々と続いている。まだ変色しておらず、新しい。 最悪の事態が頭によぎる。そんなこと絶対に無い、と思おうとするが、完全に否定しきれない。  (大丈夫。大丈夫…。)自分に言い聞かせながら赤いものを辿る。  30mほど進んだところで、人がうずくまっているのが見えた。鈴仙もよく知っている人だ。  「――っ…!」声にならなかった。涙が出そうになるのを必死で抑えた。 泣いている場合ではない。この血がナイトメアのものであれば、助けなければならない。 これでも宇宙一の薬師の弟子と自負している。大切な人も助けられないのでは、意味が無い。 周囲を警戒するも、敵意のある気配は無い。誰かに見られている気がしたが、害意は無いようなので気にしないことにした。 今はナイトメアの状態の確認が最優先だ。  「ナイトメアさん! 大丈夫ですか!?」駆け寄りながら声をかける。反応は無い。 寄りかかっている竹の根元に血溜まりができている。首を動かさないようにしつつ全身を調べる。 軽い打撲等はあるものの、大きな怪我は背中の切り傷だけのようなので、動かしても大丈夫と判断。 そのまま担いで永遠亭に向かうことにした。  「ナイトメアさん、もう大丈夫ですからね…!」それは鈴仙の、自分に向けた言葉でもあった。 * * *  (倒れたナイトメアの危機を絆で感じとった鈴仙! 彼女の冷静かつ迅速な行動でナイトメアは生命の危機を脱する! いい記事が書けそうですねぇ。)次の記事の文面を考えながら上機嫌の文。 ナイトメアが永遠亭に担ぎ込まれた後も張り込み取材を続けている。 手当ては終わり、ナイトメアは日当たりのよい部屋で寝かされている状態だ。目を覚まさないらしい。  この三日間鈴仙が付きっ切りで看病している。献身的である。 そして文は付きっ切りでそれを観察している。こちらもある意味献身的である。 そしてどうやら、ナイトメアが目を覚ましたようだ。永琳も入ってきてしばらく話した後、ナイトメアと鈴仙が二人きりになる。  (ここよ! ここで決めるのよ!)何を決めるのかわからないが、興奮する文。 離れているので声までは聞こえない。というか、鈴仙は俯いていて、話しているかどうかも定かではない。 しかし、そのとき特派員が見たものは! 突然鈴仙がナイトメアに抱きついた。念のため強調しておくが布団の上である。  (大 勝 利 !)片手で小さくガッツポーズ。もう片方の手は言うまでもなくシャッターを切っている。  鈴仙はそのままの体勢で動かなくなり、ナイトメアが頭をなでる。おそらく安心して寝てしまったのだろう。 この二人のことだからおそらくこれ以上進展は無い。それにこれ以上居るのは野暮というものである。 空気の読める清く正しい新聞記者はここで取材を打ち切り、メインとなる写真を一枚間近で撮って退散することにした。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------- あとがき この後仕上がった記事と微笑ましいと同時にちょっとわからない感情で揺れる藍様の描写入れようと思って難しいからやめた! ベースはもちろんめあさんの『棒人間のDKDK添い寝されSS』ですが見つけたのが永琳じゃなく鈴仙だったりと微妙に違います。 藍様の描写を入れるにあたりめあさんの幻想郷を想定しましたが、書かなかったのでどこでもよくなりました。 初SSだったので合計6時間くらいかかったでしょうか。意外と時間かかるんですね…。そして見やすい改行位置が難しい。 書いた人:とど