「そーらよっとォ」 掛け声とともに手に持っていた身の丈ほどもある長さの棒をブン投げる。 「よーしいい角度だ・・・そおらッ」 そして勢い良く跳び――― 「よっと・・・ふう、今回もいい滑り出しになりそうだ」 ―――先ほど投げた棒に乗った。 ・・・仕事で向かった先に居た巫女(だっけな)にこの光景を見せた時やたらきゃあきゃあと騒いでたのを思い出す。 外の世界の有名な絵巻にこの移動方法を使っている人間が居た、という話だが。 飛べるのに何故わざわざこんな移動方法を使ってるかって? こっちの方が速いんだよ・・・ まあ、その辺の話は後にしよう。 今は仕事の真っ最中で、今回の場所は永遠亭、ということなのだが。 (あそこか・・・あんまり行きたくないんだけどな・・・色々な意味で) あそこに行くと大体どこぞのパパラッチ天狗がいつの間にか写真を取ってて次の日には新聞がバラ撒かれてることが多い。 その度に関係を知ってる面々に酒の肴にされるわけで・・・正直精神的に疲れる・・・ (まあ仕事だし仕方ないか) 割り切るしかないと判断し、辺りを見回すと竹林が見えてきた。 (もう着いたか・・・手前で降りよう) 空からでは永遠亭の場所を確認できないので降りる必要があった。 しかしこの竹林、ご存知の通り迷いの竹林として知られているわけで。 「手前で降りたはいいけど、さて永遠亭に着けるかな」 案内役が居なければ、目的地にたどり着くことは非常に難しいのである。 ----------------------------------------------------------------------------------------- 数十分後。 「案の定迷いやがりましたよこの棒人間はHAHAHA」 自分で悪態をつく。 そうでもしないと涙が出そうになる。 昼だというのに辺りは暗く、不安感を煽る。 「まいったな」 どこにいるかも分からないし人の気配も無く、助けを呼べるような状況ではない。 (とりあえず一回落ち着くか) 竹に寄りかかりながら腰を下ろす。 見上げても空は見えず。 はぁ、とため息をつく。 ―――ふと、背後に気配を感じた。 (・・・誰かいるのか?) それを皮切りに自分の周囲、四方八方から似たような気配が発せられる。 (囲まれている・・・永遠亭の迎え、というわけでもなさそうだな) 座っている場合でもなさそうなので仕方なく立ち上がる。 その瞬間・・・辺りの気配が『殺気』に変わる! (来る・・・後ろ!) 振り向きざまに持っていた棒を振り抜く。 ドスッ、と鈍い音とともに確かな手ごたえ。 (まず一つ・・・だがッ) 振り抜いた棒をそのまま後ろに突き出す。 タイミングがよかったらしく何者かが吹き飛んだようだ。 (二つ・・・!) まだ周囲には複数いるのは分かっているが数は断定できない。 棒を構え直し、辺りを見回すように警戒する。 ―――葉の擦れる音が左右から同時に鳴った! (同時・・・まずは左!) 一歩踏み込みつつ棒を突き出し相手を突き飛ばす。 そして――― (そのまま―――右ッ!) 逆を向き振りかぶり、その勢いで叩きつける! (これで四つ・・・だがまだ居る・・・!) しかしすぐに背後から何者かが飛びかかる! (同時に四つ・・・流石に無理があるか・・・なら!) 振り向く時間もないと判断し、そのまま前に飛び込もうとしたが、 予想以上に相手が速かったか飛び込むタイミングが遅かったか、背中をひっ掻かれた。 「くそ・・・かすったか・・・にしてはかなり痛みがきついな」 (時間は掛けられそうに無いか・・・あまりやりたくはなかったが) 飛びかかられた方角に向き直り、持っていた棒を上方へ高く投げ飛ばし――― ―――操作「オールレンジアタック」――― スペルカードを宣言する! その瞬間先ほど投げられた棒が複数に割れ、自我を持ったかのように飛び回り始め、 割れた先端から光線が放たれ・・・ (・・・終わったか) わずかに聞こえた断末魔とともに静寂が訪れた。 「つい使っちゃったな・・・家に予備あったっけな」 飛びまわっていた棒の破片はスペルカードの効力が切れ、辺りに散乱している。 「手負いになってしまったな・・・本当に参った」 もう一度竹に寄りかかり、座り込む。 いくら半妖とはいえ流石にすぐに傷が塞がることはない。 (何か一気に疲れたな・・・眠くなってきたぞ) 視界が歪み、意識が朦朧とし始める。 (寝たらやばい、寝たらやばいけど・・・あーダメだ・・・もたな・・・い・・・) ------------------------------------------------------------------------------------ 目が覚めたらそこは和室だった。 自分の家ではないのは確かだが・・・ 体が鈍く痛む。 ふと目をやると包帯がぐるぐると巻かれている。 (ああ、そういえばそうだったな・・・) あの感じだとあの世に逝ってもおかしくなかったが・・・雰囲気的に冥界というわけでもなさそうだ。 何より心臓が動いている。 しばらく何もせずぼーっとしているとすす、と襖の開く音がした。 「な、ナイトメアさん!!」 そこに立っていたのは鈴仙さんだった。 「や、やあ鈴仙さん・・・またお世話になったみたいだ」 「お世話になった、じゃないですよ!三日間も目を覚まさないままで・・・!」 三日もか・・・ただ引っかかれただけではそうは寝込まないはずだが・・・ 何か毒でも回ってたか・・・? 半分妖怪で助かったようなものか・・・ 「たまたま近くを通りがかって様子がおかしいのに気付いたからよかったものの、そのままだったら本当に危なかったわよ?」 その背後から永琳さんが部屋に入ってくる。 「あはは・・・すいません、ほんとに」 本当に申し訳なく思う。 「お代はいいわ、こっちもいつもお世話になってるものね。せめてものお返しということで」 「いえいえ、後で必ずお代を・・・あだだだだだ」 「それよりもゆっくり休んで早く身体を治しなさいな。そっちの上司も心配してたわよ?」 こっちの上司・・・藍さんが? 心配してくれるのはありがたいけど、多分復帰したらこってり絞られるんだろうなあ・・・ 「さて、私はまだすることがあるからそろそろ出るわね」 「そうですか・・・本当にありがとうございました」 寝起きの体勢で頭を下げる。 事あるごとにこの人にお世話になってる気がするなあ・・・ 「例ならうどんげに言ってあげて。ほとんど付きっ切りだったんだから」 「し、師匠!」 そういいながら部屋を出る永琳さんと顔を赤くする鈴仙さん。 ・・・アレ、これって二人きり? しかも付きっ切りって言ってなかった? 「・・・えーと、あの、鈴仙さん」 「・・・何でしょうか」 俯いて顔を隠している。なんとなく雰囲気が悪いように感じられた。 「その、付きっ切りって・・・」 「・・・そうですよ、あなたが倒れてる間は・・・ほとんど」 「そ、そうですか」 何だか少し震えてるように見える・・・どうしたものか。 「・・・ぐすっ」 ・・・え、鼻すすってる? と思った瞬間鈴仙さんが胸元に飛びついて来た・・・あだだだだ、そんな強く締め付けないでくださいってばあだだだだ 「どれだけ心配したと思ってるんですか!ずっと目を覚まさないから不安で不安で!」 「鈴仙さん・・・」 「それなのにあなたは目が覚めても飄々としてて!私の心配も知らないで!」 「す、すいません・・・」 「そんなに謝っても絶対に許しませんからね!」 (参ったな・・・) 「絶対に・・・許さないです・・・から・・・ね・・・」 語気が急に弱まったと思ったらぴたりと止まってしまった。 「・・・え、えーと・・・鈴仙さん?」 軽く身体を揺すっても何の反応もない・・・と思ったらすーすーと寝息を立てている音が聞こえた。 そう言えば付きっ切りだったんだよな・・・ でも急に寝てしまったということはそれまでに十分睡眠時間をとってなかったことになるよな・・・? 「・・・本当にすいませんでした、鈴仙さん・・・」 そう言って軽く頭をなでる。 こんなことするの初めてだな・・・こんな形になってしまったけれど。 まあいいか、言われたとおりゆっくり休むとしよう。これからのこともあるし。 すいません鈴仙さんがこんな体勢で寝てしまってるようなこんな状況で寝れません寝れるわけがありません というかそもそもさっきまで寝てたというか気を失ってたのでそこまで睡眠欲がありません どうしよう鈴仙さん起こしたいけどなんか起こしたら気を悪くしそうだしこのままで居てもいいやみたいな気分になってるし ああでもこの光景を誰かに見られたら恥ずかしくてそれこそ本当に死んでしまいそうだどうしようどうしよう カシャッ うわ今光ったよ絶対ブン屋だよああもうこれ明日新聞バラ撒かれてるよ絶対からかわれるよ ああもう明日から肩身が狭くなるんだろうなあもういっそのこと死んでもいいような気がしてきたなあああもうどうにでもなーれ いろいろあるけど 私は元気です ------------------------------------------------------------------------------------------- あとがき とりあえず戦闘シーン(のようなもの)を。 お相手はそこら辺の木端妖怪みたいなものだと思ってください。 あと最後のはもし本当に自分がそういう状況だったら、というのを想定して書きました 寝れるわけがない・・・あいつは伝説の超月兎人なんだぞ・・・