「さーて、幻想郷からのお客様だ」 「しかし、ずいぶんと派手に来ましたね」 「まあ、あれが一番安全だしさ、間違いではないのでないかな」 「ちょっと目立つけど、ね」 「にゃーん」 夢子、すきま、はくどう、アリスと…三毛猫が1匹。 見上げる先には1隻の船。 どうやら、幻想郷から聖輦船を使って直接着たようである。 確かに、魔界に来るならそれが早いが…行き成りお寺がなくなって大丈夫だったのだろうか。 ず、ずうぅぅぅん… 音と地響きを立てて船が着陸する。 大きさの割には衝撃は小さく、並みのものでないことがわかる。 「聖ちゃーん!」 「神綺さーん!」 開いた扉の中から命蓮寺の主、聖が飛び出してきて… 普段は見られないはしゃいだ様子で神綺に飛びついてくる。 「聖がああはしゃぐのも珍しいですね」 「たまにはいいじゃないか、意外な一面は嫌いかい?」 「ではないですが…ちょっとだけ羨ましいです」 「あれだけ頼られているのは珍しいですからね」 その後から降りてくるのは毘沙門天つながりの2人、星とナズーリン。 そして、聖を慕う一輪だ。 普段あまり甘えることのない聖だけに、この光景は珍しく、 同時にあれだけ頼られる神綺が少し羨ましいらしい。 「おや、こんなところに三毛猫が…しかもオスかい、縁起がいいし連れて行っちゃおうかな?」 「にゃ〜」 そんなことを言う村紗からぴょい、と三毛猫が逃げる。 「あらあら、嫌われちゃったかね?」 「正体知ってやってるでしょ、貴方」 肩をすくめる村紗に突っ込みを入れるアリス。 正体、というからにはあの猫はどうやら永久のようである。 「まあね〜、でも航海の安全にとってはこれとないお守り! ねえ、くれない?」 「ダメよ! そもそも本人嫌がっているじゃないの」 「ちぇ〜」 そんなことをのたまう村紗に慌てて反論するアリス。 村紗の表情は残念そうに…というよりも面白そうになっている。 幽霊だったときの名残か楽しんでいるだけか幻想郷に来たからか。 どうにもからかって楽しんでいるようだ。 「今回はお招きしていただいてありがとうございます」 「そんな硬いことはいいのよ、聖ちゃん。 この前のお返しでもあるし、楽しんでいってね」 「はい、皆で楽しませていただきます」 こちらは社交辞令にはいっていたようで、ちょっと堅い話になっていた。 その割にあまり硬さがないのは親しいもの同士の特権だろう。 それでも無礼にならないのである。 船からはその後もいろいろな人が降りてくる。 大体、いろいろな異変で中心になった人妖やそれに親しいもの。 幻想郷の中でも名物とも呼べそうな面子が軒並み揃っているようだ。 「今回もまた、ただでは済まなそうね…」 「ま、気にする人もいないだろ」 従者2人の呟きは、少しずつ広がる喧騒の中へと消えていくのだった。 会場には良い香りが漂っていた。 ずらりと並んだテーブルと料理。 今もまだ開いているところに料理が運び込まれていく。 「まずは立食、か…細かい挨拶とかは抜きなのね」 「その方が楽しめると思いまして」 話しているのはアリスと夢子。 それぞれ青と赤を基調にしたドレスに身を包んでいる。 会場には一般の魔界人もある程度参加してるのだが、 魔界の中でも一種特殊な2人は結構な視線を集めている。 が、本人たちはあまり気にしていないようだ。 「2人ともなかなか似合ってるじゃないか」 「そういった格好をしたのははじめて見ますね」 「ありがとう、貴方たちも似合ってるわよ」 「永久の方がもっとそういった格好はしないんじゃないかしら」 そこに来たのはすきまと永久。 2人とも黒のスーツを着てきちんと決めている。 あまりパーティなどに参加する機会がない永久と執事として参加することの多いすきま。 2人ともこの格好は珍しいことであったりする。 一部からは嫉妬の視線を受け、すきまのほうは一部女性からの熱い視線が送られている。 すきまもまた魔界ではちょっと特殊な存在である。 噂ではすきまファンクラブ「メイドになって狩られる会」があるとか何とか… 「しかしいろいろメニューがありますね」 「たまーに、なんか怪しげなものもあるのだけど…」 一般的なパーティ料理から魔界の郷土料理。 はてはアホ毛そばというものや不思議なスープなんてものも置いてある。 騒動の元にならなければいいが。 「やあ、そこのカップル2組、楽しんでるかな?」 「そ、そんなんじゃ…」 「そ、そう言うわけでも…」 「ええ、まだ始まったばかりですし、これから本格的に楽しもうかと」 「幻想郷の人のおもてなしもしないとならないしな」 シルクハットまでしっかり決めているのははくどう。 そのちょっとしたからかいの言葉にうろたえるアリスと永久、堪えない夢子とすきま。 この辺りは経験の差かもしれない。 「はくどう兄ちゃんも似合ってるよ!」 「ありがとう、ユキもマイも似合ってるぞ」 「お姫様みたい?」 ユキとマイも今日はドレス。 色が黒と白なのは譲れないポイントらしい。 どこかのお姫様、といえば信じてもらえそうだ。 「僕だけ場違い、かなあ…」 ぼそり、と聞こえないような小声で呟く永久。 魔界神の屋敷の筆頭従者のすきま、夢子。 魔導機械の第一人者はくどう。 まだ子供にして高い魔術の能力とコンビネーションを示すユキとマイの姉妹。 神綺の秘蔵っ子ともいえるアリス。 他の人が魔界では実力者なのに対して魔界に関係が薄く、一般人。 周りからの視線もあり、ちょっと居心地の悪さを感じているようだ。 そういった気持ちも働いたのだろうか。 立食の中心から少しはなれたところに永久は移動した。 そこから辺りを見渡すと、見慣れた幻想郷の人たちと 興味深そうに、あるいは物珍しそうにしている魔界の人々がなかなかに仲良くやっているようだ。 パーティ自体は良い方向に進んでいるらしい。 「やぁ、こんなところでなにを?」 「あ、たはなこさん」 そこに声をかけたのはたはなこ。 彼もボーダー商事の一員としてここに呼ばれていたようだ。 たはなことはボーダー商事に所属して以来の仲だった。 「いえ、ちょっとあっちには居づらくて…」 「んー、なるほど その気持ちはわからないでもないなあ」 たはなこもボーダー商事の主要メンバーと目される中では唯一特殊な能力を持たない。 それでも営業成績が抜群なのはひとえに本人の性格と努力の賜物だろう。 「まあ、あんまり気にしないほうがいいとおもうけどね、きりがないよ?」 「確かにそうなんですが…そういえばほかの人たちは?」 「ああ、あっちにいるよ、冥界の人たちも一緒に」 割り切っているたはなこの意見。 そう直ぐには割り切れないのか、永久は話を逸らすが、追求する気もないのかたはなこは普通に答えた。 指された方を見ると、確かに冥界とマヨヒガの人が集まっている。 また、冬月についてきたのか左京が、左京についてきたのか天子もいるようだ。 それとも元から呼ぶつもりだったのかもしれないが。 「うーん、この桃はおいしいなあ」 「左京、さっきから果物ばっかり食べてどうするんだよ」 「一応商売視察だよ?」 「で、本音は?」 「好きだから」 相変わらず漫才になっている冬月と左京の親友組2人。 「ほんとに、あの人が来ると冬月さんは性格が変わりますね…」 「それだけ、信頼してるってことよ〜、妖夢もそれくらいの存在になれるかしら?」 「そ、そんなことは… なれるといいな…」 それを見ている冥界主従。 特に妖夢は少し思うところがあるようだ。なにやら少し決意を固めたような目をしている。 「うー、左京さっきからあの人とばっかり〜」 「あら、寂しがり屋の天人さんは恋人を取られて寂しいのかしら?」 「こ、恋人なんかじゃ…それに寂しがりってなによ!」 「なら、そんなに恨めしい目で見なくてもいいじゃないの」 同じくそれを少し恨めしい目で見つめている天子と余裕でからかう紫。 場合によって対等にやりあうこともできる2人でも、この場では圧倒的に紫が有利なようだ。 完全にあしらわれてしまっている。 「冬月さんはほんとに左京さんといると性格変わりますね」 「古い付き合いらしいからな。天人崩れと半人半霊、どこで付き合いがあったのかは知らないけど」 片や天に住むもの片や冥界に住むもの。 死後の世界としてのつながりはあっても直接には会わない世界。 その2人がどう出会ったのか。 今度聞いてみてもいいかなという好奇心とあまり聞かないほうがいいかなあ、という考えが永久の脳裏をよぎった。。 「やぁ、僕もここに加えてもらえませんか」 「おや、ナイトメアさん。どうしましたか?」 「いえ、ちょっといろいろあって…」 「またくっつけようとする動き?」 ナイトメアは以前永遠亭にいたときに鈴仙といい雰囲気になっていたのを…よりによって幻想郷でも有数の板面好きの集団に見られてしまっていた。 の、ためにやたらとことあるごとに鈴仙とくっつけよう! という動きに巻き込まれるのである。 「それで、鈴仙のドレス姿はどうだった?」 「ええ、かわいかっ…何てこと聞くんですか!」 このとおり、2人とも憎からず思っているのだが…方法がすさまじい。 「温泉で人工呼吸!」とか 「怪我したから病室に2人きりに!」とか 「2人で1部屋にしておこう!」とか…これは未然に防がれたようだが。 純情な2人にとっては、いくらなんでも恥ずかしすぎることすぎるのであった。 「あの人たちだと…1回きちんといわないとどうにもなりませんよ」 「言ってもどうにかなるかなあ」 「そうなんですが…」 その実…ナイトメアはかなり強い。 妖力勝負をすれば藍とも渡り合える…といわれるほど。 だが、彼は能力である「棒を操る能力」と共にその力を見せたことがほとんどない。 「で、逃げてきたわけだ」 「面目ないです…」 「まあ、逃げたって点では僕も人のことは言えませんから…」 理由は異なれど中心から逃げてきた永久には人のことは言えず、何もいえなかった。 そんな2人を見ながらたはなこが視線を遠くに向けると、件の人たちが見える。 幸い、からかう連中は今はいなくなったようだ。 「ナイトメアさんどこ行ったのかなあ…」 「鈴仙が拒まなければ良かったウサ」 「こんなところであ〜ん、してみろ、とかできるわけないでしょ!」 …微妙にからかうのはまだいたようだが。 「ほら、いってあげて。こっちの合流は後でいいから」 「あ、はい、たはなこさん」 「僕もそろそろ戻ろうかな、永久も戻った方がいいんじゃないかな?」 「そう、ですね 実は見失っちゃったんですが…」 「あーらら」 ナイトメアを促した後永久にも戻るように諭すたはなこ。 永久もその言葉に感じるところはあったようだが、少し話し込みすぎたのか、見失ってしまったようである。 「まあ、今回の主催の内だし、目立つんじゃないかな。 じゃあ、またあとで」 「あ、はい、ありがとうございました」 紫たちの下へ戻って行くたはなこを見送り永久は… A とりあえず、探して合流しとこうかな B なんか居づらいなあ…静かなところにでもいこうかな