「夢子ちゃん、すきまちゃん、パーティ開くわよ!」 「「は?」」 嬉しそうに言うアホ毛の目立つ女性がいう。 言った相手はメイドと執事の格好をした男女。 余りにも突然なその言葉に、怪訝な声を上げる。 名前を神綺、すきま、夢子といった。 そう、ここは魔界。一般に怖いイメージをもたれがちだが…実際のところは危険度は幻想郷と大差ない。 辺境には極寒の地などもあるが町になっている場所は危険も少なく、 住人も別段好戦的、というわけでもない。 住民に魔法が使えるものの割合が多いのが周りには脅威に写ったのかもしれない…と、言うのはおいておいて。 今3人のいるところはその魔界の神綺の屋敷。 創造主が住むところであり、魔界の中心ともいえる。 すきまと夢子はその神綺に仕えているのだが…魔界をつくるという偉業を成し遂げた創造主。 意外なまでにこういった突然の発言も多かったりする… 「突然どうしたのでしょうか?」 「ほら、この前聖ちゃんに温泉に誘ってもらったじゃない? そのお返しに、と思って」 「はあ、それは良いのですが…ずいぶんと突然ですね」 「善は急げ、って言うもの。アリスちゃんとかユキちゃんとかマイちゃんにも手伝ってー、って手紙書いておいたわ!」 「「なにしてるんですか貴方は!」」 理由はまともだった。以前の旅館のお礼にパーティを開こう、と、そういうわけだろう。 しかし、行動があまりに早いことについつい夢子とすきまは主従も気にせずに突っ込んでしまう。 この主従ではよくある光景だが。 「だって、人手が足りないでしょ? 他にもそういったことの専門家にも手は貸してもらうつもりだけれども」 「だからって、相談もなしに…」 明るく答える神綺にあんまりといえばあんまりな主の行動に頭を抱える夢子。 そこに、1つの影が割り込んできた。 その影はむんず、と神綺の頭をつかむが、夢子もすきまもそれを止めようとはしない。 「すまん、止め損ねた。 まさかこいつがそこまで考えなしだとは思わなかった」 「痛い痛い痛い、たけちー!」 割り込んだのはもう1人の創造神、たけみかづち。 噂では魔界の気候などは彼の影響が大きい、とも聞くが…何しろ創造前のこと、真実を知る物は魔界人にはいない。 神綺や本人に聞く事もためらわれ…有耶無耶になってしまっている。 ただ、性格は見てのとおり。1人だと割りと普通なのだが、2人集まると漫才になってしまう。 いまも神綺の頭をぐりぐりとしながらの話である。 「だ、だってー、呼んでもらったんだものー、お返ししないの良くないじゃない!」 「ああ、そこまではいいんだ、いいんだがな…先に身近なものに相談しろ!」 「痛い痛い痛い!」 言い合っている…傍目にはじゃれあっているようにも見える2人を放って置いて、 従者2人は顔を突き合せる。 主人たちを放って置いていいのか、という疑問もあるかもしれないが、いつものことである。 放置しておいた方が角が立たない。それが長年の結論であった。 「それで、どうしましょうか、すきま」 「出しちゃった以上はもう、動かすしかないだろうな…参加予定者にはまだ何も伝えてないのが幸いだろう」 「そうですね…アリスやユキ、マイたちには謝らないと…」 「おそらく付き合って魔界に来るだろうはくどうと永久にもな…」 2人は見詰め合ったあとはあ、とため息をつくと パーティの内容、場所などの相談に入って行くのであった。 「まあ、大体そんなところだと思っていたけど」 「だいたい予想できますよね」 「そうだな〜、これだけ急となると相談してないんだろうな〜とは思ってましたね」 「いっつも突っ走るんだもん!」 「ユキがそれは…」 以上が到着した5人にこれが神綺の独断専行だったことを伝えた時のそれぞれの反応である。 …それぞれ神を何だと思っているのか、というような答えである。 それが正解であったのだからなんともいえないが… 「それで、とりあえず無難にパーティをこなしたい、と」 「皆集まっちゃったしな…屋敷のメイドも総動員で準備だ」 「それでも数が足りないので、手伝っていただけるとありがたいのですが…」 神綺の館のメイドは2人以外にもいる。実はすきまがどこからともなくヘッドハンティングしてきたものも多い。 きちんとした魔界人なので能力はそれなりにあるのだが…(もしかしたら違う種族も混ざっているかもしれない) 似たような境遇の紅魔館に比べると数が足りない。 妖精メイドは能力は低いが数は揃えられるのに対してこちらはそうも行かないのだ。 ゆえに、こういった人数のいる事態ではやや厳しいとものがある。 「やるからには、成功させませんとね」 「やるぞー!」「おー」 「いいわよ、そのために来たんだもの」 「がんばりましょうか」 その答えを聞いてほっとする2人。 ここで5人分の戦力があるとないとではかなりの違いが出る。 さらに今回は公式の場。一般メイドだけで相手するわけにも行かない。 ならば前回出向いた人で相手することも必要だろう。 前回の旅行、魔界では普通であっても、周りから見れば「魔界の神に選ばれた」者がついていっている。 そのため、今来た物は体面的にも問題のない者、ということになる。 …もっとも、幻想郷から来る者たちがそれほど細かいことで気を悪くする気もあまりしないが。 「そうしたら…すまないけど手伝って。滞在中の部屋の手配とかもしておくから」 「やる以上は、成功させないとな」 その言葉に全員が頷いて、かくして魔界パーティの準備が端まったのであった。 仕事をする各人の仕事能力にはかなりの差異が見られた。 すきまと夢子は本職だけあって手早く、正確に仕事を片付けていく。屋敷の把握ももっともできているため、現場監督も兼任していた。 アリスとはくどうは共に人形と自立型の魔導機械によってさらに手数を増やしていた。総合的な仕事量は本職の2人顔負け、というほどである。 ユキマイに永久はそれなりに、というところである。3人ともこういうときに役にたつ能力もなく、本職でもない。仕方がないといったところだろうか。 騒動の張本人の神綺はということだが招待状の作成やスケジュールの管理などに缶詰であった。たけみかづちはその見張りである。 準備の最中は割愛する。 大きなトラブルもなく、普通に進んでいったからだ。 抜け出す神綺とそれを引きずって連れ戻すたけみかづちが頻繁に目撃されたり。 「捕まえたぞこのアホ毛がっ!」 「やーん、たけちー離してー! 私は皆のお手伝いに行くのよー!」 「そっちはすきまと夢子の任せておけば大丈夫だ、だからさあ、書類を書く作業に戻るんだ!」 「うわーん、たけちーのドさでずむー!」 「あれ、何回目でしたっけ?」 「片手で足りなくなってからは数えてないわね…」 夢子が試しにアリスとユキとマイにメイド服を着せてみたのをすきまが口説いて方々から張り倒されたり。 「どんなもんかしら?」 「あんまりメイド服にはいい思い出がないわね…」 「はくどう兄ちゃん、似合うー?」 「どう、かな?」 「おお、素晴らしい! 皆さん、これからお茶でもいかが?」 「「「メイド狩りを始めるな!」」」 「じょ、冗談だって…」 はくどうの差し入れがさまざまなあやしげなラムネだったり。 「これ、差し入れだよ〜」 「ありがとう…って、激辛キムチラムネ、辛口わさびラムネ…」 「これ、醤油かしら…?」 「紫蘇と小豆の炭酸飲料…なのか?」 「はくどう兄ちゃん、飲み物にまでギャンブラーだからなあ…」 「(こくこく)」 永久が本棚にぶつかって落ちた本がやばげな物で戦闘があったり。 「いたたたたたた!」(びしびしびしびし) 「またなんか変な本が紛れ込んでたかっ!」 はくどうの魔導機械が魔力切れで落下、永久の頭に直撃して気絶したり。 「いたた…ひどいめにあった」 「やあ、大丈夫かい永久…ってあれ? 機械の制御が…」 ひゅー、ごつん! 「きゅ〜…」 大体その程度である。これくらい気にしていたら幻想郷や魔界では暮らせない。特に騒動の中心になるようなところでは。 「いたたた…」 「永久、大丈夫?」 とはいえ、ほとんど一般人の人もいるわけで… いろいろ巻き込まれた衝撃で子供化した永久が治療を受けていた。 「いや、ごめんごめん ちょっと連続稼動させすぎたよ」 「いえ、半分は僕のせいですから…」 はくどうの魔導機械の魔力切れの原因の1つはその前にあった戦闘。 その原因を作ったために永久の方も強くはいえなかった。 …永久の服にある焦げ痕はその名残である。 「折角飛べるくらいの魔力ついたんだし、ほかにも魔法を学べばいいのに」 「(こくこく)」 「自分の身くらいは護れた方が好都合と思われますが」 ユキ、マイ、夢子と折角の物を生かさないか、という意見が発せられる。 確かに、危険のある場所で身を守れる術を持たないのはあまりよろしくない。 それが手の届く位置にあるならばなおさらである。 「一応魔力の動かし方は学んだんだけど…」 「もともといろいろな事の副産物だからね、先に子供化とかの制御のために基本のコントロールを教えていたのよ」 「一応何もしていなかったわけじゃないわけだな」 「はいはーい、ならそろそろ魔導書でお勉強すればどうかしら」 永久やアリスがそれに答える中、そこに来たのは神綺とたけみかづち。 どうやら書類作成もも終わったようである。 「そうねえ、これなんかどうかしら?」 「これは…?」 なにやら分厚い装丁の本を永久に渡す神綺。 渡された本を永久はめくってみようとする。 「ネームレスカr」 「なにを渡しとるんじゃあ!」 とんでもない名前を出そうとする神綺をたけみかづちが張り倒し、 慌ててアリスが永久の開きかけた本を強引に閉じる。 「えっと…」 事が読めない永久にはくどうが肩をすくめて語りかける。 「簡単に言えば、表題を読むだけでも危険じゃ呪文が記された魔導書ってこと、本物かどうかはわからないけどね」 「だって〜、習得すれば身を護るくらい〜痛い痛い痛い!」 「その前に危険性を考えんかぁ!」 事の重大さに永久が汗をたらす横で 神綺の頭を頭をグリグリをするたけみかづち。 「えっと…それはあとにして、ひとまず…明日のことを話しましょうか」 「そ、そうね。 どうすればいいのかしら?」 このままではいけないと思ったか、夢子が話を逸らせる。 アリスもひとまずそれに乗ることにしたのか、珍しく慌てながらも聞き返す。 「一応ここにいるメンバーは旅行にも行ったし、建前上は魔界の代表者って事になる」 神綺へのおしおきがすんだのか、たけみかづちが戻ってきて言う。 その後ろから頬を膨らませながら神綺がにらんでいるが、まったく堪えていないらしい。 「とはいえ…そこまで畏まる事もない、当日は思いっきり楽しんで来ればいい」 「あの、私たちは…」 「夢子とすきまも気にするな。しっかり交流を深めてこい 名目上は屋敷のメイド統括者としての接客担当だがな」 神綺とたけみかづちなりの気遣いなのか、どうやら当日は普通に参加させるようである。 もっとも、参加者の相手役を勤めさせる意図も見え隠れする辺り、2人ともボケているようでいても一筋縄では行かない。 「まあ…とりあえず、だ 明日に備えてもう休む…前にだ、ちゃんと明日着る服を決めておけよ?」 「あ、そういえば…」 「私は持ってきたわ…永久にそのこと伝えるの忘れてたけれども…」 「あんまり参加したことなかったから…」 「私も今は持ってないかな?」 アリスは持ってきていたものの、どうやら他の面子は礼服を持ってきていなかったらしい。 「ふむ、ここにはいろいろ礼服があるから…適当にもって行くといいぞ」 「永久は…大人用か?」 「ええ、そんなにせずに戻るようになれますから…そもそもノーマルはそっちですって…」 さすがのお屋敷、着ることのできそうなものは用意してあるらしい。 今は子供の永久もそれほど時間をかけずにもとに戻れるらしい。 「あ、なら…」 「そうね…」 そんな永久を見てにやり、と笑うアリスと夢子。 永久もそれに気がついて逃げようとするが…子供状態の身体能力では悲しいかな、アリスの力すら振りほどけない。 「子供状態のうちにいろいろ着せて見ましょう!」 「男の子はあまりいなかったから、面白そうなのよね」 「あ、いいわねー、私も参加していいかしら?」 神綺もそれに賛同し、そのまま、衣装室に引っ張られていく永久。 「…以前も1回なったことがあるけど、やっぱりあれはすごいね」 「羨ましく思う人もいるかもしれないが…本人には災難だな、あれ」 そんな3人を呆れて見ているすきまとはくどう。 「まあ、羨ましいところも確かにあるし、巻き込まれると面倒だし、放っておこう、それがいい」 そして、たけみかづち。 周りもそれに異論はないのか放置することに決めたようである。 「じゃあ、ユキ、マイ先に服を選んでおいで」 「はーい、でも、お披露目は明日ね、はくどう兄ちゃん♪」 「お楽しみ」 「うん、じゃあ私も選んでくるかな」 兄と妹のような微笑ましい光景。 もっとも、いつまで「兄と妹」なのか。 その関係が崩れていくのもそう遠くないのかもしれない。 「そういえばすきまはどうするんだ?」 「一応私は公用の礼服を持っていますから」 すきまも筆頭執事。 こういった時の為の礼服くらいは持っている。 「はくどうの分だけだな、俺も礼服はあるし」 「家にはあるんですがね…たまには違うものもいいかな?」 「はくどうさんの礼服は…学会とかのほうが向くんじゃないでしょうか」 はくどうは魔導機械の第1人者である。 本人はあまり好きではないらしいが、たまにそういった集まりに行ったりすることもある。 その分、煌びやかと言うよりもきっちりした礼服を持っている。 「たまには派手目に着飾って見るのもいいんじゃないか?」 「そうだね、たかみかづち」 何気に創造神にたいして敬称もつけないはくどう。 たけみかづちの性格もあるが、はくどうも正体は知れない。 少なくとも魔界人ではおそらくない、ということくらいしかわかってない、謎多き人物であったりする。 「人のことは言えないか、ま、こうなったら楽しんでしまおう」 すきまはそうつぶやいて、明日の準備へと取り掛かるのであった。