外界より隔絶されし幻想郷。 そこにある魔法の森。 普通の者は長くはいられないこの森を歩く影が1つ。 名前を永久といった。 今現在、彼がここにいるのは彼の想い人が関係しているのだが… それ以前から彼はこの森に来ることが多かった。 きちんと推測が立てられたのは最近でも、元から能力はあったようで、 彼が魔法の森の瘴気に侵されないのは幼少の頃からだった。 はじめに判明したのは無謀にもかくれんぼでここに隠れた、ということだったりするが… ともかく、その能力は普通ではないことだが、 妖怪や魔法が普通にある幻想郷。 それくらいの能力を持っていることはさほど珍しくもない。 そんなこともあるか、で済まされた。 加えて、彼の本職である劇作家は人口が少ないこともあり収入が安定しない。 そのために、体質を生かしてよくこの森に採集に来ていたりする。 そのことがきっかけでアリスと出会うことになるのだが…それは別の話。 まとめれば、彼がここに来ることは珍しくもなく、 それゆえに足取りも慣れたものであった。 今回は採集ではなくアリスとの打ち合わせ、は建前で、実際はアリスのところ遊びに行く、 大体そういう状況であった。 「さすがに、冷えますね…」 時期は冬、辺りは雪化粧。 日の当たらない森は寒く、永久は身を縮めるようにして歩を進める。 程なく、目的地が見えてくる。 既に慣れた手つきで永久がドアを叩くと、中からは直ぐに反応があった。 「はーい、あら、永久じゃない ちょうどよかったわ」 好意的に迎えてくれることはうれしいのだが、1つ、引っかかること。 事前に来ることは伝えてあったのでちょうど、ということもないはずなのだ。 「ちょうどよかった?」 「いえ、実はこんなのが…とりあえず、まずは家に入りましょうか」 肩などに雪が積もっている永久の姿を見て、アリスは彼を家に招きいれた。 「それで、なにがあったんです?」 紅茶をすすりながら永久が問う。 「それなんだけど…この手紙、見てくれないかしら?」 アリスが手紙を差し出す。 裏の差出人の名前は神綺。 どうやら魔界の神じきじきの手紙のようである… と、いっても神綺がアリスに手紙を出すことは珍しくないのだが。 「えっと…『前回聖ちゃんに御呼ばれされたし、今度は魔界でパーティを開くので手伝ってください       永久ちゃんも連れてきてねー』ですか…」 実際はもっと前置きも長いのだが、関係のないことがつらつらと述べられているので割愛する。 確かに、前回は神綺につれられていったので無関係ではない。 でも、これはそれ以上に… 「アリスに、ひいてはユキさんとかマイさんとかに帰ってもらう口実、ですかね」 「多分、ね」 ふう、と息をつくアリス。 「まあ、年始進行も終わって時間はある時ですし、何とかなりますよ」 「わがままな母でごめんなさい…」 「いえいえ、じゃあ、時間予定ですけど…」 そこからは話し込み始める2人。 ひとまず、この2人は招集に応じ、魔界に向かいつもりのようである。 一方、そのころ他の場所でも… 「はくどうにいちゃーん!」 ぱたぱたと黒い服の女の子が玄関から走ってくる。 「ユキ、家の中で走らない」 その少女をユキと呼んだ、逆に白い服の少女が彼女をたしなめる。 「ん、どうしたの、ユキ、マイ?」 振り向いたのは奥で機械のようなものをいじっていた青年。 ユキの言ったとおり、名前をはくどうといった。 と、すると、白い服の少女はマイというのだろう。 「手紙、ポストに入ってたよー」 「ああ、ありがとう。どれどれ…」 はくどうがユキの頭を撫でながら手紙を受け取る。 「えへへー」 照れながらユキがうれしそうに撫でられているのを、マイはどこか羨ましそうな雰囲気で見ていた。 その変化は親しい人でないと気づけないようなもの。 その場にいる2人はマイに気を払っていなかったために、それは誰にも気がつかれることはなかった。 今はほかに人がいるわけでもないが。 「なになに『前回御呼ばれされたし、今度は魔界でパーティを開くので手伝ってください』か…」 「えーっ、いきなり!?」 「ちょっと急じゃないかな…」 さすがに急な呼び出しに3人とも少し困惑する。 そしてユキとマイが少し不満そうに言った。 「もうちょっと前から企画すれば…」 「開いてるとは限らないし…」 「まあまあ、この時期にしたのは忙しいときを避けてなんだろうから、2人とも怒らない怒らない」 そんな2人をマイペースにはくどうがたしなめる。 「とりあえず、先にこれ、仕上げちゃおうかな」 「あ、手伝う!」 「ユキ、私たちじゃまだ邪魔になっちゃうから…」 とりあえずは、目の前の仕事を片付けるようにしたようだ。 どうしてこうなったのか、話は少し前の魔界、その一角にさかのぼる…