秋も深まり、早めの時間でも日が傾いて行く物悲しさも感じるような晩秋。 そんな折に、道を数人の集団がゆっくりを歩を進めている。 「今日の演奏会もうまくいったわね〜」 「うん、これで秋の演奏会も終わりね」 「次の稼ぎ時は年末ごろかなー」 そんなことを話しているのは有名な演奏家たち、プリズムリバー三姉妹、 「で、何で俺が借り出されてるんだ?」 プラスワン。 里で音楽関係の店を営む雷音だ。 「だってー、この曲パートが多いから3人じゃ心もとないんだもの」 「そうそう、いくら複数パートできる能力だからって担当しすぎるとやっぱり音が少し悪いのよね」 そういうメルランとリリカ。 「この3人に加えてカナと一緒に舞台に立ってるとなんか痛い視線を感じるんだけどな…」 人気の演奏家たちであり、容姿もまた上々。 ファンもいる彼女らと一緒の舞台、しかも見かたによってはハーレム状態、となると 多少の嫉妬や羨望も生まれる。特に男性あたりからの。 「(雷音のいる日は女性客の割合が少し増えるのだけども…)」 …どうやらそれだけではないようである。 「それに能力があるなら活かさないと損じゃない? 折角なんだし」 と、リリカ。 「それはいつもは作詞作曲の音合わせに使ってるよ」 普段は音楽堂の店主でありライブ会場などの斡旋主であり さらに作詞作曲家という、音楽の第一人者である彼はよく自分での作曲を自分で演奏するらしい。 確かにそのようなときにはかなり便利な能力だろう。 「あらー、また新しい曲を作ったのかしら?」 雷音の肩の後ろからひょこ、と顔を出して問うメルラン。 「ん、ああ。あれからいくつかね」 気にせずに答える雷音。 「(端から見るとあれ、すごいとおもうのだけど)」 「(いいなあ…)」 端から見るとメルランが後ろから雷音に寄りかかっているようにしか見えない。 その様はどう見ても恋人同士なのだが…本人ら、気がついていないようである。 「なら、雷音の音楽堂にいってもいいかしら?」 雷音に問うメルラン。 「ああ、構わないけど」 雷音も内心悪い気ではないのでメルランの申し出を了承する。 「なら、私たちは先に帰ってましょうか(2人きりにしてあげましょうか)」 「そうねー(あの空間には入り込みたくないなあ…)」 2人とも、そこに入り込むほど野暮ではない。 それに、2人の空間に入り込みたくない、というのも本音だろう。 誰が好き好んで甘い空間に立ち入ろうとするだろうか。 「音楽堂によるのならここで一旦お別れね。メルラン、お持ち帰りされないようにね」 「お持ち帰りじゃないですよ!」 「あらー、食べてもいいのよ?」 「な、なにいってるのメルラン!」 「そういう相手がいるだけいいとおもうなあ…」 ルナサがからかい、メルランがそれに乗って、雷音がそれに翻弄され… まだ相手のいない末妹は自分もいい相手が見つかるといいなあ、とひそかに思うのであった。 「ついたわね〜、ただいまー」 「いや、それおかしいから!」 お約束のようなボケを(いつまでそうかはわからないが)かまし、自分の家のようにくつろぎ始めるメルラン。 その所作は慣れた物で、ここにくることが初めてではなく、馴染んでいることを感じさせる。 「はあー、でも楽しかったわー、コンサート」 「俺は結構疲れたけどな…」 「あら、だらしないわねー」 「メルランがテンポを引き上げるからだろ!」 今回のコンサート、メルランがメインであったのだが… のりにのった彼女がテンションを上げるとともにテンポが引き上げられてしまい、周りはそれに合わせることとなってしまったのだ。 ルナサとリリカはさすがというか、あっさりとついていっていたが、 それほど慣れていない雷音やカナは合わせるのになかなか苦労していたようである。 「だって、皆ハッピーのほうがいいじゃない? テンポを上げていけばもっとハッピーになれるのよー?」 「いや、ついていけない人が出るから…」 少しぐったりした顔でいう雷音。 だが、メルランはマイペースであった。 「あ、これが書きかけの楽譜ね〜」 「え、ああ、そうだけど」 直ぐに話題を切り替えて当初の目的であった楽譜を見つける。 その展開の早さにもなれているのか、雷音も直ぐに思考を切り替え、彼女の言葉を肯定する。 「この旋律…ララバイかしら。私はあまり得意じゃないわねえ」 「メルランはテンポの速い、元気な曲が好きだからね」 書きかけの楽譜のほかにもそのあたりに置いてあった楽譜を手に取りながらメルランが呟く。 「…いろいろあるけど、ララバイが多いわね、そういえば何でなのかしら?」 確かに見てみると、楽譜にはララバイの比率が多い。 他の曲は割りと均等なのに対して明らかに数が多い。 よくよく考えると、これは今に始まったことではなかった。 「私あんまり得意じゃないのになあ…なんで?」 自分の比較的不得手な曲多く作っていることが少し気に入らないのか 少しむくれながらまた雷音に後ろから抱きついて問う 「ああ、これは…」 雷音は近くの楽譜を手に取り、語る 「確かにメルランの曲は相手を元気づける」 「そうよー、皆ハッピーなのよ!」 「でも、それがずっと続けば? 多分、皆疲れてしまうと思う」 いつもは茶化すメルランも、雷音の真剣な様子に聞き入っている。 「昼に活動する者は夜に休んで次の力とするように、安らぐときというのも必要だと思うんだ」 「だから、メルランの曲をさらに聞いてもらうためにも、俺はその間を埋める、お休みの曲を多く作ってるんだ」 キョトン、と目を丸くして聞いたあと、にこーっと笑顔になる 「へー…そうだったんだあ…」 そして悪戯を思いついたように少し微笑むと 「えいっ!」 「わっ!」 雷音を押し倒すと、自分の腿の上に頭を乗せる 「め、メルラン?」 俗に言う膝枕の状態にメルランの突然の行動慣れた雷音も戸惑いを隠せない。 想い人の突然の行動に思考もまとまらない。 「なら、また明日、一緒にいるために、今日は特別に私がララバイを演奏してあげるわ〜、特等席でね」 そういうと、いつものトランペットを持つと、いつものアップテンポとは違った、ゆっくりとしたその曲を演奏し始めた。 「…ああ、なら、頼もうかな、メルラン」 メルランはその答えに目だけで頷くと、自分をもっとも見てくれる、たった一人の聴者のために、 心を込めて演奏を続けたのであった。 あとがき 何でララバイ? めるカンさんの退出の台詞から。 めるカンだとかぶるので旧HNを使用させていただきました。