役立たずなカカシもどきのせいでせっかく確保した食料の魚の大半を海鳥に捕られてしまった霊夢達。 ただ幸いにもほんのわずかながら難を逃れた魚が残っていたようだ。 よって、まずは腹ごしらえにとそこらに転がっている木切れを集めて火をおこし、 残っていた魚を串に刺して火にかざしはじめる。 「さて、これからどうするわけ?」 ぱちぱちとたき火がはぜる音と共に脂の焼ける匂いが辺りに漂う中、霊夢は誰ともなしに問い掛ける。 「当然、今はキャンプ気分で無人島生活を楽しむべきでしょう」 「……あんたに聞いた私が馬鹿だったわ」 らんらんと目を輝かせている早苗をあえて見ないふりしつつ、霊夢はちらりとランジェロの方をみる。 ランジェロはようやっと生き埋めから解放されたらしく、 顔面あちこち傷だらけだが何事もなかったかのように薪をたき火へ投入していた。 「おや、霊夢どうした?魚はまだ焼けてないが」 霊夢からの視線に気付いたランジェロは火加減を調節しつつさらりと応える。 ランジェロはこの冬のバレンタインでの騒動で家が全壊となり、これ幸いと博麗神社へと居候となった。 霊夢も最初は渋ったものの、炊事や洗濯に掃除といった労働を代償として居候を認めたのだ。 なので、ランジェロも霊夢の視線はいつもの飯の催促だと思っていつも通りに答えたのだが このいつも通りなのがいけなかった。 なにせ霊夢は縦縞模様の囚人服もどきな色気ない水着からわざわざ露出の高い水着へと着替えたというのに ランジェロは全くその事に対して触れなかったのだ。 「普段はあれなくせして、なんでこんな時に限って乙女心というものがわからないんでしょうかね」 わなわなと怒り任せに握りしめられていく霊夢の拳とそれに全く気付かずに魚を焼いているランジェロ。 そんな二人に聞こえないよう小声でこっそりとつぶやく早苗。 まぁ、霊夢とついでに早苗の水着は露出が高いといっても、普段見慣れている巫女服の露出をさらに高めたような水着である。 それに加えて先ほどのリンチで生死を彷徨う羽目となった影響でいくらか記憶や人格に支障をきたしたでもしたのか とにかく、霊夢の水着姿に対して何の反応も示さなかったのだ。 示したら示したで腹立つが、逆に無反応だともっと腹が立つ。 よって……… ずがぁぁぁぁん!! 数秒後、霊夢の握りしめた拳がランジェロの顔面にめり込み、 再びモガガル?!する羽目となったのは言うまでもない。 本当に乙女心というものは複雑である。 「さて、これからどうするわけ?」 上手に焼けた魚を頬張りながら、先ほどのリテイクと言わんばかりに再度同じ事をつぶやく霊夢。 ただし、今回はランジェロが褌一丁で墓標のごとく首から上を逆さまに埋め立てられているので 霊夢の問いかけには応えられるわけがない。 実質問い掛けているのは早苗になるので、当事者である早苗はきっぱり言い放つ。 「今はキャンプ生活を楽しみましょう。こんな機会幻想郷では早々ありませんよ」 「こんな機会が早々にあってたまるか」 一応霊夢も以前月へ行った時に似たような状況となった経験はある。 もっとも、月旅行の時は隣にいたのが魔理沙であったり 行きに使ったロケットは完全に大破したのに対し、 今回は大破を免れていたりと状況がいろいろと違ってはいるが何より違うのは…… ここに漂着してから飛行や弾幕といった人外の力がほとんど使えなくなっていることだ。 普段何気なしに使用できる能力が使えないこの事態はさすがに霊夢でも不安に思うだろう。 幻想郷の少女達から『○○程度の能力』を取り払ったらただのか弱い年相応の少女となり果てるので こんな時に多数の触手をうねらせる海の魔物、クラーケンなんかに襲われでもしたら………… … …… ……… 閑話休題 とにかく、今のこの状況は霊夢にとって心細い事間違いなしだ。 ならば、ここは普通の少女らしく自分より年上の男に頼るのがお約束だろうが あいにくと霊夢はそんなヤワな神経をしていなかった。 漂着後、この事実が発覚と同時にこれはチャンスと霊夢へ急接近してきたランジェロを 早苗と共に全くいつも通りぼこって冒頭で書かれたとおり砂浜に首から下を埋め立てられた。 その後は月での静かの海で依姫に邪魔されて結局やりそこねた釣りという名の魚の手づかみを行う等 結局のところ霊夢も霊夢でそれほど悲壮感なくこの状況を楽しんでいた。 「とりあえず、現状を整理するけどあの車とかいうものは一見無事にみえるけど  動力源がやられたのでもうピクリとも動かす事が出来ない…とみていいわけね」 「いえ、逝かれたのはメインの動力炉でサブの方は生きてます。  それでも充電期間がいるためにすぐは動かせませんがしばらく待てば計器類が動かせそうです。  なので充電完了後に救援信号を送れば神奈子様達に助けを呼ぶ事はできますけど…」 「けど………」 「こういう時って大抵特殊な結界が張られてるとかでその謎を解明しない限り  救援信号が届かないなんてオチが多いんですよねー」 あっけらかんとした態度で言い切る早苗に霊夢はふうっとため息を一つ付く 「結局のところ、助けを呼ぶにはまずこの島の謎というか異変を解決しないといけないわけね」 「ですです。もちろん異変解決後は自力で帰ってもかまいませんけどね」 「帰るにしても異変解決に動くにしてもまず最初にすべきことは決まってるわ」 「はい、まずは生きるために食料確保ですね」 「当然、生きていくにはまず食べ物の確保が不可欠よ!!後お賽銭もあればなおよし」 ぐっと拳を握りしめながら、力説する霊夢 しかし、前人未到の地で前者は正論であるが後者は明様に論外だ。 当然早苗もその事は気付いているが、霊夢のあまりにもな迫力に押されてしまい 「そ、そうです…ね」 つい肯定してしまった。 よって今の霊夢の暴走を止める者はここにおらず、そのまま間違えた方向へ突っ走るかと思われたが 「ちょいまて。こんな辺鄙なとこで金なんてあっても意味ないだろうが」 そうは問屋が卸さないといわんばかりに突っ込みが入れられた。 一体誰かと思い霊夢と早苗が振りかえるとそこには妹紅とベンゲルが立っていた。 「もこたんに知将お帰りなさいまし!周辺の様子はどうでしたか?」 霊夢が先に動くと話がややこしくなりそうだったので、先手を打つかのようにして動く早苗。 ちなみに二人は早苗がドライブに誘った時にたまたま博麗神社へとお邪魔していたので、 そのままランジェロや霊夢と共に車へ乗り込んでおり、 漂着後にはまず軽く周辺を探ってくると情報収集に出向いていたわけだ。 妹紅はふぅとため息交じりに答える。 「ざっと浜辺を歩いてきたけど、ここがどこかの島だってことが判明したくらいだな」 「無人島と言わないってことは人がいるのですか」 「厳密にいうと人ではないかもしれないけど、浜辺にこんなのが打ち上げられていたから無人島じゃないかなぁと」 そう言いつつ、ベンゲルはすっと妹紅の脇に抱えられていたひらひらとした人型の何かを指差した 「これは……リュウグウノツカイでしょうか?」 「たぶんそうだ。普通は死体が打ち上げられるもんだが生きたままだなんて珍しいぞ。  縁起もいいし、新鮮だからこのまま刺身にでもして食べてみるか」 「た、食べないでください。私を食べても美味しくありませんよぅ〜」 妹紅の食べるという言葉に反応したのか、リュウグウノツカイと呼ばれた人型の何かが涙目に懇願してきた。 しかし、懇願されたからといってこのまま大人しく引き下がる大人しい連中だけではない。 「えー本当に?そう言われると食べたくなってくるわよね」 「ちょっとだけ食べるのは駄目ですか? ひときれだけ…できればキモで」 「だ、誰かタスケテー!」 辛うじて残っていた小魚1〜2匹だけでは物足りない食欲旺盛な少女二人からの血走った目を受け、 泣け叫びながら助けを呼ぶリュウグウノツカイ。 その様をさすがに気の毒と思ったのかベンゲルが間に入る。 「まぁまぁ、食べれそうな果物も捕ってきたのでこの辺で許してやってくれませんかなぁっと?」 「「よし、許そう」」 乙女としては肉や魚といったたんぱく質よりも果物の甘みやビタミンの方が好みにあう。 よって霊夢と早苗はベンゲルからひったくるかのようにして果物を受け取り、そのままむしゃぶりついた。 「さて、丁度気が付いたようですし、まずここがどこか教えてもらえませんか?衣玖さん」 「えっ、なぜ私の名前を?」 気付け用に竹筒で作った即席の水等を差しだしながら問い掛けたベンゲルに 素っ頓狂な言葉を返すリュウグウノツカイである衣玖。 その様子にベンゲルは首をかしげる。 「………あなたは、あのわがまま天人のお目付役なリュウグウノツカイの衣玖さんではないのですか?」 「天人のお目付役?違いますよ。私はわがリュウグウノツカイの王族の血を引くコメータ王子のお目付役です」 「コメータ王子だって!?」 「知ってるんですか?妹紅」 「あぁ、コメータ王子というのはライスの本名だ」 「な、なんだって〜!」 妹紅の発言に棒読みながら定番の声をあげるベンゲル。 その様はあからさまにわざとらしく本当は知ってるんじゃないのかと妹紅はちらりと疑いの目でみはじめる。 ただ、ベンゲルは知っててもそのほか、霊夢と早苗は知らないはずだ。 その証拠に果物を齧りながらも興味深そうに耳を傾けているので黙っているわけにはいかない。 なお、コメータ王子の件はランジェロも知らないと思うのだが……… 褌一丁のまま逆さまに浜辺へと突き刺さって墓標となっている姿をみると、 なぜか褌を剥いでしまいそうになるのであえて見ないふりをしつつ、語り始める。 「えっと、あれは確か100年ぐらい前だったかな」 妹紅はいくら蓬莱の薬で不老不死になったとはいえ、基本スペックは人間だ。 記憶力も人並みであるため、人の平均寿命を超える年以上昔の事はあまり覚えてられない。 よって、妹紅の話は一部記憶がおぼろげで曖昧な部分も多々あったが要約すると…… ライスは位の高いリュウグウノツカイと人間との間に生まれた半妖であり、 その妖力は半妖でありながらも最強クラス。 しかも、通常のリュウグウノツカイは龍と交信する能力しか持たないが彼の場合は龍の力、 厳密にいうと"龍脈の力"を直接利用する能力を生まれながらに持っていたのだ。 ただし、その力はリュウグウノツカイという妖怪にとってあからさまに異端な上に 強力過ぎる力を半妖の身では到底押さえつける事ができず、ある日その力を暴走させたのだ。 暴走した龍脈の力は一部の土地の植物を異常発育させ、その他の土地を枯渇させてしまい… この事態を重くみたっというか、ゆうかりんランドの花達を窮地に追い込んだせいで 花の大妖怪幽香の逆鱗に触れてしまい、これ以上ない力技でもってライスもろとも龍脈の力を抑え込んだ。 その後はゆうかりんランドを荒らした罰として幽香に身柄を拘束されるわけとなったが、 ライスの能力のコントロールや暴走時の対処では幽香ほど適任者はいないということで、 そのまま小間使いとしてこき使われるようになった…とのことだ。 「とまぁ、その一件以来能力制御の一環とかなんとかな理由で名前をコメータからライスに変更したわけさ」 「なるほど、俗に言うコトダマの力で生来持っていた能力を上書きさせたわけね」 「ライスさんの能力を考えても、きっとそうかなぁと思いますよ」 妹紅からのちぐはぐな話を聞いて、うんうんとうなづきながら納得する霊夢とベンゲル。 しかし、早苗は理解できていないようだ。 頭上に?マークを多数浮かべている。 「とりあえず質問ですけど、なぜそんな話を妹紅さんが知ってるんですか?」 どうやら早苗はなぜ妹紅がそんな話を知っているのかに疑問が湧いていたらしい。 それを聞いた妹紅はさらりと言い切った。 「異常発育した化け物が急に現れたせいで片っぱかしら焼き払ったんだが、そのせいで花の大妖の逆鱗に触れてしまってな。  私の血肉を肥料としてゆうかりんランドにささげろとかぬかして襲われたんだ。  まぁ反撃は認めてくれたから結局やる事はノーガードの殴り合いだったし、その時に事の真相もついでに教えてもらえたってわけさ」 とどのつまり、妹紅も当事者の一人だったのでそれなりに事情を知っているらしい。 「とりあえず話の続きをしたいのですけどいいのでしょうか?」 妹紅の昔話で完全置いてけぼりを食らった衣玖がおそるおそる手をあげる。 「あぁ、構わないさ。話の腰を折ってしまって悪かったな」 この衣玖は普段妹紅達が知っている衣玖とは少し違うものの、空気を読むようなところは共通しているようだ。 妹紅も一通り話が済んで満足したらしく、これ以上は何も言わず衣玖へバトンを渡す。 「それでコメータ王子なのですが、数日前にいきなり……」 そうして衣玖は改めて周囲を見渡して大人しく話を聞いてくれそうな空気を確認しつつ…… 「『伝説の超月兎人を蘇らせる』なんて言い出したのです」 その口からとんでもない言葉が飛び出してきたのだった 続く