空からさんさんと照りつける太陽。 白い砂浜に寄せては引いていく波の音。 目の前にはどこまでも続く青い海が広がっている。 その光景はまさに夏そのもだ。 「なぜこんなことに……」 波打ち際にて水着姿できゃっきゃうふふとはしゃいでいる二人の少女、 霊夢と早苗を見つめながらため息交じりにつぶやく男。 彼の名前はランジェロ・ミステリオン。 本職は作家だがそれだけではまんまが食えないため,、ボーダー商事の臨時派遣社員としての籍もある。 本が売れず生活が貧窮になれば急場しのぎとしてボーダー商事に舞い込んでくる雑多な仕事を引き受けて生活費の足しにしていた。 ただ、ボーダー商事からまわされる依頼に偏りが激しい事に少々気にはなるが、今は関係ないから省くとしよう。 「本当になぜこんなことになったんだ…」 再びため息まじりにつぶやかれるこの言葉。 とにかく今彼が世の男達の夢見るシチュエーションベスト3に君臨すべき状況であるにもかかわらず気分がすぐれなかった。 その理由は、別に首から下を砂浜に埋められているわけでもない。 こんな事態しょっちゅうだからもう慣れたものだ。 そうなれば、今いるここはどこなのかわからないから不安になってるのが普通と考えるであろう。 それもそのはず。 ‐幻想郷に海がない‐ それは、常識が存在しないに等しい幻想郷に住む者にとって数少ない常識だ。 なのに、今ランジェロの目の前に広がる状況は… どこまでも続く青い海・・・ 明様にここが幻想郷ではないことを示していた。 一体なぜこんなとこに来てしまったのか…… その理由は、ランジェロにわかるはずなかった。 どうせ考えたところで理由がわかるはずもない。 思いつく原因といえば…… 早苗の実母から餞別としてもらった車の調子が悪いからと河童や夢美教授達に整備を頼んだからなのか… はたまた、いつぞやの地獄ツアーで大破させたバスの動力炉が倉庫で眠ったままなので それを積み込んでみたらどうかと問われたからなのか…… それとも、早苗がどうせならと守矢の二柱神の一人、諏訪子と同じ愛称を持つと言われる某戦闘機の設計図を持ち出してきたからなのか… さらにいえば、試運転なしのぶっつけ本番な車でドライブに誘われたというのに何の疑いもなく乗り込んだからなのか…… はてには、軽くアクセル踏み込んだだけで崖下へのダイブを行うぐらい出力が上がってたからなのか…… そんな事態となったにも関わらず早苗が冷静に『パルプンテ!』なんて叫びつつ どくろマークが刻まれた緊急脱出用スイッチ目掛けて掌を叩きつけたからなのか……… うっかり、掌を叩きつけた衝撃で周辺の怪しげなスイッチも一緒に押されてしまったからなのか…… なんていうか、これだけ判断材料がそろえば理由なんて誰でもわかりそうだが、 あいにくランジェロにはわからなかった。 まぁ彼にしてみれば気が付けば無人島の浜辺になった理由なんてどうでもよかったので その辺りの思考を意図的に遮断しているのだろう。 そんなのでいいのかと突っ込みたいところもあるが、 幻想郷という地でただの一般人が生き残るためには必要不可欠な思考回路なので突っ込んではいけないお約束だ。 それより気になるのは…… 「はー捕れた捕れた。大量だったわね」 「はい、これで当面の食糧は確保できました」 先ほどまで波打ち際にてきゃっきゃうふふとしていた霊夢と早苗が戻ってきた。 どうやら波打ち際にて食料となる魚や貝を捕っていたらしく、双方が持つ網には大量の魚や貝が詰まっている。 「しかし、なんでこう都合よく網なんて持ってきてたわけ。後ついでに水着も」 「備えあれば憂いなし。昔は盗んだバイクで山や海をかっとばしたものですからね。  それでうっかり遭難して2〜3日ほど未開の地でサバイバルなんてしょっちゅうでしたから、  遠出する時はサバイバルグッズを携帯するようにしてるんです」 「……まぁ深く突っ込まない事にするわ」 自信満々のしたり顔な早苗に対して霊夢としてはそもそも遭難なんかするなと言いたいところであるが、 その辺りはすでに保護者である神奈子と諏訪子が突っ込み済みなのだろう。 ただ、ランジェロとしては納得いかない部分があるようだ。 「いや、俺は突っ込むぞ!」 首から下が埋まったままなのであまり格好がついてないが、 当社比30%程度のハンサム顔でもって霊夢と早苗をにらむ。 「はい、なんでしょうか?」 無言でにらみ返す霊夢に対し、にこやかに問い返す早苗。 その辺り対応の差はランジェロに複雑な想いを抱かせるものの、今は関係ないことなので割愛。 じろじろと霊夢と早苗を舐めつくすような目でみつめはじめる。 当然、その視線に霊夢はもちろん早苗も居心地が悪く感じるがランジェロは全く意に関する事なく見つめ…… 叫んだ!! 「君達は一体海を何だと思っているんだ!!」 「あー?海といえば食料の宝庫でしょ」 「後、神の奇跡を具現化させる絶好の場ですね」 さらりと答える霊夢と早苗。 一応その通りでもあるが、それらはランジェロが聞きたかった答えではない。 一瞬ザ・ワールドによる時間停止を食らったランジェロであったが、気を取り直して再び叫ぶ。 「違う!だから…君達はなんでそんな水着を着ているわけだ!!  特に霊夢!!ここは俺の好みに合わせてスクm…もががる?!」 直後飛んできた霊夢の足の裏を顔面ブロックのごとく真正面から受け止めるランジェロ。 「そんなふざけた事をぬかすのはこの口かしら?この口かしら?この口かしら?」 「ちょ、タンマタンマ。ほんの冗談っていうか…早苗さん見てないで助けて!!」 そのままげしげしと一方的に蹴ってはふんずけてくる霊夢にたまらず早苗へと助けを求めるランジェロ。 しかし、早苗も早苗でまともに応える気はないらしい。 「えーこれが俗に言う“俺達の業界ではご褒美です”って奴じゃないんですか? 「ち、違う。確かに少しだけ思ったりするが、俺は罪袋みたいな変態じゃない。  あくまで普通の人間であって…」 「そうなのですか?ガチャピンやムックのおふたがたから聞いた話によるとランジェロさんはそういう趣味をお持ちとか」 「あ、あんにゃろ〜〜!!!」 今度会ったらただじゃおかねぇ!! ランジェロは新たに決意をする…が、とりあえず今はあの二匹への復讐より先に霊夢の蹴りを止める方が先だ。 「と、とにかく悪かった。謝るから許してくれー!!」 「そうですよ。それだけ蹴ればすっきりしたでしょう。  それに、ランジェロさんの気持ちもわからなくはないですからそろそろ許してあげましょう」 「何?早苗もこいつの肩持つわけ」 「えぇ、いくらなんでも無人島で漂流という絶好のシチュエーションだというのに、  霊夢さんが選んだ水着はそりゃないよーです。下手したら視聴者に殺されます」 「……その台詞、そっくりそのまま返してあげるわ」 「なんですと?!私の水着のどこがおかしいと」 「いや、そもそもそれは水着じゃないでしょうに」 なんだかだんだんと論点がずれてきてるが二人ともお互いが身につけている水着について討論しはじめた。 おかげでランジェロの蹴りも止まってくれたのでランジェロはほっと胸をおろし、 改めて二人の今の水着を見つめ始める。 縦縞模様でTシャツと半ズボンが一体化している、囚人服かのような水着を着る霊夢。 肌の露出も少ないどころか、脇さえも隠されているという霊夢の色気も魅力も全く微塵も出てこない。 対して早苗はというと、全身緑色でカエルの被りものがついた、別名カエルスーツと呼ばれる水着。 露出個所は顔のみなため色気は全くこれっぽっちもない。 ただまぁ、一応スーツなだけあって身体にぴっちりと装着されているので身体のラインが丸分かりという利点はあるが…… この程度でランジェロの欲望は満たされない。 「ほらほら、せっかくの恋人を前にしてそんな色気のないものを着るなんて罰あたりもいいところじゃないですか  せっかくなのでここは開放的にこの貝殻水着を…」 「ぶっとばされたいわけ?」 「貝殻水着は冗談ですけど、せめてもう少し色気のでる水着を着ましょうよ。  なんなら私が選んであげましょうか」 「それは断る。変な水着を着せられるぐらいなら……自分で選ぶわよ」 台詞途中でちらりと横目でランジェロをみる霊夢。 しかも最後の台詞はどことなく声が上擦っていたようにも聞こえたので、早苗はついにやりと笑う。 「はいはい、ではさっそく着替えにいきましょう」 「ちょ、こら!おすんじゃない。自分で歩けるから!!」 霊夢の叫びなんて露知らず、そのままずるずると嬉しそうに霊夢を押しながら車へと向かう早苗。 その途中、早苗は思い出したかのようにしてランジェロの方へと振り向く。 「あーランジェロさん。いつぞやみたく覗いたら駄目ですよ」 「覗くって、この状態でどうやって覗けと」 「そういえばすでに埋めていたんですよね。では着替えている間食料の見張りを頼みます」 「あ、あぁ…」 食料の見張りといってもこの状態でどう見張ればいいのだろうか… みればすでに二人が捕獲した魚は上空を飛んでいた海鳥達に次々とかすめ取られている。 そんな状態であるにも関わらず首から下を埋められているランジェロは文字通り手も足もでない。 それでも口だけは動くので雄たけびをあげて威嚇はするものの 追い払うどころか、逆に海鳥達を怒らせてしまってイルスタードダイブの餌食にされる始末。 こうして霊夢と早苗が新しい水着に着替えて戻ってきた頃には食料の大半を海鳥達に奪われており……… ただでさえ海鳥達からの猛攻を受けてずたぼろだったランジェロに二人からさらなる追撃が加えらる羽目となった。 その後、ランジェロは白眼をむいたままぴくりとも動かなかった…… 続く