パチュリーが発見した嫉妬狂いの魑魅魍魎の封印方法 その内容はあまりにもな内容であった。 しかしパチュリーは黙っているわけにもいかず意を決してりるると白リリーに話したのだが…… 白リリーとりるるは大きな衝撃を受けていた。 「オアチュリーさん、それしか…方法がないの?」 「閣下、残念だけど……それしかないの」 現実を受け入れたくないりるるの希望を打ち砕くように、首を振るパチュリー。 「で、でも…でも……まさか白リリーを生贄に捧げないといけないだなんて」 「閣下、わかって!!私だってこんなことしたくないのよ。でも……時間がないのよ。  人里を……幻想郷を守るにはこれしかない……わかって頂戴よ」 珍しく声を荒げるパチュリー。その声は自分が納得させる意味も含めているのだろう。 顔をゆがめ、悲痛な表情を浮かべていた。 「……ごめん、僕が不用意に本の封印をやぶったばかりに」 さすがに自分が仕出かした事の大きさを理解できたのか。 ようやっと反省の色を示すハニーだが、パチュリーは即座に否定する。 「違うわ。魑魅魍魎達は数年前からちらほらと幻想郷に現れていたのだし  ハニーがこの本に手をかけるまでもなくすでに封印が解けかかっていたのよ。  ただ解ける時期が早まっただけだしハニーが気にする事ないわ」 「う、うん……でも、この本を白リリーに貸したせいで」 それでもまだ納得してないのか食い下がろうとするが、白リリーが口をはさんだ。 「いいのですよ〜私一人の犠牲で済むのならお安いものですから〜」 さすがに状況がわかっているのだろうが、それでも明るく振る舞う白リリー その姿にりるるやパチュリー、ハニーの心が痛む。 なんでこんなことになったのか…… なぜこんな運命をたどらないといけないのか……… もしこんな運命を神が下したというならパチュリー達は即刻神を滅殺に向かうだろう。 「でも、もし外の魑魅魍魎を全部倒しきれば封印の必要は」 ある意味りるるの選択も一つの手段であるし、それができれば全て丸く収まってくれる。 だが、現実問題それは難しそうだ。 「うわーー!!敵がいきなり強くなったーー!!!」 「こんなのもうどうにかできる規模じゃないぞーーー!!!!」 外からの小町とシバの叫びが示す通り、敵の猛攻は凄まじかった。 どれぐらい凄まじいかと言うと、 つい先ほど冬眠中であったはずの紫が目覚め、 人里の被害より敵の殲滅を優先する決断を下させるよう人里の最高責任者に伝言があったぐらいだ。 当然人里の最高責任者の年より達も渋ってはいたが、慧音や暁を始めとする若い集の訴えに負け…… ついに人里内での大規模なスペルカードが解禁された。 それによって今まで力を抑えていた人外連中もスペルカードを遠慮なくぶっぱし始めたが それでも敵は減るどころか、さらに数や力を増していた。 その様はまるでどこからか過剰な程の力の供給を受けて進化したともいうべきパワーアップを引き起こしたかのようだ。 おかげで応戦する面子も全力を出してはいるものの、パワーアップした魑魅魍魎達を倒しきることができず 全力を出したツケがまわって一人また一人と力尽きる者がでてきている状況だ。 おまけに紫も紫で膨れ上がった怨念の力で博麗大結界が破られそうということで 神奈子や諏訪子と言った大物と共に全力で修復へとあたっている。 もうこれは異変ではない。 幻想郷の命運をかけた、危機である。 「りるる〜〜」 「……白リリー」 決断が下せないりるるをじっと見つめる白リリー。 そうこうしている間も戦況はますます激化の一途をたどっていた。 このままでは敵を殲滅できたとしても、戦火にさらされた人里は壊滅となるだろう。 それに、死者だってでるかもしれない。 今までここを訪れたお客さんとはもう二度と会えない…… かといって、白リリーを生贄に捧げたら白リリーとはもう二度と会えない。 いや、白リリーは妖精だから春になれば復活するだろうが、それは今の白リリーではない。 今までりるると共に暮らしてきた白リリーとは別の白リリーだ。 だがそれでも決断を下さなければならず…… やがて、りるるはゆっくりと口を開く。 「……オアチュリーさん、お願いします……封印を必ず成功させてください」 「ありがとう。今から封印術の準備に入るから……その間、白リリーとの最後の別れを済ませて」 そう言ってパチュリーとハニーは空気を読むかのごとく裏庭へと席をはずす。 一応封印の準備は済ませているのだが、そこは嘘も方便ということで気を利かせたわけである。 そうして、店の中は白リリーとりるるの二人っきりとなった。 「白リリー……」 「りるる……」 じっと見つめあう二人。 今の白リリーはZUN帽以外何も纏っていない全裸でチョコを塗りたくった状態であり、 普段ならそんな白リリーを直視なんてできないのだが、りるるは動じる事なくじっとりるるの全身を見つめていた。 決してスタイルがいいとはいえないスラリとした身体つきで胸なんてないに等しい… そんな彼女をりるるはそっと抱きしめた。 「白リリー……今までありがとう。君と初めて出会ったあの日から本当に楽しかった」 「私もです〜りるるに会えて本当によかったです…」 白リリーもりるるにしがみ付きながらお礼を言う。 その瞳には涙が浮かんでいた。 白リリーも本心からいえば死にたくないのだろう。 ずっとりるると共に…… 今まで通りの生活をしたかったに違いないのだろう。 しかし、それはできなかった。 望んではいけない事だ。 だからこそ……… 心残りがないようにしなければいけない。 その想いはりるるも察したのか、 白リリーを抱きしめるのをやめ、そっと白リリーのあごを持ち上げる。 そしてその唇にそっと自分の唇を重ね合わせるようにして近づけて行く………… 時間にしてはほんの少し まばたき程度であるのだろうが、二人はその一瞬がとてつもない長い時間に感じられた。 初めて白リリーとりるるが出会い、今まで共に居た時間…… その時間が凝縮された一瞬である。 「……初キッスの味がほろ苦いチョコの味だなんて」 「ごめんなさいです〜〜」 「でもいいよ…………さようなら、白リリー」 「さようなら……りるる」 キスをし終えたりるるはくるりと背を向ける。 これ以上白リリーをみていたら精神が耐えられないのだろう。 決心が鈍ってしまうからあえてここに残る事とした。 もちろんそれは白リリーも同じだ。 白リリーも決して振り返る事なくパチュリー達が待つ裏庭へと向かう。 「…お別れはもう済んだのね」 「はいです〜………お気づかいありがとうございました〜」 「何のことやら…ね」 とぼけてみせるパチュリーに感謝しつつ、パチュリーの目の前に描かれた魔法陣の中央に歩み寄る白リリー そこには問題となった本が置かれている。 「さぁ、術を起動させるわよ」 パチュリーは目を瞑って詠唱をはじめる。 それに伴い魔法陣も淡い光を放ち始める。 本に書かれていた封印の方法。 それは、特別な材料と術式でつくられたチョコを全裸となった生贄の少女の全身に塗りたくり それに釣られて群がってきた魑魅魍魎をトリモチの要領で捕らえて行き 仕上げとして少女ごと本へと封印するというものだ。 本来ならそのチョコを何日もかけて作らなければいけなかったのだが、 白リリーは本にあった術式に沿ってチョコを作ってくれたので作る手間が省けた。 ただ、そのチョコは全部白リリーが塗りたくっていたので生贄も選択の余地がなかったのだが…… やがて封印術は上手く起動してくれたらしく周辺の魑魅魍魎が白リリー目掛けて殺到してきた。 その様はまるで白リリーが魑魅魍魎達に食われているようでとても見てられない。 パチュリーも思わず顔をそむけたくなるような光景だ。 白リリーも魑魅魍魎達に意識を食われているのかだんだんと朦朧としてきた。 自分が死ぬという事をなんとなく実感していた。 その恐怖でその場から逃げだしたい。 泣き叫びたい感情に襲われた……が “白リリー” 薄れゆく意識の中、りるるの声を響いたような気がした。 「りるる……」 もうほとんどない意識を振り絞って目を開けてみるとそこに飛び込んだのは 窓からじっと白リリーを見つめているりるるの姿が映った。 パチュリーでさえ、目をそむけたくなる凄惨な光景を逃げる事なく真っ直ぐ見つめるりるる。 “ふふふ、ここで泣き叫んではりるるにかっこ悪いところみせちゃいますね……” 白リリーの最期を見届けるため、しっかりと目を見開いて見守るりるるの姿に白リリーは落ち着きを取り戻す。 そして…… “りるる…今度こそ、本当にお別れです………さようなら” 白リリーの意識が完全に消失した頃、 白リリーに群がっていた魑魅魍魎共は全て本の中に消え去っていた。 その場に残ったモノは白リリーが被っていたZUN帽のみであり、 白リリーの姿は……… どこにも見当たらなかった。 続く