りるるの悲鳴を聞きつけ、急いで店へと駆けつけたパチュリー達 そんな彼女等に飛び込んできたものは……… 「えっと……何やってるわけ?」 パチュリーがつい聞き返す事からわかる通り現場の状況は到底理解できなかった。 とはいえ、りるるもりるるで大慌てにしているところをみると全く状況がわかってないのだろう。 それもそのはずだ。 なにせ、りるるの目の前には………… 全裸になってその全身にチョコを塗りたくっている白リリーが立っていたからだ。 「……再度確認するけど、何をやってるわけ?」 「みてわかりませんか〜?ブラックガーディアンのいちごチョコとは違う、  もうひとつの目玉チョコですよ〜」 満面の笑みでそう言い切る白リリーだが、 一体どこをどうたどり着けばそんなチョコを売りに出すという発想がでてくるのだろうか…… いや、そもそもそんなチョコを用意する時点ですでにおかしいのだが、ここは幻想郷だ。 本題は別にあることだし、幻想郷だからありえるという事で無理やり納得することにした。 「それで白リリー。貴方前に私の図書館から本を借りたわよね。それ持ってる?」 「もちろんですよーこれはその本を参考にして用意したものですから〜」 「…お〜いパチュリ〜さ〜ん、その本って一体何なんだ…いや、本当にいろいろな意味で」 ある意味小町の疑問はもっともだろう。 全身にぶっかけるチョコが書かれているなんて本当にどんな本なんだっと誰でも疑問に思う。 とはいえ、パチュリーも全て知っているわけでもないようだ。 パチュリーは本を受け取るとパラパラとめくって確認を取り始める。 「…やっぱり、これは嫉妬の鬼ともいうべき魑魅魍魎達を封じていた本よ。  これの封印が解かれたからここ最近、怨霊や負の力が増していたのだわ」 「な、なんだって〜〜!!」 あまりにもな爆弾発言に定番の驚きをあげる面々。 とはいえ、白リリーはよく理解できてなさそうだし、りるるに至ってはもう完全に思考が停止している。 まぁ、全裸でチョコを塗りたくった白リリーを前にした時点ですでに思考停止はしてそうだが…… 「それで再封印の方法とかは?本に封印されたっていうなら再封印も可能なんだろ」 「当然あるのだろうから今から調べるわ」 そう言ってパチュリーはシバに言われた通り封印の方法を調べるべく本を読み解こうとするが 事態はそんなに黙っているわけでもない。 ドッゴォォォォォォン!! 外からいきなり無数の爆音が響き、逃げ惑う人々の恐怖の声が聞こえてきた。 「どうやらのんびりできる状況じゃなさそうだよ」 外の様子をみた小町が苦虫を噛み潰した表情を浮かべる通り 外では魑魅魍魎ともいうべき黒い影が怨念をまき散らしながらそこらを破壊しまくっている。 もちろんそんな行為を黙って見過ごせるわけもなく、何人かの見知った顔の人外者が応戦していた。 とはいえ、ここは人里なのでド派手なスペルカードは使えず一体一体チマチマと潰している上、数も多い 店の方にも何体か襲いかかってきたので小町も銭投げ弾幕を放ち、避けてきたところを鎌で切りはらう。 ザシュッ 何体かはその一連の行動で仕留めたが、そのうちの一体は銭投げ弾幕と鎌の切り払いを避け、 そのままギラリと光るするどい爪を繰り出した。 小町はとっさに身をひねったがよけきれなかったようだ。頬をわずかにかすり、血の糸が引かれる。 そうして、敵は2撃目を加えようとしたところ、横からシバの鎌が振り下ろされて胴体を貫かれた。 「小町、大丈夫か」 「あぁ、こんなのかすり傷さ。だが……こいつらただの雑魚じゃない」 小町の言うとおり、切り払いはともかく銭投げ弾幕を受けた敵はむくりと何事もなく起き上がっている。 さらに敵の方も新手が現れ始め、数も最初の時の倍となった。 「パチュリー。ここはあたい等が守るからそっちは一刻も早く封印の方法を探し出してくれ」 「わかったわ。ハニーもこれ一度読んだなら封印に関する文面がどこにあるか覚えているでしょ  心当たりを片っぱかしら教えなさい」 「もちろんいいですとも」 不真面目なのか真面目なのかわからないが、ハニーは一度読んだ本の内容はよく覚えている。 その記憶力は少なくともこぁーよりは上で、本に関してであればこれほど頼りになる存在はいない。 その証拠にハニーは封印がキーワードとなっていたページを次々とパチュリーに教え、 パチュリーはそのページを開いては速読する。 この調子であれば封印に関する記事はすぐにみつかる…というかあっさりみつけた。 だが……… 「な、何これ………」 あまりの内容にパチュリーは驚愕するしかなかった。 ……… 「クックック………  ワガシットノショウチョウデアルシンセイナマスクヲハグモノニハテンバツヲアタエヨウ」 衝撃でもくもくと上がる煙が晴れ、不敵に笑うパルスィ。 どうやらマスクをはぎ取らろうとしたのが逆鱗に触れたのだろう。 反撃に放った巨大火炎玉弾幕…しいていうならスペルカードで生み出された分身を攻撃した時に発する撃ち返し弾 の威力はさっきまでの弾幕の比ではない。 周辺には打ち返し弾の犠牲者が無残にも転がっていた。 「うく……まだまだ」 小傘は傘を支えにして立ち上がるものの、直撃を受けたとどは立ち上がれそうにない。 半霊がぴくぴくと動いてはいるので息はありそうだが、とど本体の方は完全に黒焦げ。 右腕の機械義手も破壊されており、誰がどう見てもリタイア状態だ。 さらに後方でも 「ううう……」 「ミノミン、しっかりして!!」 「な、波風…大丈夫か?」 「だ、丈夫ですけど……どちらかというとぜっとんさんの方が」 レティは避けようのない大玉弾幕が迫ってきた瞬間 とっさに前へと躍り出てきたミノミンのおかげで比較的軽症ではあるものの レティをかばったミノミンは大丈夫でない。 というか、一般人が妖怪からのゴッコではない完全殺す気な弾幕を受けるなんて正気の沙汰ではない。 なお、ミノミンと同じように波風をかばっていたぜっとんに関しても さすがに何度も直撃を受けては耐えれなかったようだ。 ぜっとんは波風が助かったのを確認すると、がくりとひざを落とす。 その背中には無残にも焼け焦げているが、少なくともあれだけの攻撃を一般人が浴びれば死は逃れられない。 なのに、まだ息があるどころか動けるなんて絶対おかしい。 波風はぜっとんが人間ではなく妖怪の類ではという噂の信憑性を再確認したりもするが、 今はそれどころではない。 とどがリタイアし、レティはミノミンが倒れた事に動揺しているため戦えそうにない。 さらにアルトとマナミと…ついでに倒れていたチルノも見当たらないところをみると 消し飛ばされたとみていいだろう。 こうなれば、実質今戦えるのは小傘一人だけしかいない。 「皆、もう駄目…持たないから……逃げて」 「そうだ…こうなったらもう……逃げるんだ……」 ぜっとんも最後の力を振り絞るかのようにして、小傘のとなりへと並ぶ。 どうやら小傘もぜっとんも考えている事は同じだろう。 命をかけて、皆が逃げる時間を稼ぐ気である。 しかし、パルスィは容赦ない。 「シュクセイノジカンダ!モテナイモノノウラミノチカラヲオモイシリナガラ、シヌガイイ!!」 小傘の残っている力を振り絞った弾幕を片手で握りつぶしつつ 辛うじて生き残った面々をも巻き込むトドメの一撃、ジュラシーボンバーを放とうとするパルスィ。 それをみた小傘とぜっとんも死を覚悟したが、諦めるわけにもいかない。 とくに二人とも諦めたら、全員が全滅だ。 ……もしかしたら、ここでお約束的に誰かが颯爽と助けに現れるかもしれないが そんな美味しい状況なんて期待できない。 いや、少しは期待したいが、そんな不確かな未来なんてアテにはできない。 そんな折、信じられない事が起きた。 「パルスィ!もうやめるんだ!!」 波風がぜっとん小傘のそばをかけぬけ、パルスィの前に躍り出たのだ。 「な、波風…さん。駄目です!!逃げてください!!!」 小傘は急いで波風を引きとめようとするが、波風はその制止を振り切るかのようにして一直線にかける。 だが、そんな決死の行動もパルスィは全く意に介しない。 マスクをかぶっているから表情はわからないが、全く動揺することなくトドメの一撃を放とうとした…… その瞬間 奇跡は起きた。 パルスィが放ったトドメの一撃は全くあらぬ方向へと飛んで行ったのだ。 一体なぜそんな現象が起きたかわからないが波風は気にしない。 元々死を覚悟していたので、その勢いのままパルスィに飛びかかる。 ドゴォ!! 飛びかかった衝撃のはずみか、マスクが宙を舞って波風とパルスィはもつれ合いながら地面を転がる。 そうして二人が抱き合ったまま地面に横たわり、しばらく静寂が訪れた。 一部始終をみていた小傘は一体何が起きたのかわからなかった。 トドメの一撃が外れたどころか、とどでさえ失敗したマスク剥ぎが一般人である波風が成功するなんて… これはもしや愛の力?! と思い始めたが、どうやら違うようだ。 ぜっとんはふっと緊張が解けたかのような笑みを浮かべつつ、つぶやいた。 「…やっぱり、狙い通り来てくれたんだな。やみなべ」 「狙い通りって……とくに指示もらった覚えないはずだけど」 「えっ、な……や、やみなべ?!」 先ほどまでパルスィが立っていた場所からマスクをしっかりつかんでいるやみなべが虚空から姿を現したのだ。 やみなべは確かに戦闘といった荒事は専門外だ。 それは先日のすきまと夢子の決闘についてヤムチャな反応を示したことからまず間違いない。 しかし、やみなべは気配どころか物理干渉すらも完全に絶つ事ができる。 それは実態を持たない“怨霊の集合体”という不安定な存在だからこそできる芸当であり、 気配を完全に絶った状態で背後から襲われたら完全に不意打ちだ。 よって、やみなべはパルスィがトドメの一撃を放とうとしたその時、 後ろからパルスィの腕をあらぬ方向へ向けさせて攻撃を逸らさせ、 そのままパルスィのマスクをはぎ取っていた。 「まぁ、真の軍師とは最後の切り札を誰にも悟られないようにして設置するものさ」 「で、でもこれでもしやみなべが動かなかったどうするつもりだったわけ?  後もしかしてとどさんの決死の行動もまさかこのための囮…」 「HAHAHA……」 「なんか笑ってごまかしているけど、一体どこまで計算していたのやら……」 やみなべが呆れたかのようにつぶやきつつ、緊張の糸が切れたかのごとくぺたりと座りこむ。 どうやらやみなべもやみなべも一杯一杯だったようだ。 まぁ、やみなべは諒や妖夢の近くで休憩していたのだ。 ヤング自身の巻き添えは直撃で食らわなかったものの、 自爆の余波はしっかり受けており、見事に吹き飛ばされて地面に突っ伏した状態で気を失ってたのだ。 それでさきほどの大玉を一発もらった衝撃で目が覚めたら 今まさにパルスィが小傘やぜっとんにトドメを刺す直前という絶対絶命のピンチを迎えていたわけであり 状況把握なんて後回しでとにかく自分がやるべきと思われる行動をとったのだが……… “本当に、どこまで計算していたのやら” やみなべも小傘もその辺りはわからないが、もし全て計算していたとしたら、 幻想郷の知識人から一目置かれる知恵を持つ人間であり、 その事から知将とも呼ばれるベンゲルをも上回る完全な化け物である。 「とにかく、もう終わったのだな」 そんな二人の思惑なんて露知らず、ケロッとした表情で周囲を見渡すぜっとん。 パルスィの弾幕の直撃を何度も食らったのにまだ動ける身体といい、圧倒的な戦術眼といい… どう足掻いても一般人クラスではない。 “ぜっとん……この人は一体何者なんだ” やみなべも小傘もそう思わずにはいられなかった。 とはいえ、今はそういう場合ではないのから二人は特に突っ込みもせず、 ぜっとんもそのままレティの方へと近寄った。 「レティ、ミノミンの様子は」 「患部を冷やして応急処置はしたからなんとか一命は取り留めそうだけど、なんでこんなむちゃを……」 「本当に無茶しやがって……アルトとマナミが事前にかばってくれてなかったら完全に死んでたぞ」 ぜっとんがしみじみ言うとおり、ミノミンが瀕死ながらも一命を取り留めた理由。 それは、ミノミンがレティの前に躍り出た時…そのさらに前にアルトとマナミが躍り出ていたからだ。 よって本来ミノミンが受けるはずだった直撃弾の大半をアルトとマナミが受け持ってくれた。 ただ、ミノミンの命の代償としてアルトとマナミは跡形もなく消し飛ばされたのだが…… まぁあの二人は妖精だ。 消し飛んでいてもある程度時間が立てば復活してくるから問題はないだろう。 「気が付いたらアルトとマナミにしっかり謝っておくんだな。  後、レティも二度とこんな無茶しないようしっかり怒ってやれ」 「駄目よ。怒る時はぜっとんも一緒に…ね」 「だが断る…とは言えんな。全く手のかかる弟ができた気分だよ」 そう言いつつも、別にまんざらでもないといったぜっとん。 こちらはこちらで上手くまとまりそうだし、波風とパルスィの方も……… 雰囲気から察すると大丈夫そうだ。 ただし、どんな会話をしているかに関してはわからない。 というか、ものすっごい知りたいのだが二人の世界の邪魔をするのは悪いというか 倒れている面々をほったらかしにしてデバガメするほど非常識な面子はここにいない。 いや、一応いるのだが…… 「あの〜やみなべ〜いつまでそんな怪しげなマスク握ってるわけ」 「あ〜うん、小傘の言うとおりいい加減これ投げ捨てたいのだけど  なぜか手から離れなくて」 そのデバガメ筆頭であるやみなべは怪しげな雰囲気をまき散らすマスクを離そうとぶんぶん手を振り回すが、 手から離れる気配はない。それどころか、マスクから発する怪しげなオーラはますます強まっている。 「ちょ、ちょちょちょ…それなんかまずくない!?」 「う、うん……これ、ちょっとまず…い……」 どんどんと怪しい雰囲気を強めるマスクを前に焦り始めるやみなべ。 しかしマスクは離れる気配がないどころか触手のようなものまで生えてきて腕にからみついてきたのだ 「う、うわぁぁぁぁーー!!!」 さすがにこれには驚くやみなべ。だが、触手にからめとられた以上自分ではどうこうする事もできず やがて触手が本体にまで達しようとした……その瞬間 斬!! 小傘の大きく振るかぶった上段の一撃がやみなべの腕を叩き切っていた。 マスクがやみなべの腕ごと宙を舞い、やがて地面へと落ちた。 「だ、大丈夫?!」 「あ、危なかった……」 腕を抑えながらその場へうずくまるやみなべに駆け寄る小傘。 小傘もとっさとはいえ、腕を叩き切ったので少し罰が悪そうにしていたが やみなべはそんな心配無用っとばかりに腕を再生してきた。 その辺りさすが実態のない怨霊の集合体といったところだ。 しかし……… マスクの方は大丈夫ではない。 むしろ、やみなべという怨霊の集合体から湧き出る負の力を吸い取っていたのだ。 その力によってマスクは怪しげな光を放ち、やがて…… ぶわっ!! マスクが破裂したと同時に湧き出た無数の怨念ともいうべき思念が人里目掛けて殺到するかのように散って行った。 あまりの出来事に唖然とする周囲の面々。 そんな中、とどの怪我の様子を見ていたぜっとんは高らかに叫ぶ。 「大丈夫だ、問題ない!!」 それは一体何に対して問題ないのか…… 当然気にはなるものの、いろいろと限界だった一向はやがて同じ結論へと至ったらしく、 この場にいた全員はその後の対処を人里の自衛団の他、人外連中や妖怪退治専門家へと任せるために…… 今起きた現象を頭の記憶から削除した。 続く