「……なんとか無事に切り抜けられたようだな」 まわりをみると全然無事とは言い切れない。 周囲は弾幕等による破壊の後があちこちに残り、一部からはシュウシュウと煙も立ち昇っているのだ。 とはいえ、けが人だけは皆無となっただけは不幸中の幸いだが、とりあえず一段落はついたようだ。 シバはふぅっと安堵の息を吐く。 「小町、妹様と教授の様子は?」 「妹様はただ疲れて眠っているだけで問題ない。  ただし教授は息があるとはいってもしばらく目を覚ます気配ないよ、あれ」 「暴走しかかったフランの力を全部引き受けて消し飛ばずに済んだだけでもマシよ」 シバと共に周囲の様子を探っていたパチュリーは、店から戻ってきた小町の言葉を聞いてほっと胸を降ろす。 「全くなんでこうなったんだろうねー」 そんな折、全く空気を読まないような発言を行うハニー その言葉にシバと小町がギロリと睨む。 「なんでも何も、お前が妹様を巻き込むようなスペルカードを使うからああなったんだろ」 「しかも、よりによって水系のスペルカードって妹様を滅するつもりだったのかい?」 「えーだって僕スペルカードあれしかないし……」 本当に空気を読まずにあっけらかんとした態度を貫くハニー。 どうやら話からすると小町とシバとパチュリーが酔っ払いを取り押さえようとして接近戦を仕掛けたところ 面白がったハニーが広範囲にばら撒く水弾を放ち、それがフランをもろ巻き込んでしまった結果…… 水を浴びて驚いたフランがとっさに力を解放。 あわや大惨事に陥ろうとしたその瞬間に霜月教授がその身を犠牲にするかのようにフランへ覆いかぶさり フランのとっさに発動した力の大半を受け持ったのだ。 そのせいで周囲の被害は最小限に留まったものの、霜月教授は一回どころか5〜6回ほど即死と復活を繰り返してしまい 急激な変化に身体がついていかず力を使い果たしたフランと共に昏倒してしまった。 「………とりあえずハニーについてはごめんなさい、今度は水系だけでなく火や金の術も教えておくわ」 「そういう問題で済ませていいのか?」 「いいのよ。あれでも悪気はないんだし、慣れてるから」 なんだかものすごい疲れ切ったというか諦めの表情を浮かべるパチュリーにシバや小町は少し同情した。 「後、店前で大暴れしてしまった件についてだけども……」 「気にしなくていいって、なんだかんだいって教授やパチュリーのおかげで店は無事だったわけだし  ここは幻想郷なんだからあの程度あってしかるべき……と思わないと駄目なわけだよね〜」 確かに姫子の言うとおり店はパチュリーが全力を上げて生成した土壁によって無傷で済んだ。 しかし、店は無事に済んでも当然ながら客足は遠のいてしまった。 ついでに犯人もどさくさにまぎれて逃げてしまったので姫子は笑ってはいるものの、 その笑みは完全に引きつっており無理しているのは明らか。 まるで究極加虐生物を前にしているかのような…そんな迫力を思わせる笑みを前に パチュリーはどう対処というか、どう謝ればいいのかっと思考をめぐらしたが どう行動しても死という運命から逃れられない気がした。 だがここで何も行動しないわけにもいかず、やがてパチュリーは意を決する。 「あ、あの……」 「ごめん、客が来たみたいだから話は後で」 意を決したパチュリーを置き去りにしつつ、客対応へと戻る姫子。 どうやら幻想郷だからこの程度のトラブルは仕方ないと思っているのは客達も同じなのだろう。 一時的に散った客達は騒ぎが落ち着いたのを見計らってちらほらと戻ってきたのだ。 「幻想郷の住民は本当に頼もしいな〜」 「いろいろな意味でだけどね」 あれだけの騒ぎを前にしてもすぐ何事もなく先ほどと同じ熱気へと包まれていく幻想郷。 本当に逞しいというかなんというか、わからないが小町もシバもそんな幻想郷が好きであった。 暇どころか仕事をさぼってでも訪れたくなる…それが幻想郷である。 「それだけに、こんな騒ぎを起こすような元凶を断ちたいわけなんだけど」 小町はそうつぶやきつつシバと共に改めて周囲を見渡す。 その周囲は熱気には包まれて落ち着きを取り戻してはいるのだが、 禍々しい怨念の濃度が先ほどより増していた。 もしかしたらさっきの騒動で怨念の類を呼び寄せてしまったのかと思ったが、それは違うようだ。 「シバ。やっぱり亡霊姫の言うとおりこの店、何か変だぞ」 「あなた達も気付いたみたいね。店に厄介な何かが潜んでるわ。  まるで長年封印していたものが解かれたかのような……」 「パチュリーさん。もしそうだったら、ここのいちご。かなりやばいんじゃないのか?」 「大丈夫よ。いちご事態かなり怪しい技術や魔力を帯びているといっても危険な類でもないし  もしあるとしたら誰かが店に何か変なモノ…  例えば緋想の剣みたいなのを忘れたか落としたか誤って持ちこんだかそういった線で考えるべきよ」 「緋想の剣を落としたって…あのケモミミ異変の発端になった奴か」 シバが言うケモミミ異変……天子が天界の秘宝である緋想の剣をあろうことか人里で落としてしまい、 それを拾った者が悪用して幻想郷の住民達に獣耳をはやさせた異変のことだ。 幸い、その拾った者は悪用したものの悪意があったわけでないので異変そのものの危険性は少なく たった1日で終了してしまう程度の規模だ。 ただ、問題なのはそんな物騒なモノを人里なんかに落としてしまった持ち主の注意力のなさであり もしそういった類のモノを姫子やりるるが気付かずに保管しているとしたら…… 「その辺りは店主…は今忙しそうだし、店員の方に聞いてみましょう」 「閣下なら今白い方のリリーと共に店の中でフランと教授の看病をしてもらっているよ」 「なら善は急げ、今すぐ聞いてみよう」 「あーちょっとまって、それ心当たりある」 そうしてパチュリーとシバ、小町はりるるに話を聞くため店へと入ろうとした…が その前にハニーが呼びとめた。 「ハニー、何か知ってるのか」 「うん、封印が解けられたで思い出したけど〜〜〜少し前そんな類の本  鎖やらなんやらで厳重に封印されていた本を白リリーに貸し出した……ってどうしたの?  ハトが豆鉄砲を食らったような顔をして」 事の重大さもわからずあっけらかんと言い放つハニーだが パチュリー達3人はあまりの爆弾発言にしばらく頭で理解ができなかった。 というか、なんでそんな危険度バリバリなのを貸し出した事を誰にも告げずに黙ってたんだ… っと突っ込みたくなったものの、まぁ相手は妖精だ。 そういう知恵なんて回ってないのだろう。 「えっと…ハニー。その本どういうのか覚えてる?」 妖精相手に怒っても無駄なのはわかっているパチュリーはあくまで静かに事を運ぶため ぶち切れそうな堪忍袋の緒を必死につなぎとめつつ冷静にハニーから本の詳細を聞き出しにかかる。 「もちろん。えっと、確か外見はこんなので」 本当に事の重要性なんておかまいなしで鼻歌交じりにそこらの枝を使って本の表紙を書き始める。 しかもその表紙は精彩で今ここに実物があればコピーしたのではと思うぐらい正確だ。 「……なぁ、小町。これ何書いてるかわかるか?」 「シバ、あたいがわかると思うのかい。そういうことは専門家に聞きなって」 ただ、いくら正確でも魔術の心得がないものにとっては全く意味不明な図解だ。 なので専門家であるパチュリーに聞こうとしたが、パチュリーはハニーの枝が進むにつれてみるみる青ざめていく。 そこへ…… 「☆○△□ーーー!!!」 店からいきなり響くりるるの悲鳴。 それを聞いてはっと我に返るパチュリー。 「なんだ、閣下の悲鳴のようだが何かあった…んだろうな」 「当然よ!ハニーが白リリーに貸した本が想像通りなら二人が危ない!!  急いで踏み込むわよ!!!」 のんびりとした小町の対応とは裏腹に凄まじい速度で店へとかっとんでいくパチュリー。 その速度は『動かない図書館』の二つ名で通る鈍行なパチュリーとは思えない、 ほとんどブン屋と変わりない速度だ。 それをみた死神達も尋常ではないと判断したらしく、急いでパチュリーの後を追うが…… 「よし、完成。我ながらいい出来だ…ってあるぇ〜?」 表紙を書き終えて満足顔なハニーは自分が置いてけぼりにされた事に気付かず ただ茫然と立ち尽くすだけであった。 ……… 戦況は非常に好ましくなかった。 一応何人かは戦力と数えてもいい者がいるとはいえ、戦闘や荒事を得意とする実力者とはいいきれない。 「アハハハハハ、シネシネシネ。シヌガイイ」 「くっ!」 嫉妬の炎を燃やし続けるパルスィの迫力にとどは刀を構えつつも後ずさる。 その背後にはやはり傘を構えるも迫力に押されて後ずさり中な小傘が控えており、 そのさらに後ろは波風やぜっとん、ミノミンといった一般人と目をまわしているチルノがいた。 「ねぇ、どうするわけ。このまま防戦一方だとじり貧になっちゃわない」 「わかってる。わかってるんだけど……  なかなか攻め込むタイミングが……」 小傘はパルスィを水弾系の弾幕でけん制をいれつつとどに問いかけるものの、 とどはどう対応すればといった感じだ。 しかもパルスィはじっとしているわけはなく小傘の水弾を自身の嫉妬の炎で飲み込みつつ二人に襲いかかる。 とどはその炎を後ろまでとどかせぬよう一閃でもってかき消そうとするが 「その炎は迎撃するな!左右どちらかに大きく避けろ!!」 「えー!そ、そんないきなり言われても…」 ぜっとんの叫びにとどはとまどいながら迎撃をキャンセル、身をひねるようにして右側へと避ける。 そして、さっきまでとどがいた場所に到達した…その瞬間 嫉妬の炎の弾幕が一際大きな音を立てて破裂した。 「あ、危なかった……」 もしぜっとんの忠告を聞かなければどうなってたか とどはそう思うと背筋に冷たいモノを感じる。 「こら、ぼーっとしている暇ないぞ!!そのまま右に回り込め!!!  小傘は逆に左へ回り込んではさみうちだ!」 「「は、はい!」」 距離があるとはいえ、爆発の余波が及ぶような位置で指示を飛ばすぜっとん。 その指示は的確でパルスィも目標が大きく動かれたので狙いが上手く絞れないようだ。 それならばと炎を全体へばらまく。 「その炎は範囲が広がった分威力も下がったはず!!  恐れず爆煙の中を、グレイズで突っ込め!!」 「「りょ、りょうかーい!!」」 実際言うと、あれだけの炎の中を突っ切るのはかなり勇気はいるが… 二人はぜっとんの言葉を信じ、左右からほぼ同時に思い切って炎の中を一気に突っ込む。 やがて炎が破裂して大きな爆煙があがったものの、 ぜっとんの言葉通り広範囲となった分威力は半減していたようだ。 とどは爆煙の中を切り裂くようにしてパルスィめがけて右手の刀を振り下ろすが パシッ パルスィはとどの刀を片手で軽く受け止めた。 とはいえ、とどの剣術は魂魄家に伝わる二刀流の剣。 もう一つの左手には短いながらの小刀が握られているので追撃をと思って繰り出そうとするも、 パルスィはもう一つの手でとどの手首を掴んで、止められた 「だめだ、届かない」 余裕しゃくしゃくなパルスィにとどが悔しそうに呻く だが、攻撃を繰り出すのは何もとどだけではない。 どごぉ!! 一歩遅れてとどの反対方向から襲いかかる小傘の傘。 さすがに両手がふさがった状態では防ぎようがなかったようだ。 横殴りに払った傘が見事脇腹を捉えている。 「……やった?」 確かな手ごたえを感じた。 いくら小傘が弱小妖怪とはいっても腐っても妖怪。 通常であればこれはかなり堪えたはずなのだが…… パルスィは全く応えてなかったのか、身体中から湧き出る炎を一気に噴出させた。 「うわっちゃ〜〜!!」 「あちあちあち!!」 炎に驚き、慌てて後退する二人であったが、後退するのが遅かったようだ。 二人とも炎の一部が身体にまとわりついて燃えている。 当然二人は火を消そうとするが、長年の嫉妬の感情が詰まった炎はなかなか消えないし パルスィも黙って消えるのを待ってくれるわけもない。 慌てている二人めがけ、さらに追撃を加えようとするもののそれはできなかったようだ。 二人の射線を遮るような絶妙な位置に弾幕が張られる。 ミノミンのそばに控えていたアルトとマナミの弾幕だ。 「その弾幕は長く持たない!二人とも今のうちに下がれ!!」 「は、はい!!」 確かにアルトとマナミは弾幕が張れるといっても、所詮妖精だ。 弾幕もパルスィの炎であっさり相殺されているがとりあえず二人が下がる時間は稼げたらしい。 レティは転がるようにして戻ってきた二人に冷気をぶつけて纏わりついた炎を吹き飛ばしにかかる 「……まだ駄目だったのか?」 「は、はい…一応手ごたえはあるみたいですが」 パルスィの相手をひとまずアルトとマナミに任せ、 とどはまだくすぶっている炎を小傘の水弾で消してもらいながらぜっとんの問いに申し訳なさそうに答える。 「そうか……」 それを聞いたぜっとんはうなった。 そうこうしている間にもパルスィの弾幕は激しく襲いかかってきており、 アルトとマナミだけでは耐えきれなくなったので、レティも加勢に入った。 とはいえ、それでもパルスィの弾幕は相殺しきれず一部が抜けてきている。 「ごめんねぜっとん。本気だせば対処できるのかもしれないけど皆を巻き込むわけにもいかないから」 レティは冬の妖怪。なので今の時期は力が最高まで増しているものの、力の源は冬そのものだ。 下手に力を解放すれば味方もろともになりかねないので力を抑え気味で戦っていた。 そんなレティの言葉にアルトとマナミにぜっとんもわかっているという風にうなづく。 ただ、そんな中一人だけ蚊帳の外な気がするミノミンは非常に複雑な気持ちであった。 ぜっとんがレティの目の前で強敵を前にして臆すことなく堂々とした態度で挑むという姿は 正直いって面白くない。 かといって、ぜっとんがいなければとども小傘もあっさりやられてしまう。 今戦線を維持できているのはぜっとんのおかげだ。 そんなぜっとんの姿に対して、ミノミンは激しい劣等感にさいなまされている。 自分はなんて無力なのか…と 「とにかく、このままじゃじり貧だしここは一旦逃げよう!  そして、パルスィの対処は自警団や巫女に任せよう!!」 それでも、無力なりにレティを守ろうとして逃げを催促するがそれをぜっとんは止める。 「駄目だ!ここで逃げたらパルスィはそのまま人里を襲うかもしれない!!  そうすれば人里はパニックだ!!!ここでなんとしても食い止める!!!」 「で、でも…」 ある意味ぜっとんの言うとおりだ。 ここで逃げてレティをはじめとする皆が助かっても、人里が襲われたら大惨事だ。 それはミノミンもわかっているが、 ぜっとんに対する劣等感があるせいかどうしても受け入れられなかった。 そんな歯がゆい気持ちを察したのか、アルトとマナミがそっと寄り添う。 本来自分勝手なはずの妖精だが、二匹ともミノミンに対して絶大な絆があるらしい。 アルトとマナミも完全に自分の力を上回るパルスィを相手にしても 全く臆すことなく立ち向かってくれる。 「アルトにマナミ……そうだった。ここは変な意地を張るところじゃなかったんだ。  よし、ぜっとんの言うとおり、ここは絶対死守しよう!!」 ミノミンの決意に応えるかのよう力強くうなづき合う2匹の妖精達。 だが、そういう行動はパルスィにとって癪に障るのか、 先ほどまでとはあからさまに嫉妬の炎の火力が上がっている。 「くそっ、せめて兄さんと妖夢が居てくれればなんとかなるんだけど……」 最前線に立ったとどは火力のあがった弾幕の炎を必死に切りはらいながらちらりと屋根付きの休憩所をみる。 そこは見るも無残につぶれており、瓦礫の山となっていた。 「あーヤングさんも波風さんをかばったまではかっこよかったのにー!」 小傘が嘆く通り、パルスィがいきなり変貌し、波風目掛けて襲いかかったあの瞬間…… とっさにヤングが波風をかばうかのようにして間に割り込んだのだ。 そして、パルスィの一撃を鎌の柄で受け止め、カウンターの蹴りがパルスィの腹をとらえた事により パルスィを後ろに後退させた。 そこまでの行動はもう完璧に近かったのだが……… その後は駄目駄目だった。 とにかく、今のパルスィは正気ではないのは明らか。 ならば力ずくで抑え込むために再度飛びかかってきたパルスィ目掛けてヤングはスペルカードを放ったが、 よりによってスペルカードを不発させたのだ。 もしかしたら時間差で発動するスペルカードだったのかもしれないが、 あの状況で即効性のないスペルカードは悪手もいいところ。 よって……… ヤングはパルスィの嫉妬の炎をまとった拳を顔面へまともに受けて吹っ飛ばされた挙句、 場の異変を察知して加勢へ向かおうと起き上がっていた諒と妖夢をもろ巻き込む形で休憩所に激突。 その後爆発を起こしたところをみるとやはり時間差で発動するスペルカードだったのだろうが それで貴重な戦力を二人も道ずれにする自爆をしたのだから、文句の一つもいいたくなる。 「とにかく今は時間を稼ごう!!そうすれば異変に気付いた誰かが加勢に来てくれるはず!!」 「でもぜっとんさん、あれから結構時間経ってるのに、  誰も来ないところをみると向こうも向こうで何かあったんだよ!」 確かに小傘の言うとおり、パルスィの暴走に呼応したかのごとく人里の中央部も騒がしくなっている。 弾幕や爆音に悲鳴といった喧騒はもちろん、あちこちから火の手が上がっているので間違いなく何かあったのだろう。 ぜっとんはたまらず舌打ちをする。 「チッ、こんな不利な条件での戦闘なんて何十年ぶりだ…」 パルスィも攻撃の勢いが衰えるどころか、さらに激しくなる一方。 助けが来なければ今の面子では本当にじり貧である。 かといって攻撃にでてもパルスィは全く堪えてない。 とどと小傘が先ほどから弾幕の中を突っ切って何度も打撃やら水を浴びせてはいるが、 全くダメージを与えている気配がないどころか パルスィの身に纏う炎のせいで逆に二人が焦がされている。 「うぅぅ…決定打にならないあたいの非力さを恨む」 とどは嘆いているが決して非力というわけでもない。 とどの剣の腕前は事故で右腕を失った影響でかなり落ちたとはいえ、 幼少から諒や妖夢と共に手ほどきを受けていたから二人とは決定的に劣っているわけもない。 さらに腕力だけでいえば失った右腕に取り付けた義手…河童のテクノロジーが加わった義手の性能で二人よりも上だ。 結論的にいえば、与えるダメージは諒や妖夢と大差はそれほどない。 あくまで当たればの話であるが…… 「とにかくもう一度攻撃に出よう!奴とて不死身なわけはない!!  倒れr……ぶふ!!」 もはや完全に陣頭指揮を執っているぜっとんだが、前に出すぎたらしい。 裁き損ねた弾の一つが顔面に命中するが…… 「……倒れるまで攻撃し続けろ!!」 その次の瞬間にはけろっとした表情で攻撃指令を出した。 もしかしたらただのやせ我慢かもしれないが、 普通の一般人であれば顔面ぐちゃぐちゃの火傷を負ってもおかしくなさそうな威力の弾だ。 それなのに少し焦げた程度で済むなんて…… その場にいた全員はぜっとんの妖怪説を信じる気になった。 とはいえ、今はそんなこと考えている時ではない。 皆気を取り直してパルスィを見据える。 ぜっとんも最前線の動きを把握しつつとどと小傘に突っ込ませるタイミングを図っていた… その時、今まで微動だにしなかった波風が叫んだ。 「仮面だ。あのマスクをはぎ取れば元に戻るはずだ!!」 「波風、それは何の根拠に」 「電波がこう叫んでいる!パルスィはあのマスクに操られているっとな」 ぜっとんの問いかけにきっぱり言い切る波風。 相変わらずわけのわからないというか、危ない発言だがまぁマスクが怪しいのは誰の目からも明らか。 しかし、波風はさらに続ける。 「この場合、操られているパルスィを気絶させても解決しない!  戦闘を終わらせるにはまずマスク狩りだ!!」 「わ、わかった。すきまの専売特許を行えばいいんだな」 「ぜっとーん、それは違うわー」 ぜっとんの発言に思わず突っ込むレティ。とはいえのんびり話している暇もない。 しかし、波風の言葉に動揺でもしたのか。攻撃は先ほどより激しくなっている。 どうやらマスク剥ぎを試してみる価値はありそうだ。 「とどー!聞いての通りマスクをはぎ取れ!!  小傘はとどを全力で援護だ!!」 「オーケーです」 「まかせんしゃい」 その言葉を聞いて、とどは刀を握り直して突撃を仕掛ける。 とはいえ、攻撃が苛烈というかパルスィは高温の嫉妬の炎を常に纏っているから下手に近寄れない。 さらにいえば、いつのまにかとどや小傘ではうかつに接近ができない程の火力にまで高まったらしい。 もちろん小傘もスペルカードで大雨のごとく水を浴びせてはいるが、焼け石に水状態。 むしろ、湧きあがる蒸気がパルスィを覆い隠してしまい全く位置もつかめない。 このまま突っ込めば間違いなくパルスィの元へ着く前にピチューンだ。 かといって、小傘のスペルカードを止めたら踏み込んだ瞬間にピチューンである。 まさに八方ふさがりな状態であるが、それならばとぜっとんは新たな指示を飛ばす。 「レティ、スペルカードだ!!寒符のスペルカードでパルスィの炎を中和させるんだ!!」 「えっ、でもぜっとん。そうすれば私の冷気で皆が……」 「このままでは勝ち目がない。それなら多少リスクを払ってでも勝負を仕掛ける!!」 「ぜっとんの言うとおり、僕たちも覚悟はとっくにできている!!」 「伊達に旧地獄の極寒地獄を模した冷泉で1時間耐えたわけじゃないんだ!!」 「よく言った波風にミノミン!!いっそ俺達を氷漬けにする勢いでやれ!!  それでも耐えてみせよう!!!」 最初こそレティは躊躇したものの、 ぜっとんや波風にミノミンはすでに覚悟はできているどころか無駄に熱かった。 本当に暑苦しいほどの熱気が籠った決意にレティも感染してしまったようだ。 「ぜっとん、ミノミン…貴方達のその決意と心意気、確かに受け取ったわ!!」 冬の妖怪なのに無駄に熱く応えるレティ。その瞳にはもう戸惑いも迷いも微塵もない。 例え自分を好いている人をこの手で葬っても後悔はしないという決意に満ち溢れていた。 レティは懐から一枚のスペルカードを取り出し…叫んだ 寒符「リンガリングコールド」 スペルカード宣言と同時にレティから巻き起こる猛吹雪の弾幕。 寒気を操るレティの本領を発揮させる弾幕は一瞬で周囲を白く染め上げる。 気温もみるみる下がりはじめ周辺が凍り付き始めた。 当然、その冷気は後ろの3人にも襲いかかるが、ぜっとんとミノミンは歯を食いしばりながら仁王立ちで耐えていた。 しかし波風はそうはいかないらしく、寒さのため身を縮めている。 でも、身は縮めていても瞳の力は失ってない。 この戦いの…しいてはパルスィの行く末を見守るために、眠る事なく両目でしっかりとパルスィをとらえていた。 そんな波風の瞳に映っているのは…… レティのスペルカードによって纏っていた炎が吹き飛ばされ、位置が特定されたパルスィである。 高熱も中和され、今なら接近可能…とはいえ、パルスィ自身から放たれる弾幕が厄介でとども突っ込めなかった。 突っ込むタイミングをはかっていると今度は小傘が叫んだ。 「とどさん、私が盾になるから突っ込んで!」 傘を前方に構えた小傘がとどの前に出て弾幕を防ぎ始めたのだ。 「あ、ありがと…これなら」 意を決して小傘の後に続いて飛び込むとど。 炎の熱気は抑え切れてないものの、耐えきれないほどではない。 むしろ、盾となって何度も直撃を食らっている小傘の方が耐えきれないはずだ。 それでも小傘は止まらず前進し続けているが、やがて限界が来たようだ。 「ごめん、わちきはここまでで…あとは……」 「わかってる!!ここは絶対決める!!」 これだけの援護をもらったのだ。 これで決めなければ男ではないっと倒れる小傘の影からパルスィに飛びかかるとど。 パルスィもとどが小傘の死角に隠れていたせいか気付くのが遅れたようだ。 「もらったー!!」 そうして、とどの手がマスクに届いた……瞬間 視界全てが真っ白になった。 とどの目の前に高熱を帯びた大玉が現れたのだ。 しかもその大玉は一つだけではない。 弾幕として無数に現れ…… そして……… 「「「「「うわぁぁぁぁぁーー!!!」」」」」 どっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!! 大玉の着弾による爆音にあわせるかのようにあちらこちらから悲鳴が上がった。 続く