思いがけない事故によって大多数を巻き込んでの旧都全体をかけまわる鬼ごっこをやらかした魔界神ご一行。 一体どうやって収拾つかせたかは不明だが、とりあえず日暮れには収拾が着いたらしい。 ただし、散々駆け回ったせいで終わった時は全員汗びっしょりであった。 とくに今の時期は春先とはいえ夜になれば冷え込んでくる。 そうなれば鬼ごっこに参加した。 もしくは意図せずして巻き込まれた面々は温泉へと向かうのは自然な流れだ。 しかし、温泉には一つ重大な問題があった。 「この先の温泉、混浴なのよね」 さりげなくというかようやく元の大人バージョンに戻ったアリスがつぶやく通り、 温泉は来る前から言われている通り“混浴”だ。 さすがに脱衣所は男女別れてはいるが、 脱衣所から一歩外へ出ればそこは男女の境界のない世界。 一糸まとわぬ姿を見せることになるので、恥じらいのある面々が不安に思うには仕方ない。 そんな面々の心配を緩和させるように魔理沙が笑いながら声をかける。 「アリス。下手に隠そうとするから余計に恥ずかしいと思うんだぜ」 「そうよそうよ。昔はあんなによく一緒にお風呂入ってたのに」 「あんたらは少し恥じらいを持つべきでしょ」 説得してるのか不安にさせているのか、 とりあえず堂々と裸体をさらけ出している魔理沙と神綺に突っ込むアリス。 とはいってもアリスはアリスで今の魔理沙と神綺の度胸がうらやましかったりもする。 さらにいえばユキやマイに小悪魔は子供だからあまり恥じらいなんて感じないし 夢子は逆に大人らしく割り切った考えで慌てることなく落ち着いている。 パチュリーも合理的な考え故か混浴に対して特に警戒はしていない。 となると、この中で不安を抱いているのは…… 「アリス、私も貴女と同じ考えだから」 「鈴仙。よかったわ、同志がいてくれて」 むしろ、恥じらいを持っているのが少数派というこの事態。 一体どれだけこの連中がフリーダムなんだろうか…… とくにアリスにとっては想い人と対面したらと思うと考えただけでも恐ろしい。 しかし、そんな姿をみて悪戯属性を持つ魔理沙や小悪魔が黙っているわけはない。 二人はお互いの思想に気付くと少しの間コンタクトを取った後、にやりと笑う。 笑うと同時にアリスと鈴仙の方に振り向く。 「え、何…何する気?」 「何ちょっとイイコトだぜ」 にこやかだが裏のありそうな笑顔でずかずかと近付く魔理沙に危険を察知した二人。 身体を纏っているバスタオルを剥がれると思ってとっさに両手でガードに入ったが、 魔理沙の目的はバスタオルではなかった。 魔理沙はバスタオルではなく二人の手首をガシっと強く掴んだ。 「小悪魔ー準備はいいかー!!」 「バッチリオーケー!!むしろ、今が絶好のチャンス!!!!」 前をみると小悪魔が脱衣所の扉を全開にしてGOのサインを出しており、 魔理沙もすでに低空で浮かせた箒の上に立って発進のスタンバイがなされている。 バスタオルが狙いだと思っていた二人は最初こそ魔理沙の行動が理解できなかったものの、 ここまできたらもう予測はできてしまう。 「本当に何する気なのー!!」 それでも突っ込むアリスと鈴仙だが、突っ込んだところで事態はどうしようもなく…… 「いくぜ…エンジン全壊! 彗星『ブレイジングスター』」 「ひやぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」 ロケットスタートをも思わせる急加速で箒を走らせる魔理沙。 もちろんその先は小悪魔が開けた扉の先、温泉の湯船の中だ。 しかも、予め小悪魔が中を見て安全を確認しているので誰にも迷惑をかけない。 つまり、こうすることによってアリスと鈴仙を強制的に混浴の場へ連行できる。 ついでに魔理沙自身も温泉一番乗りができるとまさに一石二鳥の作戦……と思われたが、 落とし穴が一つだけあった。 小悪魔が素直に安全を確保してくれるとは限らないということだ。 なので、スペカ発動をしたその瞬間小悪魔がにやりと笑う。 最初はその笑いの意味がわからなかったが、その意味はすぐにわかることとなった。 そう、湯船には先客が一人いたのだ。 しかも……… 「見るがいい!我がふつくしき筋肉美を!!」 全裸で筋肉を誇示するかのようなポージングを決めた筋肉だるまが仁王立ちしていたのだ。 「ぬわ〜〜〜〜!!!」 まさか先客がいるとは思わなかった。 しかも、その先客がナルシストの入った筋肉むきむきの変態なんて別の意味で予測していなかった。 そんな風に二つの意味で度肝を抜かれた魔理沙。 相手を怪我させたくないというより、あんな変態に向かって飛び込みたくないと本能で察し、 ほぼ反射的に前方を浮かして急ブレーキをかけるが距離が近すぎる。 ブレーキが間に合うわけなく……… めきょっ 変態の身体に蹴りをかます格好で箒の柄をめり込ました。 しばらく…ほんの1秒程度だがしばらく時間は停止していたが、 やがて何かの緊張が途切れたかのように時間は動く。 「たわばっ!!」 変態は箒の柄が放れると同時に遥か後方へと吹っ飛び、 箒も変態を踏み台として真上に向かって上昇する。 その衝撃で魔理沙も足が箒から離れてしまいアリスと鈴仙諸共湯船へと投げ出された。 壁である岩が爆砕される音と水しぶきの音と空気を裂く音が同時に襲ったこの状況。 当事者である魔理沙は一体何が起きたのかわからず、 湯船の中で尻もちをついたまましばらく呆然とするしかなかった。 「どうやら小悪魔に一杯食わされたようね」 そんな事態を傍観していたパチュリーがやれやれといった感じで魔理沙を追いかけて湯船へと入る。 その証拠に小悪魔も文字通り悪魔的な笑みを浮かべているので間違いないだろう。 「なるほど、これは一杯食わされたぜ」 「危うくあんな筋肉だるまと裸でぶつかるなんていう乙女のピンチだったのに、  なんで笑って済ませられるのよ!!」 「いや〜でもこれこそが混浴の醍醐味だろ」 「「絶対違う!!!」」 混浴に対する価値観についてはさすがにパチュリーも異はあるらしい。 アリスとはもりながら突っ込む。 「まぁそれはさておいて…鈴仙はどこいった?」 そんな中、魔理沙は思い出したかのように周りを見渡す。 周りは湯けむりに覆われてよく見渡せないが近くにいるのは魔理沙のほか、アリス、パチュリー、小悪魔だけだ。 もっと目を凝らせば湯船を泳いでいるらしきユキとマイと それをたしなめてるはくどうの気配はするが鈴仙の姿はどこにも見当たらない。 「ま、まさかさっきの箒と一緒に外へ?!」 それだけはないとは思ったが、周囲にいない以上その可能性はある。 もしそうなったらほとんど素っ裸で外へ放り出されたということだ。 そんなことは乙女として断じて避けなければいけない事態のため、 アリスは状況把握のため一度湯船から出ようした、その時 「あっアリスさん」 湯船から出た直後、大人の姿に戻った永久とばったりあった。 なお、永久はさすがに前を隠してはいるがアリスはさっきのドタバタでかなりはだけまくっている。 しかも、アリスは自分の今の格好の事など頭からすっ飛んでいたのだ。 よって、永久からの視線を受けてアリスはゆっくりとだが自分の今の姿を確認すべく視線を下に向け……… 「きゃーーー!!!」 「ぶほっ」 反射的に拳を突き出しながら身体を折り畳みつつ湯船へと戻るアリス。 しかも、アリスの突き出した手は不幸にも永久の急所………みぞおちにめり込ませていた。 「って、ごめん永久!!大丈夫!!!」 「な、なんとか…もうちょっと下だったら危なかったけど」 確かに、もう少し下に拳を突き立てられていたら洒落になってはなかった。 とはいってもみぞおちもみぞおちで十分洒落になってない。 永久はしばらく痛みで悶絶しており、それをみてやはり慌てるアリス。 そんなやりとりの中、騒ぎの元凶となっていた鈴仙は魔理沙の手によって発見されていた。 「おー鈴仙こんなとこにいたか」 「こんなとことか言うけど、自分で尻に敷いておいてなんですぐに気付かなかったわけなの?」 「いや〜なんか下がみょうに柔らかいから変だな〜っとは思ってたんだぜ」 パチュリーの突っ込みに笑って誤魔化す魔理沙だが、 その手に持つ鈴仙はというとぐったりとしていてピクリとも動いていない。 「それよりこいつ、息してないみたいだぞっと」 そんな鈴仙の異変に気付いたのか、小悪魔が鈴仙の脈を見ながらあくまで他人事のようにつぶやく。 それに対し魔理沙やパチュリーも慌てることなく冷静というか淡々な態度で鈴仙を見つめる 「この場合…だと、とりあえず腹を思いっきりぶん殴って水を吐かせればよかったっけ?」 「違うわ、先に気道を確保して心臓マッサージよ。その後人工呼吸」 「そうか、人工呼吸か」 「えぇ、人工呼吸よ」 「人工呼吸だな」 お互い確認し合うかのように復唱する魔理沙とパチュリーと小悪魔。 そのやりとりの中で三人は何かを思いつき、鈴仙をひっぱりながらジャブジャブと湯船の外へと向かう。 その先にはアリスと永久のやりとりを微笑ましく見守りながら湯船へと入ろうとする ナイトとエリンギがいた。 「おー魔理沙にパチュリーに小悪魔か、もう浸かってるなんて早いな」 「何か、さっきすごい音がしましたけどどうしました?」 うら若き乙女の裸体を前にして全く動じることなく気軽に手を挙げて挨拶するエリンギとナイト。 その理由としてエリンギは『弾幕は芸術だ』をモットーにする魔法使い。 美的感覚が一際優れているゆえに女性の裸体にも一種の神秘性な価値を持ってるのでそこに低俗な感情はなかった。 でもってナイトは株式会社ボーダー商事の幹部の一人であり、 そこの大半の社員や一部の幹部が変態もしくは露出狂だ。裸体はある意味見慣れている。 なので、二人共裸体には多少なりとも免疫があるので“混浴”という裸体が当たり前な場では驚かない。 ただし、その態度があまりにも堂々とし過ぎているので 魔理沙にしてみればもう少し驚けと不満そうな顔をするが今はどうでもいい。 魔理沙は二人と同じよう気軽に片手をあげながら挨拶を返す。 「おーナイトか、丁度いい。  鈴仙がちょっと溺れて冥界に足突っ込んでるから人工呼吸で蘇生してほしいんだぜ」 「…はい?!」 魔理沙に耳を掴まれて引っ張られた鈴仙をみて思考が止まるナイト。 さすがに裸体には動じなくてもどざえもんには驚くようだ。 そんなナイトに、パチュリーがナイトの肩を叩きながら再度畳みかける。 「だから、人工呼吸よ。普段から救急隊として働いてるのだから適任でしょ」 しかし、当然ながらいきなりのことすぎて状況が飲みこめないナイト。 とりあえずわかったところから突っ込みを入れ始める。 「別に救急隊ってわけじゃない!!とにかく、エリンギさんも何か言ってやってくださいよ!!」 「俺も状況はイマイチわからないんだが、  ナイトは普段からよく鈴仙と共にいるからてっきり救急隊だと思ってたぞっと」 「エ、エリンギさんまで一体何を?!っていうか一応それは………あくまで仕事関係で」 「じゃ、今回も仕事通りでよろしく」 「こぁーさんまでー?!」 どうやら魔理沙とパチュリーだけでなく、 エリンギと小悪魔もナイトと鈴仙をくっつけようと企む霜月教授の一派に加担しているらしい。 そうなれば、どう足掻いても4人はなんだかんだ理由を付けてナイトに人工呼吸を強要させるだろう。 それに加え…… 今なおぐったりしている鈴仙をみると迷っている暇はない。 手当が遅れるとその分だけ蘇生の確立も下がってしまう。 だから意を決しないとだめなのだが……… 最低限のバスタオルが巻かれているもののほぼ全裸な鈴仙の唇を合わせるなんて正気の沙汰ではない。 でも、今はそんなことやっている暇はないっと言い聞かせるが…… かろうじて常人の神経を持つナイトにとってこの状況では人工呼吸をする度胸もなく……… “あー俺はどうすればいいんだー!!” しばらくの間、ナイトは自分の中で理性と欲望とついでに羞恥心とで激しい戦闘を繰り広げることになった。 そんな姿を湯船の中で遠巻きにほのぼのとした態度で見ている神綺。 「はー若いっていいわねー」 あくまで他人事のように言ってはいるが、 ついさっき自分が今のナイトと似た状況となっていたのであまり笑えない。 むしろ、自分はあんな馬鹿やってたのかと思うと再度恥ずかしさがよみがえってくる。 「私って、皆からみるとああなってたんだ……」 厳密にはかなり違うが、どちらにしても傍からみてると大差はない。 神綺は今更ながら恥ずかしくなって他の皆の様子をみる。 アリスと永久はお互い顔を真っ赤にしながらも湯船に入ってそわそわと落ち着きがない。 はくどうは泳ぎまわるユキとマイに注意するのを諦めたのか、 水中用と思わせる背中にスクリューを付けた小型魔道機械人形(機体には『MSM-03』が刻まれている) を起動してユキマイと共に泳がせている。 夢子とすきまは周囲の騒動なんて我関せずな態度を通り越して、 完全二人だけの世界に突入した空間の中でお互いの背中を流し合っている。 「私は何やってるんだかなぁ」 予定であれば今はまさに皆で『きゃっきゃうふふ』と騒ぎながら温泉で馬鹿騒ぎを行うはずなのに、 気付けば皆は神綺の事など眼中にない様子で楽しんでいた。 「本当に何やってるんだろ」 みじめさのあまり、湯船の中ではぁっと溜息をつく。 「お一人は嫌なのかしら?」 そんな寂しそうな神綺に声をかけたのは紅魔館の主であり、 酒場『スカーレットバー』の主でもあるレミリアだ。 彼女は神綺の目の前をパタパタと羽根を羽ばたかせてうかんでいる。 「むー何よ、おせっかいならお断りよ。レミリアちゃん」 「今はレミリアじゃなくカリスマスター姉よ。迷う子羊に愛の手を差し伸べるのだからね」 「愛の手?吸血鬼の癖して生意気じゃない」 「生意気上等。だから、生意気に愚痴ぐらいなら付き合うわ」 そう言って浮かぶのを止めて湯船の中へと入るレミリア。 その姿はずうずうしいと言えばずうずうしいが、今の神綺にはありがたく思えた。 「でも、レミリアちゃんもこっちに来てたのね」 「もちろんよ。この企画は命蓮寺が発端とはいっても人妖の交流なら  酒場『スカーレットバー』は欠かせないのだし、  マスターとしていろいろと協力させてもらったわ」 「そうだったんだ。大変だったんじゃない」 「大変だったけど白蓮にはかなわないわ。  実際、彼女は私や鬼達を話術だけでなく純粋な力でねじ伏せた上で新たな契約を結ばせたのよ。  しかも新たな契約で生まれた不都合やねじれをほとんど一人で修正してまわってたのだし。  なんていうか、霊夢がもう一人増えたかのような錯覚さえ覚えたわ」 「それはないと思う。だって白蓮ちゃん博愛主義だし物欲の激しい霊夢ちゃんとは似ても似つかないよ」 「気持ちはわかるけど、それは言っちゃ駄目じゃない」 そんなこと言ったのを霊夢にバレたらほぼ確実にぼこられる運命が待っているのはわかっているが、 それでもツボったらしい。 二人はくすくすと笑い始める。 「ひとしきり笑ったところで魔界の神に質問するけど、悩みは何かしら…  といっても、どうせさっきの騒動のあれが絡んでそうだけど。  報告によるとずいぶんド派手に暴れてたそうじゃないの」 「話聞いてるなら略すけど、そうなのよねー  おかげでずいぶんと皆に迷惑かけちゃったなーと思うとやりきれない思いが…」 「そうなの。でも……貴女の言うやりきれない思いって何なのかしら?」 「え……?」 「私には、もっと別の理由でやりきれない思いをかかえてる風にみえるのだけど………」 レミリアから受けた質問に対して神綺は言葉に詰まった。 今日、神綺は自分の早とちりが元で大騒ぎを起こした。 それによって各所で多大な迷惑をかけていたのは事実だが、それ以上の事はない。 あるとすれば…… 「た、確かにたけちーとは一緒に入りたかったけど、今寝込んじゃってるし仕方ないじゃん!!  そ、それに…私のたけちーとの仲はそんなつもりじゃないのに、レミリアちゃんも人悪いなーもー」 自分でも恥ずかしい事をうっかりのたうちまわりつつ、顔を湯船に半分以上埋める。 その顔はのぼせたのか、それとも別の理由があるのかゆでダコのようになっている。 そんな神綺をみてレミリアはくすりと笑う。 「私が聞きたかった事はそれじゃないんだけど、元気でてきたなら結果オーライってとこね。  とりあえず騒動の件で迷惑に思ってるなら大丈夫。騒ぎなら貴女以外も起こしてるわ。  ……いや、ぶっちゃけると貴女以上に傍迷惑なのもいるぐらいだし」 「私以上に迷惑なのって、そんなの到底いるとは思えないけど」 「それがいるのよ。……酒場『スカーレットバー』の地主さんよ。  彼も来てるというか、丁度そこにいるし」 そうレミリアが指差す方向、湯船の隅。 最初こそ湯気やどこからともなく沸いたと思われる怨霊に隠れてわからなかったが、 確かに地主ことやみなべもいた。 「へー初めてみるけど地主のやみなべちゃんも来てたんだ」 「地主さんが怨霊っという種族特性のせいで厄災を呼び起こすのは知ってるわよね。  だから地主さんが近くにいると何かと騒動やトラブルが多いのよ。  それこそ今日あった騒ぎなんて日常と思うぐらい」 「その辺は『文々。新聞』や『黒赤ドキュメンタリー』で知ってはいるけど、  本当に傍迷惑な存在だったんだ」 そう思いつつ、再度酒場の地主のやみなべの方をみるとその両隣にはカナと小傘がいるのに気付いた。 しかも、二人から微妙に火花を散らしているようで両手に花でありながらも 板挟みにされてどうすればいいかわからず…… とりあえず、顔を真っ赤にしながら湯船に顔を半分埋めて成り行きを見守っている最中であった。 その様は泥沼といえば泥沼だが、 カナも小傘もお互い捨てられた者同士というシンパシーがあるので決定的に仲は悪くない。 言いかえれば同じ不死仲間な輝夜と妹紅にも似た仲で喧嘩こそすれど嫌うことはないのだ。 その中心に置かれているやみなべはたまったものじゃないのだろうが、 傍からみてる感じはとても微笑ましい、 混沌やら厄災の元凶とも言われて嫌われているようには到底みえない。 「まぁとにかく今日は貴方が知らないところでもいろいろ騒動はあったのよ。  例えば極寒地獄を洒落て作った冷泉にあろうことか長時間漬かって終いには氷漬けとなったHとか  脱衣所で女の子の服を盗んでそのまま逃走劇を繰り広げたう詐欺達とか  とある屋台の出していたキノコシチューを食べた客達がいきなり発狂し始めたりとか  街の中央でいきなり大喧嘩をやらかしたどころか、  仲裁に入った鬼達を次々と沈めるせいで私を筆頭とする大物が出動する騒ぎになったりとか……  数えたらキリがないわ」 「あはは、なにそれ。まるで話に聞く酒場みたいじゃない」 というか、そのどれもがなんとなく誰のことかわかるところが怖かった。 もちろんそれらの情報源は『文々。新聞』と『黒赤ドキュメンタリー』なので 信憑性は怪しいものの大方あってるだろう。 「そんなわけで、今更騒ぎの一つや二つぐらいでとやかく言わないわ  むしろ、あったらとっくの昔にでてるわよ。それが今なお出てないのはわかるかしら?  ……鬼の国も幻想郷だからよ。幻想郷は全てを受け入れる。  過去に何があろうとも幻想郷は“過去”を含めた“今”を受け入れる。  特に今は無礼講なお祭り騒ぎなんだし種族も何も関係がなく楽しんだものの独り勝ちよ」 「その通り、今日は無礼講なのだからお嬢様のお背中を流し…いや、舐めまわす御許可を!!」 「なた。その台詞……まずは私を倒してからにしなさい!!  お嬢様を舐めまわす権利は誰にも渡さない!!」 「そうですか。なら、咲夜さん!今日こそ貴女を超えてみせる!!  いくぞおかぁぁぁーー!!」 「俺を巻き込まないでくださーい!!  俺は地味にお嬢様のお姿をじっくりねっちり舐めまわすようにみるだけでいいんすからーー!!」 「……ねぇ、あれも無礼講で片づけてもいいの?」 「………もちろんよ」 レミリアの無礼講という言葉に反応したのか、今まで遠巻きに見つめていただけの従者達。 なたと咲夜とおかが桶やタオル片手に繰り広げはじめた死闘を指差す神綺だが、 レミリアはあえてみないふりをしつつも、力なくうなづく。 「おか、聞いたか!!お嬢様も認めてくれたぞ!!  ならばこの勝負命にかけても勝ぁぁぁつ!!」 「いやでもししょー実際問題二人かかりでもこの咲夜さんに勝つのは絶対無理っしょーー!!」 「その通りよ!!!私に勝とうなんて1万とんで2千年早ぁぁぁい!!!  あいしてるぅぅぅぅう!!!」 「安心しろおか!!俺に策あり……いでよ、助っ人ぱんだ!!!」 「呼ばれて飛び出てぴっかりーん!!裸の王者パンダここに健在!!!」 「ししょーあれのどこが秘密兵器なんすかーー!!」 「大丈夫だおか!!これでかつる!!!」 「雑魚がいくら増えようとも無駄だとわから……何だと?  戦闘力10万20万…まだまだあがる?」 「『脱げば脱ぐほど強くなる程度の能力』を極めし者が手にする力。  頭に残るかすかな記憶に呼び出されて紅魔館を飛び出し、  長旅の末にたどり着いた聖地にて譲り受けたH極の中国古武術『裸神活殺拳』  我の土俵に上がり込んだ時点で貴殿の負けは決定事項である」 「面白いじゃない。しかしメイドは引かぬ媚びぬ顧みぬ!!  麗しきお嬢様の貞操を頂くまで、私は決して負けない!!」 「よかろう、ならば我が素晴らしき筋肉にて極楽浄土へ送ってやろう!!!」 「……ごめんなさい。前言撤回ついでに少し席を外させてもらうわ」 従者達のあまりにもなフリーダムっぷりにレミリアはついに耐えきれなくなったようだ。 神綺の返事を待つまでもなくその手にはすでに真紅に輝く槍、グングニルが握られている。 こんな準備万端でいられたら返事なんてあるなし関係ないだろう。 現にレミリアは呆然と戸惑っている神綺からの返事がないままに神槍を投げて突進していた。 しかも…… 「ちょ、皆さんこんなとこで何やってるんですかーーー!!!」 「お姉様ーー弾幕ゴッコなら私も混ぜてーーー!!!」 弾幕の気配を察したのか今迄姿が見えなかった美鈴とフランも飛び出してきた。 そうなると……その後は言うまでもないだろう。 どっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!! 彼女達紅魔館組が一つに交わった瞬間、閃光と共に一際大きな髑髏雲が空高く舞い上がった。 続く