不安だらけ…いや、不安だけしかないバスの旅。 当然、その道は平穏無事というわけでもなく様々なトラブルがあった。 中には絶体絶命のピンチも迎えたが、魔界神ご一行は運転手や乗客と力を合わせて危機を乗り切った わけはない。 「終点〜旧都地獄街一丁目で〜す。お降りの際は足元にご注意くださ〜い」 たけちーの危惧する出来事、 特にドクロマークスイッチの出番が来ることもなくバスは平穏無事に目的地へと到着した。 「わーここが鬼の国と言われる旧都か」 「どんなとこかと思いきや、意外と賑やかなんだ」 すっかりバスガイド役が板についたこいしに案内され、真っ先に降りたのがユキとマイの子供コンビ。 その二人が目にしたのは暗い旧都を彩る提灯の明かりと道の両端を埋め尽くす出店の屋台。 どこからともなく祭り太鼓の音も響いてくるという地獄とは程遠い完全お祭りムードの旧都であった。 「ユキマイ、人が多そうだからここは迷子にならないよう…」 目を爛々と輝かせるユキとマイに続いて降りてきたはくどうが二人に忠告を入れるものの、 時すでに遅し 「あっあそこの屋台でリンゴ飴売ってる。買いにいこ!」 「いや、ここは定番の綿あめが先かと」 完全お祭りムードに捕らわれた二人ははくどうの忠告なんて無視して出店へとかけていった。 「あーこら!二人だけで先に行こうとするな」 そんな二人を慌てて追いかけるはくどう。 その姿はまるでというかまるっきり二人の保護者である。 3人はすぐに人ごみの中へと埋もれて姿が見えなくなった。 「はっはっは。やっぱり魔族でも子供は子供か」 「それに子供はああいう姿が一番だしむしろほほえましいじゃないか」 「全くだ」 そんなやりとりを見送っている一般の乗客。 なお、その視線はユキマイではなく別の二人にも注がれてはいるものの、当の本人達。 アリスと永久は気にしていない。 「魔理沙には聞いてたけど、こうやって足を運んだのは初めてだわ」 「初めてって来たことなかったんですか?」 アリスは元々魔族ということで最初から偏見の目で見られているし、 永久もこの幼児化する体質になって1年以上たっている。 すでにこういう好奇の目には慣れているので、マイペースに旧都を見回していた。 でもって逆に騒ぎそうな人はというと… 「う〜ん…夢子ちゃ〜ん、吐きそう」 「しっかりしてください。もう到着しましたから」 青白い顔で口元を押さえながらバスから降りてくる神綺とそれを肩で支える夢子。 どうやら、夢子は復帰したものの神綺は思いっきりバス酔いしてしまったようだ。 でもってその後ろからはいまだ眠ったままのたけちーを背負ったすきまも降りてくる。 「あ〜らら、二人ともこの程度でダウンなんて本当に神様なの?」 「神綺様はともかく、たけちーは完全に運転手のせいだけどな」 そんなダウン状態の二人を見下すこいしに対して鋭く突っ込むすきま。 でも、突っ込むのはたけちーのみで神綺の方はその通りであるので全くこれっぽっちも弁明しない。 神綺も神綺で事実だから何も言えないというか言う気力が出てこず、ただ睨みつけるだけだ。 そんな神綺達にどこからともなく声がかけられる。 「とりあえず、具合が悪いんだったら宿の方にでも連れてったらどうだい?」 不意打ち的にかけられた声にばっと振り返るとそこには旧都名物ともいうべき鬼が立っていた。 しかも、全身から漲るオーラに魔界勢はとっさに身構える。 だが、こいしはにこやかに声を返す。 「あー勇儀お姐さん、お勤め御苦労さま」 「おう、こいしもお疲れ。帰りが遅くてさとりの奴が心配してたぞ。  ここからは私が面倒みるから顔見せに行ってこい」 「ありがとー。じゃぁ後よろしく〜」 ほのぼのとした会話のやりとりをした後、中心部の方へと駆けてゆくこいし。 その様に一行は危険性がないと判断したらしく緊張を解く。 「とりあえずお久しぶりね。萃香と同じ鬼の四天王と言われてる勇儀さん」 「おや、その通りだが魔界のしかもこんな幼女にまで名が届いているとは私もずいぶん有名になったものだな」 「私はアリスよ。ちょっと事情でこんな姿になっちゃってるけど私はアリスだから、  貴女とは神社の宴会で何度かあってるでしょ」 「何………あー確かにアリスだな。これは失礼」 そう言って、ジロジロと見まわしていたろりす状態のアリスに対してぺこりと頭を垂れる勇儀。 しかし、魔族とはいえ鬼が軽々人に頭を垂れるというのは珍しい光景である。 特に醸し出す威圧感がそこらの雑魚を超える大物であるから余計に恐縮する。 もちろん別の意味でだが……… 「ところで、貴女は見たところ鬼なんでしょうけど一体何者なんでしょうか…?」 そんな勇儀の態度に緊張を解くどころか一層警戒を強くする夢子。 まぁ、傍から見てると幼女をじっくり品定めしているかのような光景であるから警戒するなという方が無理な話。 とくに神綺がバス酔いでダウンしているこの状況。 何かあれば自分が動くしかないので探るような目で勇儀を品定めし始めるが、 勇儀はいたって平然としている。 「私はこのお祭りの実行委員さ。  そんでもって魔界神はこんな楽しい企画を考えた実行委員長の特別招待客だっていうから  どんな面してるか見ておこうと思って案内役を買ってでてきたんだが………」 そんな勇儀の視線の先はバス酔いですっかりまいっている神綺の姿がある。 その姿に対して勇儀は罵倒を入れたいものの、相手は弱り切っている。 この状態での罵倒はトドメになりかねずどうしたものかと迷っていたが、 その空気を察してか先に夢子が口をはさむ。 「そうでしたか。それで、その実行委員長と思われる白蓮様は今どちらに?」 「今は山の神様の二人とともに見回りしつつトラブル対処に回っているな」 「その3人だと逆にトラブルを生みだすような気もするんだけど」 勇儀と夢子とのやりとりにぼそりと突っ込むアリスだが、勇儀はちっちっと指を振る。 「この旧都は力こそが正義。  腕力がものをいうから、細かいいざこいなんて力で黙らせるのがもっとも有効なのさ」 「それこそやばいじゃないですか」 自慢げに言い切る勇儀に対して今度は永久が突っ込む。しかし、ここは旧都であり鬼の国。 鬼の国である以上、鬼のルールに従わないといけない。 そんなある種の世紀末ともいうべき無法地帯に一般人が来るなんて無謀以外ありえないが、勇儀は付け加える。 「大丈夫さ。“お祭り期間中に訪れた幻想郷の住民に対してはとんでもない無礼を働かない限りは手を出すな”  という契約をあの実行委員長との間で結んでいる…というか結ばされた。  全く、私が力で完全に抑え込まれるなんてあいつは本当に人間か?」 「………ちょっと信じられないところはあるけど一応は『元』人間よ」 アリスの言う『元』という言葉に含まれた意味には深い重みがあった。 だが、勇儀はそんな重みなんて関係ないとばかりに笑い始める。 「まぁ人間だろうが妖怪だろうが骨のある事には変わりないからどっちでもいいさ。  それに、こうやって地上の人間と祭りを楽しむ機会を作ってくれたんだし、  契約なんて関係なく白蓮っていう人間を気に行った。  だから、そっちも無礼講で遠慮せず楽しめばいい」 「その無礼講の行き着く果てが『混浴』なのね…」 「でも、こんな無茶苦茶が通った理由よくわかりました」 勇儀との話を聞いてうんうんと納得しあうアリスと永久。 外の世界どころか、幻想郷でさえも実現できるとは思えない浪漫の結晶『混浴』 そんな『混浴』が許されたのは一重に拳一つの肉体言語で語り合う鬼独特の文化の影響が強かったからだ。 むしろ、鬼の国だからこそ許されることでもある。 「とりあえず、危険はないと思っていいのですね」 「もちろんさ。ただ、たま〜にうっかり喧嘩に巻き込まれたり酒の飲み過ぎで倒れたり  温泉でのぼせて鼻血を吹く連中もでてくるが、  永遠亭とボーダー商事から派遣されてきたスタッフが要所に詰めて待機してるから大丈夫……  だとは思う」 勇儀の言ってることは危険は一杯だが命にかかわるような深刻な事態は起きないという裏返しである。 しかも、最後の自信なさげな一言が一行を一気に不安一色に染めあげるものだが、 これほどまでの浮かれ具合だ。 鬼の国という性質も相まって多少の危険は仕方ない。 それに、ボーダー商事はともかくとして永遠亭の者を待機させているということは 最悪の事態を回避するための最良手段でもある。 ただし、永遠亭といえば変態集団『P.A.N.C.H.I.R.A』の首領であり、 “エロを極めし者”とも称される男、えろはながいるので別の意味で最悪の事態が発生しそうだが…… 彼らとてこんな鬼だらけの連中で無礼を働こうだなんて思わないだろう。 仮に思って実行に移せばその報復で元地獄の名に恥じない責め苦が待っているのは確定的に明らか。 「よろしい、信じましょう。  ではまず神綺様とたけちー様を休ませるため宿に案内してもらいませんか?」 それ以上に今はただの観光客としての立場でこちらに来たなら、 こんなくだらないことで悩むなんてばかばかしい。 そんな厄介事は現地の責任者達に任せて自分達は温泉や祭りを楽しめばいいっと 夢子は割り切ることにした。 それを聞いて勇儀はにやりと笑う。 「魔界神ご一行様は一等級な宿でおもてなすように言われているから任せな。  後、ついでに荷物も持ってやるから貸しな」 そう言ってアリスと永久が抱えていた神綺や夢子達含む6人分の荷物を軽々抱える勇儀。 その腕力はさすが鬼だ。 「ではお言葉に甘えて…」 6人分の荷物を抱えた勇儀を先頭にして旧都を歩く魔界勢。 その途中、知りあいに声をかけられたついでに喧嘩をふっかけられたり、 出店で掘り出し物をみつけて釘付けとなったり、買おうとしたら同時に同じものを買いたい客が現れたり、 しかも権利を主張しているうちに第三者が漁夫の利を得ようとしかかったり、 しまいには弾幕で決着をつけようということになり、 面白がった見学客がどちらが勝つかのトトカルチョを行ったり…… などというちょっとしたトラブルもあったが神綺達はとりあえず無事に宿へと着いた。 「へーここがそうなのですか。結構いい部屋ですね」 「そりゃそうさ。何せ一番いい部屋だからな」 満足げに部屋の中を見回す夢子相手に自信満々と言い切る勇儀だが、 部屋はこじんまりとした和室で中央にテーブル、 端っこに布団が折りたたまれて山積みとなっているだけだ。 一応壁には掛け軸とかがかけられているものの、 ぶっちゃけごく一般の旅館での定番な部屋で全くロイヤルではない。 しかし、夢子は旅館の一般的な部屋の基準を知らないので気付かない。 っというか、唯一気づけそうなたけちーがまだ気絶中なので突っ込みようがない。 「それより、運悪く今丁度この宿にいる永遠亭の兎が出払ってるみたいだし、  ちょっくらそこらにいる適当な兎を捕まえてこようかね」 「いえいえ、そこまでお世話になるわけには」 「別にいいさ。お客様に精いっぱいおもてなしするのは鬼としての礼儀。  それに加えて病人がいるならなおのこと、ゆっくり休んでるといいさ」 「勇儀姐さんもそう言ってることだし、お言葉に甘えよう。夢子」 「すきまがそういうなら…ですが、兎を手荒な方法で連れて来ては駄目ですよ」 「……なるべく善処しよう」 なんだか最後の言葉がものすごく気にはなるものの、細かい事は気にしたら負けだ。 それでなくてもここに来るまででいろいろとあったのであえて突っ込むことなくスルーした二人。 手際よく布団を敷いてそこに神綺とたけちーを寝かせはじめる。 「う〜夢子ちゃんごめんね。私がふがいないばっかりに苦労かけちゃって」 「今更何を言ってるんですか。そう思うなら普段から魔界神らしい振る舞いを行ってください」 「………」 まだバス酔いが抜けてないところに容赦なく急所をえぐる夢子。 当然ショックを受けた神綺は布団をかぶって声なき声で泣き始めるが、それはある意味いつものことだ。 むしろ、そんな行動ができるということはだいぶ調子も戻ってきた証拠なので すきまもフォローは特に入れない。 「さて、これから早速温泉にと行きたいとこなんだが…二人がこの状態だと出てはいけないなぁ」 「さらにいえば、どこかへ行ったユキやマイ達にここの場所を知らせないといけませんし  アリス達もいい加減迎えにいくべきでしょうから、どのみちまだ温泉には入れません」 「……個人的にはあれこそほうっておきたい気分満々なんだが」 そんなすきまの視線の先には窓の外で人形やら箒やら本を武器にしつつ 弾幕を飛び交わせている3人の人影があった。 「いくら貴重なマジックアイテムが掘り出されてたとはいえ、  ああしてまでほしいか普通?」 「コレクターにはコレクターにしかわからない価値があるのでしょう」 「わかりたいようでわかりたくない世界だ」 雑談を交わしつつも窓の外で繰り広げている弾幕戦はどんどん激しさを増していた。 それによって、3人が放つ弾幕の花火が炸裂するたびに旧都を鮮やかに彩り、 周囲を魅了する美しさを展開させている。 その様はとても美しく、儚げにもみえるが騒動の発端を知るすきまと夢子は純粋な気持ちでみれなかった。 でも、発端はあれでも止める気は全くない。 むしろ、あったら騒動に発展する前に止めている。 「二人共、そんな遠慮なんかせず出ていいぞ」 「おや、気がついたのかたけちー」 「まだ頭がクラクラするけどなんとか…な」 まだ麻酔が効いてるのか頭を押さえつつだが、布団から上半身を起こすたけちー。 「みたところあまり大丈夫そうにはみえないんだが」 「別に部屋から動くわけでもないしそこのアホ毛の面倒ぐらいならみれるさ。  だから遠慮せず二人っきりで楽しんで来い」 「……何を勘違いしてるかわからないが、  ユキやマイにアリス達も放っておけないからその申し出受けていいんだな?」 「もちろんだとも」 すきまの問いかけにこくりとうなづくたけちー。 その姿にはまだ不安はあるものの、まぁ部屋から出ないなら別にいいかと判断したようだ。 すきまは夢子の方に振り返る。 「じゃ、たけちーもそう言ってることだし俺はユキとマイとはくどうを探してくるからアリスの方よろしく」 「わかりました。こちらでも3人を見かけたら伝えておきますので見つからなくても  1時間後には一度帰ってきてくださいね。後、たけちー様。  勇儀さんが神綺様のために永遠亭の兎を連れてくると言ってましたのでもし来たら入れてあげてください」 「わかったけどアレのために薬の用意とは、無駄というかなんというか……」 「私達はお客様ですからもてなす方としても気を使いたいのでしょう。  ただ、いつもと立場が全く逆なので少し戸惑いもありますが」 「それならなおさら今日は羽根を伸ばせばいいさ」 「ではお言葉に甘えてしばらく席をはずします。後はお願いしますよ」 「任せとけ」 部屋を出る夢子とすきまを見送るたけちー。そうして二人が出て行った後改めて神綺の方をみる。 神綺の方はまだショックが抜けておらず布団かぶったまま泣いている…気配がある。 それをみてたけちーはふぅと溜息をつく。 「お〜い、いい加減立ち直れ」 「うぅ…でもでも、私はバスなんかで酔ってしまうような全く頼りない魔界神で皆に迷惑かけっぱなしの……」 「そんなことあるか。大体迷惑ならお前だけじゃなく皆も一杯かけてるだろ。  現に夢子は寝坊したしアリスも魔法実験の失敗で幼女化した。  それに話聞いたらユキやマイも先走ってどこかにいってすきまが探す羽目になったっていうじゃないか  俺も俺で今までずっと気絶してたんだし皆お互い様さ」 「……」 たけちーに論されたのかふとんからひょっこり顔だけを出してくる神綺。 その顔はバス酔いの影響がまだ抜けてなく青白で見方によれば病的にもみえる。 普段から泣き顔や嫉妬に狂ったヤンデレ顔はみてるがこんな神綺は初めてだ。 たけちーははっとして周囲を見渡すと、そこには誰もいなかった さすがに窓の外や廊下からは人の気配はするが部屋の中には誰もおらず、 気づけば神綺と二人っきり。 ついさっきまでここにいたすきまと夢子は揃って外へと出かけたというか、 出かけるように仕向けた。 つまり、たけちーは意図せず神綺と二人っきりの場を作ってしまったのだ。 そんな事実に気付いたたけちーはうろたえ始める。 「え、えっと……とりあえずお茶でも飲んで一息でもつくか」 なんとか場を持とうとテーブルに置かれていたポットと急須をみてお茶を用意するたけちー。 もちろんこれは神綺ではなく自分が一息をつくためでもある。 慣れない手つきながらも急須にお茶っ葉とお湯を入れて湯飲みに注ぐ。 「ほ、ほら。入ったぞ。熱いから気をつけろよ」 「ありがと」 ふとんを頭からかぶった状態でたけちーから差し出された湯飲みを受け取る神綺。 湯飲みから立ち上がる湯気から中身の熱さを感じ取ったのか、 ふーふー息を吹きかけて中身をさましはじめる。 そんな様をじっとみながらたけちーはおもむろに自分の湯飲みの中身を ほぼ無造作に口へと流し込もうとし… 「あちっ!!」 あまりの熱さに噴き出して中身をこぼした。 「ちょ、大丈夫?!」 「だ、大丈夫だ。心配すんな」 実際あまり大丈夫ではない。 舌が熱さでひりひりするが心配をかけさせまいと強がりをいいながら 置かれていたふきんでこぼしたお茶をふき取る。 その態度に神綺は疑いをもちつつも迫力に押されたのか、それ以上何も言わなかった。 言わずにお茶を一口飲む。 「はーおいし。夢子ちゃんよりおいしくない、これ?」 「そんなわけないだろ。下手なお世辞はよせ」 「でも本当だよ。これ美味しいし」 満面の笑顔でそう言い切る神綺にたけちーはあえてそっぽを向きながら、 こぼしたお茶を淹れなおす。 そのまま無言で今度は火傷しないよう気を付けながら飲んだ。 「………ん、これかなり最高級なお茶だな。これなら美味くても当然か」 「え、そうなの」 「お茶にくわしくはない素人でも違いがわかるほどだ。まず間違いない」 「じゃぁ私は素人を通り越した味音痴だっていうわけね」 「自分でそう思うなら、そうなんだろうな」 「もーたけちーの意地悪」 再度お茶を飲みつつ、ぷんすかと怒り顔になる神綺。 どうやらお茶で一息つけたのかバス酔いの影響も少しおさまってきたようだ。 さっきよりあからさまに顔色もいい… と思ったらいきなりせき込んだ。 「ちょ、大丈夫か?!」 「だ、大丈夫。ちょっとお茶が気管に入っちゃっただけだから」 そう言って涙目になりながらせき込む神綺。 そんな様をみて心配するなと言う方が無理だ。 たけちーは慌てて神綺の元へ駆け寄って背中をさする。 「ほら、落ち着いたか」 「う、うん。別にそんな大事にしなくても」 「いや、なるだろ。ここは鬼の本拠地だし変な毒が混ぜられてたりしたら大事だからな」 「それは………ありえるかも。何せここは水代わりに酒を飲むような鬼の国だしね」 「そうだな。ここは酒が水がわり…に……あ…れ?」 台詞の途中でくらりと視界がかすむ。 「ちょ、たけちーこそ大丈夫?!」 「い、いや。別にどうってことは……」 慌てる神綺に再度強がりを言うたけちーだが、今回ばかりはどうしようもならなかった。 視界がゆがみ身体の自由が効かない。 ついでに意識もだんだんと混濁していくのがわかる。 普通ならここで自分に何が起きたのか慌てるところだがたけちーは冷静であった。 なにせ、この感覚は何度も体験したことがあったからだ。 そう、これは………酒を飲んだ時にでる感覚。酔いである。 そうこうしているうちにどんどん酔いがまわっていく。 「ま、まさか本当に酒が水代わりなのか。ここは……」 元々酒には弱いたけちー。 酔いがまわって限界だったたけちーはそうつぶやくと そのまま神綺の胸へうずめるようにして倒れつつ気を失った。 「……えっと、たけちー…?」 いきなり倒れ込んできたことで驚いたが、それ以上に意識がないたけちーをみて動揺する神綺。 試しにぺちぺち頬を軽くたたくがたけちーの反応はない。 「……たけちー!?」 今度は強めに頬を叩くがやはり反応はない。 「きゃーたけちーしっかりしてー!!!」 半狂乱になって叫ぶ神綺がはげしくゆするがそれでも反応がない。 先ほどちゆりが撃った麻酔弾の影響もあるのか、完全に意識を失っている。 もっとも、脈や心臓はしっかり動いているので死んではいないのだが、 混乱状態の神綺はたけちーが死んだと思いこんだようだ。 必死になってたけちーを生き返らせようとする…がどうすればいいのかわからない。 そもそも生死の確認すらも行おうとしない混乱した頭ではまともな考えが思いつくわけない。 そうして、混乱の極みに陥った神綺は…… 「そ、そうだ!!こういうときは『まうす とぅ まうす』って奴よ!!」 あながち間違えではないものの、完全に何かを勘違いしている解答へとたどり着いた。 しかも、今現在はこの考えに対して突っ込める者が誰もいない。 よって、神綺はうる覚えのままたけちーをふとんの上に仰向けで寝かせてそのまま馬乗りとなる。 当然ながら、この体勢は通常の人工呼吸の体勢ではない。 ただし、どうしてそうなったかは神綺が間違えた知識として覚えてるのか、 ただ混乱してるだけなのか… どちらか判別不明なのだが今の神綺にとってはどちらでもいいだろう。 とにかく神綺はたけちーを蘇生させることで頭が一杯である。 静かに目を瞑ったまま死んだように眠っているたけちーをじっと見つめはじめる。 「たけちー。今から助けてあげるからね」 「人を勝手に殺すな!!」 ……… なんて、ここでいきなりたけちーが目覚めて突っ込みを入れる展開を入れてもよかったのだが あいにく今回はそんなことなかった。 完全にダウンしたたけちーは目が覚めることなく沈黙を保っている。 「えっと、ここで唇と唇を合わせて……?!」 そう口にした神綺。どうやら、今自分がやろうとしていることの重大さに気付いたらしい。 気づいて一瞬戸惑ったが、今ここで躊躇している暇はない。 やがて、意を決した神綺はゆっくりと自身の唇をたけちーの唇に合わせようと近づけていく。 そして……… 「はー負けた負けた。今回は気持ちいいぐらい負けたぜ、エリンギ」 「負けた割にはずいぶんご機嫌だな魔理沙」 「魔理沙は中身に興味があるだけだし、読めたらそれでいいんでしょ。  それに負けは負けだから、本の所有権はアリスに譲るけど読ませてもらうぐらいはいいでしょ」 「わかってるわよパチュリー。所有権が私にあることを認めてくれてるなら読むぐらい許可するし」 「そうして、帰り際にどさくさにまぎれて荷物の中へ潜りこませるっと」 「小悪魔さーん、そんな火事場泥棒みたいな真似はしないでくださいよー」 「そのとおりだ。もし永久の言うとおり泥棒なんてすれば俺たちが紅魔館へ強奪に出向かせてもらおうかな」 「すきまの場合はメイド狩りが主な目的でしょうけど、発端は貴女方なんです。  狩られても文句は言わせませんよ」 「じゃぁそんな事態になったら私達もすきまお兄様や夢子お姉様と一緒に強襲だね、マイ」 「ん、どうせならはくどう兄ちゃんも連れて強襲の方向で」 「こらマイ。部外者の俺まで巻き込もうとするんじゃない」 「ってか、ナイト君。勇儀さんからこの部屋に病人がいると言われて来たんですけど、  何なんでしょうかこのカオスな集団は…」 「俺もわからないけど、それ以上になんで鈴仙さんと一緒に出向けと命令されないといけないのか……」 がやがやと書き手本人すら誰が誰かわからない大所帯の集団ががらりと襖を開けてきた。 ちなみに、誰がやってきたかというと上から順番に…… 魔理沙・エリンギ・パチュリー・アリス・小悪魔(ショートカットの方)・永久 すきま・夢子・ユキ・マイ・はくどう・鈴仙・ナイト である。 そんな集団の目に真っ先に飛び込んできた光景は………… たけちーに覆いかぶさって今まさにキスを迫ろうとする神綺の姿 であった。 もちろん神綺もいきなり襖があいたので驚いて振り返っている。 そうして、しばらく神綺とその他大勢とが向き合ったまましばらく止まっていたが、 時間は不意に動く。 『お楽しみ中のところ失礼しましたー!!』 全員が声をはもらせながら、襖をぴしゃりと閉めると同時にどたばたと廊下をかけていく音が響く。 そんな状況になっても神綺はしばらく呆然としていたがやがてはっと我に返る。 「ちょ、違うの!!これは誤解…じゃなくってたけちーが大変なのー!!」 慌てて追いかけるものの時すでに遅し。 ましてや13人という団体さんに見られたのだ。 各自バラバラに逃げている上、 一部は鬼を首を取ってきたかのような調子でそこらに言いふらしまくっている。 当然のことながら、この騒ぎは天狗やガチャ&ムッのお騒がせコンビも聞きつけることとなり……… ようやく誤解が解けたころにはもう収拾不可能なぐらい話が飛び火しまくっていた。 続く