にとり達が注文した荷物。 樽に詰まったキュウリのハチミツ漬けが乗った荷車を押しつつ、 妖怪の山を目指し進むことになった4人だったが……… 当然のごとくその道のりは険しかった。 一応ゆうかりんランドからの輸送は他でも多く行われていることもあって道は整備されているものの、 妖精や妖怪の襲撃は避けれないのだ。 もっとも、4人ともそれなりの実力を持っているため雑魚は全て返り打ちなのだが、 一番の大敵は荷物の重さだ。 そもそも4人とも体格的にも重労働に向いているとは言い難いため、進みは限りなく遅かった。 進みが遅ければ妖精や妖怪とのエンカウントも多くなってさらに進みが遅くなる。 「っというわけで、休憩希望ウサ」 そんな空気に耐えれなかったのか、後ろを押していたてゐが休憩を提案してきた。 それを聞いた椛は少しうんざりとした顔になる。 「はぁ〜またですか。これでもう5回目ですよ」 「でも、そう言って休憩はまだ一回もしてないウサよ。倒れないためにも休憩するウサ」 「ダメですよ。こんな道の真ん中で休憩をすれば妖精や妖怪の格好の餌食にされます。  とくに最近の妖精は悪知恵が働きますからね」 そう言って台車を押しながら有らぬ方向へ弾幕を放つ椛。 最初はその方向には全く誰もいなかったのだが、撃墜音とともにぴちゅった妖精が3匹虚空から現れた。 さらによくみれば、約1匹の要領の良い妖精は2匹を盾にして弾幕から上手く回避していようだが、 椛は気にせず3匹の接近に驚いていた3人に対してたんたんとした口調で言う。 「そういうことで、余計な邪魔が入らないうちにさっさと進みますよ」 撃退した3匹の妖精のその後なんて全く気にもかけずにもくもくと台車を押す椛。 その姿は、最早くそ真面目を通り越した非情にも見える。 「はぁぁ…なんて頭が固い奴ウサ。シロもなんとか言ってほしいウサ〜」 こうなればっとてゐは前を進んでいるシロに助け舟を出したが… 「ん〜この程度お師匠様の荷物運びに比べたら軽いもんだからな。まだまだいけるぞ」 「だーそういえばそうだったウサー!!お師匠様の荷物運びに比べたらまだマシウサよー!!!」 藪蛇だったようだ。 とくにシロは鈴仙に対して異常なまでの情熱を持っているだけあって鈴仙の頼みは大概の事なら聞く。 さらに、鈴仙は普段から永遠亭で永琳や輝夜、てゐに振り回されるせいで激務に追われていることもあって、 それを手伝うシロもその激務を背負う形となるわけで… 結果的に文字通り馬車馬のごとき動きで働いているのだ。 「本当、これで変態的な思考がなければ最高なのに……」 そうハクレンがつぶやく通り、シロは遊び好きで勝手し放題な他の兎達に比べればかなり真面目な部類なのだが 変態チックな思考を持つ事でも有名だ。 鈴仙の狂気の瞳に骨の髄までやられたせいで様々な理性が吹っ飛んでいる事もあるが、 そんな状態で永遠亭を出入りしているというエロを極めた男、えろはなと接触すれば 思考がエロ方向へと走っても仕方ない。 言うなれば、彼もライス同様えろはなの被害者ともいえる。 「でもまぁ、疲れのせいで進みが遅くなってるのは確かだしハクレンも病み上がり。  そろそろ休憩は入れるのは賛成かもしれないかな」 「そうウサ。このままだときっと行き倒れて『返事がない、ただの屍のようだ』になってしまうウサよ……  おもにハクレンが」 「僕がですかー!!」 シロに同意したてゐの最後の言葉に思わず突っ込みを入れるハクレン。 だが、ハクレンを引きあいに出された事もあって椛はぴくりと眉を動かす。 確かに今までは整備された街道のおかげで順調に進むことはできたが、 この先山へと入るにつれて道が荒れてくる。 おまけに山だから登りになるわけであり、このまま休憩なしで進むのは無謀過ぎる。 なんだかうまい具合に乗せられた気もするが、この先を考えるとどこかで休憩を取るのは必然だ。 「わかりました。この先の湖で一度休憩しましょう」 「なら、この先に確か左京さんの家があったはずです。  そこでお茶をごちそうになりましょう」 「賛成!ついでにお茶菓子も一緒にもらうウサよ」 そう言って少し街道から逸れたところを指差すハクレンと同意するてゐ。 確かに、その先は丁度左京の家があるのだが、 そこに上がりこんでお茶をもらうどころか茶菓子まで要求するのはずうずうしいにも程がありすぎる。 しかし……… 「じゃぁそうしましょうか」 椛も椛でそれをあっさり承諾する辺り、左京の事をどう思っているのかが図り知れるというもの。 当然、元々狂気の域に達しているシロもシロで止める理由が全く存在しないので反対するわけがない。 よって、4人はそのまま不意打ち的に左京の家へと襲撃を仕掛けることとなった。 「だから、お茶を出せウサ」 「いや、なにがどういうわけなのさ?っていうかそんな理由で家に上がられても困るんだし」 そう言って扉を開けたと同時に居間へと侵入してくつろぎ始めているてゐをはじめとした4人に文句を言う左京。 だが、口では邪慳にしつつもしっかりお茶を用意する辺りはお人好しである。 「でも急に押しかける形になって本当にすみません」 そんな左京から出されたお茶を受け取りながら申し訳なさそうにする椛。 さすがこの中では唯一の常識を持っているだけの事はある。 「いや別にいいさ。こういうことは……アレで慣れているしね」 そう言いつつ、左京が遠い目をしながら指差すその先は 台所を好き放題漁っている天人の天子と冥界に住む半人半霊の鍛冶屋の冬月がいた。 「ねー左京ーお茶菓子ってどれ使えばいいのー?」 「わからなければ適当でいいんだよ。例えばこのいかにも高級な雰囲気を漂わせる饅頭とか」 「それはよせー!!その紅葉饅頭は朝から3時間も並んでやっと購入できたものなんだー!!!」 どうやら二人はしょっちゅう左京の家にやってきては こうやってずかずかと家の中を我がもの顔で歩きまわっているらしい。 そんなわけで、このまま二人に任せているとせっかく苦労して手に入れた饅頭を食われてしまうことになる。 それだけは阻止せねばと左京が大慌てで台所へ突撃する。 「わかってはいたけど向こうも大変そうだよねぇ」 「ハクレンは知ってるのですか?」 「もちろん、僕はお使いの帰りにここで一服ついでに左京達と麻雀やったりするからね。  大体勝手は知ってるのさ」 「そうですか、私が見回りとして働いている間にそんなことやってたのですか」 「う゛っ……?!」 っと、そんなハクレンを軽蔑した目で見詰める椛に焦るハクレン。 なんとかこの場を切り抜けなければっと思うが、事実なのでどう考えてもただの言い訳しか思いつかない。 それでも何かしなければっと冷や汗をかき始めるハクレンに対し、椛はくすっと笑う。 「冗談ですよ。どうせ見回りといってもやることなんて無いに等しいものですし、  今さらそんなことで怒るわけないでしょう」 「そ、そうだよね…あははは」 椛の笑みに釣られてハクレンも笑うが、実際は笑い話でもない。 というのも、椛は幻想郷では珍しいくらい真面目な部類だ。 それだけに上司の報告もしっかり行う方であり、もしこのことをばらされたら………… 「とりあえず、向こうも大変みたいですから手伝ってきますよ」 そんなハクレンの心配をよそに、すっと立ち上がって台所の方へと向かう椛。 確かに台所の方では3人で何か言い争っているついでに弾幕の音が聞こえてくる。 その中で椛が加わってどうにかなるとは思えないが、 あの争いはハクレン達が来たことが発端である事には変わりない。 それならば、傍観するのは気が引けると思ったのだろう。 その辺りは本当に真面目というか律儀というか…… 「ところで…どうなんだい?」 「…へ?」 椛が台所へと引っ込んだのを見計らうかのようにして唐突に話かけてくるシロに、 思わず間の抜けた返事をするハクレン。 ちなみに、彼はここに到着してから何故か大人しくしていた。 いつもなら女の子に出会ったらなんらかのアクションを起こすはずなのだが、 よく考えると今回は椛や天子と対面してもとくにこれといったことはしていない。 そんなシロがようやく動いたのはいいのだが……… 「だから、どうするのかって聞いてるんだよ。鈍いなー」 その矛先がハクレンというのが謎めいていた。 さらにいえば言ってることも謎めいて全く要領を得ない。 それをみてシロどころかてゐもため息をつき、 てゐがシロの補足をするかのように後ろからハクレンの肩に手をポンと置く。 「鈍いウサねー知ってるウサよ。ボーダー商事の社員を脅して惚れ薬を貰ってることを」 ドッキン!!! 「ナ、ナナナナナナンノコトデショウカ?」 動揺を隠すため、無理に平静を保とうとするが言動からみてどっからみても怪しさ爆発だ。 そんなハクレンをみてシロとてゐは笑う。 「やっぱり受け取ってたみたいウサよ」 「あの時のハクレンやナイトの様子からみてもしやと思ったんだが、どうやら当たってたみたいだな」 「…へ?」 話の内容からして、てゐもシロもハクレンがナイトから惚れ薬をもらってる確証はなかったらしい。 言うなれば、カマをかけただけでありハクレンはそれに見事引っ掛かってボロを出してしまったのだ。 「まぁ実際はカマというより半分は聞いてたんだが…」 っと、シロとてゐは自分の耳を指差す。 そう、彼等は妖怪兎であり兎と同等の鋭い聴覚を持っているのだ。 その有効範囲は不明だが、少なくとも閻魔の地獄耳ぐらいはあるのかもしれない。 「とにかく、こんな美味しいネタがなければシロはともかく私がこんな重労働を逃げ出さずに手伝うわけないウサよ」 「そんなこと自慢気に言われても困るんですが、つまりあれですか。  この惚れ薬をくれっと言いたいんですか」 「「もちろん」」 そう言いつつ、ポケットから惚れ薬が入った瓶を取り出すハクレンにシロとてゐは躊躇なくうなづく。 「わかってるなら話が早い。  お師匠様や鈴仙から直接奪うのはまずいが、  ナイトから合意の元でこっそり横流しされたブツだったら俺等の追跡もなくなって安全だからな。  悪いようには使わないから手伝い賃として少しわけてくれないかい?」 っと、遠慮なくずずいっと手を差し出してくるシロ。 その鼻息が微妙に荒い上に鼻も完全伸び切っている。 こんなのに惚れ薬を渡したらどうなるか……… 言うまでもなく、危険だ。 幻想郷に暮らす女の子達の貞操を守るためにもこれだけは避けなければいけない。 だが……… 「シロが信用できないなら、私が代わりに受け取ってもいいウサよ」 こっちはこっちで歪ませた口元から漏れる笑い声から、惚れ薬をどう扱うか簡単に想像できる。 むしろ、考え方次第ではシロよりも危険だ。 そんなわけで…結論 「駄目です。二人とも全く信用できません」 二人のどちらかの手に惚れ薬なんかが渡ったら幻想郷が大変なことになる。 それだけではなんとしても阻止せねばならない事態なのできっぱり拒否の意を示した…が 二人にしては目的は違えどこんな美味しいアイテムを目の前にして大人しく引き下がるような性質ではない。 二人はしばらくお互いアイコンタクトで会話した後… 「そうか、どうあがいても渡さないというなら……」 「殺してでも奪い取るまでウサね」 ゆらりと獲物を狙う目でハクレンを睨みつけはじめるシロとてゐ。 その佇まいにぞくりと背中に寒気が走った。 そう、今の二人はどこぞの世界で幾多の冒険者の首を刎ねまくったという 地下迷宮の奥深くに住む殺人兎の姿そのものだ。 そんな二人をみて、ハクレンは静かに後ずさりしながら自分が取った行動が過ちだと気付いた。 最初こそ、これを椛に使って“きゃっきゃうふふ”な展開になれば…と軽い気持ちだったのに、 今は惚れ薬が原因でこうやって命の危機に陥る羽目となっているのだ。 むしろこんな惚れ薬なんてもらうべきではなかったと後悔の念を抱き始めた。 だが、嘆いていても仕方ない。 とにかく今は如何にしてこのピンチを脱出するか…だ。 気付けばハクレンは部屋の隅に追いやられており、 二人は各出口をふさぐ形でハクレンを追い詰めている。 ここから逃げだすにしてもてゐやシロの反応速度は異様に高い。 その反応速度は白狼天狗であるハクレンをあからさまに上回るため、 逃げようとすればその隙を突かれて一撃で首をはねられるのは明らか。 なら、あえて撃ってでる手もあるが……そうすれば二人同時に相手をする形となり、 はさみうちをくらって終わりである。 通常ならどう考えても詰んでいるが、ハクレンは諦めなかった。 むしろ、こんな状態は椛と将棋やチェスをやっていればしょっちゅうおきる出来事だ。 しかも、椛はこういう詰んだと思った状態でも逆転の手で回避してくる。 椛ならどう動くか………… っと、ハクレンは二匹の動きに牽制しつつ必死に考えをめぐらした。 椛ならどうするか……… 椛なら……… 「あーあそこに空飛ぶ円盤が?!」 いきなり彼方を指さしながら叫ぶハクレン。 椛が良く使う手。 それは、こういう緊張状態の中で相手の思いのよらぬ一手を打って相手の動揺を誘う。 つまり、相手の思考を乱すのだ。 そうする事によって相手に隙が生まれ、一瞬だが活路への道筋が生まれる。 もっとも、幻想郷入りしてもおかしくないぐらいの使い古された手に引っかかる奴なんて普通はいないのだが…… 「な、なんだってー!!」 「まだUFOが残ってたウサかー!!」 この春にはその未確認飛行物体として有名なUFOが本当に幻想郷入りしていた上、 モノ好きな連中には高値で売れる事もあって効果は抜群であった。 っということで、てゐとシロはハクレンの思惑通り思わず指差した方向に振り向いてしまう。 その隙をついてハクレンは急いで霧を生み出した。 急激に広がる白い霧は視界を狭めるため目くらましになる。 とくにここは狭い室内なのですぐに部屋の中は霧で一杯だ。 「しまったウサ!!このままだと逃げられるウサよ!!」 てゐがハクレンの生み出した霧に気付くが時すでに遅し。 すでに霧が充満していたせいで、視界が極端に狭まっていた。 「よし、今だ!!」 そんな突然の霧に戸惑っている二人の隙をついてその脇をすり抜けようと試みるハクレン。 だが… 「そうはさせるかー!!」 ドゴォッ!! 「うぐっ!?」 ハクレンを止めるべく気配を頼りに横から不意打ち的なタックルをかますシロ。 当然、反射神経ではあからさまに劣るハクレンは避けきれずまともに食らう。 幸い、体格の差で倒れることは避けられたががっしり捕まえられた以上このまま逃亡はできない。 しかし、ハクレンはこれも予測はしてたことだ。 椛は任務達成を第一にする。そのためなら、捨て駒を有効活用する。 ハクレンは片手で身体に張り付いているシロの頭を押さえつつ、もう片一方の手に持つ惚れ薬を掲げる。 「今僕がすべきこと。それは……この惚れ薬を捨てることだ!!!」 そう、こんな惚れ薬を持ってるからいけないのだ。 一番理想的な形なのは惚れ薬を持ったままこの場を逃げる事だったのだが、 それに失敗した以上は惚れ薬を捨てる選択を取るしかない。 とはいっても、その場でぶちまけたらどんな事態になるか想像もできないわけであり、結果…… 誰の手にも渡らぬよう遠くに放り投げることとした。 「遥か彼方に飛んでけーーーー!!!」 ちょっと…いや、かなり名残惜しいが、 今まさにハクレンが惚れ薬を窓の外目がけてぶん投げようとしたその瞬間! 「そうはとんやが下さないウサー!!!」 「うおっ?!」 横から必死に伸ばしたてゐの手がハクレンの持つ惚れ薬の瓶に届いたようだ。 てゐとしてはそのままハクレンの手から惚れ薬を奪い取りたかったのだが、 投げる直前ということあって遠心力がついていた瓶を掴みそこねたらしい。 よって、惚れ薬はてゐの手によってはじかれて明後日の方向へと飛んでいく。 さらに、ハクレン自身も横から突っ込んできたてゐの勢いで身体を支えることもできず、 シロやてゐを巻き込みつつその場にもつれ合いつつ転がる。 「「「ほ、惚れ薬は?!」」」 地面を転がった3人は、こぼれ球扱いとなった惚れ薬をみた。 惚れ薬は幸運にも孤を描きながら宙を舞っている。今ならまだ確保が可能だ。 そう判断した3人は即座に立ち上がり、ほとんど同時に飛びあがって手を伸ばす。 反応速度ではハクレンは不利だったものの、リーチの差では有利。 よって誰が手に入るかわからないというかなり際どい競り合い判定だ。 「「「もらったー!!」」」 そうして、3人が伸ばした手の丁度中間地点に惚れ薬が到達しようとした… その矢先。 「ちょ、ハクレン。この霧は一体な…に………?」 その延長上に椛がにょきっと現れた。 霧の中で視界が遮られていたせいで3人は椛の接近に気付かなかったのだ。 っというか、3人とも惚れ薬しか見てないため、椛の姿は目に入ってない。 よって……… どんがらガッシャーン!! 椛と正面衝突した3人は椛を巻き込みつつ地面を再度転がった。 「い、いつつつつつつつ……」 一瞬何が起きたのかわからないハクレン。 だが、惚れ薬が自分の手に渡っていないのは確かなので痛む頭を押さえながら辺りを見渡す。 周囲は同じようにてゐやシロも起き上がっていたが… 「く、薬は…」 「どこウサ!?」 二人もきょろきょろとあたりを探ってるところをみると二人も惚れ薬を持っていないようだ。 となると、まだこの近くにあるはず…と思って下をみると…… 「う、う〜ん」 椛がいた。 「ぶはっ?!」 思わず噴き出すハクレン。さらに気付けば今ハクレンは椛に覆い被っている状態だ。 幸いにも椛はまだ目をつむったままで今の現状を知らないようだ。 ならばっとハクレンは椛が気付かないうちに急いで離れようとするが……… ガシッ その前に椛はハクレンの手を掴んだ。 「えっ?」 一瞬何が起きたのかわからなかった…が、椛の目はすでに開かれていた。 そう、つまり………今の、どうあがいても言い訳のしようのないこの状況に気付いたことだ。 「え、えと…デスネ。コ、コレハジコデアッテ…」 なんとか必死に言い訳をしようとするが、状況が状況なだけあって無理だ。 しかし、無理とわかってても生きるためには足掻くしかない。 なのでハクレンは生きるために弁解を試みようとした……が椛は予想外な行動にでた。 そう、椛はそのままハクレンの頭を両手でつかむとそのまま自分のところへ引き寄せた。 「えっ…?」 豊満とはいえないが、椛の胸に引き寄せられ困惑してしまうハクレン。 というか、本来ならここは喜ぶ的なのかもしれないが状況が状況なだけあって素直に喜べない。 「ちょ、ちょっと椛一体どうしたのさ!!」 さすがに椛のおかしいので椛の手から振りはらうハクレン。 そうして、改めて椛をみると… 完全に逝った目でハクレンを見つめていた。 「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!!」 さすがに驚いたハクレンは思わず飛びのき、 そのまま腰を抜かした状態で後ずさると手元に何か小さなものにコツンと触れた。 みると、それは惚れ薬が入った瓶…だったが、蓋の中味はほとんどこぼれていた。 一応瓶の蓋は投げる直前まではしっかり締まっていたはずなのだが、何故か外れていたのだ。 一体なぜ蓋が外れたのか、わからないがこの際はずみということにした方がいいだろう。 それより、問題なのは瓶の中味だ。周囲にはその中身がほとんど散らばってない。 なら減った分の中身はどこに……… っと思ったその瞬間、椛が涎を垂らしながら荒い鼻息とともにハクレンのすぐ目の前まで迫っていた。 その動きと佇まいに思わずびくっと身を縮める。 「ハクレン……アイシテル………」 涎れを垂らしながら片言を発する椛、その様は本当におかしいのだが、 よくみると椛の白い銀髪や服が薄らと赤い液体で染まっている。 さらにいえば、惚れ薬の中味は赤い液体。 それらが意味することは……… 惚れ薬の中身の大半は椛がかぶったということだ。 っということは今の椛はハクレンに惚れこんでいる状態という、ハクレンが望んだ展開なのだが……… ガシッ 「ふぎゃっ?!」 椛に首をいきなり両手でつかまれて驚くハクレン。 だが、椛はそんなハクレンを無視どころか、そのまま力ずくで押し倒した。 「おいおい、さっきからどたばたとしてたと思ってたら何やってるんだ?」 「っというか、人の家でイチャイチャしないでほしいんですが〜」 「ちょ、そこ見てないで助けてー!!」 そんな様を冷静に見つめる冬月と左京に助けを求めるハクレンだが…… 「いや〜でも人の恋路を邪魔すると馬に蹴られて地獄に落ちるのは定説だし」 「そうそう、なので今回俺等は何も見ていないことにするから安心しな」 「これのどこが恋路にみえるのさー!!!!」 「何言ってるのよ、愛情表現は人それぞれなんだしそういう愛の形もあるってことよ」 どうやら、二人どころか天子も助ける気は全くないようだ。 「あー部外者は一度家に出た方がいいかな」 「そりゃそうだな。じゃぁたまには果樹園の手入れを手伝ってやるか」 「仕方ないわねーこの天子ちゃんも今回だけは手伝ったげる」 そう言って完全傍観を決め込みつつその場を後にする左京と冬月と天子。 ついでにいうとてゐとシロも空きビンと共に姿を消していた。 恐らく、瓶の中に辛うじて残っていた惚れ薬を回収して逃げたのだろう。 とりあえず、あの程度の量では大したことはできないと思われるので 任務としては成功の部類に入るのだが………… その犠牲はあまりにも大きかったようだ。 惚れ薬のせいで発情したというか、 理性を完全に失った椛に馬乗りとされたハクレンはもう逃げる事すら許されない。 「も、モミジ…サン。イイカゲンショウキニモドッテクダサイ」 一応無駄とわかりつつも、説得を試みようとするハクレンだが……… 「ハクレン……ワタシハショウキデスヨ」 「嘘だーーーーー!!!」 思わず突っ込むハクレン。 しかし、突っ込んだところで事態が好転するわけもなく…… 数分後…… アッー!!!! 左京の家から何かが壊れる音と共にハクレンの叫び声が響き渡った。 なお、椛が正気に戻ったのは翌朝であり その時発見された二人は素っ裸で折り重なるようにして倒れていたらしい。 なぜそんな状況になったのかは、二人とも記憶があいまいなせいで不明であったが…… とりあえず、そのことは幻想郷中に知れ渡る事となりしばらく二人は皆からのからかいの的となったそうな。 終わり?