こうして、毒薬によって不本意ながら彼岸へと旅立ったハクレンであったが…… 「うっ………ここでロンはやめ……ボブハァ?!」 叫び声とともにハクレンは何かをリバースしつつ目をガバッと開く。 だが、目は開いているといっても口の中から来る強烈な苦味のせいで今は何かを見るどころではない。 「あっ、気が付きましたか」 「…あるぇ?椛…君も麻雀をしてたっけ?」 涙目ながらゲホゲホとせき込むハクレンだが、少し落ちついてきたらしい。 問いかけられた椛に応えるぐらいの余裕はでてきた。 ただ、ハクレンの返事がボケてるとしか思えないため椛は首を傾げている。 「麻雀?何を言ってるんですか」 「いや、ついさっきまで死神達と麻雀を打ってたから…」 でもって、オーラス時に自分が捨てた牌で役満直撃を食らって意識が吹っ飛ぶかのような衝撃を受けたりしたが、 とりあえず、ハクレンは今の状況を確認しようと周囲を見渡した。 周囲には椛の他ナイトと鈴仙と漸とフィータ、さらに執事として幽香に仕えているライスの姿もあった。 そんな中で椛の顔だけが他よりも近い事に気付く。 一体なぜかと思ったが、その答えは……すぐにわかった。 そう、ハクレンは椛の膝の上に頭を乗せた状態、俗に言う膝枕をしてもらってたのだ。 それに気付いたハクレンは…… 「とりあえず、何がどうなったんだっけ?」 こんな機会はないということで、椛の柔らかいふとももの感触を楽しみながら現状把握を行うことにしたようだ。 というか、自分が毒薬を飲んで彼岸を渡りかけた記憶がないようだ。 そんなハクレンに椛はとくに気を悪くすることなく説明しはじめる。 「えっと、まずハクレンが毒薬を飲んで死にかけたのは覚えてます?」 「あーそういえばそうだっけ、誰かさんのせいで」 「いや、それについては……ごめん」 直接的な犯人ではないが、ある意味トドメを刺した実行犯であるナイトと鈴仙は罰が悪そうに謝る。 だが、そこをフィータと漸が口をはさんできた。 「別にいいじゃないか。死にかけたとはいって俺等が急いで作った解毒剤のおかげで蘇生はできたんだし」 「もっとも、おかげで今日の料理に使う薬草の大半がおじゃんになったけどな」 「本当にごめんなさい。あとで使用分は埋め合わせさせてもらいます」 「別にいいさ。食べる人がいてこその料理だし、俺はただその仕事を忠実にこなしただけさ」 「同じく、茶も飲む人がいなければただの草だもんな」 そう言って頭を下げている鈴仙に対して軽く笑いながら気にするなという態度を取る漸とフィータ。 どうやら、ハクレンは二人が作った解毒剤のおかげで息を吹き返したようだ。 もっともその味に関しては確実に死線をさ迷う程度の苦さを誇っていたが、まぁそこは気にしない事としよう。 「とにかく、ハクレンさん。ついうっかり毒薬を渡してしまって申し訳ない」 そんなやりとりの中でナイトが本当に申し訳なさそうに頭を下げるが、 ハクレンもハクレンであれは事故だっていうのはわかるのでそれほど責めるつもりはない。 というか、自分勝手なのが多い幻想郷にてこれほどまでに素直なのは希少価値な類だ。 そんないい人相手に非を責めるのは心が咎めるのでハクレンはこれ以上言うつもりはなかった。 だが、そのまま引き下がるつもりもない。ハクレンはにやりと笑い 「とりあえず、悪いと思うなら誠意を示してもらえません?」 起き上がりながらナイトめがけて急所をえぐるような言葉を投げつけた。 「せ、誠意…ですか」 「うん、誠意」 そうにこやかにいうハクレンとは裏腹に汗を垂らしながらたじろぐナイトと鈴仙。 とくに鈴仙は輝夜や永琳辺りからいろいろと無理難題を出されるだけあって その言葉に強い警戒心を表だたせている。 「誠意って…たとえば?」 そんな不安一杯のナイトが恐る恐る問いかけてきたのに対し、ハクレンは再びにやりと笑う。 「例えば〜やっぱり」 「今ここで鈴仙に耳掃除をしてもらうとか」 「それともこの毒消し草満載な野菜スープの残りを鈴仙に口移しで飲ませてもらうとか」 「鈴仙にパフパフをしてもらうとか」 「「「「ぶはっ!!」」」」 とんでもない注文の数々に鈴仙やナイトどころか椛やハクレンも噴き出す。 そう、ハクレンも噴き出した通り注文を出したのはハクレンではない。 成り行きを見学していたフィータや漸、ライスだったのだ。 「ちょ!!3人ともなんでそんな注文をさらっと言えるのさー!!」 そんな欲望丸出しとも思える注文をさらっと言いきった3人に 思わず鈴仙やナイトに変わって反論を出すハクレン。しかし…… 「そんなこといって、お前も実際心の中でそう思ってるんだろ」 「ギクッ?!ソ、ソンナワケナイジャナイデスカ」 ライスからの鋭い突っ込みを受けて思わず動揺するハクレン。 言葉使いもあからさまにおかしくなり、それに伴って女性陣… とくに椛からの冷たい視線がズキズキと突き刺さる。 「そ、それより…ロリコンワーオな漸さんやロリコン四天王のフィータさんはともかくとして、  純粋なライスさんはそんな事言うキャラじゃなかったでしょうが!!」 とにかくこの場をなんとか切り抜けるため、ライスへと反撃を繰り出したが 「まぁ一昔前の俺だったら動揺してたかもしれないんだが、  少し前にえろはな師匠に弟子入りをしてからエ○の素晴らしさを知ったんだ!  だからハクレン、君も恥ずかしがらず胸に秘めた欲望をさらけ出すんだ!!」 ライスは全く堪えることなく、むしろさらに追撃を加える始末。 最早このロリコン&変態に立ち向かうのは無謀の一言に尽きるなのだろう。 そう感じたハクレンはため息を一つ付く。 「わ、わかりました。とにかくその話は後回しにして…  本題に戻りますけどナイトさん、ちょっとこっちに来てもらえませんか。  ここだとどんな横やりが加えられるかわかったものじゃありませんから」 と、ナイトを手まねきしつつ皆から離れる。 確かに、ここで話すとギャラリーからの横やりを受けてさらに話がこじれるのは身を持って体験している。 「わかりました。確かにここじゃ危険ですよねー」 「あまり無茶なこと言わないでくださいよ」 なので、ナイトや椛も素直にハクレンの指示に従ってナイトは特に疑いもせずハクレンを追いかけていく。 「この辺りで大丈夫かな」 「うん、周囲には特に誰もいないしここなら邪魔は入らないはず……たぶん」 そうして少し距離を取ったハクレンは立ち止まり、それにならってナイトも周囲を見渡す…が 「………」 「………」 最後の一言に何か思うところがあったのだろう。 二人ともしばらく黙ったまま周囲を念入りに調べまくる。 だが、周囲にはとくにこれといった怪しげな影もなければ 漸とフィータもライスと話し込んでいるだけでこちらに注意は払っていない。 それでもまだ不安もあることには変わらないが、 疑い出すとキリがないのでハクレンは意を決して話を切り出す。 一体どんな内容かとナイトはごくりと息を飲みこんだ。 「実は頼みなんですけど………惚れ薬をください」 「………え?」 一瞬、何を言われたのかわからなかったらしく、ナイトは思わず間の抜けた声をあげる。 しかし、ハクレンは周辺を警戒しつつ再度言った。 「だから惚れ薬ですよ。さっき取り出そうとしてたじゃないですか」 「そういえば、取り出そうとしてたような気もするようなしないような……」 っていうか、死にかけてたくせになぜそこだけはしっかり覚えているのか…… そんなハクレンの記憶力にナイトは少々感心すると同時に、ハクレンも欲望に忠実な部類だと再認識した。 「とにかく、さっきの毒殺をなかったことにしてあげる代わりに惚れ薬をください」 そのままずずいっとナイトに詰め寄るハクレン。 どうやらハクレンの目的は惚れ薬であり、 そのためにこうやって人気のないところに連れ込んだのだろう。 その辺りは本当にしっかりしてるのだが、やはり渡せない。 こんなものを信頼し切れない人の手に渡ればどうなるかわかったもんじゃない。 「いや、あれはまだ開発途中の試作品でいろいろと問題が……」 っと、本音を隠しつつも一応本当のことを伝えて諦めてもらおうとしたが、 当然そんなことでハクレンは引き下がらない。 ならばとハクレンはにやりと笑い 「いいんですよ。文先輩に今回の件をちくっても」 「えっ…?」 脅しを含んだその言葉にドキンと心臓が跳ね上がるナイト。 そこをすかさずハクレンは明後日の方向をみつめながらたたみかける。 「いや〜楽しみですよね〜明日の文々。新聞にはきっと 『ボーダー商事社員が客を毒殺?!』とかいうトップ記事がデカデカ掲載されて…」 「そ、それだけは勘弁を!!!」 効果は抜群である。 さすがに信用が第一な会社員が事件を起こせば大問題だ。 それだけは避けたいナイトは土下座して謝る。 こうなればもうハクレンの勝ちも同然だ。 「じゃぁ惚れ薬くれますよね」 「そ、それは…」 「惚れ薬…文先輩に教えたらきっと面白いことになりそうですよね〜」 「わかりました!これです、これが惚れ薬ですよ」 すでにチェックメイトされていたナイトに逃げ道は用意されていなかった。 さらなる追撃の前にナイトはついにギブアップとなった。 なお、ナイトから惚れ薬をもらったことによって ハクレンはその後とんでもない不運にさらされることになるとは……… この時誰も気づかなかった。 「ハクレンお帰りなさい。その様子だと無事に話し合いが済んだようですね」 「もちろん、バッチリいいものもらえた」 ホクホク顔の自慢げな顔で戻ってきたハクレンとは対照的に どよ〜んと沈み込んでいるナイトを事務的に出迎える椛。 その様からみて一体向こうでどんな交渉が行われたのか気になったが、 まぁハクレンが死にかけるほどの目にあったのだ。 きっと無茶な要求を出されたのだろうと容易に想像できる。 椛はそんなナイトに少しだけ同情し、傷をえぐらないようこれ以上は何も聞かないことにしたようだ。 だが、そんな椛の気遣いに気付かないハクレンはあまり突っ込んだことを聞かれないようあえて別の話題を出す。 「ところで、他の皆はどうしたのさ」 「えっと、まずライスさんと鈴仙さんですが、  向こうのドンパチ現場から瀕死の獣人が吹っ飛んできたという話を聞いて確認と治療に行ったそうです。  そして、漸さんとフィータさんはこれ以上ここに留まるのは危険と判断して帰りました」 そう言って椛はすっと幽香と藍が争っている現場を指さす。 そこでは、互いの妖力が激しくぶつかりあった影響で大きな竜巻が発生していた。 しかも、竜巻は勢いが衰えるどころかますます大きくなり 運悪く巻き込まれてしまったであろう、罪袋達が紙のごとく宙を舞っている。 しかし…ハクレンはそんな事よりもある言葉、 『瀕死の獣人が吹っ飛んできた』に引っ掛かりを覚えた。 「もしかしてこれって…」 こんな大騒動にモロ巻き込まれるのはリュード以外ありえないのだが、 通常であれば原因である彼が吹っ飛んだ時点で収束に向かうはずだ。 だが、今回はその発端がやられても収まるどころかますます勢いを強めている。 「とんでもない大事件じゃないですか?」 どうやらハクレンだけでなくナイトも同じ事を思っていたようだ。 ハクレンは思わずばっとナイトの方へ振り向き、ナイトもハクレンを見つめる。 しばらく無言だったが 「……とりあえずその瀕死の獣人とついでに発端はリュードさんとみていいでしょうね」 「えぇ、今日はリュードだけでなく藍さんも来てますし、まず間違いないかと」 ナイトはボーダー商事の一員であるため 『リュードと橙が付き合っている』という事はハクレン以上に熟知していた。 そのため、ここ最近の藍はリュードの一挙一動でいつ爆発するかわからないという 爆発寸前の爆弾岩状態だったのはよく知っており、 ここにきて溜めに溜めていたものが爆発したのだろうと判断したようだ。 でもって、爆発ついでに理性までも完全に吹っ飛んだとなれば…… 「そりゃぁ漸さんやフィータさんもそそくさと逃げ出すわけですよねー」 「確かに、二人とも身体上はただの人間なわけだし、巻き込まれたらまず間違いなく即死でしょうねー」 そういうナイトだが、あの二人は別に巻き添え食らっても死ぬような事はないっとハクレンは一瞬思った。 しかし、そう思ってもあえて口に出さないようにしようと思ってたが 「私としては二人とも巻き込まれても死ぬような事はない気もするんですが」 椛はあえて口に出したようだ。 それに対してハクレンもナイトはっきり肯定したい気もするが やはり口にするのはまずいので結局肯定はできなかったようだ。 「ま、まぁそれはさておいてその瀕死の獣人がリュードなのか確認するためにもちょっと現場の方覗いてくるよ」 「それはやめた方がいいかと。下手すると本当に死にますよ」 「いや、でも一応彼はボーダー商事から派遣した以上社員扱いになるし、  社員なら労災の事もあってほっとくわけにもいかないから」 そう言ってナイトは椛の忠告を丁寧に断って現場の方へと向かっていく。 その後ろ姿は変人の多いボーダー商事において唯一まともと思われる行動なだけあって物凄く逞しく思えるが、 椛やハクレンはそれが死亡フラグにみえて仕方なかった。 とくにナイトは半妖とはいえ肉体の強度は普通の人間と大差ないどころか下手すると人間よりも弱い。 だが、ナイトは腐っても妖怪なわけだしGのごとくしぶとく生き残るだろうと判断して 特に気にしないようにしつつ見送った。 そうして、ここに残ったのはハクレンと椛。俗に言う二人っきりの状況になるが……… 「じゃぁ私達もさっさと逃げますよ。ここも時期に危なくなりそうですから」 「あぁ、そうだね。早く逃げないと今度こそ本当に彼岸を渡りかねないし」 二人とも仕事の同僚なので二人っきりなんていつものことだ。 今さら感が強過ぎることもあって、椛もハクレンもいつも通りな調子で本来の目的を果たすことにしたようだ。 でもって、本来の目的でハクレンは思い出した。 「そういえば、にとり達の注文した品って何なの?」 そう、いろいろな事があり過ぎてハクレンはまだにとり達が注文した品を知らなかったのだ。 それを聞いて椛は軽くため息をつくものの、今回の場合は仕方ないということで気を取り直す。 「にとりさん達が頼んだ品は向こうに置いてますよ」 っと、椛が指差したその先には一台の荷車と上に乱雑と積まれた樽が置かれている。 それを見たハクレンは数秒固まった後、椛に再度問い返す。 「………ナニコレ?」 「だからにとりさん達が注文した品で、中身は『きゅうりのはちみつ漬け』が5樽だそうです」 唖然とした口調とは裏腹に淡々とした口調で答える椛。 だが、ハクレンにしてみれば到底納得はできなさそうだ。 まぁ、あの荷物の量と太陽の畑と妖怪の山との距離を考えれば 骨が折れる程度では済まされない重労働だし仕方ないだろう。 「でも大丈夫です。鈴仙さんが迷惑料代わりに人手を何人か貸してくれましたから」 そんなハクレンの様をみて椛はあわてて付け加えるが 「そうウサ、こんな危険地帯から逃げ出すこうj……皆で手伝えばあっという間ウサよ」 「面倒だが鈴仙の頼みなら仕方ない。手伝ってやんよ」 台車の傍、丁度ハクレンから影となっていたところに座りこんでいた二人。 樽の中味のきゅうりをつまみ食いしている妖怪兎のてゐとシロ見て 不安がさらに広がったのは言うまでもない。 いや、その前のシロはここへ来たときすでに幽香の手によってボロゾーキンにされた揚句 お燐の猫車に乗せられて地獄へと連行されてたはずではっと思ったが……… 「………ソウダヨネ、ミンナデハコベバコワクナイ」 この際どうでもいいということで、特に突っ込むことなくいろいろと諦めた口調で台車に取りつく。 「そういうことです。あと、二人もつまみ食いはほどほどにしてくださいよ」 「わかってるウサ」 「ならこの一本を最後にするか」 そんな様をみて椛は今更ながら不安を覚えたが、 歩く変態とも呼ばれる罪袋達に比べればまだマシというもの。 っと、椛は開き直りつつ台車の後に取りつき、それに伴っててゐやシロも台車に取りついた。 「では出発しましょう。頑張って日暮れまでには帰りますよ」 「「「おー」」」 椛の力強い言葉に3人は頼りなく返事を返す。 そうして、4人は地獄絵図へと変わりつつあるゆうかりんランドを後にして一路妖怪の山を目指し進むことになった。 続く