妖怪の山… 幻想郷の中で唯一ともいえるこの山は多くの天狗や河童に神や妖怪が住んでいる。 もちろん例外的に人間も住んではいるが、その多くは排他的。 特に部外者の山への立ち入りは禁止しており、立ち入った者は侵入者として即座に追い返すようにしている。 追い返す…はずだが 「邪魔するわよ」 「邪魔するぜ」 巫女と箒に乗った少女…霊夢と魔理沙は顔なじみとなった見張り役に軽く挨拶すると同時に そのまま止まる事なく高速で駆け抜けていった。 もちろん彼女等は部外者なので不法侵入であり、堂々と正面突破を果たされたことになる。しかし 「あー霊夢さんと魔理沙さんは今日も来たのですかー」 見張り役である下っ端白狼天狗の椛は卓に座り込んだまま特に追いかけるような事はせずその後姿を見送るだけであった。 「もみっちいいのかい?あのまま見送っても…っと、これ見逃すわけにはいかないね。ポン」 一応見張り役なのであのまま見過ごすのはまずいと思ったのか、河童のにとりが問い返す。 問い返すついでに手元の牌二つを倒しつつ椛が捨てた牌を手元へと引き寄せる。 「いいんです。どうせ僕等が立ち向かったところで返り撃ちにされるのがオチですから」 そう笑いながらもう一人の見張り役である白狼天狗のハクレンは言い切った。 だが、それならそれでせめて上司へ報告すべきでは…とも思うが、 まぁ上司も特に注意してる気配がないので気にしない方がいいのだろう。 「でも、最近随分と涼しくなって過ごしやすくなりましたよね」 ハクレンや椛と同じく二人を見送っていた河童の銀城はそうつぶやきながら周囲を見渡す。 周囲は河原の近くだけあってせせらぎの音が絶えず聞こえてはいるものの、蝉の音は全く聞こえてこない。 少し前までは毎日のように大合唱を行ってたがいつのまにか響かなくなっていたのだ。 ただ上流の方からは破砕音や爆裂音、ついでに撃墜音だけはしっかり響いていたが…… 「あの二人、また誰かとドンパチやらかしてるみたいですよ」 「いくら暇だからって毎日のように暴れるのはどうかと思うんだけどな」 椛のつぶやきににとりも少々うんざりしたかのようにぼやく。 そう、彼女等は異変がない時は決まって暇潰しにドンパチを繰り広げてるのだ。 最も、ドンパチをするのは別に霊夢や魔理沙だけに限ったことではない。 麓の方でもそれなりの実力者同士が出会えば即座にスペルカード戦が行われるのだ。 「それだけ幻想郷は平和ってことの表れってことで」 ハクレンの言うとおり、所構わず弾幕が飛び交ってるといっても幻想郷では日常茶飯事な出来事だ。 特に今年の夏は去年の天人が起こした異常気象もなく、ただただ暑い日が続くのみだった。 もっとも、近くに核融合炉が建設された影響もあって暑いというより熱い日が多かった気もするが…… 「しかし、もう夏も終わりですね」 銀城がつぶやく通り、周囲の木々は青々とした葉に薄らと紅葉に染まり始めており 一部はすでに落葉となって舞い散っている。 また、舞い散った葉の一部は河に落ち、そのまま下流へと流されている。 紅葉に混じって上流から秋姉妹がどざえもん状態で流されていたが、 銀城はそれらを幻想郷特有の風物詩と感じつつ、手元の牌を捨てた。 その直後に、ハクレンはにやりと笑う。 「そうですね、ついでに銀城さんの命も終わりかもしれませんが」 パタンっと手持ちの牌13個を全て倒した。 その瞬間銀城の顔がさーっと青ざめていく…… 「ロン!!リーチ、イーペー、タンヤオ、ドラ2に…裏ドラが……2萬ですね」 「ってことは………」 「裏ドラが3枚もついての倍萬!16000!!!」 ちゅっどーん!! それを聞いた銀城は大きく吹っ飛んだ。 「ふふん、これでオーラス。今度こそ1位はもらったね」 どうやら4人とも麻雀の真っ最中だったらしい。 銀城から16000点分の点棒を受け取ったというか、 ぶん捕ったハクレンは笑いながら卓上でジャラジャラと麻雀牌をかき混ぜる。 しかし、そんな様に椛は注意を促す。 「安心するのは早いですよ。2位のにとりさんとの点差は8000なんですから油断すれば足元救われる事も」 「大丈夫大丈夫、ようは上がればいいわけなんだし」 しかし、思わぬ高めの点が入って浮かれているハクレンは椛の言葉を完全に受け流している。 まぁ今のハクレンは褌一丁の姿から分かるとおり今まで負け続けていたのだろう。 だからこそ、その台詞が死亡フラグに聞こえて仕方がなかった。 「とにかく、オーラスの親は私なんだし銀城の仇は私が撃たせてもらうから」 「ふふん、やれるものならやってみ」 「一応突っ込んでおくけど、僕はまだ死んでないから」 そう控え目に突っ込む銀城だが、卓の方では復讐に燃えるにとりと 思わぬ高めの役がついて上機嫌のままにとりを見下しているハクレンの前には全く無力だった。 むしろ、今のピンチを招いた張本人として下手に主張すると にとりから殺気交じりの熱視線が飛んでくる危険性もあるから黙るしかない。 「覚えてるかい?今回の敗者チームは勝者チームの言うことを一つだけ聞くということを」 配牌が終わり、手持ちの牌を整理しながらハクレンはニヤリと笑う。 その笑みから手持ちにはかなりいいものが入ったらしい。 その様に銀城はぞくりと寒気が走った…が 「もちろんだとも。でもそういうことは勝ってからにするんだな」 にとりが自信満々にど真ん中牌を捨てた。 初っ端からそういうところを捨てたとなると、こちらもかなり手がいいらしい。 危険度を察知した椛は警戒心を強め慎重に手を吟味し始める。 「とにかく、まだ勝ちが確定したわけではないのでここは慎重に…って?!」 「リーチだ」 そう言ってリーチ棒と共に牌を捨てるハクレン。 まさか初っ端からリーチとは慎重も何もない。 大胆不敵を通り越した愚者とも言うべき行為だ。 そんな様に椛は呆れ返った…が、ハクレンはこういう勝負事に弱いのも事実。 「ま、まぁようは上がれば済む話だし」 麻雀は将棋と違って運の要素が強く出る物。 運が良ければ春に里で行われた麻雀大会のチャンピオンが初めて間もないド素人にだって負けることもある。 極め付けに幻想郷は常識に囚われてはいけない処であるため、椛はハクレンの強運にかけることにした…が その願いは通らなかったようだ。 「ロン」 ハクレンが捨てた中を見たにとりはニヤリと笑いながらパタンと牌を倒した。 そして…… 「な、な…んで…す…と」 にとりの手を見たハクレン他2人は大口をあんぐりあけたまま閉まらなかった。 まぁそれも当然だろう。 なにせにとりの手は……… 191919東東南西北白発 国士無双であった 「ということで48000没収」 そうにこやかに言うにとりだが、当然そんな点数なぞ払えるわけはなく……… ハクレンは名前のごとく真っ白に燃え尽きた。 「さ〜って、約束通り言うことを聞いてもらおうか。銀城、何がいいと思う」 「えっ、そ、そうですね〜って足が引っ張った僕に選択肢はないのでにとりの好きにすればいいかと」 「あの〜なるべくお手柔らかのお願いします」 っとまぁ、にとり達がそんな風に敗者に与える罰ゲームの相談を行ってたが、当然ハクレンの耳には入っていない。 ただ、呆然とかたまっているだけであった。 続く